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Project MINT Luminary Talk! 「成功の鍵は“人的資本”と“社会関係資本” いま大人が知るべきこと」 |『人的資本の論理 人間行動の経済学的アプローチ』著者・小野浩さんに聴く!特別講義と対談イベント!(全4記事)

2030年に最も必要とされるスキルとは? “陳腐化しない力”を育てる、AI時代のキャリア戦略

「成功の鍵は“人的資本”と“社会関係資本” いま大人が知るべきこと」と題して開催された本イベント。一橋ビジネススクール教授であり、「人的資本の論理 人間行動の経済学的アプローチ」の著者である小野浩氏が、人的資本と社会関係資本について語ります。本記事では、キャリア構築における社会関係資本の役割についてお伝えします。

異質性を排除する「エリート主義」の弊害

小野浩氏(以下、小野):次に「日本の大学の教員自給率」というおもしろいテーマを紹介します。これを出したのが東大新聞だからさらにおもしろいんですけど。教員自給率とは「今の大学教員で同じ大学を卒業した人は何パーセントいるか」という数字なんですね。

一番目立つのが東京大学法学部の87.2パーセント。東大の法学部の教員の約9割が東大卒です。でもこれはネットワーク理論から考えたら致命的です。高ければ高いほどイノベーションに向いていないことがそのまま成り立つわけですね。

ただ悪いことを言うわけじゃないんですけど、東京大学はエリート主義だから、「日本のエリートは東大である。だから東大の教員になるためには東大を出てなければいけない」というのが、まだまかり通っているところがあります。

記事では「米国で医療を学んだ学卒者の入試制度を提案した」と書かれていて。

これは医学部教員の話なんですが、海外から戻ってきた教員が「米国から受け入れてもいいんじゃないか」と言ったら、ほかの教員が「東大から医師になるなら、東大の入試に合格した人でないと受け入れられない」と言って断られたと書いてあって。これはもう本当に悲観的ですよ。そこまでエリート主義なんだなという。

先ほどの日本軍から、ぜんぜん進化していないわけです。異質性を排除するメカニズムの非常に狭いエリート主義がまだ働いている。

「一流大学卒」というだけで、価値のある社会関係資本を獲得

小野:最初に紹介しましたように、私は日本の大学の工学部出身でした。でもシカゴの社会学部は受け入れてくれたんですね。日本の大学院では、僕みたいな人は受け入れてくれないです。

日本の大学院には入試があるから、社会学だったら社会学の入試がある。だから基本的に社会学以外の人を受け入れることはできない。僕は日本では大学院に行けなかったんです。

アメリカの大学はけっこう多いんですけど、シカゴ大学では大学院を出た人はシカゴ大学には就職できないようになっています。出戻りはいいんだけど、博士号を取ったら、まず1回は外へ出なさいと。

後になって呼び戻しもあるんだけど、とにかくまずは外に行く。強制的に「異質性に触れてこい」という組織だから、東大のようなエリート主義とはまったく逆です。

これ(資料)はコールマン先生が1988年に出した「Social Capital in the Creation of Human Capital」という論文です。人的資本と社会関係資本とは相互補完性があるということです。

例えば一流大学・一流企業に就職した人は、それなりの人的資本を持っているんだけど、そこからまたさらに一流の社会関係資本を身につけることができるということです。

かっこで「制度的な社会関係資本」と書いてあって、これは例えば一流大学を卒業して一流企業に就職したとしたら、そこからまた新たにネットワークの価値が高まっていくということです。

「私は東大卒である」というだけでも、非常に価値のある社会関係資本を獲得できるわけですね。所属しているだけで獲得する社会関係資本です。

転職はランダムではなく「パイプ」に沿って移動している

小野:前に研究で、証券アナリストのキャリア移動について見たことがあったんですけど。「証券アナリストがどうやって移動しているか」というネットワークマップです。(資料の)赤い丸が日本の証券会社で、青い小さい丸が外資系です。

一番でかいハブが野村證券で、そこからどこへ移動するかを見ていきます。一番太い矢印(一番移動者が多い)がゴールドマン・サックスです。次が大和証券、そこから出ている矢印で一番でかいのが、ドイツ銀行ですね。これをよく見ると、日本の企業から外には出ている矢印ばかりで、日本の企業に入ってくる矢印はないんですね。

これは1990年代~2000年の研究ですけど、当時野村證券でトレーニングを受けた人が、人的資本を持って外資系に出ていったわけです。まさにこの矢印は、ものすごいブレインドレイン(頭脳流出)を表しているんです。

優秀な人的資本を持った人が移動したという。例えばなぜ野村證券からゴールドマン・サックスへこんなに太い矢印が出ているかというと、そこには1つのパイプができているからです。

先輩が移動したから移動する、チームで移動している、ゴールドマン・サックスに移った先輩や上司が引っ張ってくれるなど。要するにこういう人たちは、それなりに人的資本を持っているし、社会関係資本もしっかり持っているわけです。

それが次の就職にも役立つことが、ネットワークマップからも明らかに見えてくるんですね。転職はランダムじゃない。けっこう戦略的に移動していて、その背景には社会関係資本と人的資本がある。

社会関係資本はマイナスに働くこともある

小野:まとめになりますが、成果や成功には「人的資本×社会関係資本」。なぜこれが掛け算なのか。僕が知っている範囲では人的資本にはマイナスはないんですが、社会関係資本にはマイナスもあり得るからです。

例えばいろいろなネットワークを持っていて、その中の1人がやばい人だったとする。犯罪で逮捕されたり、ちょっと反社会的な組織であったりしたら、そこからコンテイジョン(接触感染)で、自分にうつってくるかもしれないですよね。

そういうことがあると、社会関係資本がマイナスになってしまうこともあります。これは社会関係資本の特徴で、プラスもあるけどマイナスもある。つまり、このセッションのタイトルのように、成功するためには「人的資本と社会関係資本の両方が必要です」ということです。

私は大学で先生をやっていますけど、大学の先生は人的資本がまず勝負です。それは間違いなくそうなんだけど、本当に優秀な学者や成功している学者、注目されている学者は、ものすごい社会関係資本を持っているんですね。

われわれの世界では共同研究や、いろいろなかたちでネットワークしてコラボレーションをする機会もあるんですけど、そういった時に声がかかるのは、社会関係資本をきちんと持っている人です。

だから学会はそういう弱い絆を築く場所でもあります。自分と同じような関心を持った違う国の人たちに触れる機会ですから、われわれはそこで社会関係資本を築いていく。

ただ先ほど言いましたように、社会関係資本は陳腐化します。せっかく名刺交換をした人でも、しばらく連絡をしていないと、どんどん失っていっちゃうわけです。だから疲れるかもしれないけど、とにかく定期的にメンテナンスが必要だということを強調したいです。

時間をオーバーしましたけど、ご清聴ありがとうございました。

6つのトークテーマをもとに対談

植山智恵氏(以下、植山):小野先生、ありがとうございます。人的資本と社会関係資本の基本的なご説明から、弱い絆をなかなか活かし切れていない日本の課題だったり。

イノベーションに必要なのが弱い絆、社会関係資本を中心としたもので、成果には「人的資本×社会関係資本」で両方が大切だと。本当にわかりやすく解説いただきまして、ありがとうございます。

では基本的な人的資本と社会関係資本の講義を聞いたところで、今度は参加者のみなさんに投票をいただきたいです。こちらの6つのトークテーマをもとに、より詳しく小野先生にお聞きしたいと思っています。これ以外のものは最後に参加者の方から、ぜひご自由にご質問いただけたらと思います。

まず1つ目は「社会関係資本でコミュニティが果たす役割は?」。2つ目は、今、日本型雇用(メンバーシップ型雇用)からジョブ型雇用へ移行してきています。企業特殊的能力を育んでいた時代から、だんだんと一般的能力を磨く時代になっている中、「自分のどんなスキル・経験を活かしたら良いですか?」ということ。

そして3つ目は「企業内特殊能力を持っている人が、一般能力を獲得するにはどうしたらいいですか?」。4つ目「今、投資したら良い、陳腐化しないスキルや学問は?」。5つ目「個人のパーパスを持つことは、人的資本の観点で効果的ですか?」。6つ目「小野先生ご自身のパーパス、将来の展望は?」という6つです。

この中から「これを私は聞きたい」というテーマを1人1票でお選びください。投票者が8割になったら締め切りたいと思います。投票が多かったテーマからご質問し、小野先生に回答いただけたらなと思っております。あと数名、ぜひ投票をお願いいたします。ご投票早くもいただいた方、ありがとうございます。

では80パーセントに到達しましたので、ここで投票を締め切りたいと思います。結果を共有します。一番多かったのが4番目かな。「今、投資したら良い、陳腐化しないスキルは?」と、2番と1番が同じ数だったかなと思います。じゃあ、一番多かった「投資したら良い、陳腐化しないスキル・学問は?」ということからお聞きしたいと思います。

小野先生、いかがでしょう?

小野:僕のパーパスは知りたくないという人が一番多い(笑)。

植山:(笑)。これは絶対に最後にうかがいますね。

小野:傷つきましたので。

植山:そうですね(笑)。それは確かにね(笑)。

50代になってスキルが陳腐化…活用すべき能力

小野:陳腐化しないスキルですね。これは難しいですけど、スキルにもいくつかの種類があって。

「カッツ理論(マネジメントの各層ごとに求められるスキルが変わる)」という考え方があります。若いうちは「テクニカルスキル」が必要なんですね。これは業務を行う時に必要なハードスキルみたいなものです。

テクニカルスキルとは別にいつでも必要なのが「ヒューマンスキル」です。これはコミュニケーション能力や思考能力などです。「コンセプチュアルスキル」とは、少しずつ経験によって身についていくものになります。

若いうち、まさに大学を卒業した時点では、みんなはテクニカルスキルしか持っていないわけですよ。テクニカルスキルはどんどん陳腐化していくものなんですね。だけど、それに負けない感じで、仕事を経験することによってコンセプチュアルスキルが身についていく。それがいわゆるコアスキルとなります。

よく「50代になって、もう自分のスキルが陳腐化しているのはわかるけど、私はどうすればいいんですか?」という相談も受けることがあるんですけど。

50代の人は、僕のスペイン語じゃないけど、テクニカルスキルはけっこう失っているかもしれないけど、全体を見渡す能力があるはずなんですね。もっとビッグピクチャーを見ることができる能力を活かすべきじゃないかなと思います。

DXやAIのスキルは1年後に陳腐化する可能性も

小野:時々僕が話すのは、遠心分離機でぐるぐる回して吹っ飛んじゃうスキルは、やはり陳腐化が激しいスキルです。今の例だと、DX、AI、マシンラーニング、ロボットとか、いろいろなデジタルスキルが要求されています。

だけど、これは変化がものすごく激しいから、せっかく勉強しても、1年後には陳腐化している可能性があるわけです。「もう違うスキルに移っているよ」という。そういうのには振り回されないほうがいいのかなと思います。

私も時々リベラルアーツエデュケーション(多角的な思考力を育む学問)について話すんですけど、先ほど言ったコンセプチュアルスキルを、コアスキルとしてもう少し磨いたほうがいいかなという気がします。

植山:なるほど。コンセプチュアルスキルですね。これは別の観点の研究だとは思うんですけど、「2030年に最も必要になるであろうと予測されるフューチャースキル」と言われているもので、戦略的学習力だったり、心理学、指導力、社会的洞察力、まさにコンセプチュアルスキルというんですかね。リベラルアーツ的なものも、そういったスキルなのかなと思うんですけれども。

やはり時代がAIにどんどん移り変わってきていますが、一時的なものに振り回されないのも大事なことですかね。

小野:そうですね。

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