2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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企業の人手不足の問題が深刻化する今、社員のリスキリングを重要視する風潮が高まっています。一方で、リスキリングがなかなか社内に広まっていかないという課題をもつ企業も多いのではないでしょうか。 そこで今回は、『中高年リスキリング これからも必要とされる働き方を手にいれる』を8月に上梓した、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブの後藤宗明氏にインタビュー。本記事では、リスキリングは企業主導で行うべき理由や、「従業員が辞めてしまうのでは」という不安を覆すメリットを明かします。
——今、人手不足が進んでいる中で、企業側が定年退職後の再雇用の期間延長をする流れも生まれています。シニア人材を活用するためのリスキリングのポイントはありますか?
後藤宗明氏(以下、後藤):これは現在の雇用慣行とか、就業の慣習の中ではなかなか難しいです。例えば中高年の方が、いきなりデジタル部門の新規事業部門に配属されることは、起こりづらい。やっぱり若くて優秀な方が配属されるわけですよね。
ここでもリスキリングと学び直しの混同の問題とぶつかるんですけど。今、世の中では、「うちの会社の中高年は学ばない」みたいな議論をしてるじゃないですか。それを言う人たちは、先ほどの「資格取得のために自ら学んでいない」とか「週末や終業後に勉強しない」というニュアンスで言ってるんですよ。
実際に、よくOECD(経済協力開発機構)のデータを見て、「日本人は学ばない」という話をしてますよね。あれは「就業時間外に自分から学んでいない」のか、それとも「会社が人に対して投資をしてない」のか、2つの話が混ざってるんですね。
後者の会社が人に投資をしてないという話は、ある種リスキリングに関連があるわけです。「会社がリスキリングにお金を使ってない」ということですね。
ところが、中高年の方が学ばないという議論の時って、ほとんどが「自分から週末や就業後に勉強しない」ってニュアンスで話されている。ただ、リスキリングはあくまでも業務なので、会社が強制的に仕事と関連づけて学ぶ機会を作ること。それができていないのが、1つのポイントなんですよ。
要するに、ちゃんと会社がリスキリングをせず、単に「資格取得補助とかを使って、学び直しでがんばってね」とやってるだけなので、やるわけがないんですよ。
——個人のやる気に頼ってしまっているということですね。
後藤:これは日本のリスキリングの課題ということで、本の中で書いたものなんですけど。まずはリスキリングって、従業員個人の観点から行くと、マインドセットを作って、学習をして、新しく学んだことを仕事の中で実践して、スキルを身につけていくわけですよね。
その新しいスキルをちゃんと実践して成果を出すから、新しい仕事に移っていける。4番目の新しい職業なわけですね。
例えば、編集部で部下を雇っていいことになったとして、オンライン講座で編集の講座を3ヶ月間勉強してきました、という人を雇いますか?
——うーん……。いや、実務経験がある方を雇いたいです。
後藤:そうですね。そこがこの学び直しの限界なんです。図の②と③の真ん中に線を引いてますが、新しいことを学んでも、仕事でスキルの実践をしていないので、新しい仕事に就けないんです。
それは学び直しという和訳とリスキリングの誤解から生まれています。リスキリングはあくまでも成長分野の仕事に就くことがポイントですが、学んだ後に、仕事の中で実務経験を積んでいなければ、そのスキルを活かせる新しい仕事には移れないんです。
つまり、単に学び直しと言って勉強していても、仕事の実績と経験がないから、成長分野への労働移動は起きない。だからリスキリングは、海外では仕事の中でやっていくものなわけです。
例えば、これからAmazonでデジタルマーケティングをやりますよと。Amazonの使い方とかを仕事中に勉強し、自社のAmazonのホームページを作りました。そしてAmazonの運用をします。ここで、デジタルマーケティングのスキルが身につけられるわけですね。
——ということは、会社の中でリスキリングをして実務経験がつくと、転職をしてしまうケースもあるんじゃないでしょうか。
後藤:それはあり得ます。ただ、その新しいスキルを身につけて辞めていく問題よりも重要なのは、リスキリングって、実は優秀な人材を引きつけるための仕組みになっているということです。
日本のリスキリングと海外のリスキリングがいかに違うか、ということなんですが、「アプレンティスシップ制度」というものがあります。これは英語で弟子見習いのことを指すので、いわゆる徒弟制度みたいなものをイメージしておくといいんですけど。
今、海外のリスキリングの主流はほぼ、師匠について、新しいスキルを習得していく「アプレンティスシップ制度」になってきているんです。
厚生労働省は「企業における職業実習訓練制度」って和訳を振ってるんですけど、要は経験がない方が、給料をもらいながら仕事を通じてスキルを身につけていくプロセスのことですね。実際に、今グローバル企業はこのアプレンティスシップ制度を採用のツールにしています。
例えば、デジタル人材は空前の人手不足で、もうどこの会社でも人の取り合いですよね。そうするとどこの会社も、「今あなたは未経験だけど、うちの会社に来たらスキルを身につけられますよ」と言って、このアプレンティスシップ制度に基づいて、会社でリスキリングをし、優秀な人材を囲い込んでいく。
海外の「Fortune Global 500」の企業でリスキリングに力を入れている企業は、リスキリングを採用のツールにも使ってるんです。
——なるほど。優秀な社員が転職するかもしれないという不安よりも、採用の強みになると考えるんですね。
後藤:なので、リスキリングに成功している会社の経営者の方が共通でおっしゃるのは、「もちろんリスキリングをする結果、辞めるかもしれない」と。でも、「自社の成長事業ができて、どんどん成長していく人が増えていくから、デメリットよりもメリットのほうが大きいんだ」と、みなさんおっしゃっています。
——リスキリングが広まっていくことで、採用のかたちも変わっていくんでしょうか。
後藤:今の20代の新卒の方たちは、「うちの会社ではこんなスキルが得られるよ」と、ちゃんと説明してくれる会社を選ぶんですよ。というのも、今の若い方たちは、「自分を成長させてくれるところで働きたい」という意欲が高い。
——終身雇用が崩壊し、「常に学んでいかなければいけない」という意識を持つ若い方も多いですよね。そう考えると、日本企業においてもアプレンティスシップ制度を取り入れることが、採用にとても有利に働くということなんですね。
後藤:そうですね。リスキリングは企業と個人の生存戦略です。リスキリングをすることで会社もちゃんと成長していく。そして個人も、新しいスキルがアップデートされていくので競争力が上がるんですよね。
——本来のリスキリングは、個人にも企業にもメリットがあるということですね。最後に、特に中小企業の経営者の方に向けて、アドバイスはありますか。
後藤:人手不足が深刻なので、もう廃業すると決めている方はしょうがないと思います。ただ自社の事業を、これからの世代にもバトンタッチしたいと思っていらっしゃる経営者の方に向けてお話しすると、やはりリスキリングが重要かなと思っています。
「リスキリングをすると、従業員が辞めてしまう」と恐れるのではなくて、実はちゃんとリスキリングをすることによって会社が儲かって、さらにそれを給与に還元できるから、むしろ従業員が定着するんですよ。
海外では、(従業員の)エンゲージメントの数字が上がっていたりするデータもあります。ですから、先ほどお話しした「三方よし」を叶えるためのツールとして考えていただきたい。自社の成長事業を担う人材を育てるために、ぜひリスキリングに取り組んでいただきたいなと思います。
——後藤さん、ありがとうございました。
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