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Project MINT Luminary Talk! 「成功の鍵は“人的資本”と“社会関係資本” いま大人が知るべきこと」 |『人的資本の論理 人間行動の経済学的アプローチ』著者・小野浩さんに聴く!特別講義と対談イベント!(全4記事)

学びの吸収力が落ちてきた50代が「新しいスキル」を取り入れるよりも大事なこと 

「成功の鍵は“人的資本”と“社会関係資本” いま大人が知るべきこと」と題して開催された本イベント。一橋ビジネススクール教授であり、「人的資本の論理 人間行動の経済学的アプローチ」の著者である小野浩氏が、人的資本と社会関係資本について語ります。本記事では、参加者からの質問に回答しながら、50代が「新しいスキル」を学ぶよりも大事なことについてお伝えします。

「何を成果とするか」によって、人的資本と社会関係資本の配分も変わる

植山智恵氏(以下、植山):あとは「陳腐化しないスキルは?」ということですが、自分の中での成果というんですかね。先ほど小野先生にお話いただいたとおり、成果というのは人的資本と社会関係資本の掛け算という。

本人が何を成果に思うかということですかね? 学校に入ってから「良い会社に入る」ことがその人の成果なのか、それとも「私は幸せになりたい」なのか。小野先生は幸福度も研究されていらっしゃいます。「自分の人生を幸せにしたい」というゴールの上でどんなものを学ぶか、どう選択していくか。それを自分で設定していく。

例えば「一流大学に入りたい」だったら、それでいいのかもしれないんですけど。ゴールと成果については、どうお考えでしょうか?

小野浩氏(以下、小野):非常におもしろい質問です。統計学で言えば、被説明変数(回帰分析において説明変数によってその変動が説明される変数)を何に設定するかになります。説明変数が「人的資本×社会関係資本」と決まっているとしたら、結果を何にするかによって、どっちに重点を置くかも変わってくると思うんですよね。

1つのライフステージとして考えると、大学に入学するんだったら、入試に社会関係資本は要らないわけです。とにかく「100パーセント、人的資本に投資しなさい」というのが1つのライフステージになる。

ただ大学に入ったら人脈を作って、サークル活動で外にネットワークを開拓したり、それが最終的に就職に有利になることもあるわけです。

今でもそうですけど、就職活動は制度的な社会関係資本がすごく大きいじゃないですか。早稲田(大)のOBに会いに行ったり、自分の大学のOBと面接したりね。そういうことがあるから、本当に社会関係資本が重要になってくる。単純に「成功するためには何が必要か?」と言えば、やはり両方が必要。これは非常に単純な掛け算ではあるけど、いろいろと応用できるのかなと思います。

就職も恋愛も「自分のネットワーク」を広げていくことが大事

植山:ありがとうございます。そうですよね。やはりその時の年齢やライフステージによって、どういったスキルを選んでいくのかは変わりますね。大学に行く前の高校生では「今は人的資本に集中しよう」とか。

小野:例えば成果が結婚だとするじゃないですか。婚活を支援するサイトもあります。ああいうところでも学歴が効いてくるじゃないですか。だから結婚する時も、ある程度それは必要なんだと思うんですよね。

「やはり私は相手にはこういった条件が必要だ」という時には人的資本も入ってくるし、だけどその相手を見つける時には、社会関係資本が重要だという。

植山:なるほど、ありがとうございます。自分がどんな人と生涯を共にしたいか、自分のこれからの人生プランというか、そこにも、やはり人的資本と社会関係資本の両方を考えていくんですね。

小野:そうですね。先ほど言ったスティーブ・ジョブズの偶発性じゃないけど、セレンディピティ、偶発性を生み出すためには、弱い絆でいろいろな人とぶつかり合うことです。

植山:なるほど、そうですね。

小野:それが恋愛であろうが、就職であろうが、自分のネットワークを広めていって、機会を生み出すメカニズムです。

植山:なるほど。自分のスキルを陳腐化しないことにも有効ですよね。弱い絆を使いながら、常にアップデートをしていく。知識が豊富な人たちに囲まれて、アップデートしていくことが大事なんですかね。ありがとうございます。4番はとても深いお話が聞けました。

50代が「新しいスキル」を学ぶよりも大事なこと

植山:じゃあ、次に多かった2番です。Project MINTはミドル世代の方を応援している教育プログラムでもありましす。例えば50代会社員の方で「企業内特殊能力が多い方が、これからどんなスキル・経験を活かしたら良いですか?」という。

どちらかというと個人の方が、これから自分の人的資本、社会関係資本をどうやって磨いたらいいのか。何かアドバイスはございますでしょうか?

小野:先ほどの話と被りますけど、コンセプチュアルスキル(考える力や形のないものを扱う力)が非常に重要になってくると思います。正直50代になって、テクニカルスキルは……。

僕は生物学者じゃないからわからないけど、僕自身が50代で、学びの要領が悪くなってきたなと感じていて。学者としてそういうことを言うのもはばかられるんですけど、昔のほうが吸収がいいわけですよ。

だから、今さら新しいコンピュータ言語を学ぶのは、ちょっとハードルが高いのかなと個人的には思っています。それよりもコンセプチュアルスキルが必要かなと。

自分のキャリアを振り返ってみると、50代の人はそれなりに蓄積があるはずです。それをなんらかのかたちで活かすほうが、絶対に有効だと思いますね。これから新しいスキルを吸収するんじゃなくて、今までの経験を活かしていくという考え方ですかね。

あとメンバーシップ型。メンバーシップ型はまさに企業の中に閉じこもっているイメージが強くて、人的資本も社会関係資本も極めて企業特殊的です。そこからジョブ型に移るには、やはり独立性が必要です。そのためにも外のネットワークを開拓しなきゃいけないので、これまた人的資本と社会関係資本の両方が必要になってきます。

「弱い絆」をつくるコミュニティの価値

植山:なるほど、ありがとうございます。では次に多かった1番目の質問に移ります。特にミドル世代の方たちは、企業内特殊能力で、その企業に閉じこもって、その企業だけに通用するスキルにわりと重きを置きがちです。

だからこそ社外の社会関係資本を築いていくのが大事という。そこでコミュニティなんですが、今、いろいろなコミュニティがあると思います。私が運営するProject MINTもコミュニティですが、コミュニティが果たす役割には、どんなものがあるんでしょうか?

小野:社会学者が書いた非常におもしろい本があって、「シカゴのヒートウェーブ」という話があります。「ヒートウェーブ」って日本語で何と言うんでしたっけね?

植山:熱波?

小野:熱波か。シカゴはめちゃくちゃ寒いところなんだけど、実は夏は非常に暑くなるんです。かつてシカゴでヒートウェーブというのがありました。独りで住んでいる高齢者がバタバタ死んじゃったんですね。

独りで生活している高齢者は絆を失っちゃった人たちなんです。昔のコミュニティは強い絆だった。必ず家族が面倒を見てくれる、近所の人が見に来てくれる、いろいろなかたちで(孤立を)避けることができていた。

もう1つ関係している話で『ボーリング・アローン(孤独なボウリング)』という本があって。これもまたアメリカの話なんですけど、アメリカも昔はコミュニティ感覚が非常に強かった。ボーリング場に集まりチーム対チームの対抗戦があって、コミュニティのみんなでボーリングを楽しむ雰囲気があったんです。

近代化によってそういう憩いの場がどんどん失われていった。「ボーリング・アローン」とは、まさに独りでボーリングをやっている。(昔の)コミュニティ感覚がどんどん失われていった、ちょっと悲しい設定で書かれているんです。

徐々に社会関係資本を失い、孤独死する高齢者

小野:先ほどの「ヒートウェーブ」では、高齢者が徐々に社会関係資本を失っていく。劣化していっちゃうんですね。気がつけば独りで生活していて、助けてくれる人もいない。だから「ヒートウェーブ」によって、暑くて外に出ることもできない。そういう環境の中で、高齢者の方が独りで死んでいったという。

非常に印象に残っている研究です。でも今ね、まさに日本で同じことが起きているわけです。超高齢化社会で、独りで生活している高齢者がたくさんいる。そういった人たちが孤立死するリスクは極めて高いですよね。

老人ホームに入りたいけど入れない人たちがたくさんいます。家族との絆も失ってしまって、いつの間にか未亡人になっている人も多いので、コミュニティが果たす役割は大きいなと感じますね。

植山:ありがとうございます。いやぁ、そうですよね。昔は大家族世代が多かったですけど、今は一人暮らしがどんどん増えてきていますし。

小野:(昔は)近所付き合いもあったじゃないですか。日本やアメリカに限らず、近代化とともに、それがどんどん失われている。孤立死という非常に暗い話になりましたが、社会関係資本にまつわるいいお話かなと思いますね。

植山:なるほど。ありがとうございます。どういう感じでコミュニティに入ればいいのか。企業勤めの人だったら、どうやって企業外のコミュニティに入るのか、どんな一歩を踏み出すことができると思いますか?

小野:これはむしろ、智恵さんのほうがプロでしょうけど(笑)。私も新聞のチラシで見ていると、区のなんとか大会とかね、区でもいろいろとコミュニティ活動をやっているようなので、これはもう個人次第ですね。いくらコミュニティとして促進しても、個人の意思ですからね。

植山:そうですね。いろいろなボランティアに参加してみることでも良いんですかね。

生きるためにただ働く…パーパスのない労働者たち

植山:では続々と質問をしていきたいと思うんですが、「パーパス」について、ぜひうかがいたいなと思います。

5番と6番の質問にもあるんですが、私たち(Project MINT)は、特に個人のパーパスを大切にしているコミュニティなんですね。パーパスを持つことが有効かどうか。あと小野さん個人のパーパスも、ぜひここで(笑)、お聞かせいただきたいと思うんですが……。

小野:一番人気がなかった質問ですけど(笑)。

植山:いやいや(笑)。

小野:じゃあ、一石二鳥で5番と6番をお答えしましょう。私がこの話をする時によく出すものに「3人の石切り職人」の話があります。

ある道を歩いていると3人の石切り職人が仕事をしていました。コツコツと何かを作っている。1人目の職人に「あなたは何をやっているんですか?」と聞いたら、「私は日銭を稼いでいるだけだ。これは仕事だから、しょうがないんだ」と言うんですね。

2人目の石切り職人に「あなたは何をやっているんですか?」と聞いたら、「私はこの町で一番の石切り職人になりたいんだ。それを目指しているんだ」と言います。3人目は「私は大聖堂を作っているんです」と目をキラキラさせて答えたという話があるんですけど。

3人はまったく同じ仕事をしているんだけど、パーパスが違うんですね。Project MINTの「I」は「Ikigai(生きがい)」ですよね。やはりパーパスによって生きがいも変わってくるという話です。

1人目の職人は「しょうがないからやっているんだ。生きるためにやっているんだ」と言って、それ以外のパーパスがない。僕は働き方の歴史も勉強しているんですけど、歴史で振り返ってみると、(カール・)マルクスが想定していた労働者が、まさにそれなんです。パーパスがまったくないという。

「とにかく労働はうっとうしいんだ。つらいんだ。しょうがないからやるんだ」というのが、マルクス主義の働き方の前提条件なんですね。それが出発点になっているんです。だから必要最低限しかやらないわけです。仕事を通して生きがいを感じるなんてことはあり得なかった。

2番目の人は「一人前になりたい」というのはいいんだけど、どちらかと言えば、自分のことしか考えてない。3人目はもっと大きなビジョンを持っている。そういう話です。

6番目の(質問の)答えとしては、「一人前の学者になりたいな」というのが僕のパーパスです。だから僕は2人目(の職人)で止まっているのかなと。そこはちょっと反省しているんですけど。

でも(そもそも)僕がアメリカの大学から日本に移ってきたのは、「日本の大学をもっと強くしたい」「日本でも研究者を育成したい」「学生を指導したい」という志もあったので、(本当は)2番目と3番目の石切り職人の間にいると思っています。

日本は異質性を排除し、同質性を重んじる

植山:いや、この石切り職人の例も本当にとてもすばらしいなと。

小野:智恵さんに「この話をしてもらえますか?」と言われた時も、Project MINTのパーパスがすごくはっきりしているから引き受けたのもあります。目先のことじゃなくて、非常にしっかりしたパーパスを持っているなと思ったので、喜んでお引き受けいたしました。

植山:そんなふうに言っていただいて、うれしいです。小野さんは1990年代に社会学と経済学で世界的に一番名門のシカゴ大学の教育機関で学ばれて。

ベッカー先生やコールマン先生という、ノーベル賞を受賞するような本当にすごい人たち(笑)、すばらしい学習環境の中でのびのびと学ばれ、日本に帰ってこられて……。

これはちょっと私が聞きたいんですが、今日のお話のように「もっと弱い絆で、日本の大学はオープンになってもらいたい」とか「これからの日本の社会がどうなってほしい」とか、そういう思いはありますか?

小野:そうですね。今日も個人的な見解を述べさせていただきましたけど、同質性とかね。同質性からくる強みもあるんですけど、それよりも異質性から得られるベネフィットのほうが大きいと思っています。

世代間によって少しずつ変わってきているとは思うんですけど、やはり日本は異質性を排除し、同質性を重んじるところが大きいと思うんですよね。

先ほどの東大の例も、実は1990年から僕はこれを追っかけていて、1990年代も東大の教員自給率は8割を超えていたんです。それに比べたら今は少しは減っているのかなと思ったんだけど、2022年の最新のデータでは87パーセントという。これは非常に狭いエリート主義。悪いけどノーベル賞の数も日本は少ないわけですよね。特に東大はそんなに多くない。

イノベーションでもうまく働いていないし、それよりもエリート主義が先行しちゃっているので、これはちょっともったいないなと思いますね。だから、もう少し開放的になる努力が必要なのかなという気がします。

植山:そうですよね。多様性や異質性を受け入れてイノベーションを作っていくことを、もっと大切にしてほしいなという思いがあると……。

小野:そこらへんのベネフィットを、もう少し考えたほうがいいかなと思います。

植山:小野さん、ありがとうございました。

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