2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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企業の人手不足の問題が深刻化する今、社員のリスキリングを重要視する風潮が高まっています。一方で、リスキリングがなかなか社内に広まっていかないという課題をもつ企業も多いのではないでしょうか。 そこで今回は、『中高年リスキリング これからも必要とされる働き方を手にいれる』を8月に上梓した、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブの後藤宗明氏にインタビュー。本記事では、リスキリングで企業変革を成功させた石川樹脂工業の事例から、事業の成長と従業員の給与アップもかなう「三方よし」の秘訣を語ります。
——前回、本来あるべきリスキリングが広まらない背景についてお話しいただきました。その状況を打破するには、リスキリングの誤解を解くことと、「会社でリスキリングを導入することでこんなメリットがあるよ」と伝えていくことが重要なんですね。
後藤宗明氏(以下、後藤):おっしゃるとおりです。それを私は今、日本全国でやろうとがんばってます。リスキリングを「やるべきですよね」と言うのは、結果的にあんまり良いアプローチじゃないなって途中から気がついて。「社長、リスキリングやると儲かりますよ」というアプローチに変えてます。
——なるほど。べき論ではなくて「儲かる」といった明確なメリットを伝えると、「ちょっとやってみようかな」という意識が生まれますよね。
後藤:はい。リスキリングを導入することによって会社が変わった実例や、リスキリングしていく方向性をお話しすると、「なんか誤解してたな。リスキリングって実は会社にとって良いことだな」って、ほぼみなさんがわかってくれます。
——具体的にはどんなふうにお伝えされているんですか。
後藤:例えば、僕がよく成功事例としてお話ししている石川樹脂工業さんという会社があります。この会社がある石川県の加賀市は、(2014年には)このままいくと自治体がなくなる「消滅可能性都市」と言われていました。
石川樹脂工業では、食器のようなプラスチック製品等のOEMの企画・製造・販売をやっていまして、工場では中国の技能実習生の方が以前は働いていました。ただ、コロナで実習生の方が来られなくなるタイミングがありました。(その時に)この会社はもう究極の人材不足がくることを見越して、初めてロボットの導入をするんですね。
でも、従業員の方々はロボットを触ったことがなかったので、ロボットを導入する会社さんと一緒に、仕事の時間内にロボットを動かすプログラミングを学んでいったんです。現在、1台から始まったロボットが、5年間で20台入りました。生産性向上にめちゃくちゃ貢献して、製造プロセスの自動化に取り組んでるんですよ。
当時70人ぐらいの会社だったんですけど、なんと今80人まで増えています。生産性が上がっているにもかかわらず、従業員が増えてるのはなぜかと言うと、企業として体力があるから。従業員がリスキリングをした結果、生産性が上がって、そのぶんほかの仕事に就いてるわけですよね。
——新たな事業を始められたんですか?
後藤:まさにおっしゃるとおりです。生産性の向上だけじゃなくて、次の事業として「OEMで販売したプラスチック製品の端数を、オンラインで売ってみよう」と。OEM商品の納入ってBtoBのビジネスですが、これをBtoCでやってみようと、初めてAmazonでオンラインの販売をやるんです。
——なるほど、ECを始められたんですね。
後藤:はい。金型の設計をやっていた、当時27歳の女性の社員の方を抜擢し、わずか3ヶ月間で売上が倍増。現在、Amazonだけで全社売上の10パーセントの売上が出てるんですね。この方が1名で始めたプロジェクトなんですけど、今チームが大きくなって、3名でこのデジタルマーケティングチームをやっているそうです。
3名って聞くと「小さいな」って感じがしますけど、3名の小さなチームで大きな成果を出せていること自体がすごくないですか?
——そうですね。そのEC事業にあたってのリスキリングも就業時間にされたんですか?
後藤:もちろんです。これはAmazonのカスタマーサクセスチームが、ちゃんと一緒に並走してくれるんですね。ページの作り方や販売を上げていくための方法を、ベンダーさんと一緒にやっていくわけです。こうして仕事の中でリスキリングをすることで、デジタルマーケティングの新しいスキルを身につけていくんです。
中小企業のリスキリングって、資源がなかったり、従業員の数が少なかったりで大変な側面もあるんですけど。逆に、オーナー企業などの場合も含めて、サイズが小さいがゆえに、やろうとなったら一気に動かせるという利点があります。
石川樹脂工業では、石川(勤)専務という方がやってらっしゃるんですけど、まず中小企業でも大企業でも、リスキリングの実行責任者がいることがすごく大事。
先ほどお話ししたように、リスキリングは企業変革の取り組みなんですね。この会社だったら、例えば今まで人間がやっていたプロセスをロボットを使って自動化していく。それからOEMで受託販売をやっていたけれども、デジタルマーケティングを使って直販を始めていく。
これってビジネスモデルを変革してるわけじゃないですか。じゃあそれをできる人を育てようねってことで、会社の中でリスキリングをやっていくわけです。
——経営者の意識が変わることで、がらっと組織を変えていけるのが、中小企業の強みでもあるのかなと感じました。
後藤:まさにそうです。それで、この会社は端数をオンラインで売るところから、今度は右側の写真のような、ARAS(エイラス)っていう、自社の食器ブランドを作ったんですね。
これが今、Instagramで17万人以上のフォロワーがついてて、ついにアメリカ進出も果たしたくらい、めちゃくちゃ人気なんですよ。これも、もともとグローバルの仕事ができる方がいたわけではなくて、従業員の方たちが一生懸命英語の勉強もしながらやってるんです。
——新たなブランドを作り、グローバルにも進出されたということで、その成功の秘訣はどこにあるんでしょうか。
後藤:僕は「経営者がちゃんとリスキリングをしていることが重要だ」っていつも言ってるんですね。リスキリングって、デジタルトランスフォーメーションとかの目的がメインですけど、設備資金が必要になるんです。そうすると大きな投資が必要になりますが、その時に投資の意思決定ができるのは、経営者の方だけじゃないですか。
ところが経営者の方がリスキリングをしていないと、デジタルリテラシーが低いので、例えば「A社のクラウドを導入するのとB社のクラウドを導入するのと、何が違うのか」とかがわからない。あと、ベンダーさんに言われるがままの金額で買って、ぼったくられてるケースもけっこうあるんです。
ちゃんと企業変革のための投資の意思決定をできるようにすると言う意味で、経営者の方がリスキリングをすることが大事なんですよ。
実際、この会社の石川専務はロボットの導入や、Amazonのデジタルマーケティングも、まずご自身がやっています。これはすごく大事なポイントなんですが、そこをずっと役員や会社経営者がやるわけにいかないじゃないですか。
なので、まずは自分が最初にやってみることで、(石川専務は)「この仕事は誰に適性があるのかがわかるようになった」とおっしゃっています。そこで、20代の金型の設計をやってた方をデジタルマーケティングに抜擢したりして、担当者を選定できるわけです。
——中小企業で社員が少ないからこそ、経営層が「誰にこの仕事を任せたらいいか」をすぐに決められるという強みもあるんですね。
後藤:はい。この会社がすごいなと思うのは、例えばスターバックスの店内用のタンブラーやサイゼリヤの食器も石川樹脂工業のものです。
こんなかたちで、どんどん従業員の方がリスキリングをしていって、ある種会社の成長事業、新規事業を担っていく方が育っていく。そうすると、それが儲かって利益が出て、実際にこの会社では給与がちゃんと上がっています。
つまり、従業員が会社の成長事業を担うスキルを身につけた結果、利益がもたらされて、従業員の給与に反映される。リスキリングって実は「三方よし」なんですよ。
なので「リスキリングは転職のためのものではなくて、会社の成長を導くもの。そして従業員の給与を上げるところまで持っていけるんですよ」って、いつも説明をしてるんです。
——なるほど。経営者は、どんな新規事業を立ち上げていけばいいんでしょうか。
後藤:そこが実は一番大切なポイントです。僕がリスキリングの重要性を話す時は、いつも海外の最新のテクノロジーをお見せしています。
さっきお伝えしたように、「リスキリングをするとこんないいことがあるよ」ということが、実はあまり知られていない。日本はデジタル化で出遅れてるので、国内だけを見ていると「今のままで大丈夫だろう」と、健全な危機意識を持てない傾向があるんです。
そこで、例えば最新の二足歩行ロボットで、どれだけ工場の労働者がロボットに置き換えられるかみたいな話をするんです。そうすると、経営者の方はけっこう危機意識を持たれるんですよ。
要するに、(企業でリスキリングが広まっていかない一因としては)現在世の中がどう変化してるのかを経営者がご存じないことがあるので。そこで(海外の事例を)知ると、やっぱり、みなさんが「このままではまずいぞ」となるんですね。
例えば「外部環境がこう変化すると、今のままではたぶん人も採れなくなるし、工場を回せなくなりますね」と。「だから工場のプロセスを自動化していかなきゃいけませんね」という話につながっていくわけですよ。
——経営者の方がリスキリングの重要性を理解するには、まず健全な危機意識を持っていただくということですね。
後藤:もう1つ、「デジタル化とグローバル化を一緒にやりましょう」って話もしています。これは戦略的なインバウンドの活用と、輸出の増強にリスキリングをつなげるってことなんですね。
例えば、日本人のパスポートの平均取得率は2022年12月の時点で、17.8パーセントです。コロナの前の最も高かった時でさえ、23パーセントなんですね。しかも、東京が30パーセントで、地方はもっと低いです。
つまり、日本人の8割近い方達が、海外へ行くことを前提に仕事をしてないんですよ。日本は地方の製造業とかたくさんのすばらしい製品があるのに、輸出とかの観点ではぜんぜん弱いわけです。
僕は、2015年から2017年の間にインバウンドの仕事をやっていたんですが、日本はもったいなさすぎるんですね。なので、その自治体の方と話をして「ここを政策で支援しなきゃいけない」と。その支援策に加えて、地域の経営者の方々がリスキリングして、デジタルを使ったり、グローバルのアプローチでどんどん外に出していく。
例えば、これは長野県安曇野市のワサビ農園さんで、日本では1本4,000円でワサビを売ってるんですけど、海外では1本2万円で売っているそうです。
——そこまで差があるんですか。
後藤:ええ、フランスの高級料理とかで普通に使われたりするので、それだけ価値があるわけです。日本って、なんでも安すぎるんですよね。なんで安いかと言ったら、従業員の方の給与をギリギリまで下げて、安さを売りにしているから。そうしていたら、永遠に給与なんて上がるわけないんですよ。
なので、僕は「今あるすばらしい製品・サービスを海外に高く売っていきましょう」と言っています。そのためにはデジタルマーケティングができなきゃいけない、輸出ができなきゃいけない。この方向性で従業員をリスキリングしませんか。これができたら儲かりますよ、という話をしています。
ここで大事なのが、自治体の方がそれをちゃんと理解していること。経営者の方だけでこれをやるのは無理なので。
——なるほど。自治体と企業、両方からのアプローチが必須なんですね。
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