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組織にルールって必要ですか?―制度設計と組織文化の幸せな関係とは(全5記事)

上司の「後出しジャンケン」で、部下は困惑、組織はバラバラ… メンバーが“迷子”にならないための「経営スタンス」の重要性

働く人と会社のつながりや、生きることと働くことのつながりについて考えるイベント「Lifestance EXPO」。本セッションは「組織にルールって必要ですか? 制度設計と組織文化の幸せな関係とは」と題し、唐澤俊輔氏、水野祐氏、中川淳氏の3名がトークセッションを行いました。本記事では、社内で目線がバラバラにならないために「スタンス」を定めることの重要性について語ります。

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組織内で「言語化されていない文化」の多さ

唐澤俊輔氏(以下、唐澤):(組織文化について)いろんな会社の経営陣が「こうだ、こうだ」と言っているんですが、言語以上に、にじみ出ているもの、雰囲気、空気感で伝わるものが多い。実はそういうものが大事で、言語化されていない文化がすごくたくさんある。

そこを大事にするのか、その中でやめたいものをやめるなら、経営陣の振る舞いも含めて何かをやめないと変わらないと思うので、「そこまでして変えたいですか?」という問いだと思います。

中川淳氏(以下、中川):なるほどね。

水野祐氏(以下、水野):あと、ある種のバリューというか、広い意味でのルールかもしれないと思っているんですが、それが会社内で浸透しているのであれば必要ないという言い方もありますよね。カルチャーを作っていくためのルールを作る時に、それが十分浸透したなという時には、もうそのルールを廃止する会社もありますね。

中川:廃止することによって得られるポジティブなものがあるんですか?

水野:やっぱり「ルールは少なければ少ないほどいい」という感覚が、その会社全体にあるということだったと聞いていますね。

中川:なるほどね。

唐澤:そうね。「お客さま第一主義」と一生懸命掲げている会社は、そうじゃないから掲げているという側面もある。

水野:そうそう(笑)。いろいろ強弱はあると思いますが、そういうところはありますね。

中川:そうですよね。僕が本(『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』)の中で一番なるほどと思ったのが、「カルチャーは作れます。意図して作るべきです」というところです。どこを起点に考えるかという時に、「経営スタイルですよ」という話があったじゃないですか。その経営スタイルにフィットするカルチャーこそがいいカルチャーであるという話で、4分類をされていて。

唐澤:そうですね。

水野:唐澤さんの本からの引用ですか?

中川:本の内容をそのまま。はい、もちろん許可をいただいて。

唐澤:無限に使ってください(笑)。経営のスタンスですね。

中川:横軸が変化に対する志向で、縦軸が「トップダウンか、ボトムアップ寄りか」という話なんですが、ここからいくんだと思って。これは経営者の個人の価値観ではなくて、経営のスタイルから来ているじゃないですか。

唐澤:はい、そうですね。

中川:だから、そこにフィットするものを作りにいったほうがいいということですね。

唐澤:そう思っています。

部下を困らせる、上司の「後出しジャンケン」

唐澤:これの1個前に7つのSで整理をしていて、通常は「Strategy(戦略)」を置くんですが、一番上に「Stance(経営スタンス)」を置いています。戦略は事業側の話で整理しているので、組織側の話としては「まずは経営のスタンスとして、どういう組織にしたいか決めましょう」と言っています。

まさにライフスタンスと同じで「スタンスを取ろうよ」ということなんですよね。それがないまま良いことだけ言うので、「どっちへ行っていいかわからない」ということが起こるんです。その例えとしての象限の切り方が、この4象限です。ただ、いろんな切り方があるとは思います。

「スタンスを取ろう」と言っているのは、例えばスピーディがいいのか、じっくり質を上げるのがいいのかどっちかと言った時に、どっちも取りたいじゃないですか。上司が部下の行動を決めるので上司が重要なんですが、上司はいくつか権限を持っていて、人事権とかいろいろな決裁権がありますが、僕は「後出しジャンケン」という権利があると思っています。

「提案を作って」と言って、部下が翌日すぐに持ってきたけどゆるゆるだったら「もっと詰めて持ってこいよ」と言うじゃないですか。でも、2週間かけて詰めて持ってきたら、「もっと早く持ってこいよ」と言うわけです。どっちが正しいかわからないから、これをされると困るんですよね。

なので、「僕たちはスピードが大事」と決めたら全部スピードに振って、スピードが早ければ全部褒め続けるということをしないといけないんですよね。これ(経営スタンスの4象限)も同様で、何かスタンスを取ろうという時に、「僕たちはトップダウンでいく」と決めているなら、徹底してあらゆる活動をトップダウンでやるべき。

例えば「みんなの意見が大事だから、ボトムアップでやろうよ」と言っているのに、いきなり社長がバリューだけ決めて壁に貼るとなると、その行動自体がトップダウンだと感じられるんですよね。それを決めないといいとこ取りが始まって、組織が一枚絵にならないという話で、その1つの切り方がこの縦軸・横軸です。

中川:なるほど。

実は経営陣の目線がバラバラになっていることも

中川:水野さんはどのタイプなんですか?

水野:うちの法律事務所?

中川:法律事務所。

水野:どうなんですかね。この中だと「複数リーダー経営」ですかね。

唐澤:そうなりそう。

水野:そうなんです。

唐澤:もともとベースがけっこう個の集団ですからね。

水野:法律事務所はそうですね。でも、法律事務所の話はなんの参考にもならないかもしれませんが(笑)。

中川:僕は2017年まで社長をやっていたんですが、僕がやっていた時代は左上(カリスマリーダー経営)だと思います。完全にトップダウンで1人でやりまくってきたと思うんですが、次に今の千石になった時に、千石は「トップダウンからチームワークへ」と言っていたんです。

それでこの本を読んで、取締役会でシェアして、「みんな今はどこを目指しているんだろうね?」と言って指を差したら、みんなバラバラで。「チームワークというのはどこのことなのかよくわからん」みたいなことになったので、まさにここからだなと思いましたね。

唐澤:よくあります。この象限で、経営陣それぞれに「自分たちはどこだと思う?」と聞くと違うものを指しているとか、「どこへ行きたい?」と言っても違うものを指していることはけっこうあります。

中川:そうですよね。そこのずれがあると始まらん、ということですよね。

唐澤:そうです。

中川:さっきの「スタンスが明確じゃない」ということですよね。これは、みなさんもぜひやってもらいたいなと思います。だから今、うちでは「どこなんだ?」ということを議論するところから始まっています。みんな(『カルチャーモデル』を)読んでいます。

唐澤:いいですね。

日本企業の“安定的”なあり方は、強みでも弱みでもある

中川:ちなみにこれはどうでもいい余計な話なんですが、「チームリーダー経営」って読む限り、僕の感覚で言うと「ほぼ悪口だな」と思いながら。

唐澤:(笑)。

中川:でも、悪口ではなく書かれているじゃないですか。

唐澤:まさに日本の大きな組織について書いているんですが、安定的に進めつつ、でもすり合わせながら、上のほうでみんなで決めるのを「チームリーダー経営」と呼んでいます。

要は、経営陣の誰かが「俺がこう」と決めることもなくて、みんなで確認し合いながらリスクを潰すので、安定的には進みやすいということは悪く言われがちです。日本社会においても、「日本の組織はそういうところがダメだ」とよく言うんですが、日本の強みでもあったわけですよ。

みんな新卒で入って、似た人が育って、ネットワークがめちゃくちゃ社内にあるから、何かあったら「先輩にちょっと言っておきます」と言ってすり合わせが済み、すり合わせが済んだものが上にいくので、みんなはんこを押せるということになっているわけですよ。

それによるすり合わせや組織の凝集性が日本の強みであり、改善を積み重ねるには良かったんですよね。なので、あながち否定すべきものでもないとは思っていて。

今後の社会を見渡すと、人口が減っていくと「安定的」ということが無理になって落ちていくことになるので。だとすると、やっぱりイノベーションを起こさなきゃねという話が最近は出ていて。だから新規事業だスタートアップだという話になってきているので、そういう意味ではこの先はつらいかもしれない。

中川:なるほどですね。わかりました。

ルールを作ると社内に現れる「ルール警察」

中川:続いての問いが「制度・ルールと組織文化の関係は?」。このへんから水野さんの番ですね。

水野:いやいや、別にそんなことはないと思います(笑)。

中川:さっきから「組織文化をどう作るべきなのか?」、あるいは「作れるのか?」という話がありました。スタンスを決めて7つが整ってきた時に、いざそれを浸透をさせていく中で、制度やルールとかの設計が行われていくと思います。

でも、さっきもちょっと裏でしゃべっていましたが、「ルール」と言うとそれだけで悪者のように思われちゃうところもあり、でもカルチャーを形成していく上では避けて通れないことかなとも思うんですが、このあたりについては?

水野:ありがとうございます。今、MIMIGURIの安斎勇樹さんと「組織文化とルール」というテーマで共著の本を書いていまして、いろんなところにヒアリングをしたり、論文を漁ったり、議論したりしています。

そこで言う「ルール」とは、会社で言う定款や就業規則といった公式ルールだけじゃなくて。もうちょっとガイドライン的なものだったり、あるいはすごく抽象的に言えば、ミッション、ビジョン、パーパス、バリュー、ポリシーとか、そういった柔らかいものも含んで一種のルールだと捉えていて。

中川:ガイドラインというか。

水野:そういったものが組織文化に与える影響を考えている最中です。そこでの仮説は「ルールとは組織文化を作ることが一定可能だ」ということです。唐澤さんの本にも明確に「組織文化は作ることができる」と書いてあって、すごく背中を押されている部分もあります。それの1つの有効なツールが、ルールなんじゃないかと思っているところです。

水野:ただ一方でルールとは、みんなが嫌うように悪いところもたくさんあるんですね。例えばルールを作ると、会社の組織内に「ルール警察」が現れてくるみたいな(笑)。みんな想像できると思うんですが、ポリスが現れてきたり。あと一番悪いところは、思考停止になること、形骸化すること。

唐澤:そうですね。

水野:じゃあ、大枠の方向でどういうことを考えているかというと、余白のあるルールをどううまく使っていくか。そして、それをどう変化に合わせて柔軟に変えていくか。あるいは、どうなくしていくかということをやっていくと、いい組織文化が作れるんじゃないかなと。すごくざっくり言うと、そういうことを考えているところです。

中川:なるほど。

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