ソニックガーデンの代表・倉貫義人氏と仲山考材の仲山進也氏が、「雑な相談」をするポッドキャスト『ザッソウラジオ』。今回は倉貫氏の執筆活動を切り口に、経済的な合理性だけでは計れない「理念合理性」が持つ価値について語り合いました。
パーソナリティ2人でおしゃべりの回
倉貫義人氏(以下、倉貫):倉貫です。
仲山進也氏(以下、仲山):仲山です。
倉貫:ザッソウラジオは、倉貫と「がくちょ」こと仲山さんで、僕たちの知り合いをゲストにお呼びして、雑な相談の「ザッソウ」をしながら、ゆるくおしゃべりしていくポッドキャストです。今回は、私とがくちょの2人で話す、フリートーク回です。よろしくお願いします。
仲山:お願いします。
倉貫:ということで、2月はスペシャルゲストの青木(耕平)さんに来ていただいて、「何の話をする?」「もう話すことないよ」って言いながら、さんざんしゃべるという、いつもの感じに(笑)。
仲山:(笑)。
倉貫:途中、収録だと忘れてしゃべっていましたね。
仲山:良かったですね。ちなみにこの前、楽天のカンファレンスがありまして。その時に「かおねぇ」(浅野かおりさん)がゲストに来てくれた時に、「ちょっと最近、青木さん成分が足りなくなってきた」と言っていて。
倉貫:え?(笑)。
仲山:「ちょうどこの間、青木さんと収録をやったばかりなのでお楽しみに」みたいなやりとりをしたところです。
倉貫:いや、いいですね。
仲山:青木さん成分(笑)。
倉貫:青木さん成分ってなんだっていう(笑)。
『アオアシ』本をコミュニティメンバーと制作中
仲山:倉貫さんは、最近はどんな感じですか?
倉貫:そうですね、今日も楽屋で何を話すか、特に考えることもなく、ただ漫画の話をしていたのですが。前回も青木さんに出てもらってお話ししましたが、僕はクラシコムのいわゆる執行取締役、CTOという肩書をいただいて。自分のところの会社ともう1社、どっちも取締役で仕事をするのが、思った以上に忙しい。
「いけるかな」と思っていましたし、社外取締役の時からそんなに仕事の中身は変わっていないとはいえ、ちょっと忙しくなりましたね。日中の時間、ちゃんと仕事をするようになったという。
まあまあ難しい打ち合わせとか意思決定の仕事が増えたので、仕事が終わったら漫画を読むとか、だらだらして休息をしなきゃいけない。これは歳のせいもかもしれないですけど。
仲山:(笑)。
倉貫:個人的な趣味活動じゃないですけど、ブログを書くとか本を書く時間が取れなくなっている。これは時間配分をちょっと考えるのか、でも、この仕事はしばらくやるしかないので、「配分を変えずにいくか」みたいな感じですね。
仲山:なるほど。あれ? クラシコムはリアルで出社する時はあるんでしたっけ?
倉貫:ほとんどないです。「3ヶ月に1回、行けば良いかな」ぐらいの感じですけどね。どっちの会社もリモートなので、やれているところはある。
仲山:いやー、僕も去年(2024年)はそんな感じだったな。
倉貫:埋まっている感じですね。がくちょは最近、時間に余裕が出てきたんですか?
仲山:12月〜1月はなんとなく、天が「そろそろ原稿をやれよ」と言っている感じのスケジュールの入らなさというか、けっこう原稿をやれた感じですね。
倉貫:じゃあ、原稿を書いて過ごしていた?
仲山:はい。で、「アオアシ本制作部」というコミュニティのみなさんにフィードバックをもらって。いろいろ直すところも教えてくれるんですけど、純粋に「おもろ!」というリアクションをもらえると、けっこうやる気を持続しやすいなって。ありがたいなというのが、ちょうどこの1月。今、収録しているのが1月が終わったばかりのタイミングですけど、そんなでしたねー。
お金を生まなければ「趣味」なのか?
倉貫:そうねぇ。僕はここ最近、「ブログを書く」とか「本を書く」ことがなかなかできてないんだけど、やはり、やりたいなと思って。うまく工面しながらやろうかなと思っている中で、これまで自分的にはブログも本も趣味だと思っていたんですね。たまに本を出すと、他の人から言われるのが、「やはりそれって、お客さんを集客していますか?」みたいな。
仲山:なるほど。
倉貫:「やはり採用にも効きますかね?」みたいな相談を受ける。効くと言えば効くけど、「もし本気で採用をするんだとしたら、本を書くより、エージェントとかを使ったほうが良くないですか?」みたいな気がするし(笑)。
仲山:(笑)。
倉貫:「集客できますか?」というと、効いてはいるけど、マーケティングにコストをかけたほうが経済合理性が高いんじゃないか、みたいな感じはしていて、「いや、そうじゃないな」と思って。それこそ「印税で、(収入になるから)いいんですか?」と言われても、「いや、それこそ他の仕事をしていたほうがいいぞ」みたいなことがあって。
仲山:うん。絶対、マックでバイトとかのほうが。
倉貫:まあ、マックでバイトをしてもいいし(笑)、普通にコンサルとか相談の仕事を受けるだけでも、その時間で稼ぐことだけを考えたら圧倒的に比率が違うから、経済合理性のない活動だなと思っていたので。
仲山:という意味で趣味。
倉貫:そう。経済合理性のない活動のことは、「趣味」と呼んでもよいのかなと思っていたんだけど。僕はソニックガーデンという会社をやっているんですが、ここ1、2年でちゃんと経営理念を言葉にしていて。
「エンジニアがいます」とか「納品のない受託開発をやっています」とは言っていたんだけど、「ソニックガーデンは~の会社です」みたいなのを、今までは白黒つけずにふんわりと言い続けていたんです。
最終的に僕らの経営理念、社会との接点においては、「いいソフトウェアをつくる」という言葉に落とし込んだんですけど、「いいソフトウェアをつくる」ところに会社の理念を落とし込んだら、「あれ? 僕のやっている活動は、理念を体現するためにやっていることだ」という。
「財は貯まるけど、意義は増えない」
倉貫:例えば会社をやっていて利益が出て、何年かすると一定の資産が貯まる。経済合理性だけを考えたら、普通に投資とか、投資信託をしたら良くなってしまうんですよね。
そのお金を増やすには、人や、社員の育成、環境に投資するより、米国債に入れると何パーセントか返ってくるみたいな。でもそれって結局、「お金でお金を増やす」という活動は、経済合理性だけの世界なんだと。
「いや、それだと会社として財は貯まるけど、意義は増えないな」と思った時に、その意義が理念活動だとしたら、僕らはいいソフトウェアを作るために、若い人を採用して育成する。めちゃくちゃお金は減るけど、いいソフトウェアを作れる人を増やすことができる。
会社経営をしていて、最初はお金がないと大変なので大事だと思っているけど、お金よりも理念で考える……投資みたいなことを考えた時に、まさしく個人のレベルで言っても、コンサルの仕事をするより本を書くほうが、経済的には合理性はないけど、理念的には合理性がある。
何に合理があるかというと、理念に合理があるな、みたいなことを考えたら、「あ、僕がやっていたのは、ちゃんと趣味じゃなくて仕事だったな」って(笑)。
理念をベースにしているので、仕事ではなく活動
仲山:そう。今、倉貫さんは「活動」という言葉を使っていたと思うんですけど、僕もよく「何の仕事をしているんですか?」「それは仕事なんですか?」とか聞かれて、「答えにくいなぁ」と思っていたんです。それって、お金が発生していれば仕事で、発生していなければ、「それって仕事なんですか?」みたいな価値基準じゃないですか。
でも、例えば「チームビルディング講座っぽいやつをやってよ」と言われた時に、知らない会社の人から頼まれるのと、知り合いの学校の先生から頼まれるのだと、ぜんぜん違う。
だって、知り合いの教育関係者から頼まれる場合はお金がどうのって、どうでもいいじゃないですか。なので、同じことをやっていても、お金をいただける時と、別にいただかずにやる時があって、それを「仕事」と表現するのは難しいなと思っていたから。
倉貫:ムズいですよね(笑)。
仲山:そう。なので、「活動」と言うようになったんですよ。
倉貫:なるほど。「どんなことをしていますか?」って、「こういう活動をしています」って(笑)。
仲山:そうそう。活動だったら別に、そこにお金が発生してもしなくても、向こうに受け取ってもらいやすいなと。なので、僕も活動は「子どもが憧れる、夢中で仕事する大人を増やす」という個人の理念をベースにしているし。
採用活動にエージェントを使わない理由
仲山:あとは、たぶん、さっきの「投資信託のほうが経済合理性があるよね」みたいな話で言うと、活動の「活」は、それこそ強みを活かすとか、自己中心的利他(やりたくて得意なことをやると喜ばれる状態)みたいな考え方で言うと、「自分を活かすかたちで動く」だな、みたいなことを思ったりして。
倉貫:いつもの、日本語を分解すると……。
仲山:そうそう(笑)。
倉貫:「活かす動き」として、「活動」と読む。
仲山:「自分を活かしながら動く」と考えたことがあって、あんまり誰かに言ったことはなかった話。
倉貫:いや、そうなんですよね。なので、僕自身もそうだったなと、あらためて言語化というか発見があり、趣味だと思っていたけど、ちゃんと自分たちの会社の活動の一部だなと思えるようになった。
そうすると、僕らの会社は採用にエージェントを使わないんですね。新卒を2人とか3人しか採用しないのですが、いろんな人に相談に乗ってもらうと、「だとしたらエージェントやサイトやサービスを使うのが一番手っ取り早いですよ」というふうに言っていただくんだけど。
でも、僕らは新卒採用をするために、わざわざ大学回りをして、学生向けにプログラミングのキャンプとかを無料でやって、ようやくつながりを作って、興味を持ってくれた人が入る、みたいなことをやっていて。
普通に新卒採用をしている人たちからすると、「いや、それ、合理性ありますか? なんでそこまでやるんですか?」「たかだか、たった2~3人の採用なのに」みたいな感じではあるんだけど。
これも採用の合理性だけを考えたらそうなんだけど、理念の「いいソフトウェアをつくる」ということを考えたら、学生向けにプログラミングの門戸を開く活動をしていくのは、理念活動としては合っているので、やっていいことだなみたいな。
仲山:その活動をした結果として、「理念的な活動にとても共感してくれる」「採用がしやすくなっている」みたいなね。
倉貫:そうだし、入ってくれるかもしれないし、入ってくれなくても、「若い人たちがプログラマーの仕事の経験を得て、きっかけがもらえたらいいんじゃない?」と思えたら意義がある。
会社の姿をした社会運動?
倉貫:自分のことは趣味と言って納得させていたのもそうなんですけど、プログラミングキャンプとかに関わってくれる社員のみなさんにとっては、「いやいや、そんなのよりエージェントを使いましょうよ」みたいなことじゃないって説明ができるし、本人たちも納得できるのはいいなと思って。
そこを突き詰めていくと、僕らの会社は、表向きは「会社」の姿ではあるけど、実は「社会運動」だったんじゃないか、というのが最近の気付き。社会に対して運動をしていく、社会運動ってよく言うじゃないですか。
「いいソフトウェアをつくる」という社会運動だけど、株式会社というガワを被っている。そうしないとサステナビリティが担保できないとか、活動、運動自体は経済合理性がないと続けられない。だから、実態は社会運動だったんじゃないかって。
そうしたら、わりといろんな社内でやっている活動は、経済合理性じゃなくて、理念の合理性で判断がつくなっていうことに、最近なんとなく気付いたんですね。
仲山:それ、めっちゃわかる。だから、エフェクチュエーション(※成功を収めた起業家に見られる思考プロセスを体系化した意思決定理論)の「許容可能な損失」という考え方って大事ですよね。理念的活動や社会運動をやっていく時に、ゲームオーバーにならない範囲だったら、時間やリソースを使ってよいみたいな考え方になると思うので。
倉貫:そうですね。
仲山:活動の中で、お金もいただきながら、走ることが許されるうちは続けられるという感じですよね。
たぶん、会社のかたちになっていると、誰かがちゃんと収入を確保できる活動をやっているうちに、他の人が経済的には何も発生しない活動にリソースを割きやすくなる、みたいなことはありますよね。
仲山:僕が楽天でやったことはそうだろうな。みんなが一生懸命、営業活動をやってくれている中で……。
倉貫:まあ、そうね(笑)。
仲山:楽天大学の講座の参加費は会社の事業として大きくないんですけど、自分の食い扶持ぐらいは自分たちで作りつつ、楽天市場の店舗さん同士の横のつながりを作る活動とかって、やはり営業活動としてはコスパが悪すぎるので、取り組みにくいですよね。
倉貫:そうですよね(笑)。
社会運動は長期的な目線を持つ
仲山:「遊んでいるだけだろ」という感じにも見える。この前も、5年ぶりにリアルのカンファレンスに参加したんですけど、だいたい懇親会があって、2次会があって、3次会があって、4次会があって、5次会があって。
倉貫:長っ!
仲山:(笑)。5次会まで行くと、だいたい始発を逃すっていう。
倉貫:(笑)。
仲山:始発で帰ろうと思っていたら、盛り上がっていて始発を逃して……。
倉貫:盛り上がり過ぎでしょ。
仲山:みんな朝の便の2本目ぐらいで帰るのが毎回のパターンなんですけど、今回もそのとおり。結局、5次会まで行ったんですけど、まあコスパは悪いですよね。
倉貫:悪いよね(笑)。
仲山:営業活動としては、非常にコスパが悪い。けれど理念的活動と考えるとね。
倉貫:(笑)。でもね、最近ChatGPTが友だちなので、やりとりしながら、今みたいな思索を深めているんです。
仲山:なるほど。
倉貫:「経済活動と社会運動の違いは何か」をChatGPTに表にしてもらったんですけど、「経済活動は短期的な成果を重視するが、社会運動は長期的な意識改革、制度変更を重視する」ということが書いてあって、短期で見るのか、長期で見るのかにも関わってくるなと。
仲山:長期で見るから、やはり許容可能な損失のラインが大事なんですよね。
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