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柔軟な働き方の落とし穴:自己危険行動から従業員を守るには(全3記事)

“助けて”は弱さではなく、賢い選択 自己犠牲をやめて健康に働き続けるための行動スタイルとは

組織課題を丹念に読み解く調査&コンサルティング会社「ビジネスリサーチラボ」が開催するセミナー。今回は「柔軟な働き方の落とし穴」をテーマとしたセッションの模様をお届けします。柔軟な働き方の中で人が取る3つの行動や、優秀な人材が健康に働き続けるための条件などが語られました。

柔軟な働き方の中で人が取る3つの行動

伊達洋駆氏:ここまで、柔軟な勤務形態が自己危険行動を促す可能性があるという話をしてきました。ただ、それに対して「では柔軟な働き方をやめたほうがいいのか?」というと、決してそうではありません。

柔軟な働き方をしていたとしても、健全に働けたほうがいいに決まっていますよね。その良さをしっかり享受するためにも、適切な対処行動が重要になってきます。研究によると、柔軟な勤務形態において人々が取る対処行動は、大きく3つに分類されるとされています。

1つ目は「問題解決型」です。これは、何か課題が発生した時に、それをどう解決するかを考えて、建設的に行動していくスタイルです。例えば、上司や同僚に相談する、仕事の進め方を見直す、タイムマネジメントを工夫するといったように、課題の解決に意識を向けて動いていくタイプです。

2つ目は「回避型」です。これは、問題が起きた時に、あえて目を逸らしてしまうような対応です。

その場しのぎの反応をとる傾向があり、例えば締め切りが迫った仕事があるにもかかわらず、「まあ、後でいいか」と先延ばしにしてしまう。あるいは、「難しい問題だけど、今は見なかったことにしよう」と無視したり、問題そのものの存在を否定したりする、といったケースです。当然ながら、これは望ましい対処とは言えません。

そして3つ目が「自己犠牲型」です。これは、これまでお話ししてきたような、いわゆる自己危険行動を取ってしまうような対応のことです。例えば、体調が悪くても無理して働く、休憩を取らずに仕事を続けるといった行動がここに含まれます。

このように、柔軟な勤務形態における対処行動には、大きく分けて「問題解決型」「回避型」「自己犠牲型」の3つのパターンがあることが、さまざまな研究によって明らかになっています。

がんばりすぎた人に起こる“疲労→無理→離脱”の悪循環

この3つの枠組みを踏まえながら、ここでは対処策について考えていきたいと思います。その前に、教師を対象にした研究を1つご紹介します。

基本的に、労働負荷が高まってくると、自由度や使命感、責任感といった要因によって、自己危険行動が引き起こされやすくなる傾向があります。その結果、「情緒的消耗」、つまり情緒的なエネルギーが枯渇してしまう状態に陥ることが実証されています。これは非常に深刻な問題です。

もう少し具体的に説明すると、教師は多忙な業務に対応する中で、「休憩時間を削ってでも仕事を進める」といった自己犠牲的な対応を取りがちです。その結果、十分な休息が取れず、心身の回復が妨げられてしまいます。つまり、疲れがまったく取れない状態が続き、徐々に疲労が蓄積されていき、やがて情緒的なエネルギーまで枯れてしまう。そうした流れが見られるわけです。

整理すると、「労働負荷が高まる」「自己危険行動で対応しようとする」「休息が取れない」「疲労が蓄積する」「情緒的エネルギーが失われる」といった悪循環に陥ってしまうということです。こうした自己犠牲的な行動は、一見がんばっているように見えるかもしれませんが、実際には悪循環に飲み込まれてしまうリスクをはらんでいます。

“助けて”は弱さではなく、賢い選択

一方で、先ほど挙げた3つの対処行動のうち、「問題解決型」の対処をしている人は、心身ともに良好な状態を保ちやすいことが明らかになっています。つまり、問題が発生した時には、自分ひとりで抱え込まず、周囲の協力も得ながら、課題の解決に向けて建設的に動いていくことが重要だということです。

無理をして乗り切ろうとするのではなく、問題そのものに働きかけて状況を改善していく。その姿勢が、結果的にはストレスの蓄積を防ぎ、健康的に働き続けるために有効なのです。

さらに、問題解決型の対処行動を取ることで、課題や問題を早期に発見しやすくなります。問題が小さいうちに気づき、対処していくことで、よりスムーズに物事を進めることができます。

そのためにも大切なのは、「問題が大きくなる前に気づき、対応する」という習慣を身につけることです。問題が大きくなってからでは、それに対応するには自己犠牲的な行動を取らざるを得ない状況に陥ってしまう可能性があります。だからこそ、負担が大きくなる前に、早めに気づき、対処することが重要なのです。

問題解決型の対処行動を見ていくと、やはり「ひとりで抱え込まないこと」がとても重要だということがわかります。

周囲の力を借りることが、健全な働き方につながっていくのです。上司や同僚に相談することで、新たな視点が得られたり、思わぬ解決策が見つかることもあります。

ただ、「助けを求めることは、自分に能力がないと見なされるのではないか」「弱さの表れではないか」と感じてしまう人もいるかもしれません。しかし実際には、助けを求めることは問題を解決するための賢明な手段のひとつです。

そう捉え直すことで、自分だけで抱え込まず、周囲と協力しながら問題に向き合えるようになります。逆に、ひとりで抱え込んでしまうと、結局は自己犠牲的な行動に頼らざるを得なくなり、自己危険行動というかたちでしか問題に対処できなくなってしまいます。その結果、働き方の持続可能性が大きく損なわれてしまうのです。

優秀な人材が健康に働き続けるための条件

自己危険行動への向き合い方について、あらためてまとめておきたいと思います。自己危険行動の中でも、特に難しいのが「利他的なモチベーション」が背景にあるケースです。他者を助けたいという思いから行動することは、多くの仕事において非常に大切ですし、決して否定されるべきものではありません。

ただし、それも「自分の健康を害さない範囲」で行うことが前提になります。なぜなら、利他的な動機を長期的に発揮し続けるためには、自分自身が健康でいることが欠かせないからです。当たり前の話ですが、例えば医療従事者が自分の健康管理をおろそかにして病気になってしまえば、患者を助けることはできなくなります。それはとてももったいないことですよね。

中長期的に他者を助けるという観点で考えると、ときには「いったん立ち止まって、セーブする」という判断が必要になります。自分の健康を守ることが、結果として他者を支えることにもつながっていくのです。

また、利他的なモチベーションを「チーム単位で共有していく」という考え方も大切です。チーム全体で、適度に助け合える文化があれば、特定の人にだけ過剰な負荷がかかることはありません。みんなで支え合えば、仕事の負担をうまく分散でき、持続可能な働き方にもつながっていくはずです。

例えば、1人のメンバーが常に業務を引き受けて残業しているような状況があるとします。そういった構造では、その人が自己危険行動を取らざるを得なくなってしまいます。その仕事をチームで柔軟に役割分担し直し、他の人が一部を引き受けることができれば、過度な負担は軽減されます。

また、体調を崩した時にも、周囲がきちんとカバーできる体制が整っていれば、その人が無理をして働く必要はなくなります。

このように、利他的な姿勢そのものは大切ですが、それを「集団として共有する」ことで、自己危険行動の発生を緩和できる可能性があるわけです。

休憩は怠けているわけではない

加えて、「休まずに働くことが責任感のある姿勢だ」とするような価値観から脱却していく必要もあります。

やはり、適切に休むことは当然のこととして捉えていかなければなりません。「休憩を取る」「休息を確保する」といった行動が、怠けているわけではないということ。これは本来、当たり前の認識ですが、現実には、価値観そのものを変えないとどうにもならないという職場が、いまだに存在しているのも事実です。

持続可能に働き続けるためには、適切な休息が必要です。その方が集中力も上がりますし、創造性も高まり、結果的にパフォーマンスの向上にもつながります。つまり、休んだほうが生産性は高まるわけです。

例えば、仕事の合間に短時間の休憩を挟む。こうした「マイクロブレイク」と呼ばれる休憩は、長時間の集中が難しい現代の働き方において非常に有効です。ほんの数十秒でも席を立って体を動かしたり、リフレッシュするだけで効果があるという研究もあります。

そういった意味でも、短時間の休憩を意識的に取り入れていくことは、自己危険行動の予防や、健康的な働き方を実現するための1つの方法になると思います。

バーンアウトや離職につながる職場の文化

では最後に、本日のお話をまとめたいと思います。これから私たちの働き方は、より柔軟性の高いものへと変化していくでしょう。柔軟な働き方は、自律性を高め、自由度を広げてくれるものです。そこには大きな可能性があります。

ただし、その一方で、場合によっては「自己危険行動」として、私たち自身の健康を脅かしてしまうリスクもあるということを忘れてはいけません。自己危険行動は、短期的には「熱心に働いている」「責任感がある」と評価されがちです。ですが、長期的に見ると、心身の健康をむしばみ、結果としてバーンアウトや離職につながってしまうこともあります。

例えば、休まずに働くことや、体調が悪くても出勤することが「美徳」とされているような職場文化があるとすれば、それは見直す必要があるのではないでしょうか。そういった文化のままでは、持続可能な働き方とは言えません。

そして、この「健康」と「仕事」のバランスを保っていくためには、個人のセルフマネジメントだけに頼るのではなく、組織側の取り組みとの両輪が必要になります。

個人としては、自分の限界をきちんと認識し、必要な休息を取ること。無理をせず、周囲に助けを求めること。そして組織としては、チーム単位で助け合い、特定の人に負荷が偏らないような体制を整えていくこと。そうした環境づくりが求められます。

このように、個人と組織の両面から取り組みを重ねていくことが、自己危険行動の抑制につながり、柔軟な働き方を本当の意味で機能させることになるのではないでしょうか。以上で、私の講演を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

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