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組織の“共通言語”創りの重要性(全3記事)

社内のコミュニケーションコストを下げるためのコツ Slackスタンプも効果的?組織を強くする共通言語の作り方

一般社団法人プロティアン・キャリア協会が主催したプロティアン・フォーラム2024。本セッションにはシリョサク株式会社の代表取締役・豊間根青地氏が登壇し、「組織の“共通言語”創りの重要性」について解説。本記事では、豊間根氏が以前勤めていたサントリーの共通言語を事例として挙げながら、共通言語が組織にとって必要な理由を語ります。

前回の記事はこちら

組織の共通言語を作るための4つのポイント

豊間根青地氏(以下、豊間根):(参加者から)コメントをいただいてますが、「おじさんビジネス言葉とか、コンサルの好きなカタカナ言葉も共通言語になっているならいいじゃん」というのは、まさにおっしゃるとおりです。

それを聞く人の認識が合っていて、かつその言葉を使うことによってコミュニケーションコストが下がる、一つ所に向かえるのであれば、カタカナ言葉はむしろ良い手法であると思っています。

ということで、(組織の共通言語を作るためには)このように「何がしたいか」を明確に、それに向かっていく言葉を短く、耳慣れない表現にして、かつそれを繰り返し使う場を作る。

よく言われる古典的な手法は「朝礼で毎回唱える」とかですが、例えば我々のようなベンチャー会社ではSlackのスタンプにするとか、あるいは経営トップがとにかく繰り返し伝え続ける、といったようなことがあると思います。

今も少しケーススタディには入っていたわけですが、私がもともと所属していたサントリーという会社は、共通言語が非常に多い会社だったんではないかなと、外に出てみるとあとから非常に感じるところがあります。けっこう不思議な言葉が会社に浸透している会社だなと思っていまして。

リクルートとかサイバーエージェントみたいな会社も、共通言語がけっこう多い会社としてよく挙げられるんですが、サントリーの共通言語をちょっとご紹介したいなと思います。

サントリーで使われる共通言語「カチネタ」とは?

豊間根:これはたぶんみなさんもご存知だと思いますが、「やってみなはれ」という言葉があります。

「やってみなはれ」はご存知の方も多いですが、挑戦を重んじる姿勢を表現した言葉ですね。創業した鳥井信治郎がある時に言った言葉をそのまま用いていると言われています。

あと、私が個人的にけっこう好きな「Drink Smart」という言葉があります。これをご存知の方はいらっしゃいますかね? 酒の事業部が広報をがんばってるわけですが、「酒の会社だからこそお酒を飲む時はスマートに飲もうぜ」という標語ですね。

その名のとおり「スマートに飲もう」という言葉で、飲み会の場でも偉い人が乾杯の音頭を取る時に「今日は楽しむけど、Drink Smartでいきましょう」と、本当に繰り返し言っていたり(笑)。「今日はDrink Smartで、二次会で終わりにしましょう」みたいなことが、現場で実際に使われている。かなり浸透している言葉になっています。

あとは「カチネタ」という言葉がありまして、要は「勝ったネタ」のことですね。サントリーは酒類・飲料の仕事をしているので、例えばスーパーの経営をしている本部に対してコミュニケーションをして、キャンペーンや販促物を実際にどう展開をして、お店の面を取るかをふだん考えてるわけです。

それでうまくいった施策を「カチネタ」と表現して、さらにナレッジシェアをするプラットフォームがあるんですね。それを「営業成功事例共有掲示板」みたいに呼ぶのではなくて、「カチネタ」と名前をつけて、「それ、カチネタに投稿したほうがいいよね」というふうに、会社の中でまた共通言語化をしているわけですね。

年に1回とか半期に1回カチネタの表彰があって、営業の現場の人はカチネタを参考にする、うまくいったらカチネタに上げることが当たり前になっているわけです。こういうふうにサントリーという会社は、名前をつけてそれを浸透させることがすごくうまい会社だなと思っています。

サントリーでは「クレーム」という言葉は使わない

豊間根:あと、「寺子屋」というものがあります。これもカチネタに近いんですが、営業に限らず何かのナレッジや知見を持っている社員が、その内容で社員に対して勉強会を開く場ですね。

社員が社員に教えるためのプラットフォームで、私もサントリーに所属していた頃は、何回かPowerPoint資料に関する勉強会を開いたりしておりました。

あとは「Good Person」という言葉があって、これはその名のとおり「いい人」なんですが(笑)。サントリーはやはり人を大事にする会社なので、「Good Personであろう」というのが、特に比較的社内資格が若めの人の評価基準の中に入ってたりするんですね。

「『やってみなはれ』を体現してますか」「PDCAサイクル回せてますか」みたいな(評価基準の)中に、「Good Personでいますか」という項目があって、自分がちゃんとGood Personでいられたかどうかを振り返る欄があったりします。実際にお客さんと話していても、「Good Personでいようね」ということが当たり前のようになっているんですね。

最後に、「ご指摘」という言葉が私はけっこう好きです。サントリーでは「クレーム」という言葉を使わないんですね。単純に現場で使われるだけじゃなくて、評価の中で何度も何度も繰り返し言われるのはすごく大事ですね。

メルカリが「Go Bold」「All for One 」「Be Professional」という3つのバリューの言葉を評価基準に入れているのは有名な話です。

「ご指摘」という、お客さまからいただいた声は宝の山であると。それは、あくまでクレームではなくて指摘であって、我々はそこから改善をするべきであるという思想があるので、本当にサントリーの人は「クレーム」って言わないです。絶対に「ご指摘」って言います。

Slackのスタンプも会社独自の共通言語を作りやすい

豊間根:あと、サントリーの人は乾杯をする時に「乾杯!」じゃなくて「スコール!」って言うんです。「サントリアン(サントリーの社員のこと)」という言葉もありますが、このせいで飲み屋でサントリーのやつらだってバレたりするんです(笑)。

こういう共通言語がすごく多い会社であり、それが1つの魅力であり強みになっているのが、サントリーという会社なのかなと思っています。我々も小規模ながらいろんな共通言語を持っておりまして、例えば「キメヘン」という言葉を持っています。

「聞き手、メッセージ、起こしたい変化」の略ですね。人とコミュニケーションする時は、誰に、何を伝えて、どんな変化を起こしたいのかを必ず明確にするところから始めましょう、という言葉です。

さっきちらっと出ていた「QAR」は、クエスチョン・アンサー・リーズン。「コミュニケーションはすべて、問いと答えと理由の3点セットで行われるべきである」という造語です。

あとは「紙ペン」。これは別に略す意味はないんですが、「いきなりPowerPointを開くのではなくて、まずは必ず紙とペンでラフを考えましょう」というのを「紙ペン」と呼んでいたりします。

これは、特に私がSlackの中でよく使うスタンプをスクリーンショットで撮ってるものです(笑)。特に「めっちゃいいですね」「勉強になる」「山p確認済」とか、このあたりをよく使うんですが、Slackのスタンプはその会社独自の言葉が使える、会社の共通言語になりやすいものです。

最近、Teamsでもスタンプを自分で独自に作れるような機能がアップデートされましたが、こうしたコミュニケーションツールの中で共通言語を作るというのも、1つの手法としてあるのかなと思います。ちょっと変なスタンプも多いんですが(笑)。

共通言語を作るための5つの要点まとめ

豊間根:ということで、あらためて、我々は同じものを見聞きしても意外と違う解釈をしています。同じ日本語を使っている日本語話者同士だと思っていても、ぜんぜん違う解釈をしていることがあるという事実をまずは認識しましょう。

共通言語を作る際には、大きく「定義する」と「作る」という2つのアプローチがあります。短く耳慣れない言葉にする、特異的な言葉にする。かつそれを繰り返し使う、断食・儀式にすることが重要であるということですね。

共通言語と組織風土は鶏と卵の関係にあって、今ご紹介したようにサントリーのような組織風土が強い企業には、必ずこのような共通言語が多数存在をしていて、帰属意識・向かうべき方向性を示すための1つの羅針盤になっている、という事例をご紹介させていただきました。

最後に、我々がどういうことをしているかというところですね。シリョサクという会社は、言うたら資料の会社なんですが、冒頭でもお話ししたとおり、「会社の中でのコミュニケーションコストを下げる」という観点で、資料のフォーマットを揃える言葉をきちんと定義することは非常に重要なものです。

我々はあるべき姿を策定して、それを現場へ落とし込んで、組織への浸透を支援するというかたちでさまざまなご支援をさせていただいております。

例えば、報告会の準備をする時にゼロから悩むのではなくて、このフォーマットに則って情報を整理して、それをチェックを踏んだ上で決められた流れで資料にまとめて、合意形成・意思決定をしていく……という方法論をまとめて、組織に浸透させるサービスを行っております。

サイバーエージェントさんや、古巣のサントリーなんかで実施させていただいておりますので、ご興味がある方がいらっしゃいましたら、ぜひお問い合わせいただけるとうれしいなと思います。ということで、いったん山pさんにマイクをお戻しいたします。

「やってみなはれ」の捉え方も人によって違う

山下浩輝氏(以下、山下):豊間根さん、ありがとうございました。『完全教祖マニュアル』が出てきたのは、私もちょっと驚きました(笑)。

豊間根:(笑)。

山下:ここまで資料をブラッシュアップしていただいたのかなと思っておりますが、1点だけご質問です。これはちょっと難しいご質問かなと思います。

「豊間根さんがお話しされていた『一種の宗教』と言われる会社に属しているんですが、長い時間が経って、共通言語と考えていた言葉の解釈にちょっと違いが出てきた。すでに共通言語ではないのか、もっと分解していかなければならないのでしょうか」というコメントをいただいています。

豊間根:ここはけっこう悩ましいところだと思っていまして、両軸あると思っています。例えばサントリーの「やってみなはれ」という言葉も、何が「やってみなはれ」なのであるかというのは、人によってけっこう解釈は違っていて。

例えば3年目の社員が、普通は偉い部長に向けてプレゼンをしないけど、がんばってプレゼンをして矢面に立つことが「やってみなはれ」だよね、と解釈されることもあれば。

サントリーの「クラフトボス」という、今まではおじさんが自販機の前で買ってその場で飲んで捨てるものだったコーヒーというブランドを、若者がテレワークでコーヒーをちびちび飲みながら仕事をするというものに(ブランドイメージを変化させた)。

生活のあり方自体を変えていくんだ、新しい生活文化を作るんだという挑戦が、「やってみなはれ」なんだというとらえ方もできるわけですね。

少なくともそこに共通しているのは、「挑戦すること」が「やってみなはれ」であるというものです。個別具体のシーンでどういうふうに解釈されるべきなのかは、細かく具体化をしていくことはもちろん必要です。逆に、それがどういう意味なのかを、より位相の高い部分で定義をし直すことも、両軸必要になるのかな思っています。

山下:ありがとうございます。ご質問いただいた方、参考になりましたら幸いでございます。「位相の高い共通のゴールを明確に。ありがとうございます」と、いただいています。

豊間根:ありがとうございます。私の記憶が正しければ、「スコール」は確かデンマーク語で「乾杯」です。

今日はサントリーの言葉の紹介の話が多かったんですが、今後はさらに我々も共通言語を作るところで、「こうした事例があって、こうした成果が出ましたよ」というところまでご紹介できるように事業の展開ができればなと思っております。

山下:ありがとうございます。

現場と経営サイドのギャップを言語化によってつなぐ

山下:あと1、2分ほど時間がありますかね。もしご質問のある方がいらっしゃいましたら、チャットにいただきつつ。中盤にもあったんですが、キャリアや人的資本経営ってけっこう大きなキーワードですよね。

今日は人事の方もたくさんいらしていただいてると思うんですが、トップの方々が考えたことをより翻訳して、具体化して現場の社員とつないでいくような、非常に重要なポジションを担われてる方が多いのかなと思います。

その時に、抽象的な言葉のまま落としていくんじゃなくて、翻訳というか具体化してメッセージをつなぐようなことができると、よりいいのではないかと思います。

豊間根:ちょっとスライドからは省いたんですが、現場と経営のギャップを言語化によってつなぐのも、我々の1つのミッションかなと思っておりまして。具体の世界を見ている現場と、抽象の世界に生きている経営との間をつなぐ言語化をさせていただくのが、我々シリョサクという会社なのかなという側面もあると思っております。

共通言語を持つからこそ、具体の世界と抽象の世界をつなげるところもあるのかなと。言葉の力は偉大だと言える部分かなと思っております。

山下:ありがとうございます。そういった、かなり重要なミッションを担われているみなさまに少しでもお役に立てれば幸いでございます。そうしましたら時間もまいりましたので、こちらのセッションは終了したいと思います。あらためまして豊間根さん、ありがとうございました。

豊間根:ありがとうございました。

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