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AI時代に求められる従業員エンゲージメント(全4記事)

給料の高い弁護士事務所はAIの発展でどう変わった? 山口周氏が語る、AI時代に競争力を高める「信頼関係」の構築

SmartHRが主催するイベント「SmartHR Connect 〜AIとHRテクノロジーが紡ぐ革新的企業への進化〜」が開催され、多様な分野のエキスパートたちがHRテクノロジーと人事戦略の未来について語りました。「AI時代に求められる従業員エンゲージメント」と題したセッションには、篠田真貴子氏、山口周氏、林要氏の3名が登壇。本記事では、AI時代に競争力を高める「信頼関係」構築の重要性や、職場でのコミュニケーションを活性化させるヒントをお届けします。

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山口周氏が語る、AI時代に求められるビジネススキル

篠田真貴子氏(以下、篠田)先ほど(AI時代の働き方について)多様性を力に換えていくという軸の中で起きている話だと林さんがおっしゃいましたが、山口さんはいかがですか?

山口周氏(以下、山口):ちょっと直接的な答えじゃないんですけども、人間って、特にホワイトカラーの仕事をやる上でいろんな能力が必要だって言われています。

例えば四則演算の能力が必要だと。電卓が出てくる前はそろばんを使っていたわけで、ビジネスパーソンになるんだったらそろばんができないといけない。あるいは設計者の方だったら計算尺を使っていたわけです。これを使えないと、とにかくエンジニアになれない。

電卓が出てきて、計算尺を使う能力やそろばんを使う能力は無価値になったわけですけれども、そこからコンピューターやインターネットが出てきた。篠田さんも僕もコンサルティング会社の出身ですけれども、コンサルティングもインターネットが出てくる前と後で仕事のやり方がまったく変わったんですよね。

通常、コンサルティング会社ってライブラリがあって、そこに統計の資料とかがあって調べていたんですけど。インターネットが出てきたら、インターネットの中から世界中にある統計データをいかに効率よく引っ張ってくるかが大事な能力になった。

ですから、(人が)いらなくなるわけじゃないですね。ボトルネックが変わるので、別のところに評価のポイントが出てくる。「データを全部知っています」とか「覚えています」というんじゃなくて、インターネット上からいかにいい検索ワードを入れて、ドンズバのデータを引っ張ってくるかが(求められる)能力になるわけです。

だから結局、今の人工知能もその延長線上にあるんだとすると、人間が入れ替わるとか乗っ取られるとか、勝つ・負けるって話じゃない。

やはり今まで人間がやらなきゃいけなかった仕事のある部分を、人工知能にやらせられるようになると、「上手にそれをやらせられる人」と「なかなか上手にやらせられない人」がいて、使い方が上手な人がこれから良くなってくると思うんです。

AIの発展で弁護士の仕事はどう変わった?

山口:これはすごく象徴的な話で、先日、長島・大野・常松(法律事務所)さんっていう弁護士事務所の方と話をしたんですけども。今、弁護士が作る書類の業務ってかなりAIが作っている。

例えばM&Aの契約書類で、レターオブインテント(意向表明書)とか出すじゃないですか。その書類は長島・大野・常松の弁護士だと2週間から3週間くらいかけて作っていたのを、(AIは)10分で作るっていうんですよ(笑)。しかも、そのほうがクオリティが圧倒的に高い。

これは何を意味するか。本当におもしろい議論をさせていただいたんですけども、長島・大野・常松ってやはり日本で一番入所が難しい、給料の高い弁護士事務所で。もちろん司法試験も本当にトップの成績で通りましたと。

やはり契約書類が手堅く作れる、法律の知識がある、過去の判例をすごく知っているっていう人が欲しかったわけですけども、それはもう人工知能のほうが得意だから人工知能にやらせるとして。

残りの部分で弁護士がやらなきゃいけない仕事で、かつ弁護士事務所の競争力を左右するような要因は何か、この3年間徹底的に議論しているそうです。

最後の決め手は“経営者との信頼関係”

山口:でも結局、「経営者に寄り添う力です」と言われたんですね。だから最後は人の好き嫌い。「あいつに来てほしい」「なんとなくこの案件は篠田さんにいてほしい」とか。

篠田:背中を押してほしいみたいなことですかね。

山口:経営者からするとよくわからない、言語化できない理由なんだけど「あの人にいてほしい」。契約書を任せれば背後で動いてるのはAIですから、弁護士事務所はどこを頼んだって、そこに差はない。

だから差別化ができない領域で、差別化のポイントが「手堅い契約書が作れます」「リーガルチェックができます」というようなところから、今は急速にボトルネックとか競争優位の源泉は動いている。弁護士は給料が非常に高いので、早いタイミングで人口知能への入れ替えが今進んでいるわけですけれども。

ありとあらゆる正解のある仕事が人工知能に入れ替わっていくことで言うと、正解のない領域のところで「我が社の仕事で人が担わなくちゃいけないのはどこで、それはどうやったら評価できて……」ということに、これから向き合わざるを得ないですよね。

篠田:そうですね。かつ、先ほどの林さんのお話とつなぐと「AI対人」ではないってところがおそらくポイントで。今の弁護士さんの例で言えば、「AIと共に働ける人が顧客に選ばれることになるよ」という話なわけですね。

山口:そうですね。

出社させたい経営者と「効率が下がる」と言う従業員のギャップ

篠田:ありがとうございます。ここまで「エンゲージメントって何?」「主体性ですよ」と。「しかもそれは組織の仕組みという環境の中で作られるものだ」という話を前半でしました。

次に「AIって何?」というところを今捉えてみまして。ここではAIというのは、言ってみれば「多様性の広がりの1つ」。それと共に仕事を作っていくことが、今と今後の大きな変化点であるということを、お二人がお話しくださったと思います。

ここで「エンゲージメントをこの状況で上げていくには?」というところに移ります。先ほどちょっと触れていただきましたけれども、LOVOTが感情に良いかたちで働きかけてっていうのを、オフィスでも利用されている例があると(お聞きしたんですが)、ちょっとうかがっていいですか?

林要氏(以下、林):はい。今山口さんのお話で2つ、おもしろいなと思ってお聞きしていたんですが。1個が、出社の必要性。大局観では出社したほうがいいのに、担当(している仕事)レベルで見ると出社したくない問題。これは何が起きているかというと、(担当している仕事のレベルで見ると)自分がコミュニケーションしなきゃいけない相手は4人しかいませんと。

「この人とコミュニケーションしているのが最も効率が良いんです。出社するとほかのいろんな人から話しかけられて、むしろ効率が落ちるんです」。

篠田:「集中できないんです」と。

:だけど経営目線で見ると「いやいや。実はその4人以外とのコミュニケーションにめっちゃ大事なものが隠れていて、だいたいそこから新しいものが生まれるんだよ」と。このギャップがけっこう問題で、「出社とは」という話がありますよね。

出社しても、結局会議はリモート

:それからもう1つが弁護士さんのお話で、結局信頼関係ってすごく大事だよねと。信頼関係を分解してみると、ChatGPT、もしくはラージランゲージモデル(LLM)ができるのは言語の処理です。だけど「言語の処理と信頼は別ですよね」って話なのかなと理解しました。

この2つが実は、LOVOTに意外と関係してくるんですね。まず会社に来ても、みんなリモート会議をやっていて、「何のために出社したんでしたっけ」と(笑)。会社に来て、コミュニケーションを促進したいからどうするかっていうと、人事や総務の方が「じゃあカフェを作りましょう」と。

カフェを作るんだけど、みんな自席でちょっと煮詰まった時にカフェに行って、やはりリモート会議をやっているだけだと。で、「コミュニケーションの活性化がぜんぜん進みません」という悩みは意外と多いみたいです。

ありとあらゆる施策をやった会社さんが、最後にほかに手がないものかと。どれもあまりにコスパが悪いというので試されるのがLOVOTなんですよね。

LOVOTを入れると何が起きるかというと、会社が公式に「このロボットと遊んでいいです」と言っているわけですよね。昔だったらタバコ部屋があって、タバコ部屋でみんなで駄弁っていた文化もありました。

LOVOTのところに行って、「会社が言うなら愛でますか」と愛でていると、ほかの人たちが寄ってきて話をする。LOVOTをきっかけに、今まで絶対に話さなかった、もしくは話す必要がなかった人と話せるようになる。これがけっこうエンゲージメントに効いたり、離職(防止)にも効いたりするようです。

なので今「職場のウェルビーイングを上げましょう」と言っていますけど、たぶん人事のみなさんはすごく難しいことを実感されていて、なかなかこれといった施策がない。でもLOVOTの場合は、まず買うことと、面倒を見ることの2つだけでそれが上がります。

LOVOTを入れるだけだと実はそこは上がらなくて、みんなで面倒を見ると、結果としてコミュニケーションが勝手に増えていく。おそらく、昔の村みたいな感じなんだと思うんですよね。みんなで村の子どもたちの面倒を見るのに近いんじゃないかなと思うんです。

LOVOTの特徴は「言語をしゃべらない」こと

:もう1つは、LOVOTの特徴は、「AIで言語をどう扱いますか」と言っている時代に、かたくなに言語をしゃべらせないんですよね。なぜ僕らが言語をしゃべらせないかというと、コミュニケーションの基本は実は言語コミュニケーションではなくて非言語コミュニケーションだという信念に基づいているから。

ノンバーバルのコミュニケーションのベースの上で信頼関係ができて、信頼関係の上で言語コミュニケーションができるという構造がある程度あるんじゃないかと。当然、言語の中で信頼関係が醸成される部分も大いにあるんですけれども。

結局僕らは何かを感じて、いつの間にか信頼するわけですよね。その非言語の部分を技術でしっかりやっている会社ってあんまりなくて。なので、LOVOTはひたすらたくさんセンサーを積んで、非言語コミュニケーションを理解する。それによって人との信頼関係を作るためのロボットとして作られている。

たぶん世界で初めてですけど、1,000日後にも使われている率が9割を超えるんですね。通常のロボットは30日後に3分の1はいなくなってしまう。みんな飽きてしまって、3ヶ月後にはほとんど使われなくなっちゃう。

それが1,000日後でも9割が飽きないのは、非言語のコミュニケーションをおそらく初めてうまくやったからだし、これはAI時代だろうが人間同士であろうが、大事なことなんだろうなって思います。

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