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組織にルールって必要ですか?―制度設計と組織文化の幸せな関係とは(全5記事)

「阿吽の呼吸」でやってきた日本企業が、今ぶつかる“壁” 目には見えない「組織文化」を定義することの重要性

働く人と会社のつながりや、生きることと働くことのつながりについて考えるイベント「Lifestance EXPO」。本セッションは「組織にルールって必要ですか? 制度設計と組織文化の幸せな関係とは」と題し、唐澤俊輔氏、水野祐氏、中川淳氏の3名がトークセッションを行いました。本記事では、「そもそも、なぜ組織文化が大切なのか?」について議論しました。

働くことと「ライフスタンス」の関係性を探る

司会者:それでは、ご登壇されるみなさまをご紹介させていただきます。Almoha共同創業者COOの唐澤俊輔さん。法律家、弁護士の水野祐さん。ファシリテーターはPARADEの中川淳が務めます。ここからは、ファシリテーターの中川に交代させていただきます。中川さん、よろしくお願いします。

中川淳氏(以下、中川):みなさん、こんにちは。よろしくお願いします。最初は僕から簡単に自己紹介させていただきます。Lifestance EXPOは2回目なんですが、「前回も来たよ」という方はおられますか? ありがとうございます。その前提でしゃべります。

今回のLifestance EXPOは「はたらく」がテーマです。PARADEという会社を、僕とTakramの佐々木さんが一緒に立ち上げて3年目になります。「ライフスタンス」という、会社で言うところのミッション・ビジョン・パーパスみたいなものがあります。

思想や哲学とかは個人でもあると思いますが、PARADEの取り組みではそういったことがテーマです。企業で「いい会社とは何か?」ということを探求し、実践しています。そして年に1回EXPOというかたちで、2023年はライフスタンスと「消費、生産」の話をしました。

ライフスタンスは、何かを選ぶ時に関わってくることでもあるなと思っています。2023年は「『何かを買う』ということが、デザインだけではなくてモノの良さを問われる年でした。モノの根本的な部分にある企業の姿勢まで問われる時代になっていますよね」ということで、「消費、生産」をテーマにしました。

そして今回は「はたらく」をテーマにしてみました。会社を選ぶとか、そこで働き続けることは、「買う」以上に大きなことだと思います。それとライフスタンスがどういう関係性にあるのか、どういうことが起こり得るのか。

ライフスタンスとは、企業側もみなさん個人も自分では感知しづらいものです。今回やっているEXPOは、展示やトークイベントなどを通じてライフスタンスを感じてもらい、出展している企業のことも理解していただけたらいいなというのが全体の話です。

ゲストは、法律家の水野祐氏とカルチャー作りのプロ・唐澤俊輔氏

中川:今日のトークイベントは「はたらく」がテーマです。その中でも企業文化にフォーカスを当てたゲストの方をお二人お招きしています。それでは順番に水野さんから自己紹介をお願いします。

水野祐氏(以下、水野):水野と申します。組織文化の専門家かと言われるとかなり怪しいのですが、ふだんは都内で弁護士をやっています。仕事では比較的新しい技術を使い、それに基づく事業をやっているスタートアップ企業から大企業の新規事業まで幅広く、小さな会社から大きな会社までの法的なサポートをしています。

上場企業やスタートアップの社外役員などもしています。そういう意味では組織に関わっている面もありますし、小さな法律事務所の経営者でもあります。

中川:なるほど。裁判所に行く時に短パンはオッケーなんですか?

水野:いや、ダメです。

中川:あ、ダメなの。

水野:ダメじゃないかもしれないですが、不利になるので。

(一同笑)

中川:明確なルールはないが、暗黙のルールはある。

水野:暗黙のルールはあります。

中川:不利になるのね。

水野:でも、最近はだいぶゆるくなっていますね。Tシャツ、ジャケットぐらいの人もいますし。

中川:そうなんですね。

水野:夏だとポロシャツとか。でも、短パンはまだ見たことがないですね。

中川:なるほど。今後に期待します。

水野:いやいや(笑)。

中川:ありがとうございます。では続きまして、唐澤さんお願いします。

唐澤俊輔氏(以下、唐澤):みなさん、こんにちは。唐澤と申します。僕はAlmohaという会社で、組織のコンサルティングやHRテック、プロダクトの開発などに携わっています。同時に、スタートアップのような急成長する組織におけるカルチャーとはどうあるべきか、いろんな企業と研究や勉強会をする「Startup Culture Lab.」の所長もやらせてもらっています。

組織文化については『カルチャーモデル』という本でもまとめさせてもらっています。組織の専門家というよりは、どちらかというと実務の中で、外資系の企業やスタートアップ、最近はデジタル庁でも働いており、いろんなタイプの組織を見てきました。

今日は、「多面的に組織の違いを端から端まで見た時にこう見えている」という感じの議論ができるといいかなと思い、ここに来させてもらっています。よろしくお願いします。

中川:お願いします。

(会場拍手)

そもそも、なぜ組織文化が大切なのか?

中川:さっそく議論に入っていきましょう。そもそも「企業文化」と「組織文化」という言葉が両方ありますよね。僕はその違いについてあまりよくわかっておらず、一緒くたに思っているんです。それも含めて、「そもそも、なぜ組織文化が大切なのか?」というところから議論をしたいと思います。まず、唐澤さんからちょっと蹴り出しをお願いします。

唐澤:ありがとうございます。恐らく、企業文化と組織文化はほぼ同じ意味で使われています。組織と言ったほうが企業以外も含むため、コミュニティなどさまざまな団体もチームもすべて含めて「組織」となります。そういう意味では、僕はより広い意味として使うことが多いですかね。

なぜ大切なのかというと、いろいろあります。組織を永続的に残していくこと、特に企業は継続的に残していくことを前提にすると、人が入れ替わっても組織の強みや良さは残っていく。人が入れ替わる度にこれを毎回変えていると、当然、中で働く人もやることも言うことも全部変わってきます。そうすると、その組織から離れたいという人も出てきてしまいます。

事業を生み出すのが組織だとした時に、組織は動いていても事業が同じだったらそんなことはあり得ないはずです。同じ事業については同じ組織モデルが合うはずですよね。そのセットを考えた時に、組織が継続的に生きていく上では文化として根付くことが重要なのです。

Appleはわかりやすいですよね。スティーブ・ジョブズが退任された後でも、今も伸び続けているのは、文化として残っているからでしょう。

目には見えない「文化」を言語化することの難しさ

中川:でも文化は目に見えないものじゃないですか。これを定義づけたり、あるいは可視化したりすることって可能なものなのですか? 僕らは社外ですが、なんとなくAppleの企業文化は良いと思っている。

唐澤:「そんな気がします」という感じですね。でも、それ(組織文化)が何なのかわからないということですよね。空気のようで目には見えないものが組織文化だと僕も思っています。企業で定義して、ホームページに「僕たちはオープンでフラットな文化です」と書いていても、実際に中の人たちの行動がそうでなかったり。

例えば「課長を飛ばして部長に言ったら、課長に怒られた」みたいなことが起きていたら、やはりそういう文化ではないと思うので、結局、一人ひとりの日々の行動と言動を積み重ねた結果が文化だと思います。

それ自体はなかなか言語化しづらかったり、かたちにならなかったりする。この言語化をすることが、ここ10年ぐらい進んできていると思います。「パーパス」という言葉が流行ってきているのもその1つです。どういう目的で組織が存在するのかを言葉で定義しよう、という営みですしね。

中川:なるほど。

唐澤:Netflixは上手ですよね。

中川:カルチャーデックとかを作って。

唐澤:そうですね。彼らは125枚のパワーポイントを作っていて、自分たちの文化は「Freedom & Responsibility(自由と責任)」と世界中に定義しています。全部言葉で書いて説明している。そうしないと、離れて働く人も含めて同じ文化を作っていくことはなかなかできません。やはり言語化は大事かなと思いますね。

中川:なるほど。

これまでは「阿吽の呼吸」でやってきた日本企業

中川:一方で世の中の流れとして、ダイバーシティとかがあるじゃないですか。それと組織文化は両立し得るのかというか、どういう関係性にあるんですかね?

唐澤:最近よく聞かれます。「バリューを浸透させよう」と言うと、「多様性が損なわれてイノベーションが起きなくなるのでは?」みたいな話をされることがある。要は、それって相反する概念だよねという話なんです。

その質問をする方は、だいたい日本の大きい会社の方が多いんですよ。「なんでだろうな?」と思うと、日本の組織は新卒で入って先輩の背中を見て育ち、おおむね似た人が作られるようにできているからなんですよね。

最近はイノベーションとか多様性と言われているから、違う人をジョブ型で採り入れ始めて、やっと違う人が入ってくる。今までは同じ型であることが前提だったので、そもそも日本の企業に言語化はいらなかったんですよ。なんとなく、阿吽の呼吸で同じだったから。

それが多様になり異なる人が入ってくると、思った以上に違う。「最低限ここはそろえよう」というところを言語化しておかないと、あっちこっち行ってしまったり、いつまでも哲学論争をしたりして、組織が前に進まないということが起こる。

そうならないように、最低限は整えるところだけはやりましょうというのが、ダイバーシティの中でのミッション・ビジョン・バリューやカルチャーだと思っています。

中川:なるほどね。言語化することによって、わりと狭く捉えるべき譲れない部分もあるけど、ある意味で広く捉えられる部分もあるよねということを明確にする。それによって、暗黙の見えない線ではなくて、逆に多様性が広がることにもなる。

唐澤:だと思います。

投資家は、これまで以上に企業のカルチャーを重視している

唐澤:「裁判所に短パンで来てはいけない」とは書いてないわけです。でも、もし短パンで来た人が損をしている事実があったら、本当はそれは書いてあげたほうがいいわけですね。

中川:書いてあげたほうが自由になりますよね。

唐澤:書いてあげたほうが、その中での自由が生まれる。他方で、今まで短パンの人が来るとは誰も思っていなかったから、言語化していなかった。これからは、そこに短パンが来始めるということが起こるわけです。

中川:そうですね。

唐澤:そうすると、だったら「短パンがありか・なしか」というのは、やはり決めてあげないといけないですね。

水野:こうして話していたら、「もしかしたら(短パンNGと)どこかに書いてあるのかもしれない」と思って、ちょっと自信がなくなってきます。

(一同笑)

中川:そうですね。

水野:でも、なんでカルチャーが大事なのかというと、サービスや商品の質が画一化してきて、事業として選ばれるためにも必要になってきていると思います。

今回は「はたらく」がテーマですが、働く人たちがどこで働きたいかというのは、単純に給料だけじゃなくて。働く人の意志、wishみたいなものが実現できる場所で働きたいという価値観がより強まってきているので、そういう意味でも組織文化はとても大事。

さらに投資家。金融ですが、会社に投資したい人たちの視点はよりカルチャーを重視している。非財務情報とかもすごく重視されるようになってきていますが、そういうところで、広い意味で文化が見られるようになってきている面もあるかなと、お話をうかがっていて思いました。

中川:なるほどね。投資で文化が見られるんですね。

水野:今はけっこう見られる時代だなと思いますね。

中川:そうですか。

気づかないうちに“悪い文化”が生まれていることも

唐澤:人的資本経営は、投資家として人のところも見ようという動きが発端なんです。財務系の伊藤(邦雄)先生が言い出しておられるので、もともとはそっちの話なんですよね。

中川:そうなんですね。じゃあその視点から見た時に、「こういう文化の会社は伸びそう」「こういう文化の会社は伸びなさそう」ということを判断する材料になっているということですか?

唐澤:材料であり、それが事業とマッチしているかも見ているでしょうし、逆に文化によるリスクもあるので。大きな企業のケースですが、最近だといろんな自動車の会社さんでも問題が起きていたり、ちょっと前だと東芝さんの不正会計がありました。

ああいうのは第三者委員会が入って原因追及をやるんですが、例えば数字を改ざんしたということが起きても、「社長は『数字を改ざんしろ』という指示はしていない」という結果が必ず出るんですよ。

じゃあなぜ起きたかというと、最後は「上にものが言いにくい組織文化に原因があった」という結論に至るんですよね。なので、実は気づかないうちにそういった文化ができているというダウンサイドリスクもあるので、やはり投資家としても見ないといけないと思います。

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