プロダクトマネジメントに携わる人たちの学びの場として開催された「プロダクトマネージャーカンファレンス 2024」。本イベント内で行われたセッション「プロダクトマネージャーの良い意思決定についてQuestする」の模様を全文でお届けします。本記事では、シリコンバレーに在住19年でLinkedInのシニアPMの曽根原春樹氏が、ユニコーン企業の失敗例をもとに意思決定の重要性を語ります。
シリコンバレーに在住19年の曽根原春樹氏が登壇
曽根原春樹氏:それでは、ここから私のセッションということになりますけども、お越しいただきまして、本当にありがとうございます。
毎年毎年呼んでいただいて本当にありがたい限りですし、「また会いましたね」という方もいれば、「はじめまして」という方もいると思うんですけども。ぜひみなさんへ、刺激になるような話を今年もできればなと思っていますので、よろしくお願いします。
軽くちょっと自己紹介をさせてください。私は曽根原と申しますが、現在Microsoft社傘下のLinkedInの米国本社にて、シニアプロダクトマネージャーをやらせていただいています。かれこれシリコンバレーに在住して19年目ということで、あっという間にこんなに時間が経っちゃったわけなんですけども。
その間いろいろ経験させていただいて、いろんな情報発信もさせていただいているということですね。LinkedInもそうですし、Xでもいろいろポストをしていますので、もしアカウントをお持ちでしたら、ぜひフォローしていただければなと思います。
2024年はPIVOTさんにも2回ほど登壇させていただいてYouTubeにも上がっていますので、「どんなことを言っているのかな?」ともし興味を持たれたら、ぜひ一緒に見ていただければなと思います。
私はもともとはBtoBの大企業のPMからスタートして、その後BtoBのスタートアップをやって、その後BtoCのスタートアップを2社ほどやり、現在LinkedInということで。シリコンバレーでのプロダクトマネジメントをBigTech、スタートアップ、BtoB、BtoCの全方位で経験させていただくという、非常に稀な経験をさせていただきました。
もちろんその間にはいろんな人の支えとか、リードとか、コーチングとか、いろいろありましたが、おかげさまでなんとかここでも生き残っていられるという感じですね。そういったいろんな経験をUdemyで形に起こしていますので。もしかしたら「すでに受けました」という方もいらっしゃると思うんですが、「まだですよ」という方は、ぜひこれを機会にぜひ受けてみてください。
私が作っているUdemyのプロダクトマネジメント講座は現在10講座あるんですが、併せて受けていただければなと思います。今回のセッションの最後にスペシャルクーポンも出しますので、ぜひそれで活用していただければと思います。
あとは、これまで3冊ほど本を出させていただいています。『プロダクトマネジメントのすべて 事業戦略・IT開発・UXデザイン・マーケティングからチーム・組織運営まで』とか。もしかしたらこれも「読みました」という方はたくさんいらっしゃると思うんですけが、そこから『ラディカル・プロダクト・シンキング イノベーティブなソフトウェア・サービスを生み出す5つのステップ』とかね。
2024年ですと、『生成AI時代のプロダクトマネジメント 勝てる事業の原則から戦略、デザイン、成功事例まで』という本の翻訳をやらせていただきました。
ここにいろんなノウハウを込めていますので、今日僕の話を聞いて「なんか刺激を受けたな」という方は、ぜひこれも併せて読んでいただければと思います。
消え去って行ったシリコンバレー発のスタートアップ3社
さあ、さっそく本題に入っていきたいと思うんですけども。かれこれ「pmconf」に出て今年で6回目になるんですかね。いろんな話をこれまでしてきたんですけども、今年のテーマは「Quest」ということで、何を話そうかなと思っています。
「やはりPMにとって一番大事なのは意思決定だな」と、今年は意思決定の話をしようと思い立ちました。
意思決定という話をする時に、まず大きな外観の話をしたいのですが。スタートアップ企業の話をする時に、「ユニコーン企業」という話がよく出てきたりしますよね。特にスタートアップを立ち上げている方たちは、やはりユニコーンのステータスにすごく憧れるし、自分たちもそうなりたいという非常に強いモチベーションがあったりします。
当然、シリコンバレーにあるスタートアップもそうです。なんですけども、やはり全部が全部うまくいくわけじゃないんですね。
今ここで3社ほど例を挙げているんですけども、QuibiとかFabとかBeepiという会社があります。Quibiは縦型動画配信で、ハリウッドセレブを使った縦型動画配信アプリがあったわけなんですけども。これもユニコーン企業のステータスを得てから1年もしないうちに、実は消え去ってしまったんですね。

真ん中のFabという会社は、もともとはLGBTQ向けのソーシャルネットワークサービスで始まったんですけど、途中でイケているこじゃれたインテリア用品とか、こじゃれたEコマースWebサイトみたいなものにピボットしたんですね。
最初はそれがうまくいっていたんですよ。けっこういいところからファンディングしてもらったりして、ユニコーン企業のステータスになったりしたんですけども。これも1年、2年くらいで、その後やはり潰れちゃったんですね。
最後のBeepiという会社なんですけど。これはCtoCの中古車取引売買サービスだったんですけども、これも出てきた時は非常に話題になりました。ここもVCからファンディングして、ユニコーン企業のステータスをもらったりしていたんですけども。これもやはり2~3年後に消えてなくなってしまったわけなんですね。
なぜ意思決定に失敗してしまうのか?
これらの企業はCEOだって優秀な人だし、当然そういう優秀なCEOと一緒に働きたいと思って、いろんな人たちが集まってくるんですよ。人材だって、どんどん集めていたわけなんですよ。なんですが、失敗してしまうんですね。
「どうして失敗してしまうんだろう?」と。当然、理由はたくさんあります。実はPMF(Product Market Fit)していなかったとか。
特にQuibiなんていうのは、はっきり言うとPMFしていなかった状態で、無理やり金の力で物を言わせてビジネスをやろうとして、結局それで命運が尽きてしまった。とにかく企業を運営するとかプロダクトを作った。当然失敗してしまうわけなんですけども、失敗するにはたくさん理由があるわけなんですね。
結局、その結果にたどり着く前とかその前のステップで、意思決定に失敗しちゃっているんですよ。「なんでこんなに意思決定に失敗しちゃうんだろうな?」という部分について、いろいろ振り返っている中でまとめた話を今日はしようと思っています。

みなさん、予実管理ってありますね。日本ではよくやられていると思うんですけども、要はプランニングです。期首とか年初に、「今年はこんなことをやろう」とか「今こういうデータがあって、プロダクトがこういうふうに成長しているから、今期はこういうことをやって、向こう12ヶ月のプロジェクトはこんな感じ」と。
「これが予想どおりにうまくいけば、ちゃんとレベニューは上がるよね」というのが、いわゆる予実管理の理想状態なわけなんですけど。まあ蓋を開ければ、だいたいうまくいかないわけです。というのも、やはり今って昔と比べれば、マクロ環境とかユーザーの好みとか、あるいは競合の動きが早いですし。
特にソフトウェア周りのプロダクトは、ピボットもやろうと思えば簡単にできちゃうわけなんですよね。そういう意味で、予実管理って簡単に見えて非常に難しい世界なんです。
当初のプランニング通りにいかない問題
実はこれ、もう少しプロダクトマネジメントの観点で深掘りして「何が起こっているんだろう?」と分析してみる。予実の「予」と「実」がこうあったとして、その間みなさんがいろんなアウトプットとして、例えば機能を出したり、いろんな施策を打ったりするわけですね。
これは結局、「予」、つまりプランニングに対して、みなさんが作ったアウトプットが、最初にプランニングしたレベルを満たしていないんですよ。その結果として、「実」が下振れしてしまっていることが往々にして起こったりしています。

やはり最初にプランニングして、いざ施策を実行しましょう、個々の施策をプランニングしましょうと。そこでいろんな意思決定が走るんですけど、最初にプランニングしたとおりには、なかなかうまくいかなかったりするわけですね。
実はユーザーリサーチを進めていくと、「当初予定していた前提条件が違った」とか、「顧客が求めているものが違うところにあった」とか、「実はこのKPIは別の要因によって動いていた」とか、あるいは「競合他社が思わぬムーブをして、それに追従せざるを得ない」とか。
とにかく、ありとあらゆる要因によって、最初に考えていた意思決定はどんどん変わっていきます。
そこで、我々が目の前で起こっていることに対して適切な意思決定ができないと、当然アウトプットも引きずられてしまうんですね。アウトプットが引きずられれば、結果として起こるインパクトだって引きずられてしまいます。
意思決定レベルが低ければ、インパクトも下振れする
今日、この一言を、ぜひみなさんの中にとどめてほしいなと思うんですけど。プロダクトのインパクトというのは、自分たちの意思決定レベル以上に上振れすることはありません。大事なのでもう1回言います。プロダクトのインパクトは、自分たちの意思決定レベル以上に上振れすることはないんです。
つまり、みなさんが見ているプロダクトのインパクトというのは、その手前でずっと積み重ねてきた意思決定レベルに依存しているんですね。もちろんマーケットによっては神風が吹いて、例えばあるインフルエンサーがみなさんのプロダクトを見つけてくれて、話題にしてくれて思わぬ神風が吹いたら、そういうことはあるかもしれないです。
でもそれって偶発的に起こるものであって、計画的にはできませんよね。なので、意思決定レベルが低ければ、インパクトだって当然下振れしてしまいます。
ですから、例えば年度収支ターゲットをみなさんは決めていると思うんですけども、これって自分たちが意思決定したレベルの戦略に収束していきます。みなさんは戦略を作る時にいろんな意思決定をしていると思うんですけども、そのレベルにみなさんの収支は収束していきます。
当然それを実行するに当たって、OKR(Objectives and Key Results)を設定している会社はたぶん多いと思うんですけども。じゃあそのOKRを達成できるかというのは、自分たちの実行に関わる意思決定のレベルに収束していきます。

みなさんが日々OKRを決めて、それに対していろんなアクションを決めていくと思うんですけども、その実行に関わる意思決定は、いろんな意思決定があります。それは組織に関わることもあるし、自分たちのスキルに関わることもあるし、もしくは他のステークホルダーとの会話の部分での意思決定もあるかもしれないです。
「意思決定にまつわるバイアス」が大きな要因に
あとは、多くのチームの施策、あるいは個人のレベルのみなさん、PMが、それぞれの施策を回していくわけなんです。そのインパクトというのは、自分たちが決めた優先度のレベルに収束するわけなんですよ。
ここで言っている優先度というのは、もちろんプロダクト自身の優先度もありますね。どの機能を先にやって、どの機能を後にするかというのもそうですし。もっと違うレベルで言うと、自分が何を優先的に時間を使って考えたり、手を動かしたりするのかという優先度も含まれています。
こういう自分たちが決めた優先度レベルですね。これはまさに意思決定です。このレベルに、みなさんの施策のインパクトが収束しているわけなんですよ。こういう話をすると、じゃあ「なんでこんなに意思決定は難しいんだろう?」というところなんですね。
これは非常に深いテーマで、全部話そうとすると2時間くらいかかるので、今日は50分だけなので、「意思決定にまつわるバイアス」という切り口でお話しをしていきます。ここで言っている「バイアス」というのは、「偏見」や「不公平な判断」という意味ですね。
僕自身もこのせいで失敗してきましたし、現在いろんな会社を支援させていただいている中で、他の方たちがやっている意思決定を見ていても思うところがたくさんあります。やはり人間というのは、バイアスがどうしてもつきまとうんですね。ことこれが意思決定というところになると、非常にクリティカルなインパクトを及ぼします。