メディアでも話題となり、企業側も問題意識を持っている「退職代行」サービス。本イベントは「退職代行に怯えない組織になるため」と題し、退職代行ビジネスの現状と人材定着の施策について探りました。本記事では、従業員とのコミュニケーションの取り方について、具体例を紹介します。
退職者が出た時に「会社がどんな対応をしたか」は見られている
松島一浩氏(以下、松島):次に、僕が今日一番しゃべりたいことかもしれないです。「退職者が出た時の対応」ですね。「退職どうしましょう?」という相談を本当にいただくんですが、めちゃくちゃこだわってください。
もう今は10月(イベント開催は2024年10月11日)なので、新卒の方がいたら遅いかもしれないんですが、一発目に(退職者が)出た時に上司や会社がどんな対応をしたかということを、やっぱり同期の子は見ていますよね。これがすごく大事。
個人情報やいろんな問題があるので、退職理由を言えないとかいろいろなケースがあると思います。ただ、そこに対して上司がどう思っているのかを、できればチャットとかではなくて、全体の場や朝礼とかでみんなに伝える場を取るべきだなと考えています。
(共有の仕方は)「まぁまぁ、あいつはもうしょうがないから」「しょうもないよ」みたいな感じじゃなくて。私のクライアントでもいるんですが「退職代行を喰らいました。すごく残念です」と。
申し訳ないこともしたし、でも悔しいし、こっちも傷ついてるということを正直に話し、反省も述べる。「でも、こういうことを伝えたかったんだよね」という後悔も全体にちゃんと開示した時に、その後も残った子たちとのコミュニケーションがすごく良くなったという話を聞いたりします。
だから、誤魔化したりしない。退職に対してちゃんと真剣に向き合ったり、思ったりしてるんだという上司や会社の姿を見せた時に、「退職代行を使いますか? この人にはちゃんと言いたいなってなりませんか?」というふうに思うんですよね。
だから(新卒社員が目の当たりにする)1人目の退職が本当に大事だと思います。今からでも遅くないと思いますので、退職社員に対してどうそれを取り扱うかということでした。
上司が部下に気持ちを伝える場を設ける
松島:「隣のエースとランチ」も、ちょっと斜めの(関係での)発想です。自社の自チームだけに閉じないことが大事で、活躍してる他の部署の先輩や上司とランチしたり交流する場を作ってあげるということですね。
ある程度、口裏を合わせたりしてもいいかなと思います。「こういうことに悩んでるんだよね」「ちょっと視野が狭くなってるから、こんなアドバイスをしてくれたらうれしいな」ということを、部長同士やマネージャー同士が連携してヘルプするような関係。そんなことができたらいいかなと思ってます。
「チーム内アワード」も本当にそうで、言いたいことがあるんですが、これは本当にやってほしいです。いろんなMVPや賞や昇進があるんですが、それとは別に、僕もこのあいだ半期に1回の会の後に全員に「○○で賞」みたいな賞の名前をつけてカードを渡したんです。
こういうことをやっただけなんですが、非常に盛り上がりますし、上司が部下にちゃんと気持ちを伝える場や、「見てるよ」を伝える場として、定期的にこんなことをやるのが大事かなと思っています。
「チームKYS」は何かというと「会社良くする」の略なんです。人事の方も現場の方も、やっぱり1人で戦うのはなかなか大変だと思うんですよね。今日のセミナーも、僕は知り合いに「1人で参加しないでぜひ会社の人と複数で参加いただいて」と伝えたんですが、「明日からこうしようぜ」みたいなことをやってほしいなと思っています。
「でもな、これを部長に言ってもな」と思うんだったら、課長とリーダーでチームKYSを結成して、会社を良くするための取り組みを何かしらしていく。仲間を会社の中に作るということですね。ぜひこれをやってほしいなと思ってます。
思っていることを言えない状態が一番病む
松島:「新卒との約束」というのは、ある意味メンターの逆側みたいな話なんですが、新卒や新人にちゃんと約束をするのが大事かなと思っています。
うちの例で言うと、僕は今年の新卒は3つのことを約束したんです。これも業態や社風もあるかもしれませんが、とにかく読書を1ページでもいいから絶対に毎日するという「毎日読書」。本当は一生って言いたいんですが、これを約束として1年間しました。
あとは寝る前に必ず自分の胸に手を当てて、「今日は全力だったか?」で、YESと言って寝ることを約束しました。もう1つは、会社の中に思ってることを言える場を作る。
ただただ「乗り越えろ」「がんばれ」だけじゃなくて、言いたいこと言える場所があることが大事。人事でもいいし、もちろん直属のメンターでもいいんだけど、その上の部長でもいいし、誰かに思ってること言える場を絶対に作ろうと。
体がしんどくても、大変だなぁと思っても、思ってることを言えない状態が一番病むので、思っていること言える状態を絶対に会社の中に作ろうという話をしました。強い要求と共に、そこが今の時代に必要かなと思って、そんなことを最近はやっていたりします。
就活における「オヤカク」問題
松島:という感じで、怒涛で続けちゃっていいですか、新保さん。
新保博文氏(以下、新保):実はタイムキープ的にはまだ大丈夫なんですが、たぶんみなさんが気になるであろういくつかを飛ばして聞いてきたい。例えば「入社式に親を招待」とか。
松島:これは本当に聞いたお話で、ちょこちょこそういう会社が増えてるんだと思いますが、めちゃくちゃ良いなと思っていて。今、親に事前に(入社を承諾しているかどうかを企業が確認する)「オヤカク(親確)」という言葉があったりしますよね。
「親ブロック」とか「親ブロックブロック」どうしようとか、みんなそういう話をしてるんです。入社式に親を招待すると言って、「いやいや、うちの親は来ないって言ってます」となっても、ぜひなんとか親に来てもらってほしい。
地方であってもできれば来てほしいな。実際はリアルで来てほしいですが、最悪オンラインでも。そこで、新入社員に親への手紙を読んでもらうんですよ。ここまで育ててくれたことへの感謝と、これからの決意をしてもらうという話があって。これは最高ですね。
新保:そういう意味だと、さっきの「大学のテーマパーク」という話がありましたが、お金を払ってサービスを受ける側だったところから、お金を貰う側になるという決意をすると、少し切り替わるかもしれないね。
松島:この後、何かあった時に親とも連絡が取りたいとか。もう社会人なんですが、もうそういうことが必要な世の中かなと思ってもいるので。
入社式に親を呼ぶ理由は「1つの区切り」
新保:うがって見ると「親を入社式?」みたいなになるかもしれないですが、今の時代で言うと、決意表明で(親も子も)どっちも区切りがつくのかもしれないですね。
松島:これ、絶対に親のためにやるべきだと思っていて。親が承認される瞬間って、結婚式ぐらいしかないんじゃないかなと思ってる。結婚式で「自分の子育てって間違ってなかったんだな」って思って泣いたりすると思うんですよね。
新保:なるほど。
松島:社会に育てられてる自分の子どもを見て、1つの区切りとして親にプレゼントしてあげたいって、僕も息子を2人持つ親として思ったりして(笑)。
「ぜひ来てください! うちの入社式は最高です。これはお母さんにとっても区切りでしょう。来てください」って人事が力強く言って、手紙を読むというのがあったら、現職の社員や先輩にとっても良い時間だし。
新保:確かに。
松島:人事にとって、みんなにとって、絶対に良い時間なんですよ。
新保:(子どもの成長を感じる機会は)たまに結婚式をやって感動的だったというのが、入社式でなんとも言えない幸福感が味わえる。その場にいる幸福感があるんでしょうね。なるほど。
たぶんこれは本当に(話が)尽きないし、聞きたい。前回も「もっとこれを聞きたい」とか「これの資料はないのか」というご要望がチラッとあって。
松島:そうそう。
新保:ちょっとそれをやると大変なプレゼン量になるだろうし、後でアンケートに回答いただいた方には、30個全部を入れられるかはわからないんですけど、取り組み集としてポイントや効果を入れられればなと思ってます。
社外ネットワークの重要性
新保:突っ込むとあれですが、心理学とかで、やっぱりどれも「あ、心理学のこの効果だな」というのがけっこう多いです。たぶんそれを心理学で考えたんじゃなくて、実地で帰納法的にいろいろと試して(こういう結果に)至ってるんだろうなと思って、おもしろいなと思いました。
松島:でも、みなさんもやってらっしゃると思うんですよね。
新保:だと思う。たぶん「これをやってるよ」っていうのがあると思うんですが、もう1工夫があるなと思って。しゃべり場でも、ただただ「同期が集まってやろう」じゃなくて、ファリシテーションを入れて「この項目をやろう」みたいな。
さっき「縦の関係」というのが出てきたと思います。そういう意味で言うと今の話って、縦・横・ななめまであると思うんですが、社外とやっているのがポイントだと思って。
松島:そうですね。
新保:社外の飲み会とか、外に触れてもらうのって怖いなとは思うんですが、逆にそれが良いんですよね。
松島:うん。僕らの敵とか言っちゃいけないけど、敵は退職代行というよりかは、SNSと、実家暮らしの過保護な親と、かまってほしい彼女や彼氏なんですよ。
新保:うーん、なるほど。
松島:ここが敵なんですよ。自分より仕事がんばってないけど稼いでるとか、早く帰ってる同期や同級生とか。そうなった時に、外のコミュニケーションや外の友だちやメンターを、上司やメンターが作ってあげる時代だなと思っていて。
新保:間違いないですね。
「コトガラ」と「ヒトガラ」の理解が不安を小さくする
松島:僕も、同期の飲み会をいろんな会社さんと3対3でやってるんですよね。意識の高い人同士でもすごく良いし、「めちゃめちゃ本気で仕事をがんばっている友だちが社外に欲しいんだよね」というニーズは、がんばってる子たちにもすごくあって。
当然、大人のほうが人脈を持ってるわけだから、それをちゃんとバンバン使ってあげるということは、すっごく意識してやってますね。
新保:違う調査では、社外のネットワークや社外の活動がある上司のほうが尊敬できるというデータが明確にあるので。例えばそこへ行った友だちから「松島さんってこういう人なんだよね」と言うのは、心理的に「ウィンザー効果」といって、他人からの評判のほうが信頼度が高いとか。
松島:結果的にそういうことも生まれたりはします。
新保:だと思います。すごく合理的ですね。さらに、この矢印はわかったけど、コミュニケーションとは何かと言うと「コトガラ」と「ヒトガラ」だなと思って。
仕事内容とかビジネスの話と、仕事の背景にある人としての価値観やマインドセットとか、興味関心みたいなもの。きっとこれを組み合わせながら、さっきの送別会とかでも「この仕事がこうだよね」と言いつつ、その人の姿勢とかも見ている。
僕がいつも聞いてて思うんですが、意識してなのか無意識なのか両方あると思うんですが、ミックスされてるなというのは聞いていておもしろいですね。
松島:僕たち、これを永久に話してますもんね(笑)。
新保:もうすでに「開始30分前にこのタイムラインでいきましょう」というのを越しているので(笑)。
松島:ああ、ごめんなさい(笑)。
新保:(笑)。
退職の仕方でその後の人生の質が変わる
新保:みなさんランチタイムで、時間には終わろうかなと思っているのでちょっと巻きでいきます。本編の最後としてお伝えしたいところを、松島さんからお願いします。
松島:これをどうしてもお伝えしたくて。退職の仕方でその後の人生の質が変わるということを、やっぱり忘れちゃいけないなと思うんですよね。これは大人の使命として持っていなきゃいけない。
(人材の)定着や離職防止をどうするか、という経営的な言葉で言う側面はありつつ、退職代行の問題で、僕らはここをちゃんと持ってなきゃいけないというのが強くあります。
人生で逃げちゃいけない瞬間ってそんなにたくさんない気がしてます。10年付き合った恋人に別れ話をする時とか転職の時も、僕はそういう機会なんじゃないかなと思ってます。
それを、あいさつもせずにLINEで辞めるという選択を、新卒や若者にさせることがかわいそうだと思っていて。その後の人生がどうなっちゃうんだろうな? って思うわけなんです。なので、この意識はすごく持たなきゃいけないと思っていて。
これは僕が尊敬する部下なんですが、全権で非常にたくさんの部下を抱えて向き合ってきた、ある管理職の言葉をみなさんにお伝えしたいです。退職者が出た時にどうするかという話を聞きました。
「結婚が入社で、離婚が退職みたいなものですから、それはエネルギーを使います。最後に向き合うことから逃げたくなるのが当たり前で、当たり障りのないことを言って腹の中を見せずに辞めたいと思うのです。ただ、私が大事にしていることは、そうじゃない別れ方があることを教えることです」。
「退職する日が来たとしても、自分はそのエネルギーを使い、本音を伝え、留意してもらえる先にある未来よりも、転職することを覚悟に変える。そんな良い別れ方をしたいと思ってます」という、ちょっと痺れる言葉をもらいました。
新保:痺れますね。
松島:上司やマネージャーとか、そういった人の味方でありたいなと僕も新保さんも思ってるので、これを機会にみなさんとつながれればなと思っております。
新保:今日はオンラインですが、冒頭にちょろっと出た「部下のハートに火をつける会」に参加したいですと言ったら、リアル開催をちょこちょこしてますので。
松島:ただの飲み会なんですが。
新保:あはは(笑)。でも、温度感はちょっと特殊ですよね。
松島:そうですね。
新保:ありがとうございます。