300社の最新スタートアップが一堂に会する展示会Startup JAPAN EXPO。カンファレンスステージでは、スタートアップに関する最新トピックから、大手事業会社が取り組むオープンイノベーション事例まで、第一線で活躍する登壇者たちが語り合いました。本記事では、「成長領域への投資はどうやって決めるのか。」をテーマに掲げた本セッションでは、DMM会長の亀山敬司氏が登壇。600もの事業に挑戦してきた同氏が、事業撤退の判断軸をお伝えします。
事業の撤退のタイミングはどう見極める?
田村菜津紀氏(以下、田村):じゃあ今の観点で、実際にやってみたあとの話を少しうかがいたいと思います。実際に広く浅くでもバーっと新規事業に取り組んでみると、中には当然失敗するものもあるし、失敗しそうだなというものが出てくると思うんですよね。その時にどうやって「これはやめるべき」という判断をするのか。
亀山敬司氏(以下、亀山):新規事業では、5年間計画が立っていたとして、1年間の計画がまずはある。だから「その計画どおりにいっているかどうか」という、すごく単純な話かな。
1年目は赤字でもいいんだけど、「それまでに会員を10万人にします」というのが5万人しかいっていなかったら、「5年後も100万人の予定が50万人しかいかないよね」という話になるだけ。だとしたら「その投資額に見合う利益は取れないよね」とわかりやすく判断ができる。
田村:なるほど。どの事業も、最初からわりと早めにファイナンスの計画をしっかり引いているんですね。そのマイルストーンをちゃんとクリアできているかは、亀山さんご自身が担当者と顔を突き合わせながら見られているという。
亀山:うん。だから、やるやらないの議論はすごく短くして、少なくとも半年〜1年の予算でやらせてみるほうが早い。
(やる前に)1年間で予定の数字がいくかどうかは、どんなに分析してもほぼわからない。実際に動かしてみたら、会員が増えたり増えなかったり、売上が立ったり立たなかったりという世界だから。調べるのに1年かけるんじゃなくて、せいぜい1ヶ月調査で、あとは1年間実際にやったほうが価値はあるかなと思うね。
時々コンサルタントが「市場規模が何兆円だから何パーセント取れていくらになります」と言っているけど、あんなもの意味がないから(笑)。実際、市場規模がいくらであろうが、その何パーセントを取れるかなんて誰にもわからない。途中でライバルも出てきたりもするしね。
状況がどんどん変化する中では、コンサル的なロジックを組めたとしても、実際はどうせそのとおりにはいかない。だから、やりながら「実際に思ったように売れたな」「ぜんぜん売れなかったな」という話が現実的。その実験に対していくら投資するかの判断になるかなと。
自社立上げ事業の場合だと、はじめに人件費やマーケティング費を使っても、これはほぼ経費になる。税引前の投資になるから、利益確定後の投資よりは黒字企業にとっては有利性がある。つまり同じ額でも1.5倍ぐらいの投資ができる。
もし失敗したら経費にしちゃえばいいんで、ほかの事業の黒字と合わせて税金の控除を受けてやっていくという考え方ですね。
新規事業を起こすための採用のポイント
田村:ありがとうございます。本当に勉強になるお話ばっかりなんですけど、次は「実際、事業計画を策定できる人材がどれだけ会社の中にいるのか」という話をうかがいたいです。
DMMさんではわりと新規事業や事業を起こす人を採用されているかと思います。採用ページもガツンと打ち出されていたんですけど、そのあたりは工夫されていらっしゃいますか。
亀山:採用に関しては、ここでこんなふうにしゃべっているのも採用目的が半分。あとは事業提携やM&Aの話をやりやすくするためという、極めて不純な目的でここに来ております。みなさんのためを思って来ているわけじゃないです(笑)。
こういうふうにしゃべってると「新しいことができそうだな」という人たちが集まってきやすくはなる。例えばうちが今回「AI事業をやります」「ドローンをやります」という話をすれば、そういったスタッフが「あそこならAIもやれるのかな」と思って集まってくるかなと。そういう客寄せパンダ的な広告塔で、人を集める目的も含まれているんですね。
あとは来た人間に実際にチャンスを与えないと、結局すぐに逃げちゃうから(笑)。そういった人間たちにいろいろやらせてみる。もちろん1年やってみてダメだったと思ったら、そのポジションは外すけど。そうやっていくとチャンスを貰った人たちが「DMMで新しいことができるから、みんなも来いよ」と……リファラル採用で新しい人たちがやってくる。
いくら宣伝しても、実態が伴わないと結局意味がない。「ちゃんとやれますよ」という実態も伴うようにしています。もちろんうまくいった人間はそんな何人もいないけど、仮に失敗したとしても1回やらせてくれるだけでも……という人は多い。そうやってチャンスをあげていけば、徐々に人が集まってきます。
だからここ10年ぐらいの新規事業は、ほぼ若いやつから集まった案件。若いやつがほかのスタートアップと話して決めたM&Aだったり、自分たちでやりたい事業を持ってきたり。どちらかというと、それを決裁するのが今の仕事ですね。だから最近はほぼ自分で考えていません。
“起業が向いている人”と”経営が向いている人”は異なる
亀山:ついこの間もドローンの開発会社をM&Aしてドローンの点検事業をやる話がきていたかな。そういうのも若いやつがどんどん持ってきていて、規模的にはせいぜい売上10億円で1億円ぐらいの利益が限界なものもあるんだけど。
それでもやらせてみて、うまくやれた人間にはまた10倍の予算を出せるし。だからよく規模を聞かれるけど……。
田村:あっ、そこはすごく聞きたかったです。今、10億円と言っていましたけど、どれぐらいの規模、サイズで持ってきたらGoになるんですか?
亀山:はい。仮に売上10億円で1,000万円の利益という規模でもOKな時はOKだし。もちろん100億円で10億円、もっと上の話でもOKだけど。
少なくとも人材は育つから、小粒でも一応やらせてみるのはアリかなと思っています。やってみて黒字であれば続けられるし。別に20~30人の組織であっても黒字で続けていくなら、それはそれで価値がある。
実はスタートアップの起業と経営は違うんで、起業したけど経営がうまくいかない人間はけっこういるんですよ。
よく連続起業家という人間もいるけど、ああいう人間たちはある意味飽きっぽいのよ。だから経営には向いていない(笑)。でも経営できる人間が育っていると、その人に「じゃあここの経営もやって」と引き継ぎやすくはなるかな。
田村:なるほどね。確かにゼロイチで(0 → 1)やる人材とイチジュウ(1 → 10)はまた違いますからね。そこをうまく役割分担してやられている。
亀山:はい。起業する人間と経営する人間は両方いないといけないかな。たぶん大企業には、マネジメントできる優秀な人たちは山ほどいる。でも「まったく違う発想を生む」という起業家がなかなか生まれにくいのは、組織的にしょうがないというか。そもそもそういった人間たちは、性格がちょっと破綻しているやつも多いし(笑)。
ゼロイチは生めるけどリーダーシップがなかったり、スケールできない人間はいっぱいいる。だけど原動力があったりスピード感があったり、発想力があるという。だからその種をいかに育てるのか。社内で育てるのはけっこう大変ですよね。
田村:ありがとうございます。成長領域の見極め方について聞いてきましたが、けっこう人の見極め方に近いものがあるのかな、と思いました。
黒字化はできていないが期待値が高い場合のM&A
田村:ちょっと次のテーマに移ります。次は「多角化戦略を成功させる仕掛け・仕組み」ということで。コングロマリット(他業種にまたがる巨大企業)として非常に有名なDMMさんですが、もちろん社内で作ることもそうですが、M&Aにも取り組まれていますよね。もしよければそんな事例についても、おうかがいさせてください。
亀山:実を言いますと、M&Aはそんなにうまくないです(笑)。失敗例がたまに記事になって載っていますが、M&Aはなかなか難しい。逆に今ある事業と同じものをくっつけるのはけっこう楽。仮にうちがオンラインクリニックをやっていたとして、同種の2番手、3番手がいたら、そこを買収するとか。
例えば、うちでオンラインサロンの事業をやっているけど、似たような業種の会社をくっつけました。それで市場の3割・3割をくっつけて6割になるとか、そういったパターンはけっこううまくいくケースかな。
田村:なるほど。わりとじゃあシナジー重視で企業を見ていて投資や買収をする。
亀山:あとは、まったく新しい事業の会社を買う場合も100パー買うと、だいたい買われた側はやる気をなくしたり、辞めることも多い。そうなったときに社内で巻き取れるものであればやるかな。
例えば、よく企業でゼロイチとかイチジュウといいますが、僕から言えば黒字化するところまでが10だとしましょうか。10からさらに大きくスケールするのがジュウヒャク(10 → 100)だとしたら、10までいっているなら、まだその部分は巻き取りやすい。
ただ買収になる時は、まだ5か6あたりで「今後10になる可能性はあるんだけど」という時だと思うので。「まだ黒字じゃないけども、今の会員数の伸びなら、3年後に黒字になるんじゃないか」というような案件のM&Aがけっこうやっかいで、(黒字に)ならないケースがけっこうある。
最近だとそういう可能性がある場合、うちは51パーセントだけ買う。残りの49パーセントに関しては、「自分たちの計画どおりいった時、この金額になるよ。それが何割しか達成しなかったらいくらだよ」という話になります。3年か5年かわかりませんけど、そういった感じで買収してみる以外に手はないかなというのが、最近出た結論です。
バックオフィスが弱くなりがちなスタートアップ
田村:なるほど。すごく学びが深いです。その時に、今51パーセントを持たれるという話がありましたけど、担当者としてどんな方を付けられるんですか?
亀山:担当者は担当役員とか、管理系では財務とか法務とか人事は付くんだけども、事業部長的なことは買った会社の社長にやってもらいます。
田村:いろいろな人が関わるんですね。
亀山:というのは、やはりうちも他の事業がある以上、法的に違反されたら困るし、財務上はちゃんとこっちで見なきゃわからなくなるし。あと、企業イメージ的な部分で炎上しないように広報がサポートするとか。そういったところはやりますけど、あとは事業の方向性は基本、その事業責任者が全部見る感じかな。
だいたいスタートアップって、バックオフィスといわれるところが弱いのよ。勢いはあって、「営業をがんばる」とか「開発をがんばる」とか言っているんだけど、守りが弱いから。途中で「金がなくなった」とか「炎上した」とかっていうことは、けっこうあるパターンかな。
田村:なるほど。「DMM VENTURES」も作られて、スタートアップへの投資をされていますよね。ここも最終的にはグループインするような企業を探すという目的でやられているんですか?
亀山:ああ、あれはもうやめた。
田村:失礼しました。情報がちょっと古かったかもしれないです。
亀山:初めに5パーセント・10パーセントでシード期の企業への投資をやって唾を付けておいたら、M&Aとかも話が来やすいかなとか思ったんだけど、何にも関係なかった。
0パーセントでもM&Aの話は来る時は来るけど、5パーセント・10パーセントを入れておいても来ない時は来ない。所詮キャピタルゲインを狙うしかなくなる。キャピタルゲインを狙うというのは何かというと、結局、自分たちに金はあるけど稼ぐ力がないという時に、株だけ純投資で投資しておいて、IPOで当てましょうという話なんだけど、それは投資家のVCたちがやればいい話であって。
やっぱり事業をやっていくのがうちらの本分というか得意なほうなので、そういったキャピタルゲイン狙いみたいなかたちはやらないということで、全部撤収しました。