市場環境の移り変わりが早くなり、人材流動性が高まる昨今。組織内における、部門を超えたコミュニケーションの重要性とその施策を語ったセミナー「部門間コミュニケーション施策の成功事例集 事業成長へ直結させる取り組み」が開催。三井不動産ビルマネジメントでシニアコンサルタントを務める大矢耀介氏が、部門を横断するイベントの具体例やその効果について語ります。
“その場だけ”盛り上がるイベントの改善方法とは
大矢耀介氏(以下、大矢):「部門間コミュニケーション施策成功事例集」ということでやってまいります。まず初めに、今回テーマになっている部門間コミュニケーションは非常に重要性が高まっています。コミュニケーション施策に注力する企業がかなり増えてきているのが今の状況です。
ただこのコミュニケーション施策、簡単そうに見えて、実は簡単ではないことがけっこうあります。例えば「イベントやワークショップをやるものの、参加者が限定的」「その場は盛り上がってるんだけど、その後につながらない」など、さまざまな落とし穴が存在しています。
本日は、そうした落とし穴を乗り越えて、コミュニケーション施策を有効に機能させるためにはどうすればいいのか、具体的な施策事例とともに、みなさんと一緒に考えていければと思っています。
自己紹介になりますが、三井不動産ビルマネジメントの大矢と申します。私は、当社においてコミュニケーションデザインという事業に携わっております。主に組織開発のコンサルティング、ワークショップ、対話の場の設計やファシリテートをしています。

本日のアジェンダはこちらの3つについてお話をします。1つ目は、部門間のコミュニケーションがなぜ注目されているのかという話。2つ目はそうした施策がなぜうまくいかないのかという話。本日は3つ目に時間をしっかりと割いてお話しできればと思っていますが、そうした中で具体な施策の実践、あるいは成功事例をお話します。
あとは最後に、我々のソリューションのご紹介や質疑応答、アンケートのご案内の時間も設けます。アンケートにご回答いただいた方には今日の投影資料をお送りいたしますので、ぜひ最後までご視聴の上、ご回答いただければと思っております。
転職が当たり前の時代こそ、部門を超えた共創が必要
大矢:では、部門間コミュニケーションがなぜ注目されているのかという話から確認をしていきます。恐らく当社のセミナーに参加いただいた方も多くいらっしゃるかと思います。その方には「何回も見ているよ」と感じられるかと思いますが、あらためて振り返りをしましょう。
ここには大きく2つのポイントがあります。1つは市場環境の移り変わりが劇的に早くなってきているということ。世間的にはVUCAなどと呼ばれています。
市場環境の移り変わりが早くなっていることにより、部門を越えた共創や協働のメカニズムが変わってきていると言えます。

以前は左側のようなモデルをとっていました。現場の1人がお客さんと話をし、あるいは同業他社の動向を見ながら、「こんな取り組みをしたほうが良さそうだぞ」と、何か思いついた時にどうなるかというと……。
いったんトップの方にお話をして「あ、確かにそれやったほうがいいね」と判断されれば、関係部署に話が展開され、「なんかこんなことができない?」というように協働が始まっていきます。
時間はかかりますが、複層的な意思決定、あるいは統制をすることは、従前はすごく重要だということです。
一方、今はこの時間を短縮して即座に実践をして学ぶことが重要視されていますので、右のようなスタイルになってきています。
つまり現場の一担当者が、「こんな取り組みをしたほうが良さそうだぞ」と思ったら、関連部署に「ちょっとこんな取り組みどう思う?」とすぐに相談しに行ける関係性です。
相談先がわかっていますし、相談に行けるような組織状態を作っていくことが必要になってきています。
もう1つの重要な要素が、人材流動性の高まりだということです。みなさんは日々実感されているかもしれませんが、転職、中途入社は当たり前になってきています。

以前は新卒一括採用である程度知っているメンバーが多かった環境から、今は知らない人ばかりという中で、阿吽の呼吸ではいかないこともある。つまり、横のつながりがどんどん希薄になってきている環境下にあるということです。
ここまでの話をまとめますと、企業における部門間コミュニケーションは重要性が高まっているが、同時に難易度も高まってきている。特に何も手当てをしなければ、どんどん関係性が希薄になるという話です。
暇な人が参加するイベントだと思われ、自然消滅していく
大矢:そうした環境の中でコミュニケーション施策に取り組む会社がすごく多くなってきています。おそらく今ご視聴いただいている方も、いろいろと取り組まれている、あるいは取り組もうとされているところではないかと思います。なぜ多くの会社においてコミュニケーション施策がいまいちうまく機能していないのか。これについてお話をしていきます。
まず、コミュニケーション施策というと簡単そうに思われがちですが、まったく簡単ではないということを確認する必要があると思っています。

みなさん、こんなことはないでしょうか。部門を超えたつながりを作っていきたい。そのためにイベントやワークショップをいろいろ行っているが、従業員の方がなかなか興味を示してくれない。あるいは、参加者が少数で、毎回顔ぶれがなんとなく決まっている、など。
もしくは、冒頭と重複しますが、その場では盛り上がるものの、その後につながらない、といった話です。多いところですと、月に1回イベントをやっている会社もあります。

「イベントをやります」と言うと、初回は盛り上がります。「あ、なんか新しい取り組みが始まったな」「楽しそう」となるのですが、3回目ぐらいになってくると、「まぁちょっと今日忙しいからいいかな?」となってきます。
これが10回目ぐらいになってくると、「毎回顔ぶれが決まっているじゃない」となってきます。さらに、参加してない大多数の従業員からすると、「あ、暇な人が参加しているイベントね」という、少し寂しいリアクションをもらうようになっていきます。結果として活動が停滞してしまったり、自然消滅していく。このような事態が起きているわけです。
なぜこうした問題が起きるのか。複層的な問題が絡んでいますが、大きな要因は、やはり従業員は目の前の仕事やタスクを最優先するもの。これはもう仕方がないことです。
多くの会社のコミュニケーション施策は、従業員の実務と会社のビジネスにほぼ紐づいていないのではないかと考えています。

そのため、上にも図示していますが、従業員の方は周囲とのコミュニケーションと目の前の仕事を天秤にかけた時、圧倒的に目の前の仕事のほうが重い。そのため、コミュニケーション施策に価値を感じることができず参加しない、ということが根本的に大きな原因としてあります。
部門間コミュニケーションを実務にどう紐づけるか
大矢:そこでどう対策していくべきかといいますと、必要なのは1つ。コミュニケーション施策をみなさんの事業や実務に強く紐づけてあげる。これが極めて重要な論点になってくると考えています。
ではどのように紐づけるのかと言いますと、事例としてお話しいたしますが、アプローチの仕方は2つあると考えています。

1つ目の作戦は、このコミュニケーション施策のテーマを「協働」「業務の効率化」など、実務に紐づくテーマに置いた場作りをしてみることです。
もう1つのプランとして考えられるのは、誰と誰のコミュニケーションを取らせるのかという観点です。つまり、日常的に連携・協働しているメンバー、あるいは相乗効果が期待できるチーム同士でチームアップする場を作ってあげることが、もう1つの作戦として考えられると思っています。
以前のセミナーでもこのあたりを深くお話をしましたが、コミュニケーション施策をビジネスや実務に紐づけようと考えた場合、ランダムに複数部署から社員を集めてシャッフルすることが多いと思います。しかし、それでは目の前のタスクや実務に対していい影響を及ぼす確率が低いところがあります。
そこで、誰と誰のコミュニケーションを取らせてあげるのかという点がとても重要なポイントになります。この2つの観点から具体的な事例についてお話をいたします。
では、どのようなコミュニケーション施策の実践、成功事例があるのか。こちらを一緒に見ながら学んでいければと思います。まずはスタディケースとして、1つ事例をご紹介いたします。

これは我々がご支援させていただいたあるIT企業で、社員数は約700名いらっしゃいました。業界柄、人材流動性が高いため、会社の中にコミュニティを作っていきたい、愛着を作りたいと(いう思いがあり)、たまたまオフィスの大規模なリニューアル工事もあったのでそれを機に社内コミュニティを作る活動を開始していました。
総務が事務局となり外部のサービス会社に外注、月1でコミュニティ活動を実施していました。
内容としては、ものづくりワークショップや、趣味が同じメンバーで集まって座談会をしましょうとか、ランチを食べましょうということをやっていました。
最初は物珍しさから多くの方が参加していたのですが、1年も経たないうちに参加者はグッと限定的、少数になっていました。
多くの従業員の方は「あ、暇な人が参加しているイベントね」と、冷たい反応でした。当初は応援してくれていた役員の方も、2年も経たないうちに「あれ、なんかいつの間にかすごく熱が冷めているな」というような悲しい状況になっていました。
部門を横断して業務の断捨離
大矢:なぜこのような結果に陥ったのかを考えますと、活動の内容自体はとても良かったのですが、取り組みが周りから単なるお遊びに見えてしまったことが要因でした。
「就業時間中にお給料もらってやっていることなの?」「もっと優先してやるべきタスクあるんじゃないの?」という目線がすごくあったということです。そのような中で、「大矢さん……(この状態)ど、どうします?」とご相談をいただきました。
この時は状況を変えるために、まさに先ほどお話をした実務に紐づくコミュニケーション施策の導入を実施いたしました。

これまで月に1回、おおよそ年間12回の活動をされていましたが、その中の2回に1回は実務に紐づけた施策を導入することをご提案し、バリエーションを作って取り組んでいきました。
1つ例を挙げますと、業務の断捨離を進めるために、2部門横断で対話するという取り組みです。商品開発と営業のような、日頃一緒に仕事をしている2チームから1つの班を作り、その班が何班かあるような規模感で場を作りました。
繰り返しになりますが、目的は業務の断捨離をするということです。これは(業務をしている中での)あるあるではないかと思いますが、2つ以上のチームで日頃連携して仕事をしていると、チームが違うが故に実は業務が重複しているということがけっこうあるんではないかなと思います。
例えば、相手チームから何年か前に「これをやって」と言われて続けてきた業務があるとします。ずっと続けてきたものの、「今、本当に相手チームがこれを使っているのかな?でも前に言われたし、前からやっているから今も継続しておくか」のような、本当は不要かもそれない業務がチリツモで溜まり忙しくなっている。このような現場はけっこうあると感じています。
毎週レポートを送っていたのに、実は要らなかったと発覚
大矢:そこで、この不要なチリツモになっている業務を断捨離するために、2つの大きな流れで場を作りました。

1つは、各班の中で議論していただくようなイメージです。各班の中の2つのチームで、連携、協働しているシーンを洗い出していただきます。
例えば「月次の定例をやっていますよね」「週次で営業のメンバーから商品開発にレポートを送っていますよね」というような話です。
次に、2つのチームに分かれていただきます。この会社では商品開発と営業に分かれます。そこで、「両者で先ほど洗い出したタスクをマッピングしてください」とお願いをします。
どうマッピングするかといいますと、下のようなイメージです。縦軸がそのタスクの自チームにおける重要性で、横軸は自チームにおける負荷です。当然、両チームによってマッピングの仕方が変わってくるのですが、これを見るといろいろな気づきがあります。
例えば、右側は営業のメンバーです。「週次レポートの共有」というタスクを右下にしています。営業のメンバーは商品開発に対して、毎週(週次レポートを)作って共有するというタスクをこなしていました。当然相手のために作っているので営業にとっては重要性が低い。けれど、負荷は高いということですね。
つまりこの右下に来るのは、典型的な“相手のためだけにやっている負荷の高い業務”というイメージです。ただ、このタスクを商品開発側はどう位置付けているのかといいますと、おもしろいことに、商品開発のメンバーも週次レポートの共有の重要性を下側にしています。
参加率が15%→60%にアップした要因
大矢:これはどういうことか。レポートをもらうだけなので当然負荷は大してかかっていない。(図の)左側です。(そして下側にしている理由を聞いてみると)「実は週次レポートは今は見てないんです。前までは必要だったんですけど、3年前に社内ツールのシステム改修があり、直接営業の動きが見えるようになったので、そのレポートはいらないんですよ。あ、私たちのためだけに作ってくれていたんですか」のような感じでした。
少し馬鹿みたいな話なのですが、こういうものが見つかればまさにラッキーですよね。「じゃあこれ、やめちゃいましょう」と、やめることができなければ「省エネにしましょう」という議論ができるわけです。
このようなイベントを年に12回のうち半分ほど取り組んでいった結果、大きな違いが出てきました。1年以内に1個以上のイベントに参加した従業員の割合のアンケートを採りました。基本的にはイベントへの参加は公募制なのですが、もともとこのイベントの開始当初の参加率は15パーセントでした。

これが2年後、60パーセント以上の方が参加してくれていたという結果が出ました。対面でのミーティング、イベントも多かったのですが、リモートの多い従業員の会社にも関わらず、過半数以上の方が参加してくれるような改善が見られました。
この参加率が上がったきっかけの1つに、現場マネージャーの後押しが大きな要因としてあります。
取り組みをしていく中で現場社員の間で口コミが徐々に広まり、「これは仕事に活きる内容だから参加してきて」というようにマネージャーが部下を後押しする動きが出てきていました。その結果、ぐんと参加率が上がっていったということがありました。
これがまさに実務に紐づけてあげることの重要性であり、成果だなと感じています。