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経済合理性と、理念合理性(全2記事)

役職がなくても部下はついてくる? 職場のコミュニケーションで注意したい、権力との付き合い方

ソニックガーデンの代表・倉貫義人氏と仲山考材の仲山進也氏が「雑な相談」をするポッドキャスト『ザッソウラジオ』。今回は「理念合理性」をキーワードに、企業理念を掲げるメリットや、パーパス経営の時代における権力の使い方などを語り合います。

最初からパーパス経営だった

倉貫義人氏(以下、倉貫):今はそれこそ世の中の会社がパーパスとか言い出しているというか、理念経営みたいなのって、経済活動からスタートして、社会的意義にアライン(一致)させようみたいになってきている。

最初はそんなものはなかったのに、「これからの世の中にはそういうものが必要だ」「パーパス経営は大事だ」みたいなことで、やはりあったほうがいいねと。リテンション(人材の定着)も高まるし、採用にも効くだろうし、当然、調達しているなら投資家に向けてもいいメッセージになるので、必要だということで作ってきているけど。

よくよく考えたら、「僕らの会社は最初からそっち(理念ありき)だったな」みたいな。最初から理念があったから、「納品のない受託開発」をやってきたんですけど、振り返ってみたら、これもぜんぜん儲からないビジネスなんですよ。儲からないと言ったら語弊があるんですけど、短期的に儲からないんですよね。

長くお客さまとお付き合いすることだけが目的というか、そうすればお客さまも成長し、それに対して僕らも一緒に繁栄していけると思ってやっているので、月額を定額にして月々のコストを下げている。「これ、普通にシステム開発会社として儲けたかったら、納品ありきでやっていたな」って思うけど(笑)。

それを選択しなかった時点で、「どっちかと言えば、理念が先にあったな」という。一貫していたことに気づいていなかったけど、「最初からそうだったのか」と思って。

理念があれば意思決定がシンプルになる

仲山進也氏(以下、仲山):それこそ起業する時って、自分がやりたいと思ったことがなかなかうまくいかなくて、ピボットしているうちにそれが伸び始めると、「何のためにやっているのか」が後からついてくるというか、どこかのタイミングで気づくみたいなパターンがあるのかもしれないですね。

あとは、倉貫さんみたいに、普通に会社に所属して働いている中で、自分の中にパーパスというか、理念的なものができて、会社から出て活動をし始めると、最初から理念があるかたちで活動することになりますよね。

倉貫:最初からある。社会運動だったし、最初から理念スタートで来ていたことをあらためて思い出したら、けっこう気が楽になりましたね。

仲山:何をやるにしても、理由付けが簡単。「いや、理念的にこうなっているから」と言えばいい。

倉貫:そうなんです。意思決定が非常にシンプルになったというか。

仲山:わかるわかる。

倉貫:当然、経済合理性も含めてやっていくことが、現実社会での経営においては大事なんだけど。とはいえ、経済合理性だけで話をしなくてもよくなるので、そうなると、まずは理念に合理性があり、その上で経済合理性があったら、「やりましょう」となる。

経済合理性はあるけど、理念に合理性がないんだとしたら、シンプルに「やめましょう」となる。「これは理念合理性があるけど、経済合理性が少し足らないな」となっても、一番難しい判断だけど、思い切ってやれるようになるので。「理念合理性」という言葉は僕の勝手な言葉ですけど、その判断をする仕事は、ソース原理におけるソース(活動の源泉になる存在)の役割のように感じる。

仲山:そうですね。

ソース理論におけるソースは、理念合理性の門番

倉貫:なのでソースがいなくなったら、やはり経済合理性だけに頼ることになる。

仲山:理念合理性の基準、OBライン(NGライン)が引けないから。

倉貫:そう、わからないから。でも、経済合理性はシンプルでわかりやすいので、儲かるか・儲からないかだけで判断しがちになる。でも、ソースの役割は理念合理性の門番というか。

仲山:そうだと思う。それこそソース原理で「クリエイティブ・フィールド」という表現がありますけど、「ここからここまでは遊び場の範囲だよ」みたいなことですよね。ぼくは楽天で自由な感じで働いていると言われるんですけど、それは楽天の理念と行動規範がはっきりしているから、自由に見えるような振る舞いがしやすいんですよ。

倉貫:(笑)。そこから外れなければ良いっていうね。

仲山:この活動は理念につながっていると思えれば、別にやっても怒られないじゃないですか。「何やってるんだ、お前」って怒られなくて済むので。

倉貫:それで怒ってきても、「いやいや、こっちは理念に沿っていますからね」って言えちゃう。

仲山:あとは、「そちらのイメージするよりも、もうちょっと長い、複雑な因果で物事を捉えた活動としてやっています」みたいな。

倉貫:(笑)。

楽天の三木谷さんと同じ目線を持つ

仲山:いい意味で放っておかれるとやりやすいんです。やはり判断が早くなるのがいいですよね。迷わなくて済む。

倉貫:楽天だったら三木谷(浩史)さんとか、ソースの人との擦り合わせが済んでいれば、より自由になりますよね。

仲山:それはそう。

倉貫:同じ目線で見ている話になるので。だからたぶん、がくちょも楽天の創業期にいたから、三木谷さんというソースとの擦り合わせができている。クリエイティブ・フィールドがどこまで広がってもやれるのは、そこにある気がする。

僕らの会社だと、能力とか経験知よりも、社歴が長い人のほうが擦り合っているから、やはり仕事はやりやすいですものね。

仲山:そうなんですよね。でも、だんだんそうなってくると、「擦り合っていない人のフォローをしなきゃいけないかな」みたいな気持ちになったり。

倉貫:なったりする。

仲山:「そういうのをやって」と頼まれるようになるのですが、それを受け取る側の人が、あんまり受け取りたいとも思っていないからモヤる、みたいなことがよくあるんですよね。

倉貫:でも、受け取りたいと思っていない人も「三木谷さんと数時間、話ができるよ」と言われたら、「わかりました!」となりそうな気はする。

仲山:ソース本人じゃない人がそれをやろうとすると、けっこうムズいなって。

倉貫:そうね。たぶんソース的には、青木さんとの話で出たように、めちゃくちゃ権威があると思うんですよね。オーソリティが高くて権威がある状態。

ソースは恐らく創業者とか株主だからというよりは、ソースとしてのリスペクトがあって権威があるから、「いや、そんな話ができるならぜひ」「そこと擦り合わせたい」ってなるけど、サブソース的な人が、どこまで権威を持てるかどうかなのかな。

『アオアシ』の福田監督に見る“権威”の力

仲山:あと、権威と権力じゃないですか。

倉貫:そうそう、権力はなくてもいい。権力でやろうとしても、先ほどの擦り合わせは合わないですよね。

仲山:そうだな。でも、「代表」とか「代表取締役社長」みたいなタイトルが付いていると、やはり実質的にはなくても、形式的権力にはなるじゃないですか? 

この前青木さんとしゃべっていて、「権威と権力の違い」の視点をゲットして。「アオアシ本2」の原稿で、「いきなり権威を示すようなかたちで、教える側としての立ち位置を築いて話を進めようとすると、あんまりうまくいかない」みたいなことが書いたあったところの、「権威」という言葉を直しました。

倉貫:(笑)。

仲山:「いや、これ、何だろう。これ、権威じゃないな」って。権威を示すんじゃなくて、権力とか優越的地位みたいなものを示すことなんだなと。

倉貫:うんうん、そう。でも、ちょっと『アオアシ』のやつは知っていたけど、めちゃくちゃサッカーが上手な人っていうのは、これも1つの権威なんだと思っているんですね。

仲山:そう、権威ですね。それこそ『アオアシ』で、福田(達也)監督がアシトに技を見せるシーンとか。

倉貫:そう。福田監督が最初に、「エスペリオンユースの監督です」と見せるのも権威の見せ方のひとつかもしれないけど、シンプルにプレイヤーとして憧れられるのも、権威になるなと感じるので。

仲山:なるなる。

権力の扱い方が変わってきた

倉貫:権威の示し方はいろいろあって。でも、権力はやはり他人から渡されたものなので、部長とか事業部長だからといって、擦り合わせようとすると、結局うまくいかないから。

権力は別にあってもいいんだけど、頼らないようにしないと、「擦り合わせ」の文面においてはうまくいかないんじゃない? という感じはしますよね。

仲山:そうですね。「つべこべ言わずにさっさとやれよ」というのができちゃうと。

倉貫:できちゃうね。だから、権力を手に持って、いつでも使えると思っているのは良くない気がしますけどね。権力を放棄した状態でもやれるかどうか。でも、「いざとなったら使うぞ」と思っていると、それって権力を振るう選択肢がずっと頭の中に浮かんでいる状態だから、あんまり良くないなと思っている。

仲山:依存しちゃうよな。それこそ、制約条件の設計、エコロジカル・アプローチというか、「右足を使ってはいけません」という制約条件を付けてプレイすると、右足の選択肢がなくなるので、左足が上手になっていくみたいな、そういうことですよね。

倉貫:そうですね。でも、本当に会社の中で権力を使う場面は、わからないけど、今どきある? みたいな気もするし。

仲山:(笑)。みんなが最近「難しい」となっているのは、前は使えていた権力が、その使い方だとみんな辞めていったり、ハラスメントになったり。

倉貫:でしょう?

仲山:みたいなことが起こるようになったからですね。

「権力って、要るのかな?」

倉貫:そう。だから権力って、もう世の中からなくしてもいいのではないかという気がしていて。権力って、要るのかな? やはり何かの時に使わないと困るから。

仲山:だから、擦り合わせができていない関係性で、一緒に活動しようと思う時って……。

倉貫:権力が要りますよね。

仲山:そう。「擦り合わせている時間がないよ」「その時間は許容可能じゃないよ」みたいな。そういう場合には、やはり権力での動かし方が必要になるんだろうな。

倉貫:「いやぁ、権力、要るかなぁ?」みたいな。ほとんどは権力がなくてもやれるようにすると思うし。

仲山:理念に共感している人たちが集まって、一緒に。

倉貫:やれるようにすれば良いし、権威があればそこでお願いは聞いてもらえると思うし、理念がそろっている中でやろうといったら、やることに対して、やる・やらないという話にならないという気はするので。わからないけど、ティールでいう、もっともっと原始的な組織がもしあるんだとしたら、権力がないと困るかもしれないけど。

『半沢直樹』は今やパワハラ?

倉貫:今の時代は『半沢直樹』みたいなやつで権力の行使を見ていても、「いやいや、あんなのもう、今だとすぐパワハラになる」っていう(笑)。パワーがすぐハラスメントになるから。

「責任取ります」って言うけど、「それを言うぐらいだったら、辞めて転職したらいいのに」と思っちゃう社会において、逆に「権力が欲しい」と思う人も、いなくなってくる気がする。「権力に憧れる?」というと、あんまり憧れないなって。

仲山:「権威と権力」みたいなやつ、もうちょい解像度を上げたいな。

倉貫:そうですね。いや、僕は先ほどの話で、自分の会社で言うと、立場的には株主だし、社長でもあるから、使ったことはないんだけど権力を持っているんだよな。でも、権力を持っているからみんなが僕の話を聞いてくれているのかと思うと、ゾッとしますけどね。

仲山:そうね(笑)。そうですよね。

倉貫:「そうじゃないだろうな」と思って会社をやっていますけど。いつか、僕が株主でも社長でもないけど、今と同じ感じで仕事ができるか、実験してみたい気はしています。

仲山:それ、わかる。

倉貫:「権威のみでやれないかな?」みたいな。

“権力に興味がある人”はわかりやすい

仲山:僕みたいに、権力をマジで何も持っていない感じで活動していると……。

倉貫:権力はマジでないけど、権威はあるよね。

仲山:でも、権力がないとやはり、話しかけてくる人と話しかけてこない人が、すごく明確にわかります。

倉貫:(笑)。

仲山:「権力に興味があるんだな」という人は、僕には話しかけてこないし。

倉貫:なるほど。

仲山:すごくよくわかります。

倉貫:わかりますね(笑)。人間がわかるという。いやぁ、「権威と権力」をもうちょっと考えていきたいなと思いますが、いい時間ですね。

仲山:いい時間になりましたね。

倉貫:ということで、ザッソウラジオでは、みなさんからのメッセージや質問・相談をお待ちしております。お聴きのポッドキャストの、ザッソウラジオのプロフィール欄に掲載されているフォームから気軽にお寄せください。

ザッソウラジオは、毎週水曜日の午前中に更新しております。SpotifyやAppleなどで聴くことができますので、チャンネル登録していただけるとうれしいです。ということで、また来週。

仲山:ありがとうございました。


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