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成長領域への投資はどうやって決めるのか。(全3記事)

あえて会社の脅威になるビジネスに投資するDMM亀山会長 既存事業を破壊する新規事業で雇用を守る策

300社の最新スタートアップが一堂に会する展示会Startup JAPAN EXPO。カンファレンスステージでは、スタートアップに関する最新トピックから、大手事業会社が取り組むオープンイノベーション事例まで、第一線で活躍する登壇者たちが語り合いました。本記事では、「成長領域への投資はどうやって決めるのか。」をテーマに掲げた本セッションでは、DMM会長の亀山敬司氏が登壇。同氏が注目する成長分野や、多角化戦略のヒントをお伝えします。

多角化戦略に欠かせない仕組み

田村菜津紀氏(以下、田村):ありがとうございます。スタートアップの方もいると思うんですけど、スタートアップ視点でDMMさんと一緒に何かやりたいといった時は、どういう窓口に行ったらいいんですか?

亀山敬司氏(以下、亀山):会社のHPに申し込んでもらえれば。一番いいのは、「一緒にやりましょう」となって買われることだよね(笑)。あとは、先ほど言ったようにうちが51パーセント持つのが1つ。どちらにしても、M&Aしてガッツリ追加投資して一緒にやるようなもの。

あとは単なる取引として、例えばBtoBのモデルだったら、「うちも同じ領域のBtoBサービスをやっているから営業代理店してください」とか、業務提携みたいな話かな。「このサービスで連携しましょう」とか、取引は普通に申し込んでくれたらいいかなと思います。

田村:積極的に声を掛けに行ってもいいかもしれないということですね。

亀山:そうね。声を掛けに行ったら、パクっといかれるぐらいの覚悟で来てもらいたいという(笑)。

田村:(笑)。よくわかりました。あと、やはり多角化戦略を実現していく上での、不可欠な社内の仕組みや制度。今ちょっと話に出ていない部分で、「こんな制度があるから実現できているんだよ」というものがあれば、うかがいたいです。



亀山:ビデオレンタルをやっていた頃から、インターネットとかどんどん事業が変わってきたと言ったけども、仮にDVDの販売をしていた部署があったとした時に、その部署に「これからはインターネットをやれ」と言うのは無理があるので、新しいことは別組織でやるしかない。

つまり、例えばDVDとかビデオみたいな事業をインターネットが潰す可能性があるという時には、潰されたくない側は抵抗するし、「そんな時代は来ないよ」とずっと言っているわけよ。そういう時代が来てほしくないというのが、頭の片隅に常にあるからね。

だから、それはまったく別組織で別の考え方でやっていくしかない。例えば出版社で紙に思い入れがある社員に電子書籍をやらせようとしても、無理がある。

対抗勢力と言ったら変だけど、万が一こっちの時代が来たら、一方が危機になるよというものが、これからいっぱい出てくる。AIにしても、AIを使って人件費を減らそうとするプロジェクトが、人がやってるカスタマーサポートの部署ではできないし。

今あるビジネスを滅ぼす可能性のある事業は別会社で

亀山:今あるビジネスを滅ぼす可能性を考えると、例えばweb2に対してweb3、クレカや銀行決済に対して、ビットコイン決済やステーブルコイン決済みたいなのがあると思うんだけど、そういったものは別会社でやるということをまず前提にしておかないと、ほぼほぼうまくいかないかなと思います。

田村:やはり同じ組織の中だと、ハレーションとしてカニバリが起きてしまうから、最初から別会社にしてやっていくということなんですね。

亀山:会社的に別にできなかったら、せめて組織は完全に分けてしまう。もちろん財布は一緒なので、変な話、DVDで稼いだお金でインターネットを伸ばす。言い方を変えると、稼いでるDVDを衰退させるために、インターネットをがんばるという話になるわけです。

そうやって別々に動いていった時に、どうしてもこっちは成長するけど、こっちは落ちるという話になってくるから、その時は業績が落ちている事業の人間たちの雇用を成長している側で引き受ける。

あえて会社の脅威になるビジネスに投資していく

亀山:つまり、うちがやらなくたって、どのみち滅びる時は滅びる。なので、そのためにあえて対抗勢力側の事業を作っておけば、もともとの事業部が駄目になった時にもその人達の雇用を新しい事業部で引き受けられる。

コロナの時にうちのビデオレンタル店も潰れたけれども、その人間たちが今、例えば3Dプリンターの事業の工場へ行ったりしているので、そうやって雇用を守ろうと思えば守れます。なので、そういうふうにむしろ自分たちの脅威になるビジネスに投資していくのが一番の正解かなと。

要は会社って生き残るためにやっているので、雇用を守りたいなら、いかに営業マンにその時代に合わせた売れる商品を渡してあげられるか。優秀な営業マンだとしても、いつまでも売れない昔の商品、例えば今だったら、本を売ってこいとか言われても売れないですよと。

だったら、代わりに太陽光を売ってこいとか、蓄電池を売ってこいとか、まったく違う分野でも、どんどん売り物を変えてあげれば、優秀な営業マンは活かしようがあるということです。

実際、DVDでトップセールスになった人間は、太陽光を売ってもやはりトップセールスになれたりする。そういった意味で、財務だろうが何であろうが、今後1つの業種でいくのはけっこう厳しいというか、10年ぐらいでサイクルはどんどん変わってくる。

例えば建築とか流通とか、昔からけっこう長くてまだ何十年持つビジネスはあると思うけども、少なくともここ数年でできたビジネスで、数年で伸びたものは、数年で滅びるぐらいに思ったほうがいい。なので、その時その時でどんどん新しいものを作り続けるしかないかなと思います。

100倍の給料格差があるDMMで終身雇用を

田村:本当にそう思います。ただ、やはりこれだけいろいろなことをやっていると、当然カニバリが起きて、イノベーションのジレンマもみなさん苦労されていると思います。その価値観は、社内でどうやって醸成されているんですか?

特に役員のみなさんとか、亀山さんと同じように考えられる人がたくさんいないと、今の考え方は成り立たないのかなと思っています。

亀山:そうだね。失敗しても、基本給料は下げないというかたちで、成功したら上げてやるっていうのが、まずわかりやすい価値観というか。失敗を恐れないし、みんなのやりがいになる。ただ、うちの会社もいろいろな価値観を持っている人がいるので。今ある事業の経営をしっかりやっていく人もいるし、新しいことをやりたいという人もいるので、けっこうばらばらです。

最近だと、DMMに入社したら生活が安定するんじゃないかという勘違いも生じてきた。うちは実際、ある意味安定はしているというのは、そういうふうに新しいことをやっていくから、「次の時代にも生き残るかもね」というのはあるんだけども。

実際、定期昇給でもないし、年功序列でもないので、ある意味実力で得た成果を測るというか。そういった意味で、できれば終身雇用にしたいと考えています。でも一般的な終身雇用ではなくて、実力もちゃんと採り入れた終身雇用です。

ある意味、本当の意味で仕事ができる力をつけなきゃうちにいる意味がないし、言われたことだけやるぐらいなら、公務員になるか、もうちょっと大きいところのほうが待遇がいいので、ミスマッチングだからむしろ来ないほうがいいという感じですね。

マネジメントであれ、営業であれ、財務であれ、エンジニアであれ、本当の仕事力さえ身に付ければ、扱う商品やサービスに拘らず、時流に合わせた方が、本当の安定が手に入ると思います。

田村:なるほど。裏側には、ちゃんと人事制度も相まって、評価されるような仕組みがあるということですよね。

亀山:なので、うちはけっこう給料格差も100倍ぐらいあります。

従業員向けに「持株会制度」を始めた理由

田村:いや、わかります。本当に私も、かつて大企業で新規事業をやっていた時に、いろんな事業を起こすものの、結果的になかなか評価されなかった人材がスピンアウトするみたいなこともしょっちゅう起きていました。

大企業なので、メインの事業部門以外のところから出てくるような人材って、実は壁際社員と言われるような方だったりして。良い人をちゃんと連れてきて、評価できないと、難しいなと私も思っています。

亀山:そこは前提としてやるべきだね。一方でうちは従業員向けに「持株会制度」を始めました。純資産金額を元に算定した株価で株を売るので、会社の社員たちがうちの株を買っておけば、会社の成長とともに、退職する頃には自分が積み立てている分は利益になるよという感じにしています。

これに関しては、ある意味セーフティネットじゃないけど、長く会社にいる社員たちのおかげで今の成功があるので、「株を買っておいたらお得ですよ」という制度を新しく始めましたね。

田村:なるほど。そうやって「社員に株を渡そう」と考えられたきっかけみたいなのはあるんですか?

亀山:そうだね、長く(経営を)やっていた人間だけど、どうしても歳とともに衰えてくるわけよ。ITとかについていけなかったり、規模に追いつけないことはどうしても出てくる。

同じように、最初のビデオレンタルの頃からがんばってやってくれた社員がいたことで現在成長している一方で、ついていけない部分があって成果がでない社員のポジションをそのままにしておくと、会社がおかしくなるから変更するし、待遇も変わってくる。

でも彼らが当時から株を持っていれば、株価に関してはたぶん何百倍かになっていたと思うので、長く働いていることも貢献とみなして渡してあげたほうがいいという考え方ですかね。ただ、実はビデオレンタルの頃にも「みんな、持株会をやるから持たない?」と言ったんだけど、「いや、現金がいいです。株はいりません」とか言われたんだよね(笑)。「この会社は将来性がわかりません」って言われていた(笑)。

田村:悲しいですね(笑)。

亀山会長が注目する成長分野

田村:じゃあ、最後のテーマに移りたいと思います。今、亀山さんが注目されている成長分野はズバリどこでしょう?



亀山:成長分野かは分からないけどDMM花火(笑)。 日本でそういうのをやるのは利益率も薄いんですが、もしかしたらドバイとか海外に日本の花火を持っていくのも可能かなと。「グローバルを狙っちゃいましょう」みたいな。

日本からグローバルを狙おうと思ったら、日本ならではの錦鯉か盆栽か花火のほうが、強みがあるかなと思って。日本独自の特異性がなければ、グローバルはなかなか狙えないじゃない。

あと、「湯道」っていう、「お風呂の道」みたいな文化を世界に広めて「日本に温泉に入りにおいでよ」とか、TOTOとかと組んで、日本のバスタブをあちこちに売りにいこうとか、いろいろ考えたんだけど、なかなかうまくいきません(笑)。

田村:(笑)。おもしろい。

投資は3つの要素でだいたい決まる

亀山:最近オンラインクリニックに力を入れています。あとはみんなが注目しているAIとか。逆にweb3はこの間やめました。自社のトークンを発行予定だったけども、ちょっと事業環境が変わってね。別にweb3が悪いわけじゃないんだけど、まだ5年、10年先の話になってきたと。

投資はどうしても、ビジネスモデルがいいか、それをやる人材がいいか、あとは資金が足りるかという、3つぐらいの要素でだいたい決まる。この3つが掛け算になって初めてうまくいくので。

例えば、ビジネスモデルはいいし人材もいるからといって、楽天みたいにキャリアをやりますかというと、あれは何千億円要る。うちは何百億円なら出せても、何千億円は無理だとなったら、そのビジネスには行かないよね。

田村:確かにそれはそうですよね。

亀山:また、資金的な問題はないし、ビジネスモデルも良かったとしても、やはりスタッフ全体の組織力が弱かったとしたらうまくいかない。それで言えば、実はうちは「DMMのお葬式」という、今で言う「小さなお葬式」みたいなものをやっていたんです。もう潰れたから誰も知らないだろうけど(笑)、スタートアップを買収して、それをうちの社員で立ち上げをしようとしました。

でも、これは組織力が弱かった。モデルは良かったし資金も問題なかったけども、小さなお葬式をやっている人のほうが、やはりマネジメントがうまかったということかな。あと、そもそもビジネスモデルが駄目なものは、どんな人材、資金を突っ込んでも駄目。

いろんな偶然やライバルの出現も含めて、この3つが成立した時にうまくいくっていうのが、新しい起業のスタイルかなと思います。

ニッチな市場でもトップシェアを取ることが大事

亀山:あとは、この業界なら資金的なものとか、うちらの人材的なものも含めたら、トップシェアをとれるかもしれない所にいきます。やはり1位と、2位、3位ってけっこう違うんです。

例えば10兆円の市場で1,000億円を取るぐらいなら、2,000億円の市場で1,000億円を取るほうが、絶対に収益性はいいわけです。つまり、市場シェアの問題の中で、ニッチな市場でも、その中で何割取れるかというのが大事かなと。その意味では、まだどうなるかはわからないけども、EV充電器の事業も力を入れています。

どこが伸びるかについては、うちらの場合はそういう考え方をしますけど。会社によっては、例えば物流をやっている、建築をやっている、メーカをやっているから、この分野が勝てるとか、まったく違う見方になるかなと思います。

うちらみたいに、特に業種も問わず何でもやる、シナジーも考えないという考え方だと、どちらかというとまずその市場で何割取れるかと、自分たちの資金でどこまでいけるか。あとはモデル的に、今までにない画期的なモデルがあるかどうかという話かなという気がします。

「世界を変えるのは認識ではなく行動」亀山会長からのメッセージ

田村:ありがとうございます。成長領域を見極めるに当たっても、やはり自社のリソースであったりアセットをちゃんと見極めた上で、投資するべきところを投資していくという考え方なのかなと、あらためて思いました。ちょっと時間がもうなくなってしまったので、亀山さんのように事業を成功させる秘訣について、最後にみなさんにメッセージをお願いします。

亀山:じゃあ大手企業の方には、「金を出して、口を出すな」というのがまず1つ(笑)。あと、スタートアップの人には、ここにはけっこう勢いのある人間が集まっていると思うんだけども、四の五の言わずやればいいかなという感じです。

どうせやっても思いどおりにいかないから。ピボットって格好良く言っているけど、基本的に失敗という話だから。失敗しながら、そのうち運が良ければうまくいくでしょう、というところかな。

俺も偉そうなことを言っているけど、8割〜9割は運です。その時の時流でいけるかどうか。もちろん時流が早すぎてうまくいかなかったこともあるし、遅すぎてうまくいかなかったこともあるけど、たまたま時期的に良かったし、人材にも巡り合って、資金的にもなんとかなったのが何個かできて、運良く生き残りました。

今は「10本やって1本当たれば御の字だ」とか言っているけども、正直言ってスタートアップの頃は、1本やって1本外れたら、それで死んじゃうこともあるので。そこをうまく生き残ってください。そして、ある程度資金にゆとりができた時には、俺みたいに「10本やっても1本当たれば、投資をやり続けますよ」みたいな考え方もあるのかなと思い出してください。

今日俺が言ったことは話半分に、あまり真に受けないで、あちこち目移りせず、目の前の事業に集中して1個1個丁寧に仕上げて、しっかりとやってもらえたらいいかなと思います。ただ、「世界を変えるのは認識ではなく行動だ」という言葉で締めくくりたいと思います。どうもお疲れさまでした。

田村:失敗するかもしれないけど、やり続けるということですね。事業投資の考え方について非常に多くを学ばせていただいた時間でした。亀山さん、本日はありがとうございました。

(会場拍手)

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