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スタンフォード式「ワーク・ウェルビーイング」の組織的実践(全3記事)

生活習慣の乱れと離職率の関係 医学博士が教える、ウェルビーイングを保つ働き方

組織開発をテーマにしたオンラインイベント「組織開発×スキル成長 DO-OD -OD(組織開発)をDOせよ-」より、医師・医学博士の志村哲祥氏によるセッションをお届けします。ワーク・ウェルビーイングをテーマに、質の良い睡眠を取るコツや、生活習慣の乱れがもたらす影響などを紹介します。

20代以下は睡眠不足で自殺リスクが2.9倍も向上

志村哲祥氏(以下、志村):まず当然、寝ないと死にます。特に若い人ほど死にます。先ほど、神経の修復についての話をしましたけれども、基本的に、さっきの神経を修復する物質は睡眠中に出てきますので、眠りを奪うとどんどん神経が減っていきます。なので、何も理由がなくても、睡眠不足が続くと人間は勝手に鬱になります。

そして、ここに書いてあるみたいに、20代以下だと、8時間寝ていないと2.9倍自殺率が高まりますし、54歳以下だと、6時間未満の場合には5.1倍も高くなる感じです。すごく高いですね。

谷本潤哉氏(以下、谷本):それぐらいになるんですね。

志村:なので、ワーク・ウェルビーイングの問題以前に、社員を死なせないために「ちゃんと寝ろ」と言う必要があります。

でもね、考えたら当たり前なんですよ。よく寝ていれば、朝起きて「あぁ、よく寝たな。さぁ、死のう」って思わないんですよ。

谷本:(笑)。そうですよね。

志村:「じゃあ、どうすればうまく寝られる?」というのが私の主な研究分野でして。だいたい日本人の場合は、ここに書いていることをどうにかできると、よく眠れます。

まず、この最初の2つは寝不足に関係します。「職場が遠い」「始業が早い」。通勤時間が延びれば延びるほど、単純に起きるべき時間が早まって寝不足になります。

同様に、始業が早すぎる。10時始業とかならいいんですけれども、9時とか8時半とか8時になっていくに従って、早起きを強制されて睡眠が減っていきます。

マグカップ2杯以上のコーヒーに注意

志村:ここからは質に関係していきます。みんな、コーヒーとかお茶をガバガバ飲むんですよ。ちょっと考えてほしいんですけども、小さなコーヒーカップ1杯分のコーヒーにカフェインがどれぐらい入っているか。「眠眠打破」って商品ありますよね? あれの1本分が入っているんですよ。

谷本:そんなに入っているんですか?

志村:かつ、カフェインって半減期があって、5時間ぐらいして半分になります。ということは、例えば19時ぐらいにコーヒーカップ2杯分ぐらいある、マグカップ1杯分のコーヒーを飲むと、あたかも寝る前に眠眠打破を1本、クイッと飲む感じになりますので、よく寝られないし、眠りも浅くなる。

谷本:なるほど(笑)。

志村:あと、おじいちゃん、おばあちゃんにも多いんですよね。老化していくとカフェインの代謝が落ちていくんですけど、寝られないんだって病院に来る人ほど、寝る前にお茶を飲んでいるんですよ。

谷本:お茶もか。

志村:緑茶もまあまあ入っていまして、500ccペットボトル1本分のお茶イコール眠眠打破1本分なので、寝る前にクイッと1本飲んで「寝られません」って病院に来るんですね。寝たいのか否か、どっちなんだという感じなんですけども。

谷本:なるほど。私もけっこうカフェインを取るので、量とタイミング、両方とも大事なんですかね。

志村:まず量で言いますと、コーヒーの場合は400ミリグラム、要はマグカップ2杯以上のカフェインは取りすぎです。

谷本:タイミングと関係なく。

志村:はい。コーヒーは昼過ぎ、おやつ時以降は基本的に取らないほうがいいでしょうね。コーヒーが好きな人は朝だけにしていただけると睡眠が改善します。あと、日本の夜ってやけに明るいんですよね。

谷本:(笑)。繁華街とか特に。

志村:あと、家も明るいんです。

谷本:そういうことか。

蛍光灯の明るさは、脳が昼間だと認識してしまう

志村:目にメラトニン(睡眠や覚醒のリズムを調節するホルモン)というものがあります。人間は光を使って、明るいと昼、暗いと夜が来たって認識するんですけれど、実は蛍光灯の明るさって、目がまだ昼だって認識しちゃうんですよ。というわけで、体は蛍光灯を消すまで昼だと思っていますので、なかなか寝られません。

谷本:なるほど。

志村:あと、奈良県立医科大学の研究がありまして、昔ながらの常夜灯。カションカションカションってやる、豆電球ってありますよね。あの明るさだけでも、眠りの質が低下しますので、寝ている最中は真っ暗がいいとか。

谷本:カーテンも暗幕ぐらいがいいっていうことなんですかね。

志村:はい、外の光は入ってこないほうがいいです。一方で、朝は明るくないと体が朝だと認識しないので、遮光カーテンにしてもいいんですけれども朝は開けましょうという、なかなか難しいトレードオフがあります。

谷本:これ、起きた瞬間に開ければいいんですか?

志村:できれば、夜明けとともに開けてほしいですね。

谷本:夜明けとともに自動で開くような(笑)。

志村:6時ぐらいには(笑)。

谷本:なるほど。

志村:あと、日本人は塩分を取りすぎ。基本的に昼間に取った塩分は、睡眠中に膀胱に出てきます。なので昼間にラーメンとか、夜にお酒を飲んだりしていますと、喉が渇いて夜中に起き、おしっこが出る。単純に夜間尿量は昼間の塩分摂取で増えますので、「おしっこでけっこう起きるな」という人は、塩分を減らしていただけるとけっこう効きます。

無呼吸症候群を放置すると起こる、重大なリスク

志村:あと、無呼吸症候群も大きな問題なので放置しないでほしいんです。いびきをかいていて、お嫁さんとかに、「あんた、息が止まっている」とか言われることがあるかもしれません。昼間のパフォーマンスが著しく低下して、ウェルビーイングが相当変わりますし、それ以前に本当に死にます。

どうして死ぬかというと、だいたい心筋梗塞、脳梗塞を起こすんです。平均年齢が50歳ぐらいの人を追跡した研究で、この青の線が、CPAPという無呼吸の治療機器をつけるべき基準に達しているのにつけなかった人と、つけた人の生存率です。

これ、0.8というのは、20パーセントが死んだということです。ここの0は、もう100パーセント、全員が死んでいます。無呼吸を放置しておくと、10年間ぐらいで半分死ぬんですよ。

谷本:10年で? すごいですね。

志村:はい。でも、ちゃんと治療していると死ぬケースは1割弱で済むわけです。無呼吸は本当に死ぬので、お医者さんからの意見としては、疑わしければぜひ病院に行ってほしいです。

谷本:これ、めちゃくちゃ強烈な数字ですよ。睡眠時無呼吸症候群って、がんレベルの怖い病気ですよね。

志村:寝ている最中、1分に1回窒息していればそりゃあ死ぬよねって思うんです。

谷本:なるほど。パートナーがいらっしゃる方であれば気づけると思うんですけど、自分で気づく方法ってあるんですか?

志村:起きた時に口がすごく渇いているとか、寝ても寝ても眠いとか、しっかりと寝られないという方は危険信号です。あと、二十歳ぐらいの時の体重を思い出していただいて、そこから15キロ以上増えていると、だいたい無呼吸を起こします。というわけで、気をつけてほしいあたりでした。

谷本:なるほどですね。

1日4時間以上、立ってたり歩いたりしているか

志村:さっき3つ言いたいことがあると言ったことの、1つ目がご飯、2つ目が眠り、もう1つが運動なんですけれども、実はそんなに重要度は高くないです。大事なんですけれど、ご飯と眠りのほうが影響が大きいです。なぜならば、人間、動かなくても別に死なないんですよ。

谷本:そうなんですか(笑)?

志村:そうですよね。寝たきりでも別に死なないので。ただ食わなきゃ死ぬし、寝ないと死にます。一方で、運動量は適度なものがいいです。最大心拍の70パーセントぐらいと言われていますけれども、目安で言うと、こうやって座っているだけとか寝ていない、ちゃんと立っている時間や動いている時間が毎日4時間程度あると最適です。

谷本:ちょっともう、今、立ちますわ(笑)。今日はカンファレンスで座りっぱなしです。

志村:運動時間が大幅に超えても体が疲れますし、これぐらいがいいです。

谷本:最大心拍70パーセントの運動って、早歩きとかですか? もうちょっと強い程度ですかね?

志村:早歩きも、時間をかければ達成されます。脈拍が「トットットットッ」というぐらいが目安だと思います。

谷本:なるほど。なかなか(笑)。計測するデバイスに頼るのがよさそうですね。

運動で抑うつの原因物質が分解されることも

志村:運動するといいこととして、悲しさや不安といった本能を抑えている前頭前野の血流が増加します。さらに、神経を回復する物質が出てきますので、なんと老人でも運動させると、脳の体積が増えます。

ほか、抑うつの原因物質が分解されることもありますので、やはり運動もウェルビーイングにはとてもいいです。ただ、やりすぎに注意です。アスリートの場合、やりすぎると突然死を起こします。オーバートレーニングシンドロームというやつですね。

運動からちょっと離れるんですけれども、仕事もやりすぎに注意です。たくさんがんばるのはいいんですけれども、やりすぎると過労死を起こします。過労死を起こす基準は、実は単純な仕事時間の長さじゃなくて、やりすぎた結果、睡眠が奪われると死ぬんです。

谷本:なるほど。

志村:「自分、仕事を楽しんでいますので」という感じでストレスがかかっていなくても、案外危ないんです。なぜなら、人間、寝ずにゲームをしていても死ぬんですよ。

谷本:そうですよね(笑)

志村:でもね、外見的には変わらないんですよ。何かに熱中して、パソコンをダーッてやって寝ずにがんばって。「彼は仕事をがんばっているハイパフォーマーです」という場合であっても、やはり「寝る時間は取れ」「ご飯は食え」と言う必要があります。

そんなわけで、持ち時間が迫っていますので巻きますと、ご飯や眠りや運動を大事にしていただけると、我々も脳をちゃんと使ってアスリートになれます。会社は社員というアスリートを応援するためにできることがあると思います。社食とか、1on1かもしれないですね。

生活習慣の乱れと離職率の関係を調査

志村:一方で僕の研究で言いますと、ちゃんと食べているかとか、寝ているかどうかが離職に関係するのか調査した研究を、2024年に産業衛生学会で発表しました。

見てみますと、比較的生活習慣が整っている人は、あまり会社を辞めないんですね。ただ、生活習慣がすごく悪い人は、半分がだいたい2年経たずに辞めているんですよ。

こういうセルフケアって意外と大事です。ワーク・ウェルビーイングを促す組織作りをする時には、会社へのエンゲージメントを高めるためにも、ぜひ脳に優しい健康作りをやっていただけるといいですね。

ここからは「じゃあ、そうじゃない場合はどうするのか」という時です。ワーク・ウェルビーイングは、仕事を通じて人生がウェルビーイングな状態。

ただの「ウェルビーイング」という言葉があります。これは、自分の人生や生活がいい状態です。この場合においては、自分の脳とか体をどう使おうが自由なんですよ。別に使わなくてもいい。

ただ、ワークが付くウェルビーイングの場合は、仕事を通じた状態なのでそうもいかなくて、自分の脳や体を使って社会や会社に価値を提供していくことが必要です。

その時にうまくいかない場合は、我々は精神医学的なアプローチから「それって外因性? 内因性?」と考えます。原因が本人なのか仕事なのかということですね。

この鑑別が重要で、本人だけの要因だったら、さっき言ったみたいに、ちゃんと食べてちゃんと寝ていればだいたい解決します。仕事の人間関係、トラブルなどは、会社で対応策が必要です。

ただ、ミスマッチなど仕事と本人の間に存在する問題は根が深くて、モチベーションをどう作るかに関わってきます。人は何にモチベートされるかといいますと、よく言われるのが、例えば「闘争心をバネに自分を追い込んでいますが駄目ですか?」。

谷本:(笑)。

志村:駄目です、やめたほうがいいです。人間はいつ襲われるかわからない、戦わなければいけない時には、体の中から興奮性物質がいっぱい出ます。ただ、この興奮性物質は神経を壊します。短期ならいいんですよ。今から5分間ぐらい集中しなきゃならない時に、わーっとやるのはいいんですけど、その状態が続くと鬱を起こすのでおすすめしません。

谷本:なるほど。

経済的に不安定だと脳の機能が低下する


志村:あと「経済的安定ってどうなんですか?」と。これは研究がいっぱいありまして、実際に、経済的に不安定な状態だと脳の機能は低下します。特にまずいのが、生活資金。家計に借金があると顕著に低下します。なので、食うものに困っても、決してサラ金には手を出すなという。

谷本:(笑)。

志村:最低限の生活資金だけは確保できる状態を作ったほうがいいでしょうね。「じゃあ、どうしたらいいねん?」という話になりますと、ここに関しては、おそらく谷本さんのほうが詳しいと思うんですけれども。

谷本:いえいえ(笑)。

志村:分類の仕方はいっぱいありますが、大別で2個あります。1つがミッション型です。内発的な「自分はこれを達成したいんだ。これを作りたいんだ」というものがある。

あるいは、他者からの評価。アイドルがみんなに「応援されて気持ちいい」と言ったりとか、野球選手がホームランを打って「やったー!」という感じの達成ですね。違いとして評価が自分の中か外かはあるんですけど、そういうミッション型。

もう1つが人間関係/環境型。何か達成したいものとか獲得したいものはないんだけど、「この人間関係って心地いいよね」とか、「この環境で仕事をするのが好き」という、だいたいこの2つに分かれます。

実はどちらも人間の本能に根差しているんです。人間はもともと狩猟採集民族なので、「あそこに行けばマンモスがいるっぽい。行くぞ!」というミッション型のタイプか、「みんなで手に入った穀物を砕いて食べ物を作ろう。子育てをしよう」という感じで群れの中で生活をしていく人間関係/環境型タイプがいます。

何がモチベーションになるのかを見極める

志村:難しいのが、実はお金ってあまり本能的なモチベーションにならないんです。まず、目に見えない。誰かが何かをした時に喜んでくれて、笑顔を向けてくれると、人間は強い快の報酬が発生します。目の前の人が喜んでくれると、人間はすごくうれしいんですよ。

ただ、(お金という)紙切れをもらってもうれしくないんですよ。さらに、それが口座に増えていく桁だったりすると、余計わからない。つまり本能に響かないんです。かつ、結果が即時じゃないんです。

谷本:確かに。

志村:すごくいいことを達成したとか、営業を取った瞬間に何かが振り込まれたら「やった!」と思えるんですけれども、そうじゃないので、やはり本能に響きにくいんです。

というわけで、給与は「えっ、これだけ?」という不満を誘発し得るんです。逆に、これをモチベーションにすることはけっこう難しくて、たくさんお金をもらえるからがんばろうというのは、よほど巨額な……考えるだけで唾液が出てくるじゃない。

谷本:(笑)。

志村:それこそ、がんばったら1億円もらえるとかだったらいいんですけれど、そうじゃない限りはあまり意味がないですね。

というわけで、目の前の人が仕事を通じて何を得ている場合にエンカレッジされているのか、ミスマッチじゃなくなるのかは、実は本人もわかっていない場合が多いんです。

「この人はいったい何をしていると気持ちいいと思うのかな? うれしいと思うのかな?」というのは、対話を通じて見つけていくしかないと思います。ちょっと蛇足で逸れましたけれども、精神医学的な分野は置いておいて、まとめに入ります。

脳も臓器です。体にいいことは脳にもいい。脳のパフォーマンスを最大化するための方法論を紹介してきました。スタッフはアスリートです。そして我々は、スタッフが最大のパフォーマンスを発揮するための土台作りをしていきましょうということが、今日の本題でした。

まずはここでいったん終わりです。ありがとうございます。

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