お知らせ
お知らせ
CLOSE

⑧山田裕嗣氏に聞く組織と代謝(全3記事)

最終面接の質問は「あなたはどう生きたいの?」 創業70年のメーカー3代目に学ぶ、組織の時間軸と採用のあり方

人事領域の専門家の株式会社壺中天 代表取締役の坪谷邦生氏と採用市場研究所 所長の秋山紘樹氏が、毎回ゲストを迎えてトークセッションを行う「採用入門」シリーズ。今回は、株式会社令三社 代表取締役の山田裕嗣氏と「組織の代謝」をテーマに語り合いました。ベンチャーと老舗企業とでは、時間軸の感覚が大きく異なり、それに伴って組織のデザインや作り方にどう影響していくのかを読み解いていきます。

「採用基準はいい人です」という生存戦略

山田裕嗣氏(以下、山田):この間、不動産系の会社で、いまだに現場の部長クラスでも「採用基準はいい人です」と言っていると聞きました。でも、それはある種の生存戦略としては正しいじゃないですか。自分たちが「いい人」だと思える同族が入ってくると、群れが強化されるので、1つの勝ち筋ではありますよね。

坪谷邦生氏(以下、坪谷):確かに、内外環境が変わらない、成長基調の世の中である前提なら、それだけで勝てるのかもしれません。

山田:逆もあるじゃないですか。以前、「自分たちらしく働ける環境をどう作るか」というテーマで起業したHoxbyという会社の創業者たちと知り合ったんです。創業者の1人の女性は乳がんか何かで休んでいて、男性はスタートアップでバーンアウトしていた中で、本当はもっといろいろな働き方があるよねと、10年前に2人で創業して。

一応本社はイギリスにあり、今はたぶん世界45ヶ国に(社員が)500人くらいいて、すべてフリーランスの集団なんです。自分たちがやっている働き方をお客さんが実現するのを一緒に手伝うというコンサルティングなどをしています。

そのフルリモートでダイバーシティな環境では、人によってはご家庭の状況で午前中働く人もいれば、深夜に働く人もいる。国も時間帯も違う中でみんなで働いています。

さっきの新卒一括採用もぜんぜん違う生存戦略ではあり、もうちょっとグラデーションも取り入れやすくはなってきましたよね。

坪谷:前よりはぜんぜん取り入れやすくなったと思います。ただ慣性はまだ働いていて、やはり意思決定が難しいところがあると思いますね。

私は、さっきの「人間だもの」という人間の原理原則に立ち返っている組織が、うまくいっている感じがするんですよね。そもそもみんな生活があるし、それぞれ得意分野をやっていたほうがうまくいく、という当たり前の話が自然にできている。

とはいえ、来年の新卒採用にはこの媒体を使ってとか、母集団形成のためにはどれくらいイベントを打ってとか、再来年のためにインターンを仕込んでとか、既存の業務のループを制約条件として考えすぎると、だんだんと「人間だもの」が失われていって、本質的な採用ができなくなる。どんどんデスマーチに参加してしまうのかもしれないですね。


組織には「人間だもの」という基本的な人間理解が必要

山田:確かに。僕のサンプルは、すごくバイアスがかかっている前提なんですけど、やっぱり自分たちらしい組織を作り続けられる人たちって「人間理解」がありますよね。結局、それが組織観や仕事観につながっているから。「だって休みたい時とかあるじゃん」というのをごまかして、社会的な正しさで上書きしちゃうと一貫性がない感じがします。

坪谷:そうですよね。大切なのは、暗黙知を共有することだと思うのです。リクルート社での採用の「すり合わせ」について、採用責任者の方からおうかがいして感動した話なのですが、そこでは10人の採用面接者が、何もしゃべらずに「採るか採らないか」を紙に書いてパッと出す。

みんなが「採らない」と書いている中で、自分だけが「採る」と書いていて気まずい思いをする中で、なぜ他の人が「採らない」と書いたのかに気づいて、だんだんその企業が大切にしている「暗黙知」を身に付けていくというやり方なのだそうです。リクルート社では言語化(形式知化)も大事にしているのですが、それよりも重きはこちらにあるようでした。

山田:わかります。採用もそうですけど、評価もそうですよね。人数が少ない時は評価基準を言語化して共有しようとするよりも、「あいつどう?」と言うほうが、結果的にうまくいく感じもありますよね。

坪谷:それを言語化していくプロセスには、形式知と暗黙知が回るから意味があるんですけど、形式知化された文章そのものには意味がないことにみんな気づかない。単に「こう書いてあるから採ります」とやり始めると、「人間だもの」という基本的な人間理解が失われていくと思うんですよね。

最終面接の質問は「あなたはどう生きたいの?」

山田:ちょっと違うかもしれないんですけど、リクルートの話で思い出したことがあります。僕は最近、創業70年くらいの中堅メーカーの経営者と仲良しなんですけど、彼女は40歳前くらいで、いろいろあって10年くらい3代目をやっているんですね。

彼女と採用の時の話をしていてすごく衝撃的だったのが、もちろんそこまででスクリーニングをしているとはいえ、最終面接で「あなたはどう生きたいの?」ということしか聞かないそうです。

なぜかと言うと、私はこのまま4代目に代わるまで、40年〜50年経営をしているかもしれないから、今何ができるかはどうでもいいと。今20歳とか18歳の彼がどう生きたいか、30年後に一緒に生きていたい人かどうかでしか採らないと言っていたんですね。

坪谷:ああ、めちゃくちゃおもしろいですね。

山田:ファミリービジネスを3代継いできて、4代目に継ぐ。この先も何十年もやると思っているくらい、時間軸が長い人が採用する時の基準が「どう生きたいか?」だけであると。その面接で即行採用が決まった18歳の子は、ひと言目に「いいパパになりたい」って言ったんですって。

彼女はすごく人が好きで、人を見ることも好きな方なので、もし表面的に「いいパパになりたいんです」と言ったとしても、わかってしまう。たぶん「本当にこう生きたい」ということとつながって語られたという印象を、彼女がちゃんと受け取ったことがすごく大事なんだと思います。その時に入社した方は、お子さんが生まれて本当にパパになって、元気に活躍してるという話ですけど。

価値観が合うという観点はあるにしても、この時間軸の長さって、スタートアップとかには絶対ないじゃないですか。

坪谷:確かに。「数年後に作りたいものが一緒」ぐらいですよね。

山田:50年という時間軸にリアリティがないから、「できること」とか「なりたい姿」とか、「こういう仕事ができるようになりたい」くらいのレイヤーで聞くと思うんですよ。

僕もたぶん、それなりに「あなたは何をしたいの?」と聞くことは好きだし、そこが合わないと一緒に仕事できないと思っているんですけど、肌感としての深さが違う。その組織の時間軸の前提が違うと、こうも違うのかというのがすごく印象的でしたね。

「組織の寿命」を何年先まで見ているか

坪谷:私があるベンチャー企業で人事制度を策定していた時、明らかに給与テーブルが上昇しすぎる設計だったんです。あまりにイケイケすぎると。今は儲かっているからそうしたいのはわかるんだけど、5年後に破綻するなと思いました。

そこで創業社長に「5年後の組織をどう考えてます?」と聞いたら、「5年後にうちがあるかどうかなんてわかんないじゃん!」と笑い飛ばされて、なるほどと。私は5年後に生存していることを考えない組織体があるんだというのが、ショックだったんですよね。

でも、生命体としての組織の寿命をどうセットしているかは、その組織をデザインしている人によって違いますよね。自分が3代目なので4代目、5代目までいくと思っている前提だと、たぶん組織寿命を100年とか200年スパンで考えざるを得ない。

山田:すごく稀に「1,000年後を目指してやっています」というベンチャーの社長もいますけど。それよりは「おじいちゃんが創業して、今は自分が経営していて、いずれ8歳の娘が継ぐと思っているんです」というのは、有無を言わせぬリアリティがあるじゃないですか。

坪谷:生命としてそうだという前提がすでにありますよね。無理やり50年先を考えなくても、娘が30年やるとしたら、あと60年はあるよなと思うじゃないですか。ありありとした視覚的な絵が浮かんでいるほうが、ビジョンも実現されやすいと言いますけど、当たり前のリアリティのある60年って違いますよね。

山田:そうそう。前にある会社の3代目の代表に話を聞いた時に、自分の子どもが小さい時から「おぅ、4代目!」って扱われているのを見ると、この子もいずれ俺と同じように30歳過ぎくらいでやるかと思うらしいんですよね(笑)。

坪谷:採用担当者としては、その企業がどのくらいのレンジで未来を見ているのかを捉える必要がありますね。5年後まで、50年後まで、500年後まで、その視界によって動き方の前提が変わるはずです。

そういう組織のDNAというか設計図って、どうやって作られ、引き継がれていくんですかね? 理念やビジョンやバリューなどの、形式知化されたものだけではない気がするんですよ。暗黙知化された文化風土にあるのでしょうか。

理念が浸透している会社の共通点

山田:それで言うと、この間、海外の経営者に英語でインタビューをするというイベントを英治出版さんと一緒に始めたんですね。1人目のゲストは住宅ローンのアドバイザーをやっているオランダのViisiという会社です。

その会社ができたのは10年くらい前なんですけど、給料のモデルがおもしろくて。入った瞬間に、経験年数でいくらになるかが全部決まっているんですよ。不動産のアドバイザーだと入った瞬間に6年分の経験があるならここ、1年後にはこうなるとか、全部その後のキャリアの線が描けるんです。

坪谷:へぇー!

山田:ホラクラシー(組織内の権限や役割に階層がなく、自律的なチームが意思決定を行う組織形態)という組織のかたちで70人くらいでやっているおもしろい会社なんですけど、インタビューの最後のほうで、その強い組織文化はどこからきてるのと聞いたら、創業当時から「自分が扱われたいようにほかの人を扱う」という「ゴールデンルール」があるんだと。

それだけを言葉にしちゃうとなんでもないじゃないですか。ソース(ビジョンを実現するためにリスクを負って最初の一歩を踏み出した個人)である創業者が、とにかく「私が扱われたいようにほかの人も扱う(treat other you want to be)」ということだけをずっと言っているんですという話です。

彼がその話の中で「breath the source」と言っていて、ソースに触れるとかじゃなくて、ソースというものを呼吸するような表現をしたのがすごく印象的でした。それが組織の設計図的なものとつながっている感じがしましたね。

設計図ではないけど、リクルートの「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という言葉にも意味はなくて、それを取り巻く一人ひとりの実感が継承されているということじゃないですか。

坪谷:そうですね。理念が浸透していると言われている会社を何社か見てきました。共通しているのは、入社した人たちが、その会社が謳っていることを「本当にやっているな」と思うところです。日常業務が理念を再現する場そのものになっているので、理念の浸透などはあまりやらないようです。

会社説明で「すごくいい企業ですね!」と思って入ったら、本当にそのとおりのことをみんなが日常業務でやっていたので感動したんです、と。まさに言っていることとやっていることの一致を感じたんだなと思いました。

組織の文化や風土は“体感”するもの

坪谷:あるCX(カスタマーエクスペリエンス)に特化した会社では「顧客へ感動を届ける」ことを理念として掲げているのですが、顧客が目にする文章の一つひとつに恐ろしいほどのこだわりが込められていることや、打ち合わせの中でも「それは感動を届けられているのか?」が真剣に議論されていることを入社1日目から感じとり、その感覚は入社して何年経っても変わらない、とのことでした。

またリクルート社で総務課長をされていたのりおさんは「みんな体感しちゃうから、(大沢武志さんが書いたリクルートの文化についてまとめた書籍)『心理学的経営』とかは読まないんですよ」と言われるんですよ。

リクルートの風土として序列や役職に関係ないんだと言葉で言うよりも、自分が入社するなりアルバイトの方に呼び捨てにされてアゴで使われて、「こういうこと!?」ってショックを受けてわかっていくんだよねって(笑)。

山田:今のリクルートの話と一緒だと思ったんですけど、前川製作所の前川正雄さんという社長さんが、今西錦司の『生物社会の論理』を読んで、「うちの経営はこれなんだ!」とみんなで(本を)読んだり説明したりしたそうです。そうしたら、現場はみんな理解はできないけど、言っていることは腑に落ちるんですって。

坪谷:組織の同質性を担保することは、生物としては自然というか、みんなやってるもんねという感じですよね。

「組織の作り方」の二通りの大前提

山田:想像ですけど、ロールを引き受ける人たちの集団と、同質性が高くて人として感覚が合う人同士とは、組織の作り方の大前提が違いますよね。どちらも成り立つと思うんですけど、自覚的であったほうが続けやすい。

坪谷:その前提の自覚が大事だというのはすごく同感です。そう考えた時に、組織の前提を崩してしまう人はやはり代謝すべきなんでしょうね。

山田:そこが結果論になるというか。本当は環境の変化に合わせて崩れたほうがいいような前提もありますよね。自分たちだけでは、どの前提を崩したらいいかがわからない。だから異質な前提を持っている人が入ってきて、崩した結果うまくいかなかったら、その人が去って修復されるし、うまくいったらその人が前提を変え、組織自体が新しい前提の側に動く。

その人が、今本当に必要な非連続な前提を壊せるかどうかは、合理的に判断がつかないですよね。「前提を変えなきゃ」と異質な人を採ることはできるけど、それが百発百中読めることはなくて。

坪谷:それはわからないですよねぇ。

山田:でも、変化が必要な前提がある時には、そういう人を採ってくるのは大事そうな気がします。

坪谷:そうですよね。イノベーションの話になっていくと思うんですけど、どこまで意図して入れるか・出すかには、考えられる限界がありますよね。……例えばリクルート社はビジネスモデルから代謝の設計をしたと思うんです。もともと広告営業の会社なので、若い人がバリバリ働いて、歳を取ったら出ていってくれたほうが儲かるわけです。

だから、一定の年齢から退職金をたくさん出したり、いくつ以上になったらみんな辞める前提の風土を作ったり、独立した人が活躍しているという雰囲気を作る。事業上の必然性から、代謝を早めたのは1つの成功パターンだと思うんですよね。そして最初から狙ってはいなかったのかもしれませんが「心理学的経営」に書かれているような「個をあるがままに生かす」人間観はベースとしてずっとあったように思います。

山田:基本的にビジネスにおいて組織は手段であって、家族や地域コミュニティじゃない限り、組織を作ること自体は主にはならない。だから、事業上の必然性に合った採用の仕方や成果の出し方がヒットすれば、ちゃんと生き残れるしうまくいくというのは、当たり前ですけど、けっこう大事な前提だと思うんですよね。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
スピーカーフォローや記事のブックマークなど、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

すでに会員の方はこちらからログイン

または

名刺アプリ「Eightをご利用中の方は
こちらを読み込むだけで、すぐに記事が読めます!

スマホで読み込んで
ログインまたは登録作業をスキップ

名刺アプリ「Eight」をご利用中の方は

デジタル名刺で
ログインまたは会員登録

ボタンをタップするだけで

すぐに記事が読めます!

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

この記事をブックマークすると、同じログの新着記事をマイページでお知らせします

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

人気の記事

    新着イベント

      ログミーBusinessに
      記事掲載しませんか?

      イベント・インタビュー・対談 etc.

      “編集しない編集”で、
      スピーカーの「意図をそのまま」お届け!