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北の達人が経験した事業を崩壊に導く3つの『組織病』と組織の急拡大期における正しい組織のつくり方(全4記事)

“言語化がうまい人”はどのようにスキルを磨いているのか SNS時代に活躍するマーケターがやっていること

「キャリアと経営の伸び代が見つかる1日」をテーマに行われたイベントSNSサミット2024。今回は「北の達人が経験した事業を崩壊に導く3つの『組織病』と組織の急拡大期における正しい組織のつくり方」のセッションの模様をお届け。本記事では、“言語化がうまい人”がやっていることや、優れたマーケターの共通点について語ります。

前回の記事はこちら

組織不正を食い止めるための「ダブルループ学習」とは

樋田洋斗氏(以下、樋田):じゃあ、そのまま「教えて、さかいさん」に行きます。

事前に二見さんから「シングルループ学習、ダブルループ学習だよね」という謎ワードを2つもらっているんですが、解説および坂井さんのご所感……。

坂井風太氏(以下、坂井):ご所感?

樋田:ご所感じゃない、解釈か。

坂井:これは用語的に難しいんですが、組織文化論的にはすごく重要な概念です。今、心理的安全性ってかなり流行っていると思うんですが、心理的安全性はこの理屈の延長上にある概念ですね。自分たちの前提を疑わないのがシングルループで、「自分たちがやっていること、違くない?」って言えるのがダブルループ学習なんですね。

例えば、みなさんの会社で退職者が出た時に、「あいつがメンタル弱いから辞めたんだろ」と言っている場合は、シングルループ状態になっている。一方で、「いや、これはあの人のメンタルの課題もあるけど、自社の人材育成体制が間違っていたんじゃないの?」と言えている場合は、ダブルループ学習になっている。

このダブルループ学習が大事だよねというのは、1950年ぐらいから言われていたんですが、「なんでこれは回らないの?」となって出てきていたのが、心理的安全性という位置付けであるというのが、まず1つ。

今の北の達人さんの例もそうで、例えば「このクリエイティブ、なんで正しいんですか?」と言われた時に、「いや、正しいと思っているからだよ」というのは、シングルループ学習なわけですね。今日の組織不正の話にちょっと近づくと、同じようなことが起きていて。

クリエイティブ的な話だけじゃなくて、やはり組織不正の話にもつながっちゃうのがシングルループ学習なわけです。これを食い止めるためにダブルループが要るんです。

「知的謙虚さ」が重要な理由

坂井:作戦はいくつかあるんですが、研究領域で言うと、1つ目が「知的謙虚さ」です。「素直さ」と近いんですが、それがかなり重要だと。「自分がやっていることって、たぶん間違っていることはあるし、新しい人からでも、誰からでも、何からでも学ぶし、違和感はあるけどとりあえずやってみっか」と思っている場合は、知的謙虚が高い状態にある。

なので、逆に言うと、「自分は全部を知っているので」「えっ、なんで後輩から学ばなきゃいけないんですか?」とか、「やりやすいところだけやっていきます」と言っていれば、知的謙虚じゃない。そういう理論的なレンズを持っていると、「あっ、自分は知的謙虚じゃないのかも?」ってなるので、おすすめかなと思って聞いていましたね。

樋田:ありがとうございます。今のお話、例えば個人でインフルエンサーや個人事業主をやっている方だと、けっこう気づきにくい部分なんじゃないのかなと思っていて。それってたぶん、スタンスやマインドだとカバーしきれない部分なんじゃないのかなと思っているんですよ。

ダブルループにもう1回入っていくための、仕組みや機会がないと難しいなって思っているんです。それって何かあったりしますか?

二見淳平氏(以下、二見):もう明確にあります。自分が教えるとか、自分の思っているノウハウを教えるというかたちじゃなくて、「うちにある教育プログラムが教える」「うちにある動画の講座が教える」みたいなかたちになっているんです。

この講座に対して、日々動いているマネージャー陣やプレイヤー陣が意見を言って、「これ、こう変えたほうがいいんじゃないか?」というのを、本当に毎月毎月行っているんですね。

なので、僕が作った教育プログラムに対して、めちゃくちゃ茶々を入れてくるプレイヤー陣がずっといる感じになっています。僕がプレイヤーとしてなかなか動けていないところが絶対にあって、それを僕が言葉にしているだけなので、プレイヤー陣が実際に教育システムに対して生の声を言うとか。

僕には言いにくいので、「教育システム、こうして変えたほうがいいんじゃないですか?」というふうにすることによって、めちゃくちゃ言いやすいですし、どんどん改善していくかなと思います。

樋田:なるほど。だから、人に焦点を当てないという話ですよね。

二見:そうです。さっきの話と一緒です。

樋田:ありがとうございます。坂井さん、どうですか?

坂井:「人」と「事」で指摘を分けなきゃいけないということで、結局、人間は違和感があることを言われた場合はむかついちゃうので、人と事を分離することをやろうとしているということですよね。

二見:そうです。おっしゃるとおりです。

樋田:むちゃくちゃわかりやすいですね。ありがとうございます。

頭がいいメンバーは数字を絶対視しすぎてしまう

樋田:じゃあ、3つ目にいきましょう。企業組織病の3つ目が「数字万能病」。(スライドを指しながら)当時の課題としてこの2つが出ていましたが、いかがですか?

二見:(「数字万能病」が)最後のお話にはなるんですが、一番最初にお話ししたKPIのところで言うと、数字で管理するのはめちゃくちゃ大事だと思うんですよね。

ただ一方で、いわゆるクリエイティブ。広告もSNSもそうなんですが、実際に作る動画や画像というのは、数字だけでは完全に判断しきれない、感性やセンスが必要になってくるかなと思っているんですね。

ただ、当社はIQ採用を行っていて。数字をメインで扱う広告運用の一部の職種では、IQ120以上の人しか入れないとか、学歴とかも全部基準を設けているので、一言で言うと頭のいいメンバーが多いんですね。

でも、頭がいいメンバーって、やはり数字を絶対視しすぎてしまう癖がありまして。「数字が出ているから」「計算上こうだから」「フォーマット上こうだから」みたいなことがすごくあるんですね。そこ(数字だけ)を追っていくと、やはりセンスがあるメンバーの意見が潰れてしまうんですよ。

数字で判断すると楽だから、「これは数字が出ていないからダメ」という感じで、いいクリエイティブや新しいクリエイティブが生まれなくなっていったのは、一番最初のKPI化のさらに副作用でもあるかなと思っております。

樋田:ありがとうございます。これ、まさにSNSの中でも起きやすいポイントですよね。

暗黙の了解やセンスは言葉や形に落とし込む

樋田:数字で見えているところはもちろんありつつも、そうじゃない、なんかぼやぼやとした感覚みたいなものが絶対にあると思っていて。そこに対して参考になるものがあるかなと思うんですが、当時はいかがでしたか?

二見:また難しい言葉を使ってしまうんですが、「暗黙知の形式知化」というのをやっております。簡単に言うと、みんなが「なんか大事だよね」と思っているような、暗黙の了解や暗黙のセンスをどんどん言葉や形にしてあげるということを、徹底して行っていきました。

Webマーケティングやクリエイティブとか、センスみたいなところをどんどん言語化していったものを実際に言葉にした講座なんです。「着眼法研修」という当社のオリジナルのワードなんですが、「いいクリエイティブに着眼して、自分の広告に取り入れましょう」みたいな言葉にしてあげたりとか。

あと、もう1個のスライドの「エモーションリレー講義」。ちょっと一部(情報は)見せられないんですが、いわゆる感情の流れって大事だよねって(いう部分が)すごくあると思うんですが、それをそのまま感情の「エモーション」と、流れの「リレー」で、エモーションリレーという言葉にしたんですね。

広告やSNSをクリックして、LPに飛んだ後に「わっ、いいな」と思って感情が揺れて、商品を購入する。この流れを言葉にしてあげないといけないということで、暗黙知の形式知化、共通言語化と言われるところをかなり行ってきました。

自分で伸ばせる広告・クリエイター

二見:1つのスライドにはなるんですが、僕の仕事はこういうことで、みんながフワッと思っていることとか、いいプレイヤーのいいところを僕が勝手に形式知化して、言語化してあげる。昨今のWebマーケティングを共通言語化したのがこの図です。

当社の書籍の中でも話しているんですが、商品を人に届ける時って、「誰に」「何を」が大事だよねと。「誰に」「何を」って、どういうふうに作るかというと、商品やユーザーのことを知ったり、競合調査が必要だよね、みたいな。

どのように伝えるかというのは、SNSに置き換えるとアルゴリズムみたいな話なんですが。「アルゴリズムってめっちゃ小手先の話だよね」というのを共通言語化してあげることによって、メンバー全員の頭の中にこれが入っているので、「これってめっちゃすごいテクニックの話だよね」で収まる。

アルゴリズムの話をめっちゃし始める人、いるじゃないですか。そういう人たちに、「でも、これって2割のところだよね」という話をメンバー同士でできるように言葉やプログラムにしていくことが、形式知化にはすごく有効だったかなと思います。

樋田:ありがとうございます。めちゃくちゃ大事な話でありつつも、たぶんみんなが逃げちゃいたいところ。難しいからこそ、向き合いたくないなって思っちゃうところだなって思います。でも、これは本質ですよね。(スライドを指しながら)これも坂井さんがとんでもない……。

坂井:ややこしいからやめましょう。

樋田:やめる?

二見:(笑)。

すごいマーケターに共通する特徴

坂井:SECIモデルは調べていただければいいと思うんですが、もうちょっと大事な話だなと思ったのが、「この仕事はセンスです」って自分が言っちゃった時や言われた時は、基本的に疑ったほうがいいとは思います。

それって、たぶん言語化をサボっているか、もしくは仕事の参入障壁を築こうとしていて、「いや、この仕事はセンスです」と言えば、自分の仕事が奪われないわけですよね。だから、あんまり良くないところがある。

でも、マーケのセンスの話で言うと、「すごいマーケターの人は何をやっているのかな?」って昔、考えていた時があって。だいたいその人にインタビューをすると、同じ答えが返ってくるんです。

「街で見かけた広告、クリエイティブ、CMがどういう意図で設計されていて、誰にどう刺さっているのかを愚直に毎日ノートに取り続けていた」みたいなトレーニング方法を言っている人が多いので、超具体で言うと、そういうのは有効なんだなと思った。

もう1つが、言語化というのがキーワードだなと思ったんです。たぶん今のSNSの時代って、「あの人は言語化がうまいよね」みたいなことでけっこうもてはやされたり、そういう人って伸びたりすると思うんですよね。

だけど、言語化って何でどうやったら磨かれるのかな? と思った時に、結局はどれだけ抽象的な概念をかみ砕いたかという話です。プロセスの工程表を作るのとかは別に言語化ではなくて、みんなが思っているけどかみ砕ききれていないものを、うにうに考え続けることのほうが重要なので。

これ、伝わるかわからないんですが、「何々ではこうです」と言っている人と、「何々とはこうなんじゃないか?」という、「では思考」と「とは思考」ですよね。「とは」をやっている人のほうが言語化が磨かれているのは、そういうことなのかなと思っていて。

すごく近い例で言うと、「愛とは?」って、ものすごく難しい話じゃないですか。でも、あれをちゃんと自分でかみ砕いて説明しようとするっていう、抽象概念かみ砕きプロセスによって、たぶん言語化は磨かれるんだなと思っています。

今回も結局、「クリエイティブがなんかいいよね」の、「なんかいい」ってめちゃくちゃ難しいじゃないですか。「『なんかいい』とは何か?」っていう、「とは思考」をちゃんとやっているのが、二見さんであるのだろうなと思っていましたね。

樋田:ありがとうございます。

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