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社員の力を引き出す経営戦略〜ひとり一人が自ら成長する組織づくり〜(全5記事)

人が育つ組織・停滞して成長しない組織を分けるもの これからの時代の「人材育成」にどう向き合うべきか

特定非営利活動法人ジャパンハートが主催したビジネストークイベント「社員の力を引き出す経営戦略〜ひとり一人が自ら成長する組織づくり〜」。株式会社一休の代表取締役社長・榊淳氏、株式会社シンクロの代表取締役社長・西井敏恭氏をスピーカーに招き、ジャパンハートの創設者の吉岡秀人氏と共にトークセッションが行われました。本記事では、これからの時代の人材育成のポイントについて語ります。

スタートアップにも人材が集まる時代、NPOはどうなる?

堀江聖夏氏(以下、堀江):今回のイベントのタイトルが「社員の力を引き出す経営戦略」ということで、本日お越しくださっている方も、ビジネスをされている方が多いということです。ぜひお三方に「これからの時代、人材育成とどう向き合うべきなのか」について、おうかがいできたらと思います。

まず𠮷岡先生、NPO法人としてここはどうなんですか?

𠮷岡秀人氏(以下、𠮷岡):NPOは大きな会社とぜんぜん違います。メルカリの山田(進太郎)さんも言っていましたが、僕らが若い時はまだまだスタートアップは変な組織というか、いかがわしいみたいなイメージで見られていた。僕が言ったんじゃないですよ? 彼が言ったんだから。

(一同笑)

𠮷岡:だけど今はスタートアップがしっかり認知されて、そこに新しい人たちが入ってくる。今はコンサルとかにも行くんでしょうけど、僕が若い時は、それこそ商社や銀行だったじゃないですか。一休なんかもそうなんだと思いますが、そういうスタートアップのうまくいっている会社に(人が)入ってくるようになったじゃないですか。

彼いわく、次はたぶんNPOがそうなる。だけどNPOは、税制の問題とかが脆弱で、人材も不足していて、まだそこまでいっていないんですね。ジャパンハートは、その中でもなんとかうまくいっている1つだと思うんですが、まだそんなにスケールしていないんですね。

例えばアメリカやヨーロッパには巨大なNGOがあるじゃないですか。そこはもう、普通の企業以上の給料をもらっていてやっている。そうなると社員が1人や2人じゃなくて、数十人とか入ってくるんですね。ジャパンハートは、新しい時代のNPOの先駆けになりたいという意思があって、2025年からは新卒で社員を受け入れ始めることになったんですね。

でも、まだまだそのレベルなので、NPOにしては今後の課題だと僕は思っています。なので、まだ本当には直面していないということが1つですね。

停滞した国では、上の人間が下の人間を潰し始める

𠮷岡:実はこの前、日本で一番大きな民間の医療団体の徳洲会の創業者が亡くなったんですね。

日本最大の民間の施設に育てた創業者が亡くなったんですが、その時に今の理事長たちが言っていたのは、「徳田(虎雄)先生は、『何かをやりたい』といった時に、とにかく『やれ!』と言った。否定しなかった。とにかくやってみろと言われた」と、みんな言うんですよ。

その中でうまくいかないものもあると思うんですが、「とにかくやってみろ」と言って、邪魔しなかった。「それは最高の教育だったと僕たちは思っています」と(徳洲会の人が)言っていたんですよ。僕より年上ぐらいの今のおじさんたちですよ? 自分もそんな感じでやれたらいいなとは思っていますね。

社会が停滞して斜陽化していく国では、上の人たちが詰まってきて、ああだこうだと下の人たちを潰し始めるんですね。戦後の日本が負けた時にはGHQが入ってきて、当時の軍部、財閥、皇族系の貴族の人を吹っ飛ばさなければ、今ある僕らの知っているような日系企業の多くは、上からの利権で潰されて成長していないと思うんですよ。

だけど、それが吹っ飛んだから出てきた。創業していた人たちはみんな若い人たちだったじゃないですか。それが戦後を支えていったわけですね。だからそういう意味では、今の徳洲会でも同じようになっているんです。上の人たちが詰まって停滞し始めて、うまくいかなくなる。

だから、若い人たちが自分のやりたいことをどんどん実現していく。その多くは失敗しますが、その中で世界にブレイクスルーするアイデアや物が生まれてくるんじゃないかなと思っているので、そういう意味では(若い人のやりたいことに)OKを出してあげる、という感じのことを今は思っています。

誰も損しないのであれば、とりあえず行動してみる

堀江:私は𠮷岡先生に出会ったのが4年前なんですが、すごく好きな言葉を教えていただいて。それが、「とりあえず行動してみろ。それが誰も損しないのであればOK」。確かにそうだな、まずは行動してやってみることがすごく大事なんだなと、気づかされました。

西井さん。若者たちが行動するとなった時に、それこそ人材育成においては、同じ目的に向かって走っていくことは大事だと思っていて。「パーパス」という言葉もお聞きしますが、そのあたりについてシンクロではどのように取り組まれていますか?

西井敏恭氏(以下、西井):そうですね。シンクロという会社は本当に10人ぐらいの組織で、どういう人が多いかというと、実はあまり若い人がいないんですよ。僕が働きたい会社を僕が作った。僕は一応上場企業の経営をやっていて、別にそれはそれでおもしろい。不満があるわけではない。

じゃあ、その僕が働きたい会社ってどういうことかというと、僕は仕事がすごく好きだし、仕事で成果を上げることで周りに認めてもらえることもすごくうれしい。そういう人が自分のために働ける会社を作ろうと思って、すべての制度設計をそういうふうに考えてやっているんですね。

だから結果的にうちの会社って、半分ぐらいは上場企業の元役員とか、そういう偉い人たちばかりが集まりやすくなっている。今の時代、もちろん人材育成には段階がいろいろあると思うんですが、新卒で初めて入った右も左もわからない人が、基礎を学んでいくレイヤーがすごくあると思っていて。

もちろんビジネスは、利益をちゃんと出して儲けます。そのために事業をどうするかという基本をちゃんと知っていくために、教育していかなきゃいけないレイヤーもあれば、今度は上に行っている人たちがまずは好きなことをやってみるという、「やれる自由」をちゃんと持たせる組織が大事だと思っています。

「自分の好きなこと」が見つかる状態を作る

西井:社会全体で見てそういう構造にあった時に、僕はシンクロという会社をそういう人が集まりやすい会社にしたいと思っている。そう考えて人材育成をやっていく時に、じゃあその人はどういう人かというと、「やりたいことがある人」なんですよ。

最初はやりたいことがわからないわけですよ。会社に入って一生懸命だし、給料をもらわなきゃいけないし。でも、余裕が出てきて(仕事が)できるようになってくると、やれることが見えてくる。でも、やれることが見えてきているけど、日本にいるとなかなかやりたいことが見つからないわけなんですよね。

だからいろんな機会を与えて、自分の好きなこと、やりたいことがわかるような状態を作ってあげられる環境を作るのが、僕は重要だなと思っていて。例えばジャパンハートに関わっているスタッフからすると、一番関わっているのは、実はこういうボランティアや社会貢献をまったくしたことがない人なんですよ。

でも、彼がこの世界に関わると、今までにない世界を見ているんですよね。それって実は彼にとって新しい発見があって、「自分の中にこういう気持ちがあったんだ」と気づけば、自分のやりたいことになるし。もし彼が合わなかったら違う仕事をしてもらえばいいだけなので、別にそれは人それぞれかなと思ったりしています。

堀江:まずはジャパンハートに関わることが、社内の一致団結につながる。

西井:そうですね。実は結果的にみんな関わっていて、みんなジャパンハートのやっていることに共感しているんです。

「自分の常識」の外に飛び出して気づくこと

西井:だけどその思いで言うと、例えば僕らはジャパンハートのマーケティングをボランティアで手伝わせていただいていますが、「ボランティアをする人ってどういう人がいるんだろう?」と理解しないと、マーケティングはできないです。

そういう人たちが、人から「ありがとう」と言われる。今まで仕事は給料のためだったり、「時間でいくら」みたいな考え方が多いと思うんですね。だけどそうじゃなくて、実際にうちの社員は全員ミャンマーやカンボジアにも行っていて、救われている子どもとか、𠮷岡先生が治療した子どもを見ている。

それを目の前にしていると、「自分のやっている仕事はこんなことに役に立っているんだ」と、みんな実感しているんですよね。だからうちの社員にとっての成長の機会でもあるし、会社としての団結力というか、チーム力になっているのかなと思っています。

堀江:行ったあとと行かないのでは、社員の行動とかは変わりましたか?

西井:それは、もうぜんぜん違うと思います。なんなら何回も行っている人もいます。これは𠮷岡先生もそうですし、難しいけど(実際に現場を)見ないとわからないですよね。

𠮷岡:そうですね。イメージの中だけにいると、自分の常識に拘束されるじゃないですか。だけど、現実を知るとか海外に出るって、自分の常識のフレームの外に出ることなので、経験しないとわからないことがけっこう多いですよね。

大晦日の夜遅くまでオペ……年末年始の𠮷岡氏のエピソード

西井:うちの社員が言っていたおもしろいエピソードがあって。ちょうど年末年始に、ミャンマーのザガインの病院に行って過ごしたうちの社員が3人ぐらいいるんですよ。大晦日の夜10時ぐらいまでオペをされていて、夜中は会えずに次の日の正月に朝6時ぐらいから起きて、オペをされていたみたいです。

その時に(𠮷岡氏は)「おはよう」と言っているけど、「あけましておめでとうございます」と言ったら、「あぁ……新年なんか」って。知らなかった、みたいな(笑)。

堀江:時間の(感覚が)ね。

西井:うん。「たぶん、新年だということに気づいていない𠮷岡先生がすごくおもしろかった」と、未だに社員で同じことを言っています(笑)。

𠮷岡:言葉でできるイメージの辛さって、実際に食べると「こういう辛さか」ってわかるじゃないですか。「経験する」というのは、食べ物の辛さを言葉で伝えるのと、実際に食べるのぐらい違うことだと思いますね。

西井:その時はお正月とか関係なく、先生が行く時、患者さんが毎日20人ぐらいずっと入っているんですね。オペをされる方が𠮷岡先生しかいないから。ミャンマーのすごく田舎な町なんですが、すごく遠くからバスに2日間乗ってそこに来ていて。

𠮷岡先生からしたら年末年始とか関係なく、たぶん自分がいなかったり風邪で倒れたら死んじゃう。下手すると、来ている人たちが助からないという状況が毎日になっているから、もう完全にお正月のことを忘れていたらしくて。

それを見て、うちの社員が「おもしろい」と言いながらしゃべっているんですが、たぶん𠮷岡先生はぜんぜん悲壮感を持たずにやっている。そういうのを見ていると、「自分の仕事って何なんだろう?」と考える、すごい機会になっているんじゃないかなと思いました。

堀江:ありがとうございます。

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