「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げるフリー株式会社が国際女性デー2025を記念して開催したイベント『女性と経営 数字で見るスモールビジネスとDEI』より、エール株式会社 取締役の篠田真貴子氏、公益財団法人山田進太郎D&I財団 COOの石倉秀明氏をゲストに迎えたセッションの様子をお届けします。日本のジェンダーギャップの現状や、女性が働きやすい環境をつくるためのヒントについて語り合います。
ジェンダーギャップ解消に取り組む経営者の視点
吉村美音氏(以下、吉村):それでは始めていきたいと思います。今日はみなさん、貴重なお時間をいただきありがとうございます。まず、今回来ていただいているみなさんがどんな方々なのか、少し自己紹介から。篠田さま、お願いしてもよろしいでしょうか。
篠田真貴子氏(以下、篠田):ありがとうございます。エール株式会社の篠田と申します。よろしくお願いいたします。
私たちのところには今、「お話を聞きますよ」っていう人たちが4,500人ぐらいいるプラットフォームがあります。エールではこれを活用して、主に大企業の組織開発に役立てていただくプログラムをご提供する事業を、仲間と一緒にやっています。
今日のテーマに関して言うと、私はすごく年上で。1991年、男女雇用機会均等法ができて5年目ぐらい(男女雇用機会均等法の制定が1985年)に社会に出ましたので、日本の女性活躍の歴史と自分のキャリアが重なる感じがしています。
ある時期から管理職だったり経営に携わるようになったので、個人的にも、「この課題をもっと解決するにはどうしたらいいんだろう」ということにずっと関心を持ってきました。そんな観点でお話しできればと思います。よろしくお願いいたします。
(会場拍手)
吉村:ありがとうございます。では次に石倉さん、お願いしてもよろしいでしょうか。
石倉秀明氏(以下、石倉):みなさん、どうもこんにちは。石倉秀明と申します。公益財団法人 山田進太郎D&I財団のCOOをしております。今、スラっと言ったんですけど、実は「山田進太郎D&I財団」って言うのはけっこう難しいので、みなさん家に帰ったらぜひ言ってみてください。スラっと言えなかったりします(笑)。
去年の2月から財団のCOOをやっているんですが、事業としてはシステム分野、理系ですね。日本で言う理工学部のジェンダーギャップ解消を目指して活動しています。
それ以外にも、800人〜900人ぐらいいるフルリモートワークの会社の取締役をずっとしていたこともあって、働き方の領域にも関心があり、そういった研究所の所長みたいなこともさせていただいています。
僕自身が去年の4月から大学院に行って、職場での働き方とかジェンダーの課題みたいなところを、経済学的な手法を使って研究しています。
無事、修士課程が3月に終わる予定なので、4月からは博士課程にいくんですけど。学生でもあるという感じで、いろんな研究を見ていますので、今日はそういった面も含めてお話しできればと思っております。よろしくお願いします。
(会場拍手)
吉村:ありがとうございます。では私から。freeeでダイバーシティの担当をしておりまして、今回はその観点からお話をさせていただきます。よろしくお願いいたします。
スモールビジネスに優秀な女性が集まりやすい理由
吉村:さっそくですがお話にまいりましょう。テーマ1、「スモールビジネスと大企業の違い」ということで、まずは感想含めてちょっとお話をうかがってみたいなと思います。篠田さんからお願いしてもよろしいでしょうか。
篠田:ありがとうございます。(スモールビジネスの女性役員比率が約14パーセントという統計を踏まえて)スモールビジネスのほうがちょっと数字が良かったんですよね。もっといけるんじゃないかなって正直思っていました(笑)。
というのは、エールも社員数でいくと30人弱の会社で、採用をしている中での実感で言うと「こういうスキルや優秀さ、やる気を持った方に来ていただきたいな」ってなると、実は女性のほうが出会う感じがあるんです。
吉村:すばらしいですね。
篠田:やはり大企業とか古い価値観の社会は、より女性が仕事をしづらい構造的な環境がある中で、「小さい所のほうが活躍しやすいんじゃないか」と思って応募してくださる方が、女性のほうが多い傾向なのかなという実感値があります。
そこが採用面で、かつ、今度は入っていただいたあと。ずっと働き続けていただくという観点でも、小さい会社のほうが働き方を柔軟にするとか、一人ひとりの都合に合わせやすいと思うんですね。
会社って大きくても小さくても、制度においては社員の公平性が大事じゃないですか。30人の間で公平を保つのと、3,000人の中でだと、当然前者のほうが柔軟に、スピーディーに対応できるので。
入っていただいたあとで柔軟に対応しやすいのがスモールビジネスの特徴だなと思っているので、「なのに」ってちょっと思いました(笑)。以上です。
日本で最も活用されていないのは女性のスキル・能力

吉村:本当に、「なのに」ですよね(笑)。ありがとうございます。そのあたり、またあとで詳しくお聞かせください。では石倉さん、お願いします。
石倉:僕の所属している財団も10人弱ぐらいの組織ですし、最終的には大きくなりましたけど、起業したこともあるので、スモールビジネスをやっていたわけです。
思うのは、やはり人を採るのは大変なんですよ。だいたいいつも「人が足りないな」みたいになるわけですよね。そういった時に、今いる人たちにどう有効に力を発揮してもらうか。スキルが100だとしたら、いかに100に近いパワーを出してもらうかは、大企業よりも中小企業のほうがより求められるじゃないですか。
この間読んだ研究で「マジか」と思ったのが1個あって、日本で最もうまく活用されていないスキル・能力は「女性」だという研究。
吉村:すごいですね(笑)。
石倉:本来は持っている能力とかスキルよりも低い仕事にアサインされている女性が非常に多くて、それが賃金格差の25パーセントぐらいを占めているんじゃないかという研究があるんです。
これは、育休を経て戻ってくるとより選抜性が高くなるみたいなことがあって。人が足りないと言っているけど、目の前にいる人たちのパワーをうまく使えていない我が国ジャパン、みたいな感じなんですよ。
大企業だとまだ人がいっぱいいるかもしれないし、派遣を頼めばいいかもしれないですけど、スモールビジネスだとそんなことを言っていられないので。
少ないからこそ、今いる人たちのパワーをどれだけフル発揮させられるか、という観点においては、たぶんスモールビジネスのほうがもっと喫緊の課題なのかもしれないと思いました。
アメリカでは女性作家の本のほうが売れるというデータも
吉村:ありがとうございます。間違いなくそのあたりはすごく大事な話になってくると思うんですが、「どうやらスモールビジネスは本来、女性が働きやすい環境なんじゃないか」というところを、みかりんがデータを持ってきてくれました。そのあたり、ちょっとお話しいただいてもいいでしょうか。
小泉美果(以下、小泉):そうなんです、ふだん「みかりん」と呼ばれているので、急にすみません(笑)。
吉村:ごめんなさい(笑)。ふだん「小泉さん」と呼び慣れていなくて、今日はみかりんでいきますので、みなさんも呼んであげてください。
小泉:みかりんが見つけた研究なんですけども(笑)、アメリカで男性がマイノリティになった業界があって、本の作家です。女性の作家のほうが書いているし、売れることがわかっています。
その理由が、まさに今あった話です。大企業ですとか伝統的な価値観の組織だと、なかなか女性が活躍しにくいことがあって、その理由が右側に書いてあります。

例えば大企業の中で、大きいチームで女性としてリーダーで活躍すると、下手するとジェンダーロールに合わないから「あの人、攻撃的な性格だな」「優しいと思っていたけど怖い」みたいに、男性のリーダーに比べて評価されにくいということが、いろんな研究で言われています。
対して、どうして女性のほうが作家としてうまく活躍できているかというと、1人で行うとか、時間や場所を選ばずにアウトプットしやすいとか。
あるいはお給料とか印税の交渉をする時に、自分自身でやると、ともすれば「女性がそんながめついことを」みたいに言われちゃうところをエージェントがやってくれるので、活躍しやすい条件が整っていると、この事例の中で言われています。
こういう働きやすさは、大企業に比べてスモールビジネスが勝るかなと思うので、ぜひ紹介したくこの研究を持ってきました。
男女の賃金差を生む“時間柔軟性”の課題
吉村:ありがとうございます。いっぱい本を出されている石倉さんに、この研究の感想などをおうかがいできたらと思いますが。
石倉:「時間柔軟性(Temporal Flexibility)」って書いてあるじゃないですか。ノーベル経済学賞を2年ぐらい前に取ったクラウディア・ゴールディンさん(2023年に受賞)という方がまさにおっしゃっていますけど、男女の働く上での賃金の差を生んでいるものが、オンコールな仕事かどうか。
オンコールとは、不規則に呼ばれ続けたり、長く働かなきゃいけない、わかりやすいのは救命医みたいなお仕事ですよね。
ああいう仕事はやはり女性のほうが市場から退場してしまうし、しかもそういう仕事のほうが給与が高いから、それが差になってるよね、みたいなことがずっと言われていると思うんですね。
本の出版はたぶん、自分のペースで書けるし、さっき言ったオンコールな何かがあるわけではない……もしかしたら締め切り前はあるかもしれないですけど(笑)、常にじゃないので。
だからこういう仕事に女性が多いのは良いことである反面、もともとオンコールな仕事から離れて来ている可能性も考えると、社会の裏返しという気もします。
芥川賞とビジネス書の男女比率を比べてみると
吉村:ありがとうございます。このあたりは篠田さんも、事前にお話しさせていただいた時に、いろいろデータを見てくださったとうかがいました。
篠田:自分の実感と近いなと思って確認をしたら、これはアメリカのデータなんですよね。例えば、日本で言うと芥川賞の受賞作家って、ここ50年ではもう4割以上が女性なんです。

(スライドのグラフを指して)これは出版点数だと思うんですけど、1970年代から増加したアメリカの傾向。それと、質的に高いと評価され、おそらく発行部数も多い日本の芥川賞が、同じような時期からほぼ男女半々になっているのが、自分の実感にも近かったので「やっぱりな」と思いました。
ただ1個、文芸書はそうなんですけど、ビジネス書のここ5年ぐらいの受賞作を見ると、日本の作家はやはり男性が多いんですよ。
みなさん、特にビジネス書はご自身の経験に基づいて書かれる。それで、著名になって次々にシリーズを出されるので、初めに見た「ビジネスの世界ではまだまだ男性が多い」ということが、ビジネス書の作家においても反映されているな、と見えました。
吉村:なるほど。そういう意味でも、ジェンダーギャップを解消していかないといけないんですね。
篠田:これを見ると、例えばおもしろい物語を紡ぐ能力に関して男女差はないことが明確に示されたのかなと感じました。