“無理ゲー”化する管理職の実態や、新しい時代に求められるリーダーシップのあり方について議論したイベント「女も男も、管理職はつらいよ 〜昭和100年を本気で終わらせたい人の会〜」。XTalent株式会社 代表取締役の上原達也氏、株式会社マクアケ創業者の坊垣佳奈氏、エール株式会社 取締役の篠田真貴子氏が登壇。本記事では、能力主義を掲げながらも女性の報酬が低い企業の事例や、査定や評価で部下から納得感を得るために必要な対話のコツを語りました。
経営層と現場のすれ違いが起こる要因
上原達也氏(以下、上原):ちょっとここにきて、また質問が増えてきそうな気配なんですが、次にいきます。
「マイナスの話で申し訳ないですが、坊垣さんがおっしゃった『現場ですべきこと』と『経営からやれと言われること』が違う点について、お2人はどのように折り合いをつけてきたのでしょうか?」。こちらはいかがですか?
坊垣佳奈氏(以下、坊垣):どうですか?
篠田真貴子氏(以下、篠田):(笑)。あのね、ちょっと……。
坊垣:折り合いをつけられているかがわからない(笑)。
篠田:一般解にならないんです。私の個性だからかもしれないですね。わりと「私が見えている姿が正しいのです」という、強気でやっかいな末端中間管理職っていう存在だったから。どちらかというと、「いや、経営のほうがわかってないですよね。私が教えてあげます」というスタンスで(笑)。
上原:強気でいこうと。
篠田:事業部長と会議でめっちゃ言い合いをしたり、強気な感じだったので、すみません。でも、ちょっと抽象化して言うと、自分を擁護するわけじゃないですけど、経営者の方から見ても、「ちゃんと自分がわかるように、現場の状況を教えてもらいたい」と思っているのは、間違いないと思うんですよね。
坊垣:それは間違いないですね。
篠田:そういう観点で、特に現場に近い管理職であれば、上をおもんばかって言うことを聞くより、「現場ではこう来ています」という話をちゃんと伝えるほうが、よっぽど重要な役割じゃないかなとは今も思っています。
坊垣:なるほど。そうですよね。サイバーエージェントは子会社経営に関しては、ある程度まかせます、というスタンスで遠くから見守っていただいた感じで。私は立場上、20代から子会社の役員をやってきているので、逆に経営を任せてもらっていた立場で、管理職のみなさんを困らせてないかを気にしながらやってきた感じがすごくあって。
そういう意味では、先ほど「聴く(姿勢)」という話が出たと思うんですけど。私自身が現場の声をよく聴く(ことを心がけていました)。管理職のみなさんがどう感じてそうか、ちゃんと現場の声も、本当に一次情報で自分が聴きながらすごく考えたり、想像してきたところはあったかなと思っているんですよね。
だからまさに今、「じゃあ(経営層が)聴いてくれないなら、現場の生の声を届けるしかない」という話だと思うんですけど。経営に現場感覚をしっかり持ってもらうことが、1つポイントなのかもしれないですよね。
上原:確かに。すごくいい、具体的なアドバイスだったと思います。ありがとうございます。
ジェンダー平等指数で見ると日本は後進国である
上原:お、この話題が来ましたね。
「私が最近関心を持った出来事は、アメリカの有名企業がDEI(Diversity=多様性、Equity=公平性、Inclusion=包括性の略称)方針を転換しているニュースです。『反DEI』と最近よく言われたりしますが、ここから日本も影響されていきかねないと感じています。みなさんはどう感じますか?」。
次の質問も似ているところがあるので、まとめての回答にしますね。2つ目。
「女性やマイノリティの登用促進に、反感を感じる男性が一定(程度)いると感じます。そういう方々は、性別ではなく能力で登用を進めるべきだし、それが正しい、平等というようなことをよく言います。
そういう方々に向けて、性別役割分担意識や、女性のインポスター症候群のようなことを言っても、逆に男性が虐げられている現状を言い募られるばかりで通じないのですが、男女の分断はどのように防いでいくべきでしょうか?」。
こういう議論は、いろんなところで今起きているだろうなって思いますね。
篠田:じゃあ、これは私から先にお答えしてみていいですか。まず、アメリカでトランプさんがDEIに対してかなり声高におっしゃっているのが、報道で伝わるようになってきているんですけども。まず2点、客観的ファクトから押さえると。
ジェンダー平等指数のランキングって日本が今120位ぐらいで、アメリカは50位ぐらい。(アメリカが)だいぶ先を行っているんです。また、ジェンダー以外の人種ということも、DEIのトピックで極めて大きな比重を占めていて、両方の話をしているんですよね。だから、日本とはかなり文脈が違うのが、まず押さえておきたいところです。
加えて言うならば、アメリカでは「バックラッシュ(人種やジェンダーなどの平等の推進や地位向上などに反発する動き)」と言っているんですけど。(日米で)それだけランキングが違うと、人づてに聞いたのが、ある政治学者の方が「いや、日本の今の状況って、バックしようにも、もう後ろが壁だからバックする余地がないです」というお話なわけですよ。
実際、特に女性に力を発揮していただきたいと考えている、日本企業のCHRO(最高人事責任者)とかにお話を聞くと、「アメリカの動きは知っているし、自分たちのアメリカオペレーションは現地で気は遣うけれども、会社の方針として何か変えることは一切ないです」とうかがっています。
能力主義を掲げながら、女性の報酬が7パーセント低い実態
篠田:その上で、2点目については、やはりこれはデータで示さないと、価値観論争になる。まさに書いてくださったように、行き違いがどうしても起きてしまいますよね。
例えば、私が社外取締役をやっているメルカリでは、報酬を分析した結果、制度としては何の差もつけていないはずなのに、女性のほうが7パーセント報酬が低い、説明できない差があるという結果が出てしまって。これはファクトですよね。そうすると、「能力主義、実力主義なのだ」と言っているのに、具体的に差が出ているんだったら、これは解消しないと駄目よねという話になります。
これは他の日本企業でも、例えば登用する時の率、同じ業績評価を得ているんだけど、男女で比べたら、同じプールから上がる率がすごく違うことがわかりました。じゃあこれが同じ率で登用されるには、何のずれがあったんだろうねと探求していくと、
「能力」と言っているふんわりしたものが、まさに「24時間対応できるのか」みたいな、要らない基準で差がついていたことが露呈した例もある。ファクトをちゃんと分析するところから話すと、この神学論争に終止符を打つことができるんじゃないかなと思います。
上原:ありがとうございます。坊垣さん、いかがですか。
坊垣:そうですよね。みなさんも気になっているところだとは思うんですけど、篠田さんがおっしゃってくださったとおりで、今の日本の実情において、(アメリカのバックラッシュと)同じことはまったく当てはまらないなと思うので。当然日本の文化や状態の背景もありますからね。国によって状況は違うんだと思うんですよ。
まとめて話されることもありますけど、それぞれの事情があり、それぞれの状況があって、個別対処していかなきゃいけないと思うので。アメリカのニュースを気にするよりは、日本の課題・問題がどこにあるかをしっかり深掘りしていくことのほうが、よほど重要じゃないかなと思っています。
篠田:けんかを売っているみたいになっちゃうけど、「じゃあおたくは何ですか、アメリカがDEIと言っているからやっていた、それだけなの? それで経営判断なんですかね?」という話ですよね。
坊垣:そうそう、そういう話になっちゃいますよね。
上原:そうですね。
時短勤務の管理職が査定評価をする難しさ
上原:そして、これからどんどん人口が減っていく中で、それを言っていていいんですか? というのを本当に考えないといけないですよね。じゃあ、残り2つの質問です。どちらもマネジメントに関する話。
1人目は「出産して子どもが2人います。時短勤務で管理職をしていて、メンバーの査定評価がとても難しいと感じています。
特に在宅勤務も増える中、数字以外の見えない部分の評価を(する上で)、いかに短い時間でメンバーを見にいくのか。もしアドバイスなどがあったらいただきたいです」。すごくリアルな悩みとして、いいですね。
坊垣:そうですよね。
篠田:坊垣さん、ぜひ。
坊垣:時間が短くて、なかなかコミュニケーションの時間も取り切れてなくて、評価自体が難しい。これは、管理職全般で発生している話かなと思っていて。「時短勤務をされていて」みたいなところを例に挙げてくださっているんですけど、そもそもリモートワークが増えていたり、コロナ以降、飲み会が減っていたり。コミュニケーションの量って、絶対に減っていると思うんですよね。
その中で、目に見えていないところをどう評価していくのかは、たぶん管理職全般に起きている問題のような気がしています。私自身はそういう前提に立って、どうコミュニケーション量を増やすかをけっこう意識していて。
もちろん数字も含めた目標設定から、評価って全部つながっているので。時間をかけてコミュニケーションをして、正しく目標設計をする。1on1の時間を取って報告してもらうのをベースに、それに対する進捗をしっかり見る。
併せて、コミュニケーションがなかなか取れてないことを前提に、コミュニケーション量を増やす努力をしてみるといいのかなと思ったりしますね。なかなか時短勤務とかだと難しいところもおありかなと思うんですけど。
上原:なるほど。篠田さんはいかがですか。
篠田:ありがとうございます。手短に申し上げると、まず、坊垣さんのおっしゃったとおり、むしろ目標設定のほうが(評価より)大事なのが1点。もう1つは、評価ってどこまでも主観的ですから、これはメンバーの納得感が一番大事です。ご本人が納得されて、モチベーションをさらに上げながら仕事をやっていただくことが、評価することの大きな意味なので。
とすると、同じコミュニケーションの時間を30分取るのであれば、部下のお話を「聴く」ほうに意識を向けられると、メンバーの方が「わかってもらっている」「聴いてもらっている」と実感を持って、結果的にそれが納得感につながりやすいのかなと感じました。
上原:なるほど。具体的なアドバイス、ありがとうございます。
人材獲得競争の激化で給与が上がる傾向に
上原:ちなみに、最後の質問がまたマネジメントのお話の中で。「マネジメントの育成やフォローをしていくことも大事だけど、給与水準を上げていくことも大事な気がしています」という質問です。
これは自分もいろいろな企業の採用支援をしていて、すごく感じるところではあるんですが。実際に関わられていたり、経営されている会社の中で、マネジメントの「給与もちゃんと上げていかないとね」という議論って増えている実感はありますか?
坊垣:そうですね。マネジメント層への期待が高くなっているのかもしれないんですけど、そもそも採用しづらいみたいな話もあって。それは今日のテーマ全体に関わる話です。結局、管理職をやりたい人が減っているという話かもしれないんですけど。
逆に言うと、そこが取り合いになっているから、自然と給与水準を上げざるを得ないのが実態な気がします。「給与水準を上げなきゃ」「大変だから上げなきゃね」というよりは、「やってくれる人が少ないから上げざるを得ない」みたいな感じは受けています。それがいいか悪いかは置いておいて。
上原:そうですね。「この金額じゃ、ちょっと採れないですよね」みたいな話は、確かに出てきているかもしれないですね。
坊垣:そうですね。
上原:わかりました。最後に篠田さん、ここについてはいかがですか。
篠田:ありがとうございます。今お二人が話してくださったマーケットの動きがある前提で、やはり大企業って、まだそこ(給与の上昇)をガチっと仕組みで抑えちゃっている。正直、私が見ている中で、管理職を特定して「報酬を上げていかなきゃね」という議論は、あんまり聞こえてこないです。ただ、ちょっと角度が少し変わるんですけれども、年功的な人事制度ではなく、特に若手でも力がある方を、より早めに管理職に登用したいと。
あるいは有用なコンセプトのもと、キャリア採用で有望な方をマネージャー、管理職層で採りたい時に、今の制度だと給与水準が折り合わなくて採れない。そういう人を採り逃がさないようにしたいご事情があるというお話は、ちょいちょいは聞こえてくる。これが私の知っている現状です。
上原:なるほど、ありがとうございます。人材獲得競争の激しさをすごく感じますよね。では、いただいた質問にすべて答えさせていただきましたので、クロージングに移らせていただけたらと思います。
司会者:みなさん、ここまでお時間をいただきましてありがとうございました。