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ウェルビーイング・リーダーシップ(全2記事)

ポーラの事例で見る、幸せなチームづくりの7か条 リーダーが知っておきたい、幸福度と成果を両立するポイント

一般社団法人プロティアン・キャリア協会が主催したプロティアン・フォーラム2024。本セッションでは、幸福学の研究者・前野マドカ氏が登壇。「ウェルビーイング・リーダーシップ」と題して、メンバーが幸せに働けるウェルビーイングなチームを作るポイントを語りました。本記事では、リーダーが知っておきたい、幸福度と成果を両立するポイントをお伝えします。

前回の記事はこちら

ウェルビーイング経営の成果事例

前野マドカ氏(以下、前野):そして、「ウェルビーイングな企業事例」ということで、アライブメディケアさんとポーラさんをご紹介します。アライブメディケアさんはセコムグループなんですが、430名いらっしゃって、介護です。介護の世界でウェルビーイングを目指すのは、本当に難しいことなんですね。

なぜなら、対象が例えば時計のようなプロダクトとかサービスではなくて、ご病気を患っていたり、認知を患っていたりする方が相手ですので、若い方がなかなか定着しないと悩まれていました。

そこでこちらの社長は本気で取り組んで、昨年度(2023年度)は幸福度が上がっております。430名のうち423名が、幸福度のアンケートで幸福度が上がっているんですね。こんなふうに生産性も上がって、売り上げも上がる。そして離職率は低下して、トラブルの質が変容して、減少し、重大事故もなくなってきている。事案の減少と質が変容したということです。

何をされたかと言いますと、ウェルビーイングを知るために、全員でウェルビーイングが大事だということを、共通認識を持って勉強会をしておりました。そして、2つ目が「日々のコミュニケーションにウェルビーイングを取り込む」ということで、SNSで全社的にうれしかったことを共有して、必ずレスポンスをする。

「まったく笑わなかった○○さんが、今日はこういった機会で笑顔になって、本当にうれしかった」とかをみんなが同じスレッドに出していくんですね。いつもできたことに目を向けて、みんなで取り組むことがとても大事だったようですし、幸福度を上げるポイントになりました。

ポーラの事例で見る、幸せなチームづくりの7か条

前野:そして、「ウェルビーイングを仕組みに取り込む」ということで、人事評価に4因子の要素を取り入れています。ですから、いつも自分たちが4因子を意識して働いているということが、幸福度を上げるきっかけになったと思います。

そして、2023年にポーラの社長の及川美紀さんと一緒に出させていただいた、『幸せなチームが結果を出す ウェルビーイング・マネジメント7か条』という本です。ポーラさんは2,700店舗、フランチャイズなんですね。グランドオーナーと言われている方から、オーナーと言われている方までいらっしゃって、2万7,000人のビューティーディレクターがいらっしゃいます。

その中で調査をしたんですけれども、収益性、利益を出しているフランチャイズの店舗は、オーナーが幸せだったんですね。ですから、そのトップ10のオーナーを調べましたら、メンバーとの向き合い方、そしてリーダー自身のあり方がポイントとして出てきました。

ですから、リーダーとして自分がどうメンバーと向き合うかが、この4つのポイントですね。

「対話する」「ジャッジしない」「執着しない」「頼る」。それから、リーダー自身のあり方というところで、「経験を教訓にする」「相手を変えるのではなく自分が変わっていく」「愛のループを自分から始める」。愛のループというのは、自分から声をかけたり、何かをしていくということです。

どうやって測ったかというと、これをチェックシートにして、ご自身がリーダーシップをちゃんと取れているかを見ると、良いリーダーとしてのあり方でいられるかがわかります。

幸福度と成果を両立するポイント

前野:そして、おもしろかったのがこちらですね。幸せだけれども、成果がぜんぜん出ていないというオーナーもいらっしゃったんですね。「自分だけが幸せ」という結果になった方は何が違うかというと、こちらにありますように、「私が先導して前に立つ」という考え方。それとは逆に、例えば主体性も、スタッフに主体性を持たせるということが大事です。

それからお客さま優先の意識が高い。顧客意識のためにメンバーに変わってほしいと考えているオーナーは成果が低い。成果の高いオーナーは、お客さまにベストを尽くすために、メンバーに気持ち良く働いてもらうことを優先します。

これはすごく大事で、リーダーシップというのは、自分たちのスタッフ一人ひとりがリーダーとして働けるようにすることです。「リーダーとして」というのは、主体性を持って働けるために、みんながリーダーになれるためにはどうするか、どういう関わりをするといいかを考えていくというのが、真のリーダーとして求められることではないかと思っています。

「ウェルビーイングなリーダーとは」ということで、自分とチームにとってのウェルビーイングを考える。ウェルビーイングというのは、自分が自分でいられる状態、自分が心地いい状態ですね。そしてよくあるのが、「自分のチームのメンバーをウェルビーイングにしなくちゃ」と、自分を除いて考えてしまうんですが、自分を含めたウェルビーイングを考えてほしいんです。

チームの「やらされ感」をなくすためにリーダーができること

前野:自分がまずは体現し、自分から挨拶をする。自分が先に動く。自分の背中を見せて、スタッフの人たち、チームのメンバーに主体的に動いてもらう。やらされ感をなくすには、リーダー自らが動くのがすごく大事です。当たり前のように感じられるかもしれませんが、部下から挨拶されていることがあると思うんです。ここを徹底的に、まず自分からやると、チームの雰囲気も変わってきます。

それから笑顔を忘れずに。これは最初のほうにありましたが、しかめっ面をしたり元気がない上司、怒っている上司には、問題があったとしても、言いにくいからといって後回しになってしまいます。なのでいつでも何でも言えるように、笑顔を忘れずにということですね。

そして、リーダー自身が楽しく前向きに働く。それから、良い点に目を向ける。美点凝視(短所や欠点に目を向けるのではなく長所や徳性に意識的に目を向けること)ですね。「この人のいいところはどこだろう?」と、まずはそこに目を向けて向き合っていくと、本当にコミュニケーションがうまくいくと思うんです。

どうしても呼び出してお話をする時に、できてないところ、足りないところに目を向けてしまうんですが、すでにあるもの、できているところ、良いところに目を向けていただきたいと思います。

そして、伸び代を信じる。今できてなくても「まだできてないだけだ」と思って、伸び代を信じて向き合うことが本当に大事です。「あー、あいつ、ダメだな」と思った瞬間、こちらの思いが全部伝わってしまうので。そうではなくて、「今はまだダメなだけで、きっと伸び代があるから大丈夫」と思って向き合うことが大事です。

そして、そもそもいろんなことを「何のため?」と初心に戻って意識しながらやっていただけたらと思います。

そして、私のほうで『仕事も人生もスーッと整う 幸せになる練習。ウェルビーイング73の行動リスト』という本を4月に出させていただいたんですが、その中に「11のポイント」ということでキャリアについて書かせていただきました。「自分の仕事にときめきを持つ」とか、先ほどのポイントの中に出てきたことがたくさんあります。

やはりリーダー自身が完璧でなくていいと、私は思います。友だちでもいいので、自分自身がすべてを話せるようなメンターを見つけてもらって、自分のことを知ったり、チームで助け合うのが、本当に大事なことだと思います。

ウェルビーイングは「五感」と強い相関がある

前野:そして、幸せや楽しさを感じる心を育んでいく。AIに取って代われないのは五感だと言われていますから、ウェルビーイングは五感と本当に強い相関があります。ですから、ぜひこちらを育んでいただきたいと思っています。

あとは、「今日一日の『美しいもの』を探しましょう!」。これは私がやっていることなので、またあとで質問のところでお話しをしたいと思います。ということで、いったん私のお話は終わります。ありがとうございました。

神田:ありがとうございました。マドカさんから、ウェルビーイングの基礎、それから企業の紹介、そして「リーダーとは」ということでお話しいただきました。残りの時間では、少し私たちのほうからマドカさんに質問をさせていただきたいと思います。

まず1つ目のトークテーマなんですけれども、「マドカさんの幸せの源泉はどこにある?」ということで、そもそもご自身の幸せの源泉はどこにあるんでしょうか?

前野:これは大きく2つあります。1つは、笑顔でご機嫌でいること。テンションが高いということではなくて、いつも笑顔でいられるような状態を、自分でコントロールして保つのがすごく大事で、それができているんじゃないかと思っています。

それが、自分のためだけではなくて、やはり私がいい状態だとみなさんも話しやすくなりますし、親しみやすさが出ますから、すべてがうまく回っていくんです。

やはり人は、最初にお会いした時に、「この人と友だちになりたいな」とか「ずっとこの人と関係性を続けていきたい」と思うかどうか。それを口に出して(相手に)言って差し上げられるかが、すごく大事だと思っているんです。なので、それができるようになるためには、笑顔がすごく大事なポイントです。

あともう1つは、信頼してもらっていること。私は夫に信頼してもらっているんですが、「何があっても、とことんあなたのことを信じて、信頼しているよ」と。パートナーでも、親友でも、同僚でも、きょうだいでも誰でもいいんですけど、とことん信頼してもらう安心感が、すごく大事だと思います。

日本人は忙しすぎて「美しいもの」を見逃している

神田:ありがとうございます。「いつも笑顔で」ということと、とことん信頼してくれる存在を持つということですね。次は、この源泉をもとに、日々生活される中で、「日常の中に幸せを見つけるには?」ということをうかがいたいんですね。

幸せって大上段にかまえるのではなくて、本当にふとしたことの中で、どうやって自分の中で幸せを感じ取れるか。このあたりはいかがでしょうか?

前野:こちらは先ほど書きましたが、「美しいものを探す」。イギリス人の知り合いが言っていたんですが、「日本にはすばらしく美しいものがたくさんあるのに、みなさんは忙しすぎて、視点もキョロキョロしてしまっている。目から入る情報が多いので、すっかり飛ばしてしまって、もったいなすぎる」と。

美しいものというのは、雨のしずくや木々の美しさもありますが、心の美しさ、おもてなしや声掛けの美しさ、ありとあらゆる美しさがあるので、それを「今日一日、美しいものを探そう。今日の美しいものは何だろう?」と思っていると、心にゆとりもできますし、美意識も出てきます。なので、あなたにとっての「今日の美しさは何だろう?」ということで、探していただけたらなと思います。

日常の中に、小さな美しさから大きな美しさまであると思うので、心をオープンにして、五感を使って探していただければと思います。

経済的な安定と幸せの関係

神田:ありがとうございます。美しいものを感じ取れるということですね。ただ、美しいものを感じ取れる、五感を非常に豊かにしていくというのは、ある程度の心に余裕がないとなかなかできない。

先ほどチャットに質問が上がっていたんですけども、経済的な安定ばっかり求めるわけじゃないけど、これがないとなかなか心に余裕が生まれないんじゃないかと。経済的な安定、幸せをどんなふうにお考えですか?

前野:研究でもわかっているんですが、基本的に普通に生活できる。「足るを知る」ってありますけど、寝るところがあって、食べるものを心配しなくてよいというのは当然なんですが、それ以上になってしまうと……。

アメリカの(心理学者のダニエル・)カーネマン先生の研究で有名ですが、7万5,000ドル……アメリカの研究なので、その当時は800万円ぐらいだったんですけど、それはアメリカの経済の中で、基本的な生活ができれば、それ以上はいくら収入があっても、幸福度と相関がないとわかっているんです。

なぜなら、残念ながら私も含めてみなさん、あればあるだけどうしても欲深くなってしまう。何かを得ても、またもっと欲しくなってしまうんですね。ですから、そこは幸せとは相関がないということをご理解いただけたらなと思います。だから、ある程度はもちろん必要です。

ウェルビーイングとES(従業員満足度)

神田:まさしく「足るを知る」ということを心がけたいなと思います。では、もう1つ質問をさせてください。ウェルビーイングとES(従業員満足度)の関係についてです。

先ほど、「幸せである」こと自体が、いいことしかないんだと教えていただきました。そういった中で、仕事の満足度を上げていくことと、ウェルビーイングの関係について、「ここがつながっているんだよ」というのをもう一度教えていただければと思います。

前野:幸福度、ウェルビーイングというのは、「自分が幸せである」とか「いい状態である」とか、「こんなふうに働きたい」ということなので、主体的に関わることなんですが、満足度、ESのほうは、やはり会社が何かいい条件を出してくれるとか、受け身なものなんですね。受動的なものなので、主体的かどうかというウェルビーイングと、受動的なESというイメージですね。

ですから、やはりまずは自分がどうしたいか、自分が今の仕事の中で世の中にどう貢献できるかとか、そこの中に喜びを見つけられるか、成長できるポイントを見つけられるかが大事です。

神田:自立して、まず幸せであることが軸になるんですね。ありがとうございます。

「みんな仲良し」の緩い経営という誤解

神田:最後にクロージングクエスチョンということで、この質問を最後にさせていただきたいと思います。「個人または組織の成長に向けて、どんな社会にしていきたいですか?」。

前野:どんな社会かというと、それぞれの良さが活かされた、自分が自分の人生を歩める。それをみんなが認めて、そして世の中のためになる世の中。それがウェルビーイングな社会だと思って活動していますので、そんな社会にしていきたいですね。

もうちょっと砕いて言うと、やはり自分の良いところは、自分では普通にやってしまっているので、気づくのが難しかったりするんです。ですから、他の人にそれを聞いて、自分の良さを多面的に理解する。

そして、その良さを活かし、ワクワクしながら仕事に向き合う。そしてそれぞれの良さを活かしながら、チームとしてもっといいパフォーマンス、成果も出していける、そんな社会にしていきたいと思います。なかなか頭ではわかっていてもできないとよく言われるんですね。

それから、ウェルビーイング経営ってなんだか仲良し、ゆるい経営みたいなイメージがあると言われるんですが、ぜんぜんそうではないんです。やはり笑顔を作ると、心がほっと温かくなって、幸せになって、いろいろなことがうまくいく。目をつけるところも心にゆとりができるので、いいところをちゃんと見れるようになったりするんですね。

やはり自分の状態をいい状態にするということで、生産性も上がるし、創造性が3倍になり、いいアイデアも出ます。そういった方々が多くなると、「幸せは移る」という研究結果があるので、チームにそれが移っていきます。

反対にネガティブに目を向けると、うつも喫煙も肥満も移るんですね。こんなふうに、人間は環境にとても影響されやすいので、ネガティブなほうに行くと、どんどん引きずられてしまいます。

ですから、やはり先ほども言った、ないものやできてないことではなく、できているところに目を向ける。それから人の場合は美点凝視をして、いいところに目を向けて、お互いの良さを活かし合って、応援し合って、チームとして組織として成長していっていただきたいと思います。

私も今、実際にウェルビーイングの科学を学んで、すごく幸せにそれができています。別に私が特別ではないですから、みなさんもそんなふうに取り組んでいっていただけたらと思います。

神田:ありがとうございます。

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