人事領域の専門家の株式会社壺中天 代表取締役の坪谷邦生氏と採用市場研究所 所長の秋山紘樹氏が、毎回ゲストを迎えてトークセッションを行う「採用入門」シリーズ。今回は、人事の初学者の方に向けて、経営層に特化した社外採用活動「エグゼクティブサーチ」について、エゴンゼンダー社の前東京オフィス代表・丸山泰史氏にお聞きします。前編は、知られざるエグゼクティブサーチの実情について語りました。
社長やCxO、社外取締役に特化した採用活動とは
坪谷邦生氏(以下、坪谷):今日はエゴンゼンダー社の前東京オフィス代表である丸山さんにお伺いします。まず「エグゼクティブサーチ」について、人事の初学者の方に向けて教えていただけるとうれしいです。
丸山泰史氏(以下、丸山):わかりました。エグゼクティブサーチは、その名のとおり、「エグゼクティブをサーチする」ということで、企業活動に必要な人材のうち、特に経営層に特化した社外採用活動のお手伝いです。
もっと具体的に言うと、社長のサーチも含みますし、あるいはそれを取り囲む経営陣としてのCxOや役員級の方々が一番のコアになってきます。最近はさらに、ノンエグゼクティブダイレクターの社外取締役のサーチも含まれます。
ポイントとしては、仮に組織をピラミッドとして置いた時に、トップに近いところを司る方々のサーチをお手伝いすることが、エグゼクティブサーチの対象領域ですね。もともと外から人を引っ張ってくるという概念は、古くはそれこそ三国志の時代から引き抜きがあって。
坪谷:はい。
丸山:そういうところから来るような話だと思うんですけど、ビジネスという意味では、やはりアメリカ中心に発達してきたものだと聞いています。確かマッキンゼーやA.T.カーニーも、70年〜80年前に戦略コンサルをしながら経営者紹介のような事業をしていました。
ただ、それと経営コンサルとは両立が難しいということで、分化して生まれてきたのが、今のエグゼクティブサーチトップ5と言われるところのいくつかだったりします。おそらく戦後を中心にトップ層を他社から招聘することに特化した業態が生まれてきたと思います。
極秘で行われる、経営者候補探しの裏側
丸山:社外からの採用というといろいろなフォーマットがあります。エグゼクティブサーチの場合は、非常にコンフィデンシャリティが高いので、大っぴらに公開して探すというより、「どんな人材が必要か」ということを丁寧にセットして見極めた上で、水面下で探すかたちになります。
たまに「社長公募」もありますが、ほとんどは極秘で経営者候補を探していきます。例えばエゴンゼンダーなどのファームにはデータベースもありますけど、すごくオープンなデータベースがあるわけではありません。
それ以上に、周囲からの評判やインナーサークルでのネットワークをもとに人材を見いだしてきたり。積極的に求職されている方の紹介ではなくて、今活躍している方を、ある種がんばって引き抜くようなところも含めてやっています。対象が特殊ゆえに、アプローチも特殊な領域かなと思いますね。
坪谷:知らない人にはまったく見えない領域ですね。教えていただいて、ありがとうございます! 人材を見出すときにも「評判」というキーワードが出たことにおもしろさを感じました。
以前、『採用入門』執筆のためのインタビューで、田中洋先生に
採用ブランディングの話をお聞きしてきたんです。そこでは、採用ブランディングを突き詰めると、企業の「いい評判」を立てることに尽きるという学びがあったのです。
私も以前、ベンチャー企業の急成長期に、人事の立ち上げをしたことがあります。その時は経営者層の採用の人事担当にできることはあまり多くなくて、創業者たちが自分の知り合いから当たっていくことが効果的だと感じていました。
エグゼクティブサーチは、実は求人側の採用担当者が重要
丸山:なるほど。確かにそれはスタートアップも大企業でも似たところがあって、必ずしも知り合いとは言わないものの、閉じた世界の中でというのがあります。人事担当の方からすると、ある意味、直接触れないような、コントローラブル感が少ない領域なんだろうなと思います。
とはいえ同時に、私たちが実際にエグゼクティブサーチをお引き受けして動いているなかで、人事の方の存在がすごく大事だとも感じます。やりにくさで言うと、知り合いづてに探すかどうかは別にしても、CEOマターなので、CEOが動いてくれないと経営層の採用は動かない。CEOが納得するかどうか、どれだけコミットするかはすごく大事です。
そういうところは、通常の採用よりもCEOの存在が重要だと思いますけれども、CEOが本気になればうまくいくということではまったくなくてですね。うまくいくケースは、経営者と人事がすごくうまくコラボして、人事が決められなくても、うまくCEOに問いを投げて、何を求めているかを我々と一緒に言語化していただいたり。
トップクラスの採用となると、まず探すのも大変なんですけど、見つけた候補者にしっかり説明して、口説いて来ていただいて、うまく入っていただく。細かなところも含めて、一連にものすごくいろんなケアが必要になるんですよ。
例えば社長とその方の面談をどこでどういうふうにやるかというところ一つとっても、ちょっと間違えるだけで掛け違いが起こりますし、逆にうまくいくとすごくかみ合います。いかにすばらしいエグゼクティブサーチファームがあったとしても、外部だけでは絶対にできなくて、うまく組織内でトスアップしつつ、こちらを動かしてくれる人事の方がいるかいないかで、もう完全に成否が分かれますね。
経営者・幹部採用で採用担当者に求められること
坪谷:そうなると、そういうポジションの人事にはどのようなことが求められるのでしょうか? 自分自身とCEOとの信頼関係があり、CEOとエグゼクティブサーチ、CEOと候補者とをうまく橋渡しする必要はありそうですよね。
丸山:そうですね。必要そうなところを挙げると、たぶんすべての採用がそうだと思うんですが、人ありきというよりは、まず戦略やニーズありきだと思っています。
厳密に人事の方がシェイプできる必要はないかもしれないですが、少なくとも「どんなニーズがあるのか」「何が求められるのか」をちゃんと捉えて行動できることは、すごく大事だと思います。まずは、そういった経営目線が必要です。
あとは、本当はサーチ活動に関わるいろいろなツボを知っておいていただきたくて。根本でいうと、EQみたいなものがすごく問われるんだろうなと思いますね。
学ぶ力とオープンマインド
秋山紘樹氏(以下、秋山):サーチ活動の中で、人事の方が学んだほうがいいことについて、もう少し具体的に教えていただけないでしょうか?
丸山:そうですね。そこをご説明するにあたって、コンテクストを1つ足させていただくと、スタートアップもそうかもしれないのですが、大企業側から言うと、エグゼクティブサーチって滅多に発生するものじゃないと思います。
それは日本の特殊性もあって、エグゼクティブクラスの人材マーケットがそんなに成熟していないんです。「採ろう」と言っても候補者はそうそういないし、あるいは外から経営陣を採るというのは、特に大企業の場合は大きな話になるので、なかなかないんですよね。
そもそも外部からの経営層の招聘の経験値が豊富な方がほとんどいないのが、日本の現状だと思います。初めてのことで過去のやり方をそのままやりましょうというのは通用しにくいがゆえに、まずは「学ぶ力」がすごく大事になります。
さらに、どの採用もそうですが「未知との遭遇」みたいな要素がすごく大きくて。文化が違う人を持ってくるとなると、いろんなハレーションがあったりでインテグレーションにすごく苦労されますけど、特に経営陣では影響が出やすいと思っています。
例えば、お招きする相手の方にどう接すればいいかというスタンスも、企業によってぜんぜん違っているんですよ。よくある失敗は、自社流をそのまま押しつけてしまって、候補者側からするとすごく失礼な会社だと思われてしまったり。
秋山:なるほど。
丸山:そうすると候補者側に自分のことをわかってくれないと思われてしまうので、我々が間に入って、「こういう方をお招きする時はこういうことが大事です」と申し上げるんですね。その時に、学ぼうとして聞く耳を持ってうまく適合してくださるところはうまくいくんですけれども。
ちょっと自分流が強くて、「いや、うちはこういうやり方なので」というふうになってしまうこともあります。我々も、それはそれでその会社のやり方として尊重するんですけど、やはりうまくいかないところがあってですね。そういう意味で、特にオープンマインドが大事なのかなと思います。
経営人材の採用に求められる「感度」の有無
秋山:今のお話を伺って、外部から経営人材を招聘する場合は、経営陣と人事部門の連携が極めて重要だと感じました。しっかりと連携ができていないと、候補者体験を損ね、企業のレピュテーションが下がってしまう。
ただ、このような経営人材の採用に慣れている人事の方が社内にいらっしゃれば良いのですが、現実的にはそう多くないと思っています。そうなると人事部門に案件を任せることに躊躇してしまうケースがけっこう多いのではないでしょうか。
丸山:まさにそういう会社さんもあると思います。それは経営者の方に感度があるということだと思うんですが、実はとてもいいことでもあって。スタートアップの経営者の方は、やはり自分で事業を立ち上げていて肌感があるから、「そこは自分がちゃんとやらなあかん」と言ってやるのは、もしかするとむしろいいことかもしれません。
秋山:確かに。
丸山:一方で、経営者にはそういった感度があまりない方もいらっしゃって、無意識に「外から来る人なんて」と下に見たりしてしまい、うまく機能しないこともあります。
そこにサーチエージェント側だけでなく人事側が食らいついていくと、よりいい感じになると思います。1人でもそういう感度のある方がクライアント組織にいらっしゃることを願いながらお手伝いしている感じですね。
GAFAMなどはエグゼクティブサーチを積極活用
坪谷:お話をお伺いして、私自身はこれまで自前で採用しようとする会社にいたんだなと理解できました。私が人事だった頃に、過去に何度かお付き合いしていたエグゼクティブサーチもあったんですけど、当時はあまり成果を上げられなくて。結局、社長の知り合いを社長とともに口説いたほうがうまくいったんです。
丸山:そこで言うとですね、実はまさに今、スタンフォード大学で過去のアカデミアの研究などもひもといていまして。
特に、エグゼクティブクラスを外から採用する時の入社チャネルが、エグゼクティブサーチファームを使うのか、元からの知り合いなのかで言うと、わずかながらも知り合いづてのほうが成功率が高いようです。
もともと経緯を知っている関係性があることが、おそらくインテグレーション上、本当に大事なんだと思います。実は、そういうふうにいい人を連れてこられるなら、エグゼクティブサーチなんてしなくていいんじゃないかなというのは真摯に思いますね。
坪谷:一方で、私がいろいろな企業を支援させていただいている中で出会った経営者は、必ずしも、バイタリティに溢れていて人をガンガン連れてきますというタイプの方ばかりではありませんでした。むしろそういうところが苦手な方のほうが多いかもしれません。

ただ、苦手なのは人を連れてくることだけであって、経営者としては優れている方々が多かったんですよ。
丸山:そうですね。たぶん我々が一番力を発揮しやすいのは、そういうパターンだと思います。例えば経営者の方は事業センスがすごくあって、すばらしいビジョンを持っていて、突破力もあって、人が大事だと思っている。でも、人を見立て、採用するところは苦手だという感じだと、すごく補完関係が利きやすくなりますね。
ちなみに日本の例ではないんですけど、私が今いるシリコンバレーのGAFAMの急成長期や、一時期中国系の企業が一気にグローバルテックにキャッチアップしようとした時は、弊社の海外の同僚など、エグゼクティブサーチファームを使い倒したと聞いています。
やはり高いビジョンを実現しようとすると、人材がすごく大事になります。特に手なりでいくのではなく大きく飛躍しようと思うと、ドライバーとして思いきり経営人材採用のアクセルを踏むのは、とても大事です。ただ、そこまでやっている日本企業さんはまだまだそんなにないかなと思います。
エグゼクティブサーチを使う際の一番の成功パターン
秋山:国内にもいくつかエグゼクティブサーチファームがある中で、世界ではエゴンゼンダーを含む5大サーチファームと言われているものがありますよね。そういった状況の中で、経営陣から「今期は経営人材の採用を積極的に進めていく!」というメッセージが示された際に、人事部門としてどのように対応していくべきか。
例えば、エグゼクティブサーチファームへの相談を検討する場合、どのようなタイミングで、どのような観点で判断すればよいのか。また、各サーチファームの特徴や強みを理解した上で、自社の求める要件や状況に最適なパートナーを選定することも重要になってくると思います。このあたりは、実際に経営人材の採用に携わる方々が悩まれるポイントなのかなと思います。
丸山:確かにそうですよね。ここは大事な問いですし、むしろサーチファームを使ってくださっている側の方がどう見ているのかは聞いてみたいな、と思いながらなんですけれども。
大きなコンセプトとして1つ思うのは、特にエグゼクティブの採用になればなるほど、経営者と探す人間の関係性や相性が大事だということです。コンサル業界ではよく「ファームに頼むというよりこの人に頼むんだ」と言われますけど、そういう感じがすごく強い気がします。
逆に使われている側からしても、「エゴンゼンダーだから頼んだ」と言われるよりは、サーチコンサルタント、いち個人として、経営者の人となりを理解して、「この人はこれをやりたいんだ」とよくわかった上で、「だからこういう人を探してほしい」と感じでかみ合った時に探しにいくのが、一番うまくいくパターンだなと思います。
例えば、ある方の紹介でお話しした経営者の方とすごくかみ合ったというケースもあります。当初、ぜんぜんサーチはしていなくて、5年ぐらいいろんなかたちでお話しする中で、だんだんかみ合っていって、いよいよ「丸山さん、ちょっとお願いします」となることもあります。
やはり、採用オーナーの方との信頼関係ができると「あなたに探してほしい」というふうになるので、それがよくある王道パターンという感じですかね。
「人の見立て」を任せられる相手かどうか
秋山:なるほど。イチからサーチファームを探すのももちろん重要ですが、経営陣がそもそもどういうネットワークを持っているのか、信頼できる方はいるのか、などを確認するというのは大きなポイントなんですね。
丸山:そうですね。そこはお互いに見極めている気がします。やはり経営者の方も、人の見立てという、ものすごく大事な判断のかなりの部分を委ねる感じになると思うんですよね。
自分に見立て力があるとは思えないという経営者の方もけっこういらっしゃるんですが、「丸山さんが言うんだったら、そこは信じるよ」というふうに使っていただく場合も多くて。
ただ、そう思っていただくまでにはいろいろなことがありますし、逆に言うと、我々からしてもそれはすごく大事なプロセスなんです。
なぜなら、お声掛けをする対象のエグゼクティブの方に、どれだけ魅力的にその会社のことを口説けるかというと、ポッとできた関係よりは、深い関係ができているほうですよね。
「この経営者の方は5年前にこんな苦労をされて、でもここでターンアラウンドしていて、今はこういう経営陣を作ってこういうことをしたいと言っているんですよ。だから……」と言えるかどうかはすごく大事なんです。
そういう人間ドラマがいろいろある中で使おうとなるし、そこまでいくと、本当にいいサーチができていい採用になって、いいかたちに進むという感じですかね。
坪谷:サーチ自体は発揮している価値で、ある種の出口でもありますが、実はその前段となる関係性や深いやり取りこそが真の核ということですね。
丸山:まさに、そういうことだと思います。