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特別対談「伝える×伝える」 ~1on1で伝えること、伝わること~(全6記事)

部下が愚痴をこぼした時は「同感」せずに「共感」する 1on1コミュニケーションの専門家が教える、上司側の“聞き方”のコツ

一般社団法人プレゼンテーション協会が開催する、特別対談「伝える×伝える」シリーズ。今回は1on1コミュニケーションの専門家である世古詞一氏をゲストに迎え、1on1での上司と部下の対話がうまくいくコツ・実例などを語りました。5記事目となる本記事では、部下の愚痴に対して上司はどう返すかなど、対話のポイントを解説します。

1on1の専門家が教える対話の第一歩

前田鎌利氏(以下、前田):(次の質問は)「上司・部下の1on1の悩みもあるのですが、新規事業のメンターや壁打ちをさせていただく場合、相手から引き出すことは難しいですが、どんなアイデアを出してもらうのかという観点で、1on1を実施する際に気をつけられていることを知りたいです」。世古さん、こういうのもありますか?

世古詞一氏(以下、世古):これはなんというか、アイデアを出すという観点で言うと、本当に案が出てくるかって話ですかね。

参加者2:新規事業とか、モリチさんや前田さんも壁打ちをやられると思うんです。しょせん……と言うと言葉は悪いんですが、たぶん「やりたいこと」って現実には相手にしかないと思うので、それをどうやって引き出して2人の時間を有益にするか、ものすごく悩んでおります。

世古:なるほど。(どうすれば)相手がやりたいことが出てくるかってことですかね。

参加者2:そうですね。例えば「AIが流行っているからそれをやろう」という相談を受けることが多くて。そういうことではない、本質的に何をやりたいのかを引き出すのが難しい。

世古:なるほど。要するに流行りに飛びついたりとか、いろいろアイデアを出してくるんだけど、本人が本当にやりたいことなのか? ということですかね。なかなか本音が出てこない。

参加者2:そうですね。安易に飛びついた事業案が出てくる場合がありまして、そういった時に「本当はあなたがやりたいことってどういうことなのか?」を引き出したいなと。

世古:なるほど。「こうやったらいいです」というのはなかなかすぐには出てこないですが、そういうふうに思ったことを伝えてみるのはいいと思うんですよね。

流行りに飛びついてるような……ちょっと言い方はアレですが(笑)。「聞こえはいいんだけど、それが○○さんと紐づいてる感じが僕には伝わってきてない感じがするんだよね。どう思う?」とか。自分が感じたことを伝えつつ、本当は何をやりたいんだろうというのも、たぶん見えてないんじゃないかなと思うので、「そこを一緒に掘ってみない?」と言ってみる。

その枠組みというか、それを考えるにあたってどんなことができるか、こっちも2、3アイデア用意しておいて、そういうところから対話してみるのはどうですかね。

前田:いいですね。自分の中の引っかかりを相手に伝えてみるのがいいですよね。

世古:そうなんです、やはり対話なので。

アイデアを出すことが目的なら、1on1より複数人で

世古:私はさっきのフレームワークで、1on1の「すり合わせ9ボックス」という言い方をしてたんですが、すり合わせなんですね。

だから部下が全部を話すというわけでもなくて、上司が思ったことや違和感があることもぜひ伝えていいわけです。それで認識をすり合わせていくと、深いレベルでの認識のすり合わせになるんですね。

そうすると深いレベルの総互理解に至ったり、深いレベルの信頼関係だし、深いレベルの本質的な問題解決や問題・課題の発見に至るので、そうやってまさに対話していくということですね。

前田:モリチさん、どうですか? 新規事業とかアイデアを深掘っていく時の対話の仕方という感じですかね。

森本千賀子氏(以下、森本):基本的に1対1だと煮詰まるので、こういうアイデアを出す時は基本は複数でやってますね。だから、1on1の趣旨とはまたちょっと違うかなと思っていて。

もし本当にみんなからアイデアを出してもらいたいとか、メンバーが持ってるものをもっともっと引き出したいと思うんだとしたら、1on1で深掘っていっても、もしかしたらその方の中にないかもしれなくて。気づきを持ってもらうためにも、複数人でミーティングしたほうがいいパターンもあるのかなと感じたりしたんです。

世古:本当におっしゃるように、アイデアを出すことが目的であれば複数人でいっぱい出して、コトを成すためにみんなでいろんなアイデア出そう、なんですよね。

そのアイデアを出すことで「人」の観点に持っていきたいのであれば、「こういうアイデアが出た背景って何があるんだろうね?」「どういう考え方をしてるから、こういうアイデアになるんだろうね?」と、アイデアを通じて「人」のほうに入っていくこともできるんですね。その時には1on1のほうがよりゆっくり話ができるので、どっちに力点を置くか。

森本:そうですね。どっちの目的かということですね。

前田:僕も、答えを言わないっていうのは一番すごく気をつけていて。「俺はこう思うんだよね」って言うとだいたい引っ張られちゃうので。別に僕が言ったから当たるわけでもなんでもない、みたいな(笑)。

森本:(笑)。たぶんどっちかというと1on1の時は、さっき世古さんがおっしゃったようにコトの目的ではなくて、その人の本質、中にあるもの、インサイトをどんどん深掘っていくことが目的。なのでアイデア出しだとしたら、ちょっと違う場面なのかもしれないなと思います。

参加者2:ありがとうございます。ちょうど最近そういう機会が生まれてきたので、アイデア出しというよりは、まさに3人のみなさんが言われた「その人がなんでやりたいのか」とか「新規事業をなんで起こしたいか」という、心のところがもっと1on1で聞き出せればおもしろいなと思いました。ありがとうございます。

前田:ありがとうございます。

月イチの1on1、1回あたりの目安時間は?

前田:さあ、いっぱい(質問が)きてますね。いきましょう。「月1回の1on1の時間はどれぐらいですか? 30分だと足りない時があるので1時間取って、45分で終わったらそれでよし、みたいにしてもいいですか?」とありますが、世古さん、いかがですか。

世古:決まりはないので私は30分を目安にお伝えしてますが、1時間デフォルトだとちょっと長いかなという感じがあります。15分だと、深掘っていくという意味ではちょっと足りないかなと思うので、30分ぐらいが1つの目安かなと思います。

人数が多い場合には、やはり30分で切ることを意識しておいたほうがいいと思います。そうしないと、話しているとけっこういくらでも話ができちゃうので。

次に予定を入れておくと、必然的に切らざるを得ないのでそうしたりとか、次に予定がある体にしておくとか。その中でできる範囲でやってみて、どうしても延長戦が必要であれば、また近い時間帯を取ってやるというふうにしたほうがいいかなと思います。

前田:ありがとうございます。

部下から愚痴が止まらない時の対処法

前田:質問がきてるからちょっといきましょうか。「中堅部下と1on1をしてると愚痴・嘆きになることが多く、吐き出しも大事かなと聞いてあげたい気持ちもあるのですが、彼らの後輩やさらなる部下に対する批判や愚痴が止まらず聞きがたい状態です」。

「対話では上司側として、ついそうした内容を避けたり、ポジティブに軌道修正したりする会話にしがちです。その結果、『そんなに前向きにはなれない。結局わかってもらえない』といった印象をつけてしまうこともあります。相手に話をさせたいけど言ってほしくない言葉が止まらない時、どうしたらよいでしょうか」。

森本:深いですね(笑)。

前田:いやあ、切実(笑)。これ、リアリティがあるな。世古さん、いかがですか?

世古:これもよくある話ですが、とにかく問題解決思考をいったん置いておくことです。「問題解決マシーン」って呼んでるんですが、上司ってとにかく問題解決をする、さっきの「指示・解決型」なんですね。

問題解決思考でいると、ネガティブな話をするのは問題なんですよ。問題であり、「こういうことを言うやつは問題だ」って思うわけです。それを解決しようとなると、今度は説得したり、「そうじゃなくてさ」とか抑える方向にいくわけですね。

ところが、この人がいろいろと言ってることは、コトの話を言ってるようで人のほうが問題なんです。納得いかないとか、これを解決したら本当に納得があるのかというと、意外とそういうことでもなかったりするということがあってですね(笑)。

とにかく、人の話の時に問題解決をやるとややこしい話になるってことなんですね。だからコトはいったん置いといて、人の話になる。じゃあ人の話はどうするかというと、すぐに問題解決にいかずに理解に努めることです。

だからおっしゃるように、聞くに堪えない話をいったん理解するということですね(笑)。

すぐに問題解決をせず、まずは理解に徹する

世古:理解するってことは、整理してあげるってことです。つまり「こういうことが気になってるんだ」みたいな、聞くに堪えないことも1回はちょっと聞く。

「けっこう厳しい言葉だね」とか返しながら、「いや、厳しいです。そのぐらい思ってるんですよ」みたいな話が出てくる。でも、そのぐらい思っているってことなんだという認識をしながら、とにかくその人の中にあることを1回洗い出して整理していくんですね。そこまで1回やらないと前には進まないし。

整理したり優先順位をつけたり、「○○さん、この中で何が一番気になってるの?」というふうに、その人の中にあることを整理してあげることで、その人がおのずと整理をしてくれる。

どれを解決すべきかとか、別に解決をしたいと思ってないとか、「ただ聞いて理解してほしかっただけです」とか、そういうことが見えてくる可能性が高くなります。

まずは問題解決しようと思わずに、いったんはただ整理していくところに努めていくということです。それがいわゆる「傾聴」だとか「アクティブリスニング」と言われている手法にはなってくるわけなんですが、その理解のフェーズがあるとすごく次に進みやすくなってくるので、まずは理解に努める。理解に努めるというのは、結局は整理していくということですね。

前田:なるほど。

「同感」と「共感」の違い

世古:モリチさん、こういう場面ってどうですか?

森本:今、世古さんがおっしゃったように、基本的に最初は全部受け止めですかね。そうやって言いたくなる、その人自身の中に眠ってるネガティブな思いがあるはずなので、それはいったい何なのかを全部吐き出させる。

その中で、どうしても譲れないものは何なのか、なんでこれが気になるのか。私はノートに図を描きながら整理します。

大概の場合は人の問題だったりすることが多いんですが、それを整理整頓している間に本人の中でも、「単に愚痴っぽく言ってることがそうじゃなくて、自分が気にしてることはこういうことなんだ」と、整理できてきたりするのかなと思うので。基本的には傾聴ですかね。「わかるよ、わかるよ」って受け止める、共感してあげる。

世古:ここで上司が恐れるのは、いわゆる「同感」と「共感」の違いの話なんです。「うちの会社、本当ダメじゃないですか」みたいな会社批判に対して、同感をしちゃうとちょっとまずいなってなるわけですね。

同感は主語が「私」なんです。「そうそう。俺もそう思うんだよね」「私もそう思う」というのは、やはりしたくない。共感は「あなた」が主語なので、「あなたはそう思うんだね」なんですね。

言葉で言うと「なるほど」なんです。「なるほどね。あなたのその状況でそう言われたら、確かにそう思っちゃうかもね(私は違うかもしれないけど)」なんですね。

つまり、気持ちも含めて私のことを正しく理解してくれれば、同感してくれなくてもまだ共感してくれれば、ちょっと胸襟を開いてくれるわけですよね。やはりそこのフェーズが必要になってくる。そうすると、相手の課題にしてあげられる可能性が出てくるんですよね。

対話を通じて部下の自己理解を促す

世古:問題解決で言うと、例えば人間関係の問題で「Aさんが本当に嫌なんですよ。あの人の話を聞いてると、もうやってられない」となった時に、どうAさんとうまくやっていかせるか。「じゃあ、俺がAさんにも言っとくからさ」みたいに引き受けちゃうと、すごく大変なんです(笑)。

森本:ややこしくなる(笑)。

世古:相手に「じゃあこうしなよ」と言っても、なかなかやってくれないとか。なんだけど、理解のフェーズをやっていった時に、その人のキャリアが握れているとすごくやりやすいんです。つまりAさんとの関係をどうこうというんじゃなくて、「Aさんみたいなタイプの人って、これからたぶんいろいろ出てくると思うんだよね」とか。

「これからマネジメントするようになったら、そういう人ともやっていかなきゃいけないわけじゃない。そういうタイプの人に対して、こういうふうになっちゃう自分ってどういう人なんだろうね」とか、自分自身の自己理解の解像度を高めるための1つの材料として使う。

「そういう人が出てきた時に、自分はこれからどういう能力が必要になってくるんだと思う?」「どういうものの見方をしていく必要があるんだろうね」というふうに本人の課題にしてあげると、(Aさんと)関係性が悪いということがちょっといい材料になるわけですよね。

これは問題解決をしてるわけじゃなくて、これを軸に自己理解を深めていくことをしてるんです。だから「コト」の問題じゃなくて「人」のことにしていることで、対応することが可能になってくるんです。

誰かに対する「批判」の裏側を把握する

森本:往々にして、相手の第三者のことをちゃんと正しく把握されてないケースが多かったりするかなと私は思っていて。

なので私は「○○さん批判」があったとしたら、「○○さんの立場で、実は彼なりにこういう立場があってこういう思いがあるから、だからこういう発信になったんじゃないの?」というふうに言ったりもするんです。

世古:なるほど。(批判する人は)一側面しか見れてないってことですね。

森本:そうです。

世古:その側面が見られることによって認識が変わるケースもありますが、「この人、私をそういうふうにして、私の言ってることを変えようとしてるな」みたいな意図が見えると、ちょっと反発する可能性もあります。

森本:うん、そうですね。

世古:だから関係性にもよるけど、おっしゃるように事実としては一側面だけとらえてやってるわけなんですね。でも、その見え方からは、言われて頭ではわかっても腹落ちしてすぐやってくれないケースがけっこう多いんですよね。

この人は見たいようにしか見たくないから、そのケースを手放したくないんです。そういうふうに見ることで相手を悪者にできるし、離れたくないなんていう感情もあったりするので、ちょっとややこしかったりもします。

前田:「同じタイプの苦手な人が出てきて、毎回同じような嫌な気持ちになると疲れちゃいます」みたいなコメントもありますが、そうですね。(質問者からのコメントで)「人間関係トラブルの解決を引き受けてしまいがち」。

森本:(笑)。

前田:「いけないいけない、危ない。非常に実践的なアドバイスありがとうございます」。長女気質が強いんですかね(笑)。

森本:きっとそうなんでしょうね。こういったこと、なんか私のところにはあんまりこないんですよね(笑)。

前田:ふだんから解決しないオーラを出しとくっていうのもありかもね。「私に言ったって意味ないからね」みたいな(笑)。

森本:「ないからね~!」みたいなね(笑)。

世古:(笑)。

前田:「聞いてあげるけどムダだからねー」みたいな。

森本:「意味ないな。自分で処理するしかないな」みたいな感じで終わっちゃうかもしれない。

前田:はい、ありがとうございます(笑)。

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