300社の最新スタートアップが一堂に会する展示会Startup JAPAN EXPO。カンファレンスステージでは、スタートアップに関する最新トピックから、大手事業会社が取り組むオープンイノベーション事例まで、第一線で活躍する登壇者たちが語り合いました。本記事では、「成長領域への投資はどうやって決めるのか。」をテーマに掲げた本セッションでは、DMM会長の亀山敬司氏が登壇。ビジョンなしで「流行りもの」を追いかけてきたという同氏の投資哲学に迫ります。
DMM亀山会長が「成長領域への投資」を語る
司会者:それではセッションにまいりましょう。続いてのテーマは「成長領域への投資はどうやって決めるのか」です。数々の成功の裏にあった投資哲学とは? 独自の視点で市場の成長領域を見極め、多様な分野へ展開してきた亀山氏の視点を大公開します。
次のビジネスチャンスをつかむための実践的なヒントが盛りだくさんの50分間となっております。スタートアップ関係者や新規事業担当者は必見の講演です。ここでしか聞けない貴重なお話、どうぞお楽しみください。
ご登壇されるのは合同会社DMM.com会長兼CEO、亀山敬司さま。モデレーターは株式会社グロービス代表室ベンチャー・サポート・チーム、G-STARTUP事務局長、田村菜津紀さまです。どうぞ大きな拍手でお迎えください。
(会場拍手)
田村菜津紀氏(以下、田村):ご紹介ありがとうございます。今回はDMMの亀山さんをお迎えして、モデレーターは私、田村が務めさせていただきます。亀山さん、よろしくお願いします。
亀山敬司氏(以下、亀山):はい、よろしくお願いします。
田村:実は私も今日初めて亀山さんにお会いするので、すごく楽しみにしていました。
亀山:ありがとうございます(笑)。
田村:みなさんは亀山さんのことはご存知だとは思うんですが、お人柄という意味ではかなり謎めいているところもありますし。よかったら、ぜひ亀山さんの自己紹介と会社の紹介をお願いできればと思います。
亀山:はい。世の中で言われているよりは意外と真面目な人間でございます(笑)。今は動画配信やゲーム、太陽光発電やFX、その他オンラインクリニックなど、いろいろとやっています。
「今ある利益は全部次の事業に投資しろ」DMMの投資スタイル
田村:DMMのサイトに行くと「なんでもやってる会社」という言葉があって、おもしろいなと思っているんですが、本当になんでもやっていらっしゃいますよね。
亀山:なんでもというか、いっぱい失敗して残ったのが今のやつという感じで、実はあの10倍はやっています(笑)。だから、600やって60残った感じですかね。
田村:なんと、あれは一部だったんですね。今日はそんなたくさんの事業投資を行ってきた亀山さんにどんどんと切り込んで行きたいと思います。
簡単に私も自己紹介させていただきますと、今、グロービスの中でG-STARTUPというアクセラレーターをやっています。もともとニコンという会社で新規事業や経営戦略にも携わっていました。
今日来ていらっしゃるのは、スタートアップの方と大企業の新規事業を担当されている方と、半々ぐらいかなとは聞いているので、どっちの観点からも(お話を)うかがえればなと思っています。
さて、さきほど、外に出している10倍ぐらいやっていらっしゃるということだったんですけど。今日のテーマは「成長領域への投資の仕方」ということで、まず投資に対する考え方から、亀山さんに聞いていきたいなと思っています。
創業当初から本当に類まれなるセンスをもって、事業投資をされていらっしゃるなと思っていました。どうやって投資を決められているのか、投資に関する考え方・スタイルについて、ぜひうかがいたいと思うんですが……。
亀山:投資のスタイルで言えば、基本うちは利益を出すよりも「利益を出す仕組みを作り続けろ」という考え方なので、「今ある利益は全部次の事業に投資しろ」という感じですかね。最近全部投資できるほどのネタがなくなってきたので、なかなかそのようにはいきませんけど。出た利益で常に新しいことをやってきたのがうちの投資スタイルかな。
ビジョンなしで「流行りもの」を追いかけてきた
田村:なるほど。創業時は確かビデオのレンタルショップからでしたが、当時はどんな背景で始められたんですか?
亀山:もともとは飲食、麻雀荘やプールバーのようなカフェバー、あとフルーツパーラーなどをやっていたんです。
そこからビデオレンタル店をやってそのビデオレンタルで稼いだお金で、アルバイトのヤンキーたちに「インターネットを勉強しろ」と言って勉強させてインターネットを始めたり。その時の成り行きですね。
田村:成り行き(笑)。
亀山:流行りものをやっていくというスタイル。ビデオレンタルも流行りそうで始めた感じだし、インターネットも今からかなと思って始めました。太陽光発電も流行りそうだったらやるという。そういった意味では、あまりポリシーなしというかビジョンなしというか。単なる中小企業が商売人として成り上がった感じでございます。
田村:いやいや、そこから本当に大企業に……。確か今の売上は3,500億円という。
亀山:そんなもんかな。常に変わっていますけど。
田村:ちなみに今、この売上構成では、どんな事業領域が一番大きな割合を占めていらっしゃいますか?
亀山:今、利益の柱になっているのは動画配信、ゲーム、太陽光発電。あとFXなどの金融系ですかね。その他、電子書籍や英会話など、そういったところも、いくらか貢献してもらっています。全部を重ねると、だいたい2割ずつの割合を占めています。だから大きい柱が4つと、その他でもう1本ぐらいのイメージが、利益の構造ですね。
どうやって情報を追ってきたのか
田村:実際にこれだけ事業を多角化されていく中で、どう情報収集をされていますか? 先ほどおっしゃっていた「流行り」を追っていくために、亀山さんはどんなやり方で常に情報を追われているのかを聞いてみたいです。
亀山:もともと情報収集は田舎にいた時からやっていたんです。テレビを見て、今から流行りそうなのがビデオレンタルならやりましょう、とか。テレビで偉い人が「今からインターネット」と言うから、じゃあインターネットやろうかという感じ。情報はその程度のものが基本的だったんですよね。東京に来てからこういったイベントがあると知って参加し始めたのも、まあ12、13年前ぐらいからかな。
だからこういう場所だったら、もうちょっと早い段階の情報を集められるのかな。たぶんここで話したりした内容がネットニュースになって、そこから半年か1年経ってテレビでも取り上げられる、そんなスピード感じゃないかな。
私の時代に比べれば今、みなさんは情報と結構近いところにいるんじゃないかなと。今のトレンドで言えば、AIとか、いろいろなことをわいわい言っているけど。そういった面で、スタートアップは大企業からすれば、身近なところのトレンドが捕まえやすい場所にいるかなと思いますね。
「一杯飲みなよ」くらいのノリでスタートアップと交流
田村:ありがとうございます。(亀山さんは)いろいろな所に顔を出されていると。さっきちょっと裏で聞いたら、スタートアップと話すためにawabarに行っていると仰っていたじゃないですか。
亀山:はい。awabarという六本木の立ち飲み屋さんがあるんだけども、毎週金曜日に「みんな、いつでも来いよ」という感じで集まっていますね。地方からも若いスタートアップが集まってきて。そこで飲みながら、例えば「このサービス知らないんですか?」「『ポケポケ』知ってます?」とかね。
「LINE AI使っていないんですか?」などいろいろと教えてもらえるんで、若い人間からも吸収しやすいという気はしますし。逆にこっちから「その会社おもしろそうだからうちに売ってよ」という話もするし(笑)。
ここには大企業の人も多いと思うけど、若い人たちは大人が怖い。スーツを着て真面目な顔で「君の事業はどうなんだね」と言われても、怖くて答えられないことが多いから。
むしろTシャツに着替えて「1杯やろうよ」くらいの楽な感じでそういう場所に行ったほうが、若い人たちも話しやすいかなと思いますね。こう見えても13年前はスーツを着てネクタイを締めていましたからね。
初めてこういうところに行った時に自分で「あ、浮いてる」と思って、そこからカミさんに「私服を買ってきて」と言って、とにかく私服しか着なくなった。革靴を捨ててスニーカーにして、なんとか溶け込もうとした感じかな。
田村:(亀山さんは)オンライン上ではお顔を出されていないので、洋服しか見えないじゃないですか。私も事前に動画を拝見したら、服装おしゃれで年齢不詳な雰囲気があって、こだわっていらっしゃるのかなと思ったら、やはりそういう工夫があったんですね。
投資先は選んでもわからないからこそ「人柄」を判断軸に
田村:そうやって、どんどん若い方の中に入っていって情報収集をされている。じゃあ、いざ(投資先を)選ぶ時には、どうやって見極められるんですか?
亀山:あんまり選んでいないというか。はっきり言って、ここにいる年配者はたぶん選ぶほうの人だと思うんだけど、40歳、50歳過ぎたらぶっちゃけ、わからない。「選ぶなんてのがおこがましい」と言うと変だけど、どうせわからないんだから。まあ数やるしかないかな、という感じですかね。
例えば俺でも「これからはAIかな」ぐらいはわかるけど、じゃあどのAI企業がいいかなんてほぼわからないし、ましてや技術力なんてわかりようもないんで。極端なことを言えば、いろいろと話をしながら人柄で投資判断するしかないかな。どうせわからないんだから(笑)。むしろもうちょっとわかる自分の部下に判断させるほうがまだマシです。
ただ明らかに「この人間だと投資しても難しいな」というのは多少はわかる。例えばロジックの組み立てができないとか。そういった場合は「ここはもう無理だな」となりますね。
うまくいくかわからないものに関しては、一度やってみるのはありかなと思います。うちにも『艦これ』というゲームがあるんだけどね。「戦艦が萌え萌えーっとしてバーンと戦うゲームです」と言われても、もう意味がわからないし(笑)。
田村:(笑)。
亀山:やってみておもしろさがまったくわからなかったけど、わからないからといって、「これはウケない」とも言えなかったので「やりましょう」という話になった。わからないものにどれだけ投資できるかです。
逆に「絶対に失敗するだろうな」というもの、例えば「これは将来Amazonがやるだろう」「Appleがやるだろう」「このへんは自分たちの資金では足りないよ」というものはやりませんね。
大企業はなるべく「広く浅く」打ってみるしかない
田村:本当に耳が痛い話ですけど、私自身もわからないものは自分で勉強するのもハードルが高かったりするんです。そこにわかる人を連れてきて、ちゃんと話を聞くということですよね?
亀山:あとはもう「数やれ」という話。例えば大企業だと、何兆円か何千億円か知りませんけど利益を出している会社があったとしたら、株主の手前もあるからせいぜい「そのうちの5パーセント、10パーセントだけ新規事業に投資しようか」となると思うんだけど。
うちだったら「50パーセントから100パーセントは投資しよう」という話になる。結局利益の差があっても、それをどれだけ新規投資に向けるかという割合が違う。そういった中で言うと、うちらは資金面でもまだ突っ込める会社なのかな。
たぶん、ここに来ている方たちも一番上のほうから「何十億円か予算を出すからスタートアップを見てこい」と言われるんだろうけど。
本当を言えば「もうちょっと出してくださいよ」と言いたくても、せいぜいそれぐらいしか出ない。それを「自分たちの責任範囲で投資してこい」と言われても、まあほとんどの場合失敗もするし、資金的にも足りなかったりする。
大手企業が50億円、うちが500億円の予算を出したときに、スタートアップがどっちに来るかと考えれば、「大企業は本気でやる気がない」という話になる。ただこれは構造的に変えるのは無理かなと思っていて、だからせめて出せる範囲でも、なるべく広く浅く打ってみるしかないかな。
田村:(笑)。なるほど、少しでもやってみるということですね。