どこまでAIは賢くなり、人間に近づくのか。2025年2月3日に行われた法人向け特別イベント「AIによる法人ビジネスの変革」で、OpenAIとソフトバンクグループ、Arm、ソフトバンク合同で、企業用最先端AI「クリスタル・インテリジェンス(Cristal intaelligence)」に関するパートナーシップについて発表。イベントの中でソフトバンクグループ会長・孫正義氏はOpenAIのサム・アルトマン氏と対談しました。人工知能が飛躍的に進化していった未来の展望予測を語り合います。
AIはサイバーアタックから防御できるか?
孫正義氏(以下、孫):※1時間も限りがありますので、サイバーセキュリティについてはどう思いますか? 常に悪人がいますよね。そういった悪人が攻撃をしようと試みています。
意図的なのかミスなのかわかりませんが、そういった攻撃、守らなければいけません。というのも、こういった超知能に多くの人が依存していくようになりますので。

サム・アルトマン氏(以下、アルトマン):AIでサイバーアタックに使えるようなプログラミングも良くなってきています。なので、サイバーアタックについて、私は楽観視しています。AIが貢献できるところはあると思います。攻撃するよりもディフェンス、防御のほうが難しいので。そうは言っても我々は大きなリスクとして認識しています。
孫:常に悪者がいます。私も楽観視はしています。私は性善説で、99パーセントは善人だと思っているが、常に1パーセントの悪人はいると。エンドレスに飽くなき戦いを続け、99パーセントのいい人を1パーセントの悪人から守らなければいけない。

しかし、イノベーターと一緒に、善人が一緒に作業をすることによって常にソリューションは改善されていくと思っています。例えばモータライゼーションがありました。自動車が導入されたことによって自動車事故が起き、そしてルールやエチケットやお客さまに啓蒙することが始まっていきました。
健全な規制は常に必要だと思いますよね。あまり規制で制限されたくはないですが、イノベーションはきちんと機会を与えられるべきであると思いますが、それでも健全な規制が必要ですよね。そう思いますか?
アルトマン:はい、そう思います。まったくそのとおりです。
孫:あなたが「業界には規制が必要だ」と言うと、みんな驚きますよね。「サムがそんなことを言うなんて」と。
アルトマン:でも、重要な産業には規制が入っていきます。遅すぎるとか厳しすぎるのは良くありませんが。
孫:妥当で健全な規制であれば必要だし、過剰な規制は困ります。過剰な規制によってイノベーションのスピードが損なわれてはいけませんが。
いつかすべての病気を治せるかもしれない
孫:イノベーションの話をしてまいりますが、医療についてAGIがメディカル、医療の問題をどういうふうに解決していくと思いますか?
アルトマン:私が非常にエキサイトしている分野、ここでヘルスケアをすべての人に提供できると思っています。治療する、もしくは治す。いつかすべての病気を治せるかもしれません。
自分の人生で、家族の人生で、そういった病気の経験があるかもしれませんが、AIが貢献できる一番大きな領域の一つだと思います。
孫:すばらしいですね。私は、少し前に父親をがんで亡くしました。本当に悲しかったです。どうしてこの難しい問題が解決できないのか。AIが人間をがんから守ってくれることができれば、難病から守ってくれることができれば、私どもの寂しさ、悲しさを和らげることができ、人類にとっていいはずです。あなたはロボットが大好きですよね?
アルトマン:はい。みなさんそうだと思いますが、ロボットがずっと欲しいと思っていました。ただ、すごくロボットは今まで難しいなと思っていたんですが、体は作ることができてもブレインが難しいと思うんですね。
しかし、数年以内にすばらしいヒューマンアンドロイド、ロボットなどなどのロボットが出てくると思います。それによって世界も変わるでしょう。
孫:我々人類は、危険な仕事をやらなくてもいいであったり、厳しい仕事、汗をかく仕事、退屈な仕事。人によっては「じゃあ、人間にあと何が残されるの?」「どんな仕事があるの?」と言われますけど。
アルトマン:新しい仕事はいつでも見つかります。必ず、新しい仕事は出てきます。例えば多くの我々の今の仕事を考えてみると、例えば500年前や1,000年前の人間であれば、我々が今やっていることは私の仕事じゃないと思うかもしれない。「忙しすぎるし重要とも思えない」と。ただ、いろんな理由でいろんな仕事をしていると。
将来の仕事も今から我々が見るのと同じだと思います。AIがいろんな仕事をやってくれる。ほとんどのことをカバーしてくれるということになれば、将来の人間はよりおもしろいことができるかもしれない。それは今であれば、そんなことは馬鹿げたことだと思うかもしれないが、将来になればまたそれは違う。
孫:まったくそのとおりですね。
ChatGPTが教育の一部になったのは素晴らしい
孫:教育についてはどうでしょうか? 最初、ChatGPTの導入スタートの頃は、いろんな学校で禁止をしようと、ChatGPT使用禁止なんていうこともあったかと思います。
学校では使っては駄目だよということもあったと思いますが、これについてはどう思われましたか? これに対してのコメントはありますか?
アルトマン:理解はできます。状況が変わる、学生がChatGPTをそのまま写してレポートに書くということで、それでは意味がないこともあるかと思います。
ただ早くに禁止をしたことは間違いだったと、方向が逆だったと。将来これの使い方を教えるべきであって禁止をするべきではない、カリキュラムを変えるべきだと。それで今、教育の一部となってきたということで、それはすばらしい結果だと思いますし、これはこのまま進んでいくと思います。
孫:私もChatGPTは、o1からo3を毎日のように使っていますね。使えば使うほど私の脳がもっと動くように、やり取りをする中でより活性化すると、ブレインストーミングができると。ChatGPTとのやり取り、o1、o3でやり取りができるようになるので。
自分の脳がより活性化されると。子どもたちもよりたくさん学べるかもしれないですね。これを使うことによって、もう子どもたちは勉強しなくなると言っていましたが、まったく逆だと思います。
アルトマン:そうですよね。私もそう思います。これまで間違いなく、子どもによってはChatGPTで自分の勉強をやらせちゃうという子もいるかもしれませんが、全体的にはよりいろんなことを勉強できると、能力を伸ばせると思います。
孫:よりたくさんのことが学習できる、ChatGPTとやり取り、ディスカッションをすることによってさらに学識を広げることができるということですよね。
アルトマン:そうですね。これが人がいろんなことをやるに当たって、若い子どもたちがChatGPTを使って、まったく違うかたちの使い方を見い出すのも非常にすばらしいと思いますし、自分の課題解決に使うこともすばらしいと思います。
AGI、ASIの時代が来ても、AIが人間を食べることはない
孫:感情についてもお話がありました。我々のAGI、ASIの時代は、徐々に感情も持ち始めるか。それ自身が感情を持ち始めるでしょうか?
アルトマン:個人的にはわかりません。持たないと思いますけども、それに近いものは出るんじゃないかと思います。
孫:私は持つと思います。それぞれが感情を持つようになると思っています。犬だって感情を持っているわけですよね。魚はどうかわかりません。魚にも感情があるかもしれない。危険な敵が来た時に、魚は逃げるんですよね。
ですから、おそらく感情は非常に重要な要素であって、よりアウトプットや効率性、自己防御、もし犬が感情を持たなければ犬がかわいいと思うか。犬に感情がなければかわいいと思うでしょうか? 犬が感情を持たなければ、かみつかれますよね。
アルトマン:それはAIが感情を持っているように感じる。ひょっとすると人によっては感情を持っているように感じる人もいるかもしれません。どこかのタイミングでそのように感じるタイミングはあると思います。それがあるかないかにかかわらず、そういった議論は大きなディベートになると思います。
孫:おそらく、これは私の考えですが、これから数年のうちに徐々に徐々に……人によっては「ChatGPTは理解しない」「コンテクスト、前後を理解しない」と言っていましたが、「実は理解しているね」と言う人が増えていくでしょう。
もともと人によっては、多くの……幻想だと。なのでこれは本当に理解はしていない。前後関係を理解していない。そこから推論だと。実際には理解しているんだねと。前後関係を理解しているからこういう答えが出るんだねと。そういうふうに考えるようになってきた。
これから数年、10年ぐらい、徐々に徐々に、少なくとも人の感情は理解するでしょうし、徐々にそれ自体が感情を持ち始めると思っています。それはいいことだと。人類を防御する、守るために重要だと思います。
人は、そういった、例えば技術、「AIが感情を持つことは危険だ」と、「良くないことだ」と、「人類の終わりだ」と言うような人もいるかもしれない。「彼らが人類を破壊する」と言う人もいるかもしれませんが、彼らのエネルギー源がプロテイン、タンパク質であれば危険ですが、彼らのエネルギー源はタンパク質じゃないです。プロテインじゃないから我々を食べなくても生きていけますよね。
そうすると、彼らが我々を攻撃する意味もない。我々を食べてそれを自分たちのご褒美とする必要はないわけですから、人間の幸せが実際には彼らにとってもいいことだと。
アルトマン:AIが人間を食べることはない。それは間違いないですね。
孫:間違いないと。それは人間にとっていいはずだ。AIが人間の幸せを理解して、人間を幸せにしようとする。
アルトマン:そこは私も賛成できますね。私もそう思います。
孫:今日現在であれ、悪い答えはしないようにすると。そういった行動をすると。それはAIがより賢くなり、より愛を理解し、人間によくしようと、彼らが友だちになろうというようになっていくと。それが私の信念。そういうふうに信じています。それは悪いことではない、いいことだと思います。
OpenAIを創業した理由は?
孫:あと数分となりましたが、そもそもOpenAIを始められた理由は何なんでしょうか? 最初のきっかけは何だったんでしょうか?
アルトマン:大学で学び始めまして、当時はまったくうまくいかなかったと。仕事もないと。テック企業でもなかったんです。小さい時でもAIにずっと興味がありました。AIがずっと私の関心事だったわけです。
2012年にAmazonの「Alexa」が登場して、ひょっとすると大学で神経工学ではなくて、2014年にはAIがうまくいきそうだと、これはできるだろうと思って、我々はOpenAIを2015年の末に始めました。
AGIは可能だとその当時からもう思っておりまして、非常に重要なことができるんじゃないか。当時はまったくクレイジーだと思われていた。10年前のことなんですよ。たった10年前ですが、あんまりにも過激なことを言うとメインストリームにはならないと。
ぜひそれを追求しようということになりまして。結果的に非常に楽しい、すばらしい仕事になったと言えると思います。
孫:若い時はY Combinatorの社長とAIの話をして、AGIをゴールとしていたということですが。当時、私と会った時はおそらく「君のことを信じるよ」と言ったと思います。
アルトマン:東京のオフィスですね。
孫:2017年、初めて会った時に、「AGIを目標としている」とおっしゃった時に、私はすぐにその時「君のことを信じるよ」「投資するよ」と言いましたよね。
アルトマン:覚えています。まさに今、今日ここにつながるわけですよね。
孫:当時から「君のことを信じていた」「そこから疑ったことは一度もないよ」と。ほとんどの人が当時は君のことをクレイジーだと思っていたんですが、当時から私は信じていたと。
アルトマン:人によっては社長のこともクレイジーだと思っている人もいますから、それでいいですね。お互いさまじゃないでしょうか(笑)。
孫:(笑)。その時から私の投資を受け取らせておくべきでしたね。でも遅くない、今でも遅くないということだと思います。
さまざまな話をしましたが、みなさん、より理解が深まってくれたものと思います。あなたはこの非営利団体のトップでいらっしゃって、そして人々を幸せにしようという情熱はまだ続いているわけですね。
アルトマン:はい、今でも持っています。
孫:すばらしいですね。ありがとうございました。
(会場拍手)
※1 英語での対談の同時通訳を書き起こしたものです。内容および解釈については英語原⽂が優先されます。英語動画