カリスマ経営者のスティーブ・ジョブズ亡き後も、アップルは快進撃を続けて成長し、世界で初めて、時価総額3兆ドル企業になりました。本イベントでは
『最強Appleフレームワーク──ジョブズを失っても、成長し続ける最高・堅実モデル』著者の松村太郎氏と德本昌大氏が登壇。本記事では、書籍の元になった、起業率2年連続日本一の実績を持つiU情報経営イノベーション専門職大学(iU大学)の授業についてお伝えします。
『最強Appleフレームワーク』著者が登壇
松村太郎氏(以下、松村):よろしくお願いします。
徳本昌大氏(以下、徳本):よろしくお願いします。最初にお互いの自己紹介をしていこうと思います。じゃあ松村さんから。
松村:私、松村太郎と申します。慶應義塾大学の大学院を卒業して、フリーランスのジャーナリストとして、テクノロジーとライフスタイルという2つの軸で記事を書かせていただいています。
最初は携帯電話とMacを記事で書いていたんですけど、2007年にiPhoneが出てきて。それが2つとも融合してしまったということで、非常に運命を感じる部分がありました。これはちょっとカットなんですけど、やはりジャーナリストって息の長い職業でありまして、一回り上の先輩方が現役でバリバリやっていらっしゃるんですよ。
当時30歳にもなっていない状態で日本で仕事を始めて、「日本にこのままいても席が空かないな」と思いまして(笑)。キャリアをなんとかしないといけないということで、2011年に英語もできないままアメリカに引っ越しました。
それで、現地のAppleとかGoogleとかFacebookに「こういう者が来たから、現地の取材をさせてくれ」というメールを書いて。そうすると大企業の場合って、「なんか変な日本人から連絡がきた」と日本法人に連絡がいって、「本社から(連絡が)来ちゃったからしょうがないな」というかたちで、いろいろ取材をさせてもらえるようになって。
アメリカでもぜんぜん、iPhoneの取材とかはできていなかったんですけど、GoogleとかAppleのいろんなイベントや役員の取材ができるようになったという、キャリアロンダリングに見事成功したという経緯がございました(笑)。
そしてiU(情報経営イノベーション専門職大学)を立ち上げるということで、遠隔じゃダメだというので2020年に日本に帰ってきました。2011年は東日本大震災があった年ですが。もう1つ、アメリカに行く時に非常に有利だったことがあります。みなさん何だかわかりますか?
(会場挙手)
徳本:はい、どうぞ。
参加者1:めっちゃ円高でしたよね。
松村:そうなんですよ。(1ドル)75円とか76円になって、もともと夫婦でアメリカに行こうって準備をしていたので「よし、75円だ」というところで、貯金を全部ドルに変えることができました。今からすると、25パーセントオフの大バーゲンなんですけれども、そういうタイミングだったと。
共著者の徳本昌大氏
松村:ということでiUに行きまして、今はデザイン思考とかスタートアップとか、ケーススタディの授業をやったり。あと学生たちがビジネスプランを3ヶ月に1回作るんですけれども、そういう必修授業を主に担当しています。
徳本:じゃあ続いて、私の紹介ですが、「こんなとこに座っている人じゃないよ」ということを知っていらっしゃる方もいるんですけど(笑)。僕は2007年までは、アルコール大好きサラリーマンでした。
広告代理店で仕事はしていたんですけど、どうしてもダメだなと。「このままいったら死んじゃうな」というようなところまで、実は追い込まれていました。そこをなんとかしたいなと思って、お酒をやめようと決めて。半年間くらい苦労していたんですけど、最終的にはお酒をやめました。
今日、実は新堀(進)さんという(エグゼクティブ)コーチの方もいらっしゃっているんですけど、新堀さんにコーチングをお願いして、本を書いていこうというビジョンを、まず1つ作りました。実際本が出たあとで、次から次へといろんなビジョンを描いていって。その頃に決めたのがサラリーマンをやめて、社外取締役とか上場するとか、あとは大学の先生になるとか。
当時のアルコールに依存していた時の自分から見ると、なかなかハードな目標を作っていったんですけど。書いたら叶うというか、書いて行動し続ければ叶うということで、今のところ、それがすべて実現しました。
なので、学生にも自分の体験は赤裸々に全部話をして「君たちは今19歳とか20歳なので、絶対大丈夫だから」と。「こういう失敗している大人をこれから1年間連れてくるので、失敗体験をいろいろ聞いてくれ」と。
経営者が「自分の失敗談」を語ることの価値
徳本:実はベンチャーの上場している社長の中にも、いろんな失敗体験をした上で、どこかのタイミングで「これだ」ということを見つけた人たちがいます。「これだ」が見つかった瞬間から、凄まじい勢いでビジネスをしていって、課題を解決していく。ハードシングスを乗り越えていくことを、僕らも何度も聞いているし、実際それをパートナーシップで一緒にやっているんですけど。
その時の体験を学生たちに話してもらうと、目の色が変わるんですよね。「自分にもできるんじゃないかな」とか。もしくは、社長が自分の課題を赤裸々に話してくれて、その課題を解決する策をZ世代が考えると、すごくおもしろいアイデアがいっぱい出てきてですね。
社長たちが「これ買うよ」とか「実はこれをやろうと思っていたから、一緒にやろうよ」と、19歳とか20歳の学生たちに言ってくれて。「インターンに来ないか」とか、「ゆくゆくはうちの会社に来ないか」みたいな。そういうことを言ってくれる環境を作っていくと、本当に学生たちが成長していくんだなというのを見ています。
大人が若い人たちに失敗体験をもっと赤裸々に話していくと、日本人がもっともっと元気になっていくし、背中を押していけるんじゃないかなと。そういうことをiUで今、徹底的にやっていこうと決めています。授業に来ている経営者の人たちにも「本当に自分の失敗体験を話してほしい」と(言っています)。
良いことばっかり言うと「いやいや、そろそろ失敗体験を話してください」と横でささやくんですけど(笑)。そうすると本当に話してくれて、授業がおもしろくなっていきます。
今何をやっているかっていうと、基本的にはベンチャーの社外取締役だとか、アドバイザリーをやっています。だいたい1日中、経営者との壁打ちをやっています。あとは15年間、1日も休まずに書評ブログを続けていて、酔っ払い人生を変えてくれたもう1つの取り組みかなと思っております。では続いて今回発売された本のお話ですね。
「テスラの何がすごいのか」わからない学生たち
松村:はい。こちらの本は、大学の授業の中で生まれたんですけれども。先ほど徳本さんにおっしゃっていただいたように、やはりケーススタディは、最初に業界と企業を研究しないと始まらないんですよね。
ユニクロはSPA(製造小売業)って言われていますけど、こういったスタイルと昔ながらのいわゆるアパレル会社は何が違うんだろうとか。学生は「シーズンがこうなっている」とか「シーズン終わりになるとバーゲンセールになっている」とか、ぜんぜん知らないんですよね。「なんでバーゲンになるの?」という話とか、まったくわからない。
とにかく普通に「ユニクロは買ったことある」と言っていて、「ユニクロだと時々セールはあるけれども、基本価格は一定」という理解しかない。ユニクロが当たり前すぎて、何がすごかったのか、ほかのアパレルとユニクロとの比較ができないことが非常によくあると。
一方で今度は自動車、難しいですよ。我々車が大好きなのでいいんですけれども(笑)、学生はとにかく免許がないと。車に興味がないので「いや、このエンジンが」と話をしてもまったく伝わらない。
徳本:テスラの話は盛り上がると思うじゃないですか。ぜんぜん盛り上がらないです。
松村:ぜんぜん盛り上がらない。
(会場笑)
徳本:イーロン・マスクのことはみんな知っているんですけど、イーロン・マスクとテスラがあんまりリンクしていない。
生まれた時からiPhoneが発売されている世代
松村:ふだん車に乗っていないから、テスラの何がすごいのかがわからない。そういうかたちで、業界研究すらけっこうままならなくて、Spotifyの話をしようとしてもCDがわからない(笑)。
徳本:(笑)。Spotifyの前の話ですね。要はiTunesが出てくる前に何が起こったんだっけって、ファイブフォース分析(競争要因となる5つの要素から分析する手法)しようって言っても「レコードって最近はやっていますよね」「CDは知りません」みたいな(笑)。そういうところでファイブフォース分析をやるのは、なかなかしんどいですよね。
松村:難しいんですよね。「タワレコってCD屋さんだったんだ」というレベルなんですよね。なので話がとにかく伝わらないということで(笑)。業界を知るところも、今の新しい状態だけではなくて、過去との比較でケーススタディが進んでいくことが多いんですけれども。これがなかなか通用しないのが、我々としては悩みどころだということです。
徳本:今、僕らが教えているのが2年生なので、19歳、20歳なんですね。実は(生まれた時に)もうiPhoneが発売されているので、iPodの話とかしてもぜんぜん盛り上がらない(笑)。iPhoneのことはわかるんだけど「iPod? 使ったことない」みたいな。
そういう学生たちと授業をするのは、Appleの歴史を振り返るだけでも伝わらないという、なかなかしんどい話があるということなんですね。
『最強Apple フレームワーク』が生まれた背景
松村:なのでケーススタディをやると、業界研究がヘビーすぎて、本題のフレームワークを使ったディスカッションに時間が回せないっていう悩みがあったんですね。徳本さんの授業のスタイルの場合は、目の前にケースが来てくださるので(笑)、これは成立するっていうことなんですが。
そうじゃなければケーススタディの授業を成立させること自体が、もう3コマも4コマもやらないとなかなか成立しない状況に陥ってしまっているのが、課題感としてあったんですよね。
徳本:そうですね。あとはケーススタディを「読み込んできてください」というのがなかなか難しくて。学生たちはすごく忙しいので。
特にうちの大学の学生たちはとにかく起業したいので。本当にインターンしていたり、事業計画を書いたりしている子たちだとか、テクノロジーで開発をやっている子たちもいるので。厚いレポートを「事前に読んできて」というのが、けっこう実は難しいなと。なおかつ、専門職大学のルールなのかもしれないですけど、各授業でけっこう激しい宿題を出すので。
学生たちが忙しい中で授業を成立させていくのはしんどいと、先生たち全員が思っていた。そこを各先生たちが、どうやって解決していくかをやっていこうと。
松村:その中で「何か1つの企業、業界だけでフレームワークを説明していくことができれば、業界研究や企業研究の部分をスキップして本題に入れるんじゃないか」と発想したところがスタートです。
徳本:僕らは最初これを教科書として(使おうと思っていて)、実は今年の4月までになんとか間に合わせようっていうところから企画が始まったんですね(笑)。ただ、いろいろ大人の事情があって……。
(会場笑)
いつの間にか8月になってしまいました。そして、なんと台風にぶち当たった日にこうやってイベントをやっているということでございます。
松村:なので不自然に17個のフレームワークが紹介されているんですけれども、これは15コマが半期の大学の授業でございまして。それに合わせてフレームワークの数を調整したんですけど、2つはみ出たというところが、17個のフレームワークをご紹介した理由になっております(笑)。
徳本:実は、この授業は1コマ1時間半を2コマやるので、3時間ぶっ続けでやる授業なんですね。やはり学生たちを飽きさせないところも作らなきゃいけなくて、けっこういろんな意味でハードな授業だったんですけど。
思考力を高めるのに、フレームワークが武器になる
徳本:この『最強Apple フレームワーク ジョブズを失っても、成長し続ける 最高・堅実モデル!』は、印刷が最後に上がってきたのが7月23日。最後の授業が7月24日だったので、一応今年の学生たちには本を見せて模擬授業をやったんですけど、すごくおもしろそうで。
Appleの話で、フレームワークを自分たちで考えてやっていこうと。前期にいろんなフレームワークを学んだ上で、最後の集大成としてAppleをやれたところもあって、すごくおもしろいアイデアがいっぱい出てきました。
やはり思考力を高める時に、フレームワークは1つの武器になっているんだなと思いながら、前期の授業を終えてきました。後期は引き続きこれを使っていろいろやっていこうと思っています。ここまでが本のご紹介でした。じゃあ続いて、Appleとは何ぞやという話を。
授業ではChatGPTと自分の考えを組み合わせて発表
松村:さっそくフレームワークを使ってやりましょうか。
徳本:一応iUのご紹介をもうちょっとちゃんとすると、実は専門職大学なので、あんまり一般教養の授業がないんですよね。
ビジネスとICTとグローバルに特化しているところと、3年生は4ヶ月間インターンに行くというところで、完全に授業の単位がインターン。会社さまに面倒を見ていただきます。
あと1学年200人弱で6クラスとか5クラスとかあるので。中学や高校みたいなクラス単位で授業をやれるので、実はコミュニケーションがすごく密になっていて、本当に目が届く範囲の中でいろんなことができる。
さっき松村さんと僕はあんまり言わなかったんですけど、実は先生たちが一番勉強していると、僕らは思っていて。やはりいろんな質問が次から次へと飛んでくるのと、学生たちは全員パソコンを持っていて。先生が言ったことに対して、ChatGPTでいろんな答えを考える。それで、ChatGPTの答えと僕らが戦わなきゃいけない(笑)。
(会場笑)
なんてハードな授業をやっているんだろうかと(笑)。
ただおもしろいのが、例えば課題解決する時に、だいたい5チームに分けるんですね。僕の授業ではChatGPTを使おうがClaudeを使おうが、何を使ってもいいと言っているんですけど。
プロンプトの設計によって答えがまったく変わってくるのと、ChatGPTと自分たちの答えをどう組み合わせて発表していくのか。それをフレームワークの中でどう表現するかまでやっていくと、5チームで本当に違う答えが出てくる。
5チームごとの個性が出てきて、これを聞くだけでもおもしろいし、逆に僕の授業に来ている経営者たちは、それを見て本当に喜んでいますね。「この子たち、本当に採用したいんですけど」みたいな(笑)。
「今の子たち」というのを僕らも言われてきたし、みなさんも言われてきたと思うんですけど、人間は絶えず進化しているんじゃないかなと思っています。こういう学生さんたちの存在をもっと世の中に伝えたいなというのが、僕たちの夢としてもあります。というところで、iUの宣伝をいろんな所でさせていただいています。