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①曽和利光氏に聞く「採用」の実践(全2記事)

忙しい採用担当者が陥りがちな「楽な採用」の落とし穴 実は「電話」も効果的?候補者のアクションを起こすポイント

2025年に出版予定の書籍『図解 採用入門 「理論と実践」100のツボ(仮)』。その出版を前に、坪谷邦生氏と秋山紘樹氏が、人事のプロである曽和利光氏と入社寄与率を上げるポイントを探ります。本記事では、採用活動における「戦略・戦術・戦闘」の3要素を解説。忙しい採用担当者が陥りがちな「楽な採用」の落とし穴について語りました。

リクルートは300人採用に30人担当をつける

坪谷邦生氏(以下、坪谷):来年『図解 採用入門 「理論と実践」100のツボ(仮)』という書籍を出すにあたり、まずは採用の全体像というテーマで、曽和さんにお話をうかがいたいと思います。曽和さんがおられたリクルートでは、どんな採用活動を行われていたんでしょうか?

曽和利光氏(以下、曽和):リクルートの採用は、江副(浩正)さんの思いから始まったところが大きいんですけれども、まず「どれぐらい採用担当者を置くか」みたいなテーマってあるじゃないですか。

もちろんやり方によってぜんぜん違うんですけど。新卒でも中途でも、だいたい年間20人採用する時に、フルタイム換算でフロントの人数が1人なら、けっこうリソースをかけているほうなんですね。これは実際にやりとりしたり面接する人数で、アウトソースはちょっと置いておく感じです。

よくあるのは0.3×3人ぐらいで、他の会社を見ていても20人に1人ぐらいですが、リクルートはだいたい10人に1人なんです。例えば300人採るんだったら、30人フロントがいると。今でもそんな感じだと聞いたので、もう何十年も変わってないと思うんですけど。

僕がリクルートで300人の採用をしていた時は、社員で30人の部下がいて、他にアウトソースの方々もいる感じでした。これと同じ採用体制を作っている組織って、僕はリクルートか自衛隊しか見たことがなくて。自衛隊は年間だいたい15,000人とか採っていて、採用担当は1,500人いるんです。

自衛隊は50拠点あるので、平均30人ずつぐらい採用担当がいて、「1人10人採ってこい」という体制になっているわけですね。だから、自衛隊かリクルートという感じで。

坪谷:(笑)。

曽和:もちろん、これに近い体制の企業もあるんですよ。すごい成長ベンチャーで、採用にめちゃめちゃこだわっているところだと近い数字になったりします。でも、ほとんどはそこまでいかない感じなんですよね。

トップリクルーターがやっていること

坪谷:私は高校の頃に防衛大学を受験したのですが、制服を着た採用担当の方が3人も家まで訪ねて来られたので、「高校生相手にもここまで力を注いでくれるんだ」と、驚きました。

自衛隊に入ることを勧めてくださったのですが、その熱量がとても高かったのです。

曽和:わかります。私もトレーニングのところだけなんですけど、自衛隊の採用のお手伝いをすることがあります。やっぱり1,500人の中でも、トップリクルーターとそうじゃない人がいます。1人10人が平均だと言ったんですけど、1人で30人採れる人もいたり、3人しか採れない人もいるんですよね。

僕らも採れる人のノウハウを勉強させてもらって、トレーニングに臨みたいということで、オンラインなどでいろいろインタビューをさせてもらったんですよ。それで「リクルートにそっくりだな」と思ったんですけど、やっぱりめちゃめちゃベタな努力をするんですね。

例えば、コンビニの前でうろうろしている、やんちゃなお兄ちゃんたちに「君ら、何をやってるんだ?」と声をかけたり。ガタイのいい兄ちゃんがいっぱいいるような地元の柔道場で、中学生ぐらいから目をかけて、だいたい高校を卒業したくらいで「どうや? 自衛隊は」と声をかけたり。逆に言うと、それぐらいパワーをかけないと、なかなか採用できないところもあります。



例えば、リクルートも体育会の学生さんの部室に行って、コンコンコンとドアを叩いて、ガチャッと開けたら、向こうは「誰やねん」みたいな感じなわけです。僕はリクルート事件がまだ裁判中くらいの頃に採用をしていたので、「いや、リクルートという会社で」と言うと、「あのリクルートの人が、何ですかね?」みたいな感じで。

「実はこういうイベントをやっていて」とか「1時間3,500円のアンケートのアルバイトがあるから来ないか?」とか。「もし良かったら飯でも食いに行かないか?」という、謎の飲食への誘いをやったりしていました。

坪谷:(笑)。

曽和:そんなふうに、すごく地上戦で採用活動をしているところが、昔のリクルートに似ているなと感じましたね。

採用活動における「戦略・戦術・戦闘」の3要素

曽和:採用にも「戦略・戦術・戦闘」があるとしたら、戦略はどういう人材ポートフォリオを実現するために採るのかとか、人事全体の中との整合性ですよね。

戦術レベルの話としては、たくさん人を集めて、ばんばんふるいにかけてやっていくのか。それともスカウトやリファラルで、少ないけれども濃い母集団を作って口説いていくのかといったことだと思うんですね。

もちろんこういう戦略も戦術も大事だと思うんですけど、やはり最後の戦闘の部分。人事は他のところでも、「運用が9割とか8割」と言われるのと似ていると思うんですけど。採用は他の施策よりも、この運用の比率がもっと高い気がしています。

例えば、「防衛大に受かった人は、必ず自宅に口説きに行こう」という戦術を決めていたとしても、最後に口説けるかどうかが大きいですよね。なんなら戦略・戦術がそんなにピタッとしていなくても、戦闘力がある会社は採れちゃうんですよ。

坪谷:なるほど。

曽和:要は採用力のある人がいると、個の戦闘力でも採用の成功を成し遂げられるんですよね。でも組織としての戦闘力がないと、戦略・戦術が正しくてもうまくいかない。例えば「リファラルをやることに決めた」と言っても、営業みたいな仕事なので、内定者や社員からの紹介をぜんぜん引っ張ってこられない採用担当者はいくらでもいるわけですよね。



だって普通、紹介なんてしたくないじゃないですか(笑)。会社に大事な仲間を紹介して落とされるかもしれないですし、それで関係が悪くなったりしたらすごく嫌ですよね。だけど紹介してもらえる人と「いい人がいないんですよね」と言われちゃう人がいる。他の人事施策と比べても、採用はより運用の度合いが大きいんじゃないかと思うんですよね。

忙しい採用担当者が陥りがちな「楽な採用」

坪谷:ちょうど服部泰宏さんの『採用学』を読ませていただいていたら、人材ビジネスの普及に伴って、今は採用担当者が人を採ってくる力が弱まってきているという説が書かれていて。

曽和:それはですね……。人材ビジネスの企業が、採用担当者を楽にする提案をしているのは事実なんですよね。「こうしたら楽ですよね」という提案は喜ばれるけれども、担当者自身が工夫をしなくなる面もあります。

僕は「採用担当者最適」と呼んでいるんですけど、採用担当者も忙しい人ばかりなので、人材ビジネス各社とはある意味で共犯関係にあって、「効率が良くなる」という名の下に、楽になる採用をしてしまう。でも、実はそれは「採用最適」ではないということですね。

例えば、僕はよく「ファン採用」と言っているんですけど、最初から自社の志望度の高い人が集まっていると、もちろんその後の歩留まりもいいです。でも、優秀で引く手あまたの人にも、最初から高いハードルを設けて「これを越えなければ、うちを受けることはまかりならん」とか言っていたら、受けてくれなくなるだけですよね。

だから、高いハードルを設けても必死でガツガツ来てくれる人だけを対象に採用していたら、本当に質的にいいかどうかはわからない。でも、採用担当者最適という意味で言うと、すごく楽じゃないですか。

坪谷:確かに。

曽和:しかも内定辞退率が低かったり、集めた人の合格率が高かったりして、後工程でわかっている数字だけを見ると、良い採用に見えるんですよね。ただ、僕はいろんな会社を見ていますが、そういうところは、プレエントリーからのアクション率が15パーセントとか10パーセントとすごく低いんです。

今だと20パーセントでも低いぐらいだと思うんですけど、(応募のために)個人情報を出しているにもかかわらず、8割はうんともすんとも言わないで、「やっぱりやめます」「じゃあいいです」となっているわけです。

「若者は電話嫌い」と言えど、実は今も有効なツール

曽和:就職白書などの数字から導き出すと、プレエントリーの数は減っているんです。昔は100社ぐらいとか登録していても良かったのが、売り手市場なので、今の学生はだいたい30〜40社ぐらいしか登録しない。

ところが、今の新卒のプレエントリーからのアクション率は、平均で3割から4割ぐらいなんですね。これは少ししかプレエントリーしない代わりに、ちゃんと行こうとか受けようとなるので、アクション率が高いわけです。

採用担当者最適だと、無理めな人材は全部捨てて、余裕で採れそうな人材だけを採っていくので楽だし、後工程の数値でもうまくいっているように見えるんです。でも、本当に採用ポテンシャルをすべて発揮できている会社との違いは出てきますよね。

坪谷:難しいですね。採用担当者最適を追い求めていくと、採用最適にならないことがあるということかもしれないですね。

曽和:そうですね。もちろん両立できる部分もあると思うんですけど、思考としてつい、採用担当者最適を目指しちゃうところはあると思うんですよね。

例えばすごく細かい話で言うと、今でも電話ってまあまあ有効なんですよ。若者は電話嫌いと言われますし、僕も嫌いですけど(笑)。それでも、就職活動モードに入っていたら、第一志望からの合格の連絡かもしれないから、電話をとるんですよね。

電話をかけて接点が持てたら、そこから実際にアクションを起こしてもらえる率はすごく高くなるんですね。アクションを起こさなかった人のリスト全部に電話をかけたら、3割から6割ぐらいになったりする事例もいろいろ見てきています。

これは昔の話とかじゃなくて、ものすごく最近の話です。電話をかけるのはアウトソースの人だったりするんですけど、中で全部やろうと思ったら基本的に「絶対嫌だ」と思う人が多いと思うんですよね(笑)。

数百人規模の説明会を3回やって、内定者はようやく1人

曽和:つまり、1つのアクションの面倒くささよりも、採用にとって本当は何がいいのかが大事であって、僕はアクションの内定寄与率や入社寄与率がすべてだと思っています。

例えば200人に採用説明会を行うと、なんとなく仕事をした気持ちになりますよね。リクルートの大きなセミナールームには300〜400人入るんですけど、セミナー1回の期待値として、そこから内定者は1人も出ないんですよ。

なぜなら、ほとんどリファラルやスカウトで内定者が出ていて、ナビ経由の説明会ルートでは、もう2割か3割ぐらいしか(内定がない人が)いなかったので。計算すると、そのアクションの内定寄与率は小数点で0.何人ぐらいしかなくて、説明会を3回ぐらいやって、ようやく1人内定が出るかどうかみたいな感じだと。

だから、なんとなく300〜400人向けにセミナーを3回もやっていたら、「すごく仕事してる」という感じになるかもしれないんですけど、入社寄与率で考えたら、大学のサークルのドアを1回たたくのと変わらないかもしれない。

例えば京大は、一部では日本で一番採用しやすい国立大学と言われていて。彼らは外に出てこないので、「鴨川に結界が張られている」とよく言っていました。あの当時のリクルートのアクション率なのでわからないですけど、「1回行けばだいたい1人採れる」みたいな計算になるんです。

秋山紘樹氏(以下、秋山):(笑)。

曽和:でも、そんなものなんですよね。

有名企業もリファラル採用に注力するように

曽和:僕らはリファラルで、1日十何人とかにリアルで会っていたんですね。そうしたら、何百人も集めたセミナーを3回もやらなくても、京大の周りを回って、百万遍とかの喫茶店で10人ぐらいと話をすれば、だいたい1人採れるみたいな。

見た目の面倒くささとか手間や非効率さと、実際にちゃんとデータで計算してきた時の効率性は、また違うんですよ。だから、非効率なことをやるのが採用最適だというわけでもないんです。

まさにその典型がリファラルで、超有名企業でもリファラルとかにシフトしていると思うんですけど。ちゃんと計算してみたら、そっちのほうが効率的だったりするわけですよね。ただ、担当者には説明会をやるというアクションのほうが楽だったりするわけです。

坪谷:なるほど。

曽和:初対面の学生と喫茶店で楽しく雑談をするのもまあまあ難しいですし、気まずいじゃないですか。それでやっていくのはなんか嫌だったりするけど、実はすごく効率が良かったり。

このあたりに、本来ならば原理原則に基づくといいはずの採用施策が、広まっていかない理由があるんじゃないかなと思うんですけどね。



坪谷:採用のフロントに人数をおけるかどうかという話にもつながっていくのかもしれないですね。人手が足りない中で採用をしているから、構造的に採用担当者最適になりやすいとか。

採用を最適化するために重要なポイント

曽和:例えば初期選考や1次面接がまさにそうなんですけど、より内定寄与率の低いものばかりに着手すると大変になりがちです。毎日のように1次面接を10人とかずーっとやり続けて、疲弊している採用担当の人はいくらでもいると思うんですけど、なんならアウトソースでもいいぐらいだったり。

むしろ今は書類選考や適性検査できちんと見て、ぎゅっと絞った人に対して丁寧にやると。「とにかく会うほうがいい」という感じでやっていた一次面接をなくして、そのパワーを後工程の動機形成に使うほうが絶対いいわけですね。

絞られてきた人の内定者フォローをあまりやらないのに、1次面接ばかりやっている人がけっこういます。採用を最適化するということは、要はリソースのポートフォリオの最適化です。マンパワーとコストの最適化ができていない会社がすごく多いですが、本来は採用最適じゃないといけない。

そして、採用最適を表すのは内定寄与率であると。だから、内定寄与率の高い施策に合わせて、採用におけるリソースの配分を最適化しましょうというだけなんですよね。それを阻むものがたくさんあるのが、採用がうまくいかない理由の1つなんじゃないかと思います。

坪谷:今の戦闘力と入社内定寄与率の話はとても本質的だと感じます。

曽和:採用に関しては、僕はそうだと思うんですね。たぶん戦略の要員計画あたりはもうけっこうクリアされているかなと思うんですけど。「こういう人たちを、これだけのリソースで、いつまでに何人採らなきゃいけない」と決まった時に、そこからどうするかが一番重要なんじゃないかということですね。

坪谷:なるほど。おもしろいですね。私は採用と代謝の話を体系的に書かれているものは、曽和さんの本以外で読んだことがありません。



自分がコンサルやアドバイザーとして関わってきたクライアント企業でも、代謝という概念がそもそもなかったり、代謝のデザインをされていることは非常に少ないという実感があるんですね。

そういう時には曽和さんの『人事と採用のセオリー』を「まずは読んでください」と渡すことにしています。そうすると、だいたいみなさん感覚はわかってくれるのですが、本当に代謝をデザインしようとすると、けっこう大きなハードルがある気がしています。

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