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退職代行に怯えない組織になるために(全3記事)

先週まで元気だったのに、突然辞める「びっくり退職」 退職代行サービスの影響も?上司と部下の“すれ違い”が起きる原因

メディアでも話題となり、企業側も問題意識を持っている「退職代行」サービス。本イベントは「退職代行に怯えない組織になるため」と題し、退職代行ビジネスの現状と人材定着の施策について探りました。本記事では、サブスクやリピート割なども登場している退職代行サービスの現状に迫ります。

サブスクやリピート割まで?SNSでも話題の退職代行サービス

新保博文氏(以下、新保):話を戻して、退職代行の会社はビジネスなのでたくさん使ってほしいですよね。たくさん使うための仕組みとして、「もう1回使った場合はリピート割ですよ。半額ですよ」みたいなリピート割があったり、辞め放題みたいなサブスクがあったり。

松島一浩氏(以下、松島):意味がわかんない(笑)。

(一同笑)

新保:あとはセルフ退職支援ですね。「代行じゃないけど支援しよう」みたいなものがあったりします。これがマーケティングでどんどん助長されているというのが、今の現状です。

マーケティングを使うとはどういうことかというと、心理学を使うんですね。いっぱいあるんですが、1つご紹介すると「バンドワゴン効果」。行列があると「自分も」と思う効果ですね。



なので、「毎日これだけ(退職者が)いますよ」「(1日あたりの退職代行実績が)62人」というと、「え、これを使っていいのかな」「こんなに使っているんだったらぜんぜんありだよね」と思って使っちゃうという状況です。

これは今は切り取っているんですが、若い人がどういう景色を見ているのかは、SNSの世界って一人ひとりが見ている景色がアルゴリズムで分かれているので違うんです。

ただ、モヤモヤしているな、悩んでいるなという人は、投稿でたまたま「ブラック企業の特徴○選」みたいなことを投稿している文に、ノウハウが抽象的に10個書いてあれば、2、3個は「うちの会社もそうかも」と思う。そうこうしている間に、いろいろ見ていたら今度はアルゴリズムで退職代行がおすすめに出てきます。

「じゃあ、この(退職代行会社の)アカウントって何?」ということで見てみると、「弁護士と労組で(退職成功率)100パーセント」みたいなことが書いてあって、安心だなと思ってクリックするとLINEにつながります。

転職を目的とした離職は増加している

新保:ここのLINEというのがポイントで、LINEから始まって「どうしましたか? お悩みですか?」「辞めるのを検討しています」「それだったらすぐに連絡できますよ」と言われる。

普通は退職だったら踏みとどまる瞬間っていっぱいあると思うんですが、上司に言う手前で「ちょっと言えなかった。でも、先輩と話したり、たまたま飲みに行ったらスッキリしました」みたいな機会が失われる。

なぜなら退職代行会社はビジネスで、「退職してもらう」ということが課金ポイントになっているので、そこに障害がないようにスムーズに迅速にやりましょうとなりますよね。

裏側を見ていないのであくまで推測でしかないですが、ビジネスをやっている以上、例えばノルマや営業目標みたいなものが出てくるので、当然そういった数字を追いかける人たちがいる。つまり我々からすると、退職を助長する人たちがたくさん世の中に増えているという構図かなと思っています。

次が、退職の傾向や退職代行に至る構造のところです。ちょっと(時間が)押してきてしまったので、データをパパッと言っていきますが、実は新卒の早期の離職は増えていないと言われています。ただ一方で、大手企業の早期離職は局所的には増えていることと、新卒ではなくて転職を目的とした離職が増えている。



離職(目的)は、介護の事情や家の事情とかいろいろあるんですが、転職目的というのは、要は中途採用や経験者採用のところで、ここは増えていると言われています。

さらにいっぱいグラフがあるんですが、潜在層というのは、若い人でいうと6割ぐらいは転職を考えている状況です。じゃあ、その若い人たちの心境ってどうなんだろう? Z世代ってどうなんだろう? ということで本を読みまくりました。



おすすめはこの3冊なので、ご関心のある方はあとで見てみてください。

離職の理由は「不満」ではなく「不安」

新保:特徴をパパッと2つ言うと、1つ目が「大学のテーマパーク化」という言葉で表せているように、不快なものがないことです。少子化なので大事に大事にされて、例えば先生も、語学の授業で発音がおかしいけど注意ができないという、そんな世界観。

もう1つ、「不安」というものがものすごくキーワードになっていて、離職の理由が「不満」じゃなくて「不安」になっている。「ゆるブラック」という言葉が流行りましたが、「このままいったら成長できないよね」という思いがあったりとか。



あとは「新卒採用の時にも成長できる会社。だからコンサルファームがいいんだ」みたいな考え方になっています。これはデータがあるんですが、ゆるい人ほど早く辞めたいというデータになっています。

なので、退職のパターンは「不満」。つらい、きつい職場は昔からあります。不安や、ゆるすぎて成長しないよねというところ。3つ目はリアリティ・ショック。早期の離職ですね。



特に今はすごく丁寧に採用されているので、「あれ? 違ったな」「思っていたことと違う」みたいなことが起きているかなと思っています。

先週まで元気だったのに、突然辞める「びっくり退職」

新保:じゃあ一方で、上司やリーダーであるみなさまはそんな不安を持っている若者に踏み込めていますか? 近年、マネジメントにおけるいくつかのキーワードを挙げているんですが、アンガーマネジメントやハラスメントという言葉があります。例えば「飲みに行こう」と言っても、「アルハラだ」と言われて辞めちゃうということはありませんか?



この部下サイドと上司サイドの事情をまとめると、部下側は対立やネガティブなことが嫌いなので、とにかく言われたくないからテンプレ対応で、1on1をしても上司が喜ぶことを言います。

我々は回避型なので、もし違和感を感じても踏み込めないというか。「これ以上言うとハラスメントや、プライベートに突っ込んでいる気もするな」と思って表面的になります。でも、(部下側の)心はモヤモヤしている。

それで、先ほどみたいな退職代行のサービスにスマホ1つですぐアクセスできちゃうとなっていると、先週まですごく元気にしていて、1on1でも「何も問題ないです」と言っていた人が、急に「辞めます」みたいな。びっくり退職になっちゃうという状況になっています。



ちょっと駆け足になったんですが、やっぱり若い人たちの本音がけっこうつかみづらい。コミュニケーションが少しうまくいっていない。我々側もやっぱり踏み込めないというか、時代背景がお互いあるのかなというのが、今の現状かなというところでございます。

踏み込みコミュニケーションの具体例

新保:そんな退職代行が増えていて、ビジネス化している。マーケティングが助長している。不安で退職している。



それで、僕らリーダー側やマネージャー側も踏み込めていないとなった時にどうするかということで、若手社員定着における具体的な対策事例。ここから松島さんのパートになってまいります。

逆に私も不安を煽っていたかもしれませんが、今日は30個のキーワードを持ってきております。「ラジオ感覚で」と最初に申し上げましたが、たぶん怒涛の如くご紹介をしますので、ぜひラジオ感覚で聞いていただいて。

もちろんすぐにできないものもあれば、パッとできる、本当にすぐ使える、コストもかけずにできるなということもあるので。ぜひ松島さんから言っていただければと思います。

松島:ありがとうございます。あらためて今のお話を聞きながら、マネジメントや上司が部下にちゃんと向き合うところで悩まれている方が本当に多い。私はZenkenという会社の中だけじゃなくて、組織改善コンサル的なことをやらせていただいています。

いろんな私のクライアントの会社さんでも、いろんな工夫をして「いい組織にしよう」とか「定着のために」というわけじゃないですが、ちゃんとみんなが活躍できる組織のために何をするのかという施策があります。その一部をお話ししたいなと思います。



まず1つ目ですね。一番左上の「(早期の)クライアント同行」ということで、初期段階です。研修の段階でも現場配属の最初でもいいんですが、別に営業という仕事に限らず、お客さまのところに新卒なり新人を連れていく。

できればロイヤリティのあるお客さまですね。自社のことをすごく「すばらしい」と言ってくれるお客さまに、「新人・新卒を同行させていいですか?」と言って、それを見せるということです。うちもこれを本当になるはやでやっていますし、いろんな会社がやって「すごく良かった」と(言っています)。

「今、がんばっていることは、こんなふうにお客さんに喜んでもらえる」「こんな関係がお客さんと自分たちでできるんだな」という未来を見せることが簡単にできるので、やっていただきたいなと思います。

社外の人との「ナナメの関係」も大切

新保:次に「しゃべり場」と書いてあるんですが、これは同期同士のつながりを作る場を強制的に作ろうということです。

定期的に部屋に集まって、今だとオンラインでやる時もあると思うんですが、「最近どう?」という話を新卒何人かでする場ですね。ファシリテーター的な大人が1人そこにいて、ポジティブなこととネガティブなことを、それぞれみんなに言ってもらいます。

「大変なのは自分だけじゃないんだな」と、同期の声をちゃんとそこで聞いてもらう。「営業が大変だと思っていたけど、デザインの部署もそんなにがんばって乗り越えようとしているんだろうな」とか、そんなことを感じてもらう場をちゃんと作ること。これがすごく大事だと思っています。

あとは「斜め上の会」。これは新保さんにも今度来てもらうんですが、めちゃくちゃやってください。何かというと、僕は経営者のお友だちとか、いろんなすてきなビジネスマンの方に会社に来てもらって、社外の方に新卒の前でお話をしていただいています。それだけなんです。つまり縦、上司からだと入ってこないような話も、斜め上からだとスッと入ってくる。



今、活躍している経営者やビジネスマンが20代の時どうだったか。新卒1年目の時に何が苦しくて、どう乗り越えたか。そういう話でけっこうみんなガンガン質問したり、LINEを交換したりするんですよね。

「睡眠不足でどうすればいいですか?」「成果が上がらなくて」みたいなことをガンガン質問するような、そんな場づくりをしているのが斜め上の会です。僕もお友だちやお客さまの会社に行ってお話しすることがありますし、やってもらったりしています。

「辞めさせない」ことよりも「成長させる」ことが大切

新保:4番目は「メンターのチャットルーム」と書いたんですが、けっこう大事だなと思うのが、新卒に向き合っているメンターや上司がつながれる場を作ることですね。

これも本当に大事で、例えば新卒20人を10人とか20人のメンターで見ているとしたら、そのメンターの部屋で情報共有をガンガンするんですよ。ちなみに当社Zenkenという会社は、4〜7月ぐらいに一番情報共有したというか、チャットの数が多いのがこのメンター部屋です。

新卒がどうしたこうしたとか、トイレで泣いているとか、そんな話をひたすらして。そこに対して「誰が行く!? どうする!?」「日報でこんなことを書いているけどどうする?」みたいなことをひたすら共有しています。

これは新卒の定着に対する施策でもあるんですが、実は一番財産だなと思うのはメンターの成長なんですよね。新卒と向き合う社員がちゃんと成長することが、すごく会社の強さにつながっていくかなと思いまして、これはぜひ作ってもらいたいと思います。

次が「メンターの目標設定と育成スローガン」です。ちゃんと目標設定をする、スローガンとかを作るということですね。これが本当に大事です。

ちなみにZenkenの例でお伝えすると、「辞めさせないより、成長させる」というスローガンを僕はずっと掲げてやっていました。決して辞めさせていいというわけではないんですが、とにかくそれをスローガンにして、育成や向き合いの方針にしていた。

新保:それこそ先ほどの「辞めさせたくない」ということで言うと、踏み込まないのではなくて、ちゃんと踏み込んで成長にコミットしてあげるという意味なんですかね。

松島:まさにそうですね。「辞めさせていいよ」じゃないけど、それを上司が言ってあげることってすごく大事だと思っていて。いろんな現場があるのであれなんですが、辞めさせないようにして、結果辞めていくというバージョンを、僕は本当にいろんな事例をうかがったり見たりしているので。

新保:守りに入るというか、へっぴり腰でやるより(も踏み込んでいく)。

松島:そうそう。本当にそうですね。

新保:おもしろいですよね。メンター側に目標を設定するというのは、あまりないかもしれないです。

松島:これはすごく大事です。

「10年後に感謝されるマネジメント」とは

松島:あとは「10年後に感謝されるマネジメント」という言葉を掲げていたりします。いろんなことを覚えるとか、テストがあるからなんちゃらということをやらせたり強制するのって、やっぱりやらせる側もストレスなんだけど、「絶対にあなたがやっていることは10年後に感謝されるよ」と。

会社が変わったとしても、「あの時、ありがとう」という存在になろうということを強く掲げたりしていましたね。目標設定がない状態は良くないと思います。

次の「日報の同期みえる化」は、これも横のつながりの話です。やっぱりがんばっている同期を見たらがんばるし、苦しんでいる同期を見たら「自分は1人じゃない」というふうに孤独感がなくなるところはあって。実際に僕の友だちは、日報の返信ビジネスというものをやっているんです。

ある程度、自社でもがんばることができるかなと思うのが、日報っていろんな目的があると思います。日報でしか言えない自分の悩みを伝えるというのもあると思うんですが、あえて見える化をする。これは2、3人でもいいと思うんですが、5人なら5人、10人なら10人の新卒にスプレッドシートで全部日報を書いてもらうんですね。

だから、隣の同期の日報が見えちゃう。それに対しての返信も全部見える化する。また、それに対してどう思ったか。つまり日々の成長とか葛藤の中からどんなふうに乗り越えていくかという様をちゃんと見せる。これはけっこう効果があるので、おもしろいかなと思います。

次に上から2番目の左に「本気の送別会」と書いたんですが、日本一送別会にこだわっている会社のZenkenでございます(笑)。何かというと、部署が変わるとか、あとは産休や育休に入ることもそうですし、実際に退職もそうですが、送別会をめちゃくちゃ本気でやります。

どんないい送り出しをするかということを考えて作るんですね。手紙をみんなの前で朗読して、それに対するアンサーもちゃんとさせたり。スマイル&コブシなんて言って、「次の部署や次の会社に行ってでも、ここは忘れるなよ」「ここが課題やぞ」というところも含めて、あなたのいいところを伝えています。

それを若手に見せることがすごく効果的だと感じています。「この人の人生の決断や、転職や異動するということに対して、これだけ周りの人が本気で向き合っているんだな」「いい加減な別れ方ってできないんだな」とか、そういうことを20代や新卒にちゃんと伝えたいなと思うんですよね。そんな意図もあって、送別会にこだわっています。

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