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③岡本努氏に聞く人員計画(全2記事)

オファー承諾率アップ・入社後のミスマッチ防止につながることも 重要だけど後回しにされがちな「人員計画」の考え方

坪谷邦生氏と秋山紘樹氏が、ゲストを迎えてトークセッションを行う「採用入門」シリーズ。今回は人的資本イノベーション研究所の代表取締役である岡本努氏をゲストに迎え、人員計画のヒントを探りました。前編となる本記事では、大手企業でも半年から1年がかりになる人員計画の難しさについて語ります。

そもそも「人員計画」とは何か?

秋山紘樹氏(以下、秋山):今日は人員計画についておうかがいしたいと思っています。

採用担当者や採用業務を始めたばかりの方々にとっては、「人員計画」という言葉より、「採用計画」という言葉のほうが日常的によく耳にする機会が多いのではないかと思います。

多くの場合、「今期は100名採用する!」というように、経営層から採用目標人数が示され、この数値目標を起点に採用活動を進めていくことが多いのが実態ではないかと。しかし実際には、その採用数字が決まるまでには、さまざまな検討プロセスが行われています。

組織の成長を支える「人」の確保の方法には、新規採用以外にもさまざまな選択肢があり、例えば、社内での異動や配置転換の検討、また雇用形態の多様化など、状況に応じて柔軟に検討できる選択肢があります。こう考えると、採用計画の策定に先立って、まずは事業の方向性や組織全体を見渡した「人員計画」の視点が重要になってきます。

そこで冒頭でお話ししたとおり、そもそも人員計画とは何なのか、また採用担当者が人員計画を理解することで、どのように採用活動の質が変わってくるのか。そのあたりについて、お話をうかがえればと思います。

岡本努氏(以下、岡本):なるほど。「人員計画って何?」というテーマ自体が大きすぎるんですよね。多くの企業では、採用担当者は人事部の中の一つのポジションとして位置づけられていて、少人数のチームで担当されているケースが一般的かと思います。

また、採用の現場では、人事の経験が浅い若手の方々が担当されることも多く、「今年も例年どおり20名採用」といった形で数値目標だけが示されるケースもよく耳にします。そういった状況の中で、人員計画という大きなテーマに一人で向き合うのは、確かに難しい課題かもしれません。

仮に、人員計画の重要性は理解できても、実際の現場では「例年どおり20名の採用」という既存の枠組みの中で動かざるを得ないケースが多いのが現状ですよね。

坪谷邦生氏(以下、坪谷):確かにそうですね。

人員計画を立てるだけで1年がかりになることも

岡本:採用担当者として無理に波風を立てることなく業務を進めようと思えば、これまでの採用実績や前任者の経験を参考に、例年通りの採用活動を着実にこなしていくという選択肢もありますよね。

特に人員計画というテーマは、経営層でさえ明確な答えを持ち合わせていない場合も多く、一朝一夕には結論が出せない性質のものです。こういった現実的な対応も理に適ってるとも言えるでしょう。

秋山:確かに、目の前の業務に集中することで、採用活動そのものの効率は上がりますよね。

ただ一方で、採用担当者が誰をなぜ採用したいのか、その背景にある事業の方向性や組織の未来像などを含めてセットで理解があってこそ、候補者に向けた説得力のある対話ができる。結果的にオファー承諾率が上がったり、入社後のミスマッチも防げたりするんですよね。

岡本:そうですね。たぶん中途だったら、向こう半年後ぐらいに戦力になっていればいいんだけど、新卒は1年半以上後ですよね。その時に会社がどういう状況になっているのか。

もっと言うと、例えばその人たちが脂の乗った最初のタイミングが30歳だとすると、22歳の人を採用すると8年後になってしまう。そうすると、(その時にどうなっているかなんて)たぶんもうよくわからないということになっちゃうんですよね。

坪谷:なるほど。

岡本:「人が欲しい」というセリフは、ほぼ「今欲しい」なので、人員計画のことなんて誰も考えていないんですよね。たぶん、人員計画を立てるだけで1年がかりの検討になってしまうと思うんです。

だけど、採用担当者が「来年の採用をどうしようかな?」と考え始めるのは、もう1ヶ月以内とか2ヶ月以内に採用人数を決めなきゃいけない場面だったりすると思います。なので人員計画を踏まえたくても、なかなか踏まえられないんですよね。

採用計画の段階で人員計画を考え始めても遅い

岡本:会社の経営や事業全体がどうなっていくのか。10年後にどんな事業ポートフォリオにしたいのか。各事業の部門長はどういう人員ニーズを今持っているのか。それらを自前でやるのか、外の協業者も使ってやっていくのか。実は今は人海戦術でやっているけど、将来的にIT化していくので人が足りなくてもいいのかとか。

そういったことを全部聞き出して、事業計画や財務上、人件費が抱えられるかどうかかということもひっくるめて、全部辻褄の合った人員計画を立てる。これは、1,000人〜2,000人ぐらいの会社でも、パッパパッパやって半年か、下手したら1年ぐらいかかるような問いです。

だから、採用計画を立てる時には、はたと「人員計画は?」と思ったところで、もう遅いということなんですね。ただ、それに気づいたことはすばらしいので、いったん無難な前例踏襲でいきましょうと。

その代わり、1年後ぐらいに同じような問いに当たった時は、「うちの会社の人員計画はこうだから、例年20人の採用だったけど、それじゃぜんぜん足りなくて50人ずつ採用しなきゃいけない」とわかる状態になっていましょうと。それを最初に言ったほうがいいですね。

秋山:1年後とかだったらまだしも、「採用計画を作成せよという指示が出た時に人員計画のことを考えはじめる」状態だと、時すでに遅しだと。

岡本:例えば、その採用担当者の方が知らないだけで、人事課長が「うちの人員計画では10年後にこういう絵を描いてるから、君に『この1年以内に20人採用しろ』と言ってるんだよ」と言われたらすばらしいですね。

坪谷:まさに理想的です。

人員計画を構成するさまざまな要素

岡本:組織の人員計画というのは、実に多くの要素を考慮する必要がある重要な課題なんです。まず、会社の経営方針や10年後の事業ポートフォリオのビジョン、各部門のニーズ、そして働き方改革やDX化の影響など、さまざまな要素を総合的に見ていく必要があります。

これらすべての要素を考慮して、事業計画や財務状況とも整合性の取れた人員計画を立てるのは、1,000人規模の会社でも半年から1年かかるような大きなプロジェクトになります。

そのため、採用計画を立てる段階で人員計画の必要性に気づいても、すぐには対応が難しい。でも、その気づきこそが重要で、まずは現状の採用活動をしっかりと進めながら、並行して1年後を見据えた準備を始めていくのが現実的なアプローチかもしれません。

理想的には、採用担当者に「今年20名の採用目標を設定したのは、こういった中長期的な人員計画に基づいているんです」という説明がCHROから事前にしっかりとされることですが、実際にはまだそこまで整理できている企業は多くないのが現状です。

その中で、採用担当者個人の作業として人員計画の策定を求めるのは、あまり現実的ではないかもしれませんね。

坪谷:なるほど。

岡本:人的資本経営もそうだと思うんですよ。人的資本経営は経営戦略そのもので、CEOが自ら語らなきゃいけないのに、人事部長にお仕事として検討させて駄目出しだけするという。

坪谷:「経営のお題」を「人事のお題」に落として、そのまま方法論だけ投げるということは起きますよね。

岡本:だから、採用担当者や採用を学びたいと思っている人に少しだけ寄り添って、「実はもう土台無理な話なんです」と言ってあげた上で、「1年後に備えて動き始めましょう。何から動き始めますか?」という議論からスタートしていくのがいいかもしれないですね。

人員計画とは「人的生産性の計画」である

岡本:人員計画は、(採用人数が)100人か200人か300人かと話していても、一生着地はしませんと。私は人員計画や要員計画というのは、「人的生産性の計画であると捉え直しましょう」とよく言うんですけど。

自社がどういう人的生産性の企業になりたいのか。例えば「1人あたりで1億円を生み出せる組織にしたいです」「1人あたり売上5,000万円の組織にしたいです」。あるいは、人件費を100万円使ったら700万円の売上を上げるという人件費効率や、人件費生産性を7倍の会社にしたいというふうに、生産性で捉え直さないといけないのです。

単に「ヘッドカウント」と言うと、何人という数字が導かれる感覚があるかもしれないんですけど、それはもうビジネス次第のところなんです。

あくまで生産性の話だと思った時に、現状の自社はどういう生産性で、昔はどのくらいで、5年後、10年後にはどういう生産性の企業にしていきたいと思っているのか、という問いであると。

だいたいの会社では複数の事業をやっているので、事業別にどのくらいの生産性なのかを分解してみたり、グローバルにビジネスを展開しているのであれば、地域別に生産性を考えてみることで、採るべき人の数が自然と決まってきます。

坪谷:そうですよね。

そもそも「人間がやらなければいけないのか?」も1つの視点

岡本:もう1つは、自前でやるかどうかをよくよく考えなきゃいけません。これからの時代は、直接雇用でビジネスを回さないといけないかというと、雇用は最小限で、外部協力者や協力会社といった、自社のビジネスに関わる人をいろいろな手段で調達していくことも検討すべきです。

自前でやるということは、「自社の競争優位の源泉として持っていたい」ということだと思うので、そこが何なのかをよく考えることが必要です。

あとは、自前と少し似ているんですけど、「本当に人間がやらなければいけないのか?」(という視点も重要です)。

5年後、10年後にITに置き換わっていくのであれば、今は人が足りなかったとしても、いったん派遣や契約でしのいで、来るべき時が来たら全部ITに置き換わる。今まで100人必要だったところが、これからは10人で済むかもしれないので、最初の問いとしては、そういった先読みをしなければならない。

坪谷:事業と地域といった切り口で考えた時に、既存ビジネスと新規ビジネスについては、どんなふうに捉えたらいいですか?

岡本:それも既存ビジネスでどれぐらい、新規ビジネスでどれぐらいというふうに、一定のセグメント別に必要人員を捉え直さないとならないですね。

なんとなく会社全体で何十人と言っている時は、単に過去からの経験値でふわっと言っているだけだと思いますので、「この事業で5年後にこういうふうにしていきたいから何人必要」という問いにちゃんと答えなきゃいけないので、これも大事ですよね。

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