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新潮流? ピープルマネジメントはアウトソースできるのか(全2記事)

「マネージャーがどうにかせい」ではもう無理 マネジメントの外注化という成長戦略

ピープルマネジメントの分業化やアウトソース化が、マネージャーの負担軽減策として注目されています。オトナタチ合同会社代表の長谷川亮祐氏が、マネジメントを外部企業に委託する際の注意点や、外部人材がマネジメントを行うことで得られるメリットについて紹介します。

「マネジメントに興味がない上司」問題

長谷川亮祐氏(以下、長谷川):あと、やはり中小企業やスタートアップを支援しているような企業の方。特にディープテックみたいな領域だと、一人ひとりが専門家で研究者だったりするので、本当にマネジメントに興味もないし(笑)。本当にどうやっていいかわからないみたいなことがあったりして。

そんな時に自然と分業を検討して、ピープルマネジメントだけをやる人(を配属する)。みんなが研究に没頭できるように、マネジメントに工数を割かなくていいような体制の試みがあったり、相談を受けるような話を聞いたりしました。

それは、そのぶん人を使わなきゃいけないというコスト高の懸念もあるかもしれないけれど、事業側でコトが推進されるためなので、コストというよりは投資だし。これまでもこういう気運の中で、事業部人事とか、いわゆるHRBP(Human Resource Business Partner = 人事や人材開発における事業責任者のパートナー)みたいなものが増えてきたのも、同じ背景があるんじゃないかと思っているんですけど。

それじゃ足りなくて、事業部人事やHRBP以上に、日常的にチームのマネジメントに首を突っ込んで関わっていくことを、各企業が始めている印象を受けています。

たぶん今も多くはそうなんですけど、分業をしない時代はどうやっていたかというと、マネージャーを研修していたんですよ。

なぜ、マネージャー支援のセミナーが多いのか

牧田直也氏(以下、牧田):はい、はい。リーダー研修やマネージャー研修ってありますね。

長谷川:おびただしい量の研修をしてらっしゃったり。逆に言えば研修もコストがかかるので投資かもしれないけど、それがどれぐらいできるかは企業によるとは思うんです。できない所はとにかくマネージャーに「どうにかせい」みたいなので終わっているかもしれないんですよね。

でもやはり、研修だけってすごく難しい。あるいは自助努力だけで「どうにかせい」というのも、けっこう酷だなと思っています。なのに今でも、例えば人事系のカンファレンスとかって、ここ数年はずっとマネージャー支援のテーマが一番多くて。

もちろんいろんな流行やうねりがあるにも関わらず、マネージャー支援だけは関心が高止まりしているんですよ。だから課題がずっとあって、みなさんの関心も高いんだけど、解決できていないということでもある気がしています。

研修って効果を測るのが難しい側面もありますし、いわゆる個人情報保護や法改正対応と違って、座学で学んだからマネジメントできるようになるかというと、難しい話な気がしていて。

牧田:確かに(笑)。そうですね。

長谷川:いわゆるMBAを取ったら素敵な経営者になれるか、みたいな話と同じです。もちろん理論や基礎知識が役に立つことはあると思うんですけど。やはりそれだけじゃすごく難しいというのは、みなさんも感じているところだと思います。これがもしうまくワークしていたら、こんなに世の中で「1on1どうしたらいいんだっけ」とならないので(笑)。

どこまでをマネージャーに求めるべきか

長谷川:例えば今、学生に「16 Personalities」が流行っていますけど。おもしろい話で、マッキンゼーなどでMBTI(ユングのタイプ論をもとにした国際規格の性格検査)で人間(の性格タイプ)を16種に分けて、それぞれに合ったかたちでマネジメントやコミュニケーションをしましょうってことをやってらっしゃるんです。

牧田:はい、はい。ストレングス・ファインダーとか。

長谷川:それもそうだし、リクルートのWill-Can-Mustとか、ストレングス・ファインダーを使っている所もあるけれども、じゃあストレングス・ファインダーなんて種類がとんでもない数になるんですよ(笑)。

「この人こうだからこうしよう」って16個に分けるって、すっごく難しいことで(笑)。16種類だとしても、そんなに簡単にできるとは思わないんですよね。

いろんな人の種類がある中で、オンボーディングしてエンゲージメントを高めなきゃいけなくて、PDCAを回すのが苦手な人はサポートしなきゃいけない。スキル開発だって必要かもしれないし、キャリアデザインの相手もしなきゃいけない。

人によっては目標達成的なコーチングのようなコミュニケーションが有効な時もあれば、傾聴が有効な時もある。場合によってはカウンセリングみたいな対応が必要な時もある。すごく鋭い質問をたくさんするような、壁打ちが必要な時もあるし「これを全部マネージャーにインストールするつもりですか?」っていう(笑)。

三鈷捺稀氏(以下、三鈷):すごい量ですね(笑)。

長谷川:マネージャーもぞっとするよねって(笑)。

牧田:いや、本当ですね。

マネジメントがスペシャリストの領域に

長谷川:だからピープルマネジメントって、これまではジェネラリストのイメージがあったと思うんですけど。「これジェネラリストじゃなくないですか?」みたいな。「みんなができるようになることなんだっけ?」みたいな疑問を個人的にも思っていて、これはこれで新しいスペシャリストの領域だと認識したほうがいいんじゃないかなと感じます。

三鈷:こうやって聞くとすごい量だなと思いつつも、ジェネラリストの仕事としてとらえられてきたのはなんでなんですかね。

長谷川:例えばまず、コト自体にセオリーがあったんだと思います。「こうやってこうすれば数字が出る」とか、もちろん、今でもうまくいっている所はあると思いますけど。それが通じないケースが出てきているから、一人ひとりがちゃんとPDCAを回したり「じゃあどうする」みたいなことを、知恵を絞って考えなきゃいけなくなっている気がします。

仕事は基本的にはどんどん高度化して、単純作業は人が担わなくなってきたことで減っているし。そうなると単純にホワイトカラーの仕事の難度がすこぶる上がっているんだと思います。

あとはこの情報化社会で、日本ですら少しずつ職の流動性が上がってきました。まだまだそれは欧米と比較すれば少ないかもしれないけど、転職をすることが、例えば10年前と比較しても、だいぶ流動化が進んだと思います。そうすると常に「この会社じゃない所に行く」ことを選択肢に持っている。

日々いろんなソーシャルメディアを通じて、いろんなキャリアを歩んでいる人(を目にして)、今に対して警鐘を鳴らすような、あるいは不安を煽るような情報もある中で、ほうっておくと辞めるとか、ちょっと悩みやすい社会的な環境があるのかもしれないです。

そうすると以前よりもその人の動機とか、キャリアの志向性とか。仕事だけじゃないかもしれないですね。人生の志向性も含めて丁寧にヒアリングして、Will-Can-Mustみたいな話ですけど、今の仕事がその人にとってどういう意義があることなのかとか。

この会社にいることがその方にとってどういうプラスがあるのかということをコミュニケーションしなければいけなくなっていると思います。

ヒトもコトも多様化する時代に、学び続ける姿勢の重要性


長谷川:もう1個言うならば、やはり社会の変化が速いので、新しいスキルや知識を手に入れることとかも、前よりもたくさん起きている気がします。それを全部メンバーの自発性に頼っていられないというか。

だってほうっておくと、メンバーも(変化の速さが)わかるので不安も大きくなっちゃったりするし。あるいは必要なものと実際持っているスキルのかい離が激しくなると、新しい成果を出せなくなるので、マネージャーも会社も困る。そういう変化の速さ(に起因する影響)もかなり起きているんじゃないかな。

牧田:そういう意味でも本当にコトもヒトも多様で難しくなって、1人で全部を担うことがめちゃくちゃ難しくなった。リスキリングというキーワードも一時期流行りましたけど、何を身につけて何を忘れてというのも、その分野に特化していくスペシャリストには必要になるんでしょうね。

長谷川:たぶんソフトウェアエンジニアとかだと、そもそも勉強し続ける姿勢が(マインドセットとして)入っているから、もしかしたらここまでは(求められるものとスキルのかい離が)起きていないイメージがあるかもしれません。

もちろん会社にもよるし、エンジニア領域でももっとがんばりたい、がんばってほしいという課題感を持っている企業はいっぱいありますけど。比較するとやはり文系職種のほうが、学び続けるというベースのスタンスが醸成されていないことが多いんじゃないかと思いますね。

マネージャーは社内で育成すべきか、中途採用すべきか

三鈷:ピープルマネージメントをスペシャリストの領域だと認識したほうがいいのかもしれないという話があったと思うんですけど、現実的には社内で育成したり、中途採用したりすることになるんですかね。

長谷川:もちろんそういうやり方もあると思います。既存メンバーの育成も、中途採用も選択肢です。当然、既存メンバーの場合は適性をちゃんと見極めなきゃいけないし、興味がある人をちゃんと募って、かつ長い目で育成プランを準備して、一定の投資が必要だということを認識してもらえればいいと思います。

例えばGoogleなどのように、制度としてコーチング資格の取得を後押しする企業もありますし。場合によっては、その育成自体に外部のコンサルティングをつけて伴走してもらうのもいいかもしれません。

実際に僕も何社かやらせてもらったことがあります。やはり専門性がある人と伴走をするだけで「こういうふうに考えればいいのか」「そういうことが世の中にあるんだ」という知識を得やすくなるので、比較的短期間で効果をあげやすいやり方なのかなと思っています。

その点、中途採用は最初からできそうな人・できる人を採用する意味では、早くて良いというふうにも考えられます。ただ一方で、これもよく聞く話なんですけども、事業部のピープルマネジメント領域、つまりマネージャーをいきなり外部から採用してそこに据えるか。

もちろんそれはある話だし、一概に悪いとは思わないですけど、心理的に抵抗があるのはよくわかっていて。まずはマネージャー候補として採用して、適性を見てからとか、活躍してからやってもらうケースが多いと思います。

もちろんそれもやり方の1つなので、ぜんぜんいいと思いますけど、そのぶんは時間がかかってしまうので。その抵抗をどうとらえるかは各企業(で差が)あるのかなと思います。当然、採用の見極めの問題ですね。フィットの話もあればスキルもあるので、十分に注意してもらえたらなと思います。

第3の選択肢:マネジメントのアウトソーシング

長谷川:あともう1個、既存のメンバーでも中途作用でもなく、第3の選択肢としてあり得るのは、外部リソースの活用なのかなと思います。これはBPOとか派遣みたいなやり方があると思っています。「全部内製するんだ」っていうところもあるかもしれないんですけど(笑)、BPO自体は古くは1960年代から始まっていて、いろんな領域でだいぶ浸透してきた印象は持っています。

もちろん単純作業もありますけれども、最近は専門性を伴うような領域もアウトソースすることが増えていて。事業の根幹を担うポジションも場合によっては委託することで、自分たちの得意なところにフォーカスできる体制を整えている企業も増えてきたと思います。

もちろん人事領域でも採用のBPO、つまりRPO(Recruitment Process Outsourcing:採用代行)もだいぶ増えましたし、あるいは技術領域みたいなところも。場合によってはR&Dも含めて、特定派遣を使ってやっているような製造業やネット系の企業もあるので、柔軟に考えていいんじゃないかと思っています。

やはり大企業だけじゃなくて、中小企業やスタートアップの初期なんかは人数や経験値が少なく、リソースが限定的な中で、専門的な知見を手に入れるために早く外部(のリソース)を入れるのは1つの手だと思います。

あと何より雇用リスクを回避できる。雇用というのは人件費の負担もあるけれども、日本とか韓国の場合は人を切りづらい環境があるので。そういう意味ではアウトソースだったり、派遣も含めた外部リソースの活用は、ぜんぜんあり得るんじゃないかなと思います。

手間を外注するんじゃなくて、本当に専門性を持った、ちゃんと成果を期待した外部リソースの活用は、ぜんぜん考えていいと思いますね。

外部人材がマネジメントを行う意外なメリット

三鈷:確かにかつては考えられなかったような領域で、外部リソースを利用することが増えてきましたよね。フリーランスや副業人材が増えたことも追い風かもしれないですね。

一方でアウトソースを検討する際はどうやって選定するか、クオリティへの心配や懸念もあると思います。このあたり、どういった点に注意すべきでしょうか。

長谷川:ことピープルマネジメントみたいなところで言うと、やはり専門性がすごく重要だと思っています。どのポジションもそうですけど、ピープルマネジメントに長けていて、本当にヒトの部分を任せられるような人。あるいは任せたことで望む成果がちゃんと出るような経験や技術を持った組織じゃないと、任せる意味がないわけですよね(笑)。

その専門性の落とし穴がどういうところにあるかというと、コーチングやカウンセリングだったりとか、いろんな資格がありますけれども、「資格を持っているから大丈夫」みたいには、本当に思わないほうがいいです。

もちろんそれは何かを学んできた証拠なのは間違いないのですが、資格があるから上手かは当然、イコールではないので。本当にその方の経験や知識、あるいはこれまでの成果・実績がちゃんと見合うものなのかは、見てもらえたらいいんじゃないかなと思います。

あともう1個は、ただヒトをサポートすればいいかというとそうじゃなくて、やはりコトに向かっていくためのヒトのサポートなので。各会社の事業や組織や経営のことをちゃんと理解してキャッチアップできる人かということも、ちゃんと見たほうがいいと思います。

それがないと、自分たちの事業のことを理解しないでピープルマネジメントをされるとか、たぶん想像できないと思うんですよね(笑)。なのでやはり会社の意向もあれば、色や文化やリソースをちゃんとキャッチアップできるような経験やバックグラウンドを持った人たち。そういった専門性も見てもらえればなと思います。

あとは実は良いところとして「社外だから、利害関係がない相手なので話しやすい」という話をよく聞くんですよね。外部リソースを使ったピープルマネジメントの場合は、その人がメンバーの評価者になることはほぼないわけです。

そういう話しやすさがあるのは良い一方で、会社としては「彼/彼女は今どんな感じなんだ」みたいなことを知りたいと思います。その時に守秘義務とかそれぞれのプライバシーの重要性と、(社員が話したことを)マネジメントに活かしていきたいということとの折り合いをちゃんとつけられるかどうか。そういうことに気を配れたり、経験がある相手とやるのがいいんじゃないかなと思っています。

「事業を発展させていくためにヒトに投資する」

長谷川:僕たちオトナタチは、とにかく「聴く」と「問う」に特化した経験を積んで、本当にたくさんの年代や分野の方々、あるいはいろんなフェーズの方々と1on1を行ってきました。人の自律やPDCAなど、自分で決定していくという内発的動機に基づいた、つまり企業的に言うとエンゲージメントを高められるような個人の支援をしています。

(ピープルマネジメントをする上では)特にコトを理解するのもすごく重要です。外部リソースを使うと、つい「あとはやっといて、よろしく」みたいな感じになりやすいですが、やはり組織・経営を理解するには「一員を外から招き入れる」感覚がすごく良いんじゃないかと思っています。

例えばCanvaとかも、マネージャーを置かずに「外のコーチングをいっぱい使っていいよ」みたいな支援をしているようなんですけれども、それも1つ(の手段)だと思います。

また、ティール組織に事例として出ているようなビュートゾルフ(オランダの非営利在宅ケア組織)も、組織に専属のピープルマネジメント要員がいて、外部の人なのに中の人みたいな関係を作ったりしています。

僕らも組織を支援する場合は、そういう立ち位置で関わらせてもらうことが多いです。……長くなってきたね。

三鈷:(笑)。最後に、経営者・人事責任者に向けて、ピープルマネジメントの分業・アウトソースを考える上で、最も大切なことを1つ挙げるとしたら何でしょうか?

長谷川:たぶんどの経営者も「事業はヒトだ」って言ったり、それに同意しない人はいないと思うんですよね。これは本当にそう感じていて、実際に自分も事業はヒトだと思うんですけど。ついヒトのこととかって、管理部門でコストとしてとらえることが多い気がしていて。そうじゃなくて「コトに向かうための投資なんだ」というのがすごく重要なんじゃないかと思います。

かつその投資をする上では、やはり適材適所が強いと思っています。コトに強い人に無理やりヒトのことをやらせたりとか、逆もしかりですけど。そういうことをしないで適材適所をした上で、どんな施策を選択するにしても「事業を発展させていくためにヒトに投資する」と考えてもらえたらなと思います。

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