“無理ゲー”化する管理職の実態や、新しい時代に求められるリーダーシップのあり方について議論したイベント「女も男も、管理職はつらいよ 〜昭和100年を本気で終わらせたい人の会~」。XTalent株式会社 代表取締役の上原達也氏、株式会社マクアケ創業者の坊垣佳奈氏、エール株式会社 取締役の篠田真貴子氏が登壇。本記事では、昭和世代とは違う20代管理職の事例紹介や、働き方改革を阻んでいた社会的要因について語ります。
2025年は「AIエージェント元年」

坊垣佳奈氏(以下、坊垣):2025年は「AIエージェント元年」と言われていて、私も1社、AIの会社に関わっているんですけど、大きく変わっていくと思います。
それこそ私もそうだったんですけど、みなさんが想像し切れていないところの領域で、経営やまさに社長職なんかもAI化できると言われていたりする。結局、教科書どおりにやれる部分は、全部AI化されていくので。
逆に「人間が人間としてやらねばならぬことが何か?」という問いに、向き合っていくことになると思います。管理職の仕事の中でも、「人がやらねばならない部分ってどこなの?」という話になってくるかなと思うんですね。
篠田真貴子氏(以下、篠田):(AIではなく人間が出てくるのは)最後はお客さま(とのコミュニケーション)だったり、社内が方向転換など特に難しい判断をする時に「人が言ったほうが納得する時に出てきます」というぐらいになるのかもなって、ちょっと想像したことがあります。
坊垣:そうですね。併せて業務効率化はすごく進むので。そう考えると、同じ1社でがっつりというよりは、副業が増えていく。今もすでにその傾向はありますけど、何社の名刺も持っている状況が、みなさんにとって当たり前になっていく時代が来るのも、そう遠くない感じもあります。
篠田:つまり、今までフルタイム、週5日必要だった担当者の業務が……。
坊垣:週2日とか3日とかになっちゃう。
篠田:そうすると空いた時間で、「じゃあ別の会社で仕事をしよう」ということができるようになる。こういうことですか?
坊垣:そうです。
上原達也氏(以下、上原):でも、管理職像とか、もう1個上の概念の経営のアップデートがないと、「そういう人たちが普通に働いている会社ってどうあるべきか?」というのが、すごく問われるようになりますよね。
坊垣:そうなんですよね。
篠田:それを思うと、年齢を重ねたら管理職になるのって「本当か?」って、思える世界にますます入っていきますよね。
坊垣:そうだと思いますね。当然、年齢がイコールではないものの、(管理職への昇進は)それなりの経験とひも付くところがあるとは思いつつ。何をどう経験してきたかがすごく重要な中で、それは時間では測れないことだと思うんですよね。
令和の20代管理職はRPGゲーム感覚
篠田:別のところで、これからZ世代がそろそろ管理職候補に上がってくる頃合いになってきましたよねというテーマで、ある企業の20代半ばで、100人ぐらいの部下を持って回している方のお話をうかがう機会があったんですね。
私の印象は、まず旧来のマネージャーとして極めて優秀。事業の課されているゴールを理解して、ちゃんと分解してKPIにして、それが達成できるようにステップを組んでいて、ここは本当にきちんとなさっている。
一方、「これは個性だな」「少なくとも上の世代にはなかった感覚だな」と思ったのは、達成目標をゲームっぽくすると。言ってみれば、ロールプレイングゲームのゲームマスター感覚で、「魔法使いも必要だし、勇者もいるよね」みたいな感じでチームを見て、それぞれの役割分担を考えて「ゲームをおもしろくする」という発想でやっている。
これは「なんか楽しい時代が来るな」「そういう管理職だったらやってみたいな」と感じる方も、もうちょっといるんじゃないかなって。その時の印象として持ち帰ったのを思い出しました。
上原:今まではむしろ、軍隊でしたものね。
篠田:そうそう(笑)。
坊垣:確かに(笑)。
上原:軍隊的に「上官の命令は絶対だ」みたいなところから、みんな横並びで、それぞれ役割が違って、共通のゴールを目指そうぜとなってくると。確かにすごく時代に合っているというか、純粋に楽しそうですよね。いや、これから本当にいろいろんな前提が変わってくるんだろうなっていうことは、世代の変化としても感じますね。
坊垣:ちょっとAIの話に戻っちゃうんですけど、忙しいタイミングがぎゅっと濃縮されている感じがあって。子育ても、いまや年齢による。私はいわゆる晩婚のぎりぎりみたいなタイミングで(子どもを)生んでいるので、あれなんですけど。みんな「なんかよくわからないけど、すごく忙しい」とおっしゃっている感覚があって。
それ自体が少しAIとかで(緩和されたり)……。いわゆるAIエージェントの世界って、個人にもパーソナルな秘書みたいな存在ができるような世界観ですね。企業や自治体のエージェントが、勝手にやりとりしてくれるようになっていくと、プライベートの雑務みたいなことをやる時間が減る。
そういう意味では、もしかしたら子育て世代や、一番がんばりたい世代が少し楽な時代も来るのかなと。だから、今悩んでいることが物理的に少し解消されている状態も、来るのかもなと思ったりします。
上原:確かに。子育てって本当に「こういう時、どうすればいい?」という連続だったのが、AIエージェントがさくっと答えてくれるという時代が、本当に来てほしいですね。
坊垣:そうなんですよね。
篠田:いいなぁ。
(一同笑)
上原:考えられなかったような変化ですね。
篠田:いい時代じゃないですか。本当。
坊垣:そうそう。
上原:確かに。
価値観の変化と経営層の不変によるひずみ

篠田:今のちょこっと「忙しい」という観点でいくと、AIエージェントがすごく可能性を感じるのは、「忙しさ」って物理的なことだけではないからだと思うんですね。
仮に何かに任せていたとしても、常に「あれをやらなきゃ」「終わっているのかな? 大丈夫かな?」「次は何? まだ残っているのかな?」と頭にある限り、忙しい感覚からはやはり逃れられない。それがテクノロジーによって本当に丸投げできて、完全に自分の頭から外せるところまで発達する可能性があるというお話だと思うので。
坊垣:あります。
篠田:それはけっこうゲームチェンジャーな感じがしますね。
坊垣:そうですよね。まさに「あれをやらなきゃな」の心理的負荷って、けっこうありますからね。
篠田:時間だけじゃないんですよ。
上原:確かに。「大丈夫かな? このままでいいのかな?」と思っていることに、AIが「大丈夫です」と言ってくれるような、不安を解きほぐしてくれるような変化は来るかもしれないですね。
これまでのお話をまとめていくと、価値観と生き方の変化と、一方で経営のOSがアップデートされていないという、このひずみによる管理職像のつらさが、今どんどん広がってきていると思うんです。
一方で、今ゲームチェンジャーになり得るテクノロジーやAIの変化によって、今までの大変さや不安が解消されていく。そうすると、また新しい時間が生まれて、できなかったことができるようになるかもしれない。そういうちょっとしんどい面と、期待できる面が、それぞれある状況なのかなって感じました。
議論が尽きないんですけど、質問をいただいているので、QAタイムに移行していけたらなと思います。ここまで聞いていただいたみなさんも、「こういうことも聞いてみたい」という内容を、ぜひQAに投じていただけたらと思います。まず質問の1つ目。これはすごく大事な議論だなと思いました。
「坊垣さんのお話、とても納得度高く聞いているのですが、『自分自身が体験していないとわからない』『アドバイスできない』というのは、『既婚、子持ち、子育てコミットレベルが高くないと、管理職適性があるとは言えない時代が来る』とも受け取られかねない、新しい勝ち組像に通じる気がしました。ビジネスケアラーや、結婚できない、子が持てない事情のある方を排除する意図をお持ちとはまったく思いませんが、少し気になりました」。
こういう分断につながらないようにという観点は、すごく大事なところですね。
相手の意図や背景に関心を持つことが重要
坊垣:これは私の事情を話しちゃうんですけど(笑)、逆も然りだと思っていて。私自身が38歳で結婚して、子どもを40歳で生んでいるので、「自分は子どもを持てないかもしれない」と思っていた人なんですね。だから、そういう方々の気持ちもある一定(程度)わかるっていう(笑)。私は両方を経験しているので、ちょっと特殊なところがあるかなと思うんですけど。
当然ながら、子育てしていても、そのコミットレベルは人によって違うかもしれない。子育ての大変さは、当然お子さん一人ひとりによっても、環境によってもぜんぜん違ったりもします。
だから、当然100パーセント理解することは、誰しもが難しいと思うんです。でも、何でも経験知が増えていくことは、いろいろなことを想像できるようになることだという意図でお話ししたつもりだったんですね。
上原:ありがとうございます。ちなみに、篠田さんからもお話しされたいことってありますか?
篠田:ありがとうございます。坊垣さんがおっしゃるように、「あらゆる人生経験を積んだ人しかマネージャーになれない」って、まったく現実的ではないですよね。その時に、じゃあ何があるといいかって、私の観点で言うと、「聴く」姿勢と力。これをスキルとして身につけることの重要性が、過去と比べると格段に上がっているという話じゃないかなと受け取っています。
「聴く」というのは口を挟まずに耳を傾ける以上に、根本的な姿勢として、自分にはわかっていないことがあって、相手は何か言おうとしているんだけど、うまく全部言葉にできているわけじゃない。「その意図や背景は何だろうな?」と関心を持つ態度が出発点なんですよね。
これって、(過去に自分が)1回もそういうふうに聴いてもらったことがないと、ちょっとわかりにくいかもしれないんですけど。でも5分でもそういうふうに一度聴いてもらって、「良かった」と思える経験があれば、あとは日頃の意識の持ち方で、ちょっとずつできるようになるものでもあると思うんです。
坊垣さんも触れていらっしゃったと思うんですけど、下手をすると、「私は子育て経験があるから」といって、その経験だけに基づいて人に接する危険性も、同時に発生するわけなので。
もちろん、経験があることで、自分にはわからない領域があるということに対して、謙虚になりやすくはなるとは思うんです。だけど、その先にあるのは経験そのものよりも、それを通して学んだ、自分とは違う状況にある人の話を聴く力ではないかなと思いました。
上原:ありがとうございます。誰しも、何かしら抱えている痛みがあると思うので、その痛みを知ろうとする力が大事になってくると思います。それを想像力だけではなくて、聴く力によって培っていくのは、これからの管理職像に、すごく必要とされる力の1つだろうなって感じますね。ありがとうございます。
男女平等の“第一世代”がようやく役員クラスに上がった

上原:もう1つの質問にいきますね。これも確かにと思ったんですけど。「昭和の後には平成があって、令和が来ていますが、なぜ平成にはアップデートできなかったんでしょうか? 私も長らく深夜残業組でした。若手にがんばってほしいので、自分も変わっていきたいと思います」。
平成って、確かにそうでしたよね。「失われた期間」みたいな表現をされることもありますけど、変わらなかった期間があったのはなぜなんでしょうね。
篠田:平成3年に社会人になったので、まさに私の社会人人生は平成と共にあったという観点で、私見をちょっと申し上げてみると。一言で言うと、平成は、いわゆる意思決定層が「ザ・昭和」の人たちだったのがまず大きいなと思います。
また、特に初めの20年間はマクロ環境がすごく劣悪でした。その中で生き抜こうとした時に、何か新しいことを試すよりは、政府も含めて、多くの企業がより保守的になっていく時代だったなと思います。だから、新卒一括採用はやめずに、新卒の人数を減らすことで対応した。これは今振り返ると、1つの非常にわかりやすい事象だったと思うわけですよね。
そうすると、その影響を受けた、特に氷河期と言われた時代に社会に出られたみなさんは、やはり働くことに関してとても保守的になる。就職が大変だったから、いったん得た仕事を手放すのは非常に慎重になる。多少自分を犠牲にしてでも、今の職を守りたいということになりますよね。
大きくは「ザ・昭和」の成功体験を一番謳歌した人たちが、経営陣にいた時代が平成であったこと。そして、その人たちの経営判断で生まれた、特につらい状況に置かれた若い方々が保守的な行動をとった。この2つだなと思って見ています。
上原:なるほど。
坊垣:少し加えると、そこにつながる話でもあるんですけど、いわゆる少子化問題がちゃんと語られ始めたのが、実はつい最近じゃないかと思っていて。ずっと「日本は高齢化で、少子化で」って言われているはずなんですよ。でも、そこに対するリアルな危機感がみんなにあんまりなくて、「いよいよやばいぞ」みたいな感覚が直近で。
そのへんのリアル感が、実はつい最近の話なんだというところも、影響していそうだなと思います。昭和から平成にかけては「このままで大丈夫感」が、ずっとあったのかなっていう。
篠田:そう思いますね。今の女性(の働き方改革)に関して言うと、私は今57歳になったんですけど、(社会に出たのが)いわゆる男女雇用機会均等法で5年目ぐらいなんですよ。だから、まさに今の少子化が問題になった、ちょうど令和に入ったタイミングで、この(雇用における男女平等の)第1世代が、特に大企業でそこそこ役員クラスに、やっと上がってきたんですね。だから、ここも組み合わさっていると思います。
坊垣:確かに。
篠田:女性でもビジネスパーソンとして、真っ当な仕事ができるんだとやっと証明できる。これに30年かかったという話は、リアルにあると思いますね。
坊垣:なるほど。篠田さん世代が、そのスタートを切られているということですね。
篠田:そうです。もちろん転職された方もいらっしゃるけれど、新卒で入った会社で、ずっと実績を積んでこられて役員に上がってこられた方々。例えば、SMBCの副頭取の工藤(禎子)さんは、あの会社の第1期なんですよね。やっと第1世代がここまで来たので、おじさま方がやっと「女性を採っても大丈夫」と思うようになった感じはちょっとします。
上原:なるほど。先輩方の努力から、一つひとつ進んでいるんだと、すごく実感しますね。