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新たな事業が生まれ続ける組織のつくり方(全7記事)

新規事業を「やったもの負け」にしないために企業ができること 守屋実氏が語る、新たな事業が生まれ続ける組織づくりのヒント

新規事業施策をリードする担当者や経営者に向けて開催された本イベントでは、「新たな事業が生まれ続ける組織づくり」をテーマに、新規事業家の守屋実氏、株式会社aba代表取締役CEOの宇井吉美氏がゲスト登壇。アイデアが育まれやすい環境を、組織の中でいかにデザインするかについて語られました。本記事では、会社員時代は20年間で17回新規事業を立ち上げてきた守屋実氏が、新たな事業が生まれ続ける組織づくりのヒントを明かします。

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大企業でも新規事業の“集団免疫”ができつつある

小田裕和氏(以下、小田):そういった土壌を耕していく観点でいくと、守屋さんはこれから何が大切になってくると思いますか?

守屋実氏(以下、守屋):大企業の側からすると、あんまり正論をぶつけてもなかなか大変だから、「あそこの会社もやっていますよ」と言うのがいいと思う。例えば僕がJRでどうにかなっているように、そこそこ大企業がちゃんと(新規事業を)生み出しているじゃないですか。

しかも最近、「カーブアウト」(企業が子会社や事業の一部を切り出して独立させる経営手法)という英語も普通に通じるようになってきている。そういうのも含めて、だんだん時代が追いついて来ているので、例えばA社に対して、「A社よりもちょっと規模が大きいB社がやっていますよ」と言うと、比較的「じゃあ」という話になる。そんなふうに、集団免疫ができつつある。

小田:これはまた別の観点になるんですけど、デザイン界隈だとSaaS系のコミュニティってけっこうイベントが多くて、そういう情報交換が盛んに行われている。そのわりに、大企業って他の会社が何をやっているか知れたり、人と人がつながる機会が少ないと感じています。

守屋:若手はけっこうつながっているんじゃないですかね。ただ、さっきも言ったように3層直列でつながらないとだめで、最終的には役員の誰か1人を説得しないといけないと思うんですよ。その人ってそういう場に出てこないから。

小田:じゃあ、3層セットで出てこなきゃいけないって縛りがあるイベントを作ったら、何か変わりますかね。

守屋:いやぁ、どうでしょうね。現場の人やリーダークラスの人に声をかけてもらって、(その会社の役員を)口説きにいくパターンとか。ただすべての役員が本業に汚染されまくっているわけではなくて。中には「我が社だって第二創業だ。やりたまえ」という人も必ずいると思う。だからその1人を味方にできるかどうかって話だと思います。

大企業を1ミリでも動かすことを諦めない

守屋:けっこう世の中が動いてきているので、今の時代だったらそこそこ動かせるんじゃないかと思います。少なくとも、そう思ってがんばり続けることを僕はやっているつもりです。だから、しょっちゅういろんな会社のお偉いさんとかと食事をセットしてもらって、言いたい放題言う。

小田:(笑)。

守屋:それこそ「あなたの会社の話だ」と言うと、単なる文句を言っているだけじゃないですか。その会社のことなんですけど、「たまたま世の中にはこういう会社がありまして、どうですかね」と言うと、「いや、それはだめだ」と。「ですよね。だから、我が社はこういうふうにしたほうがいいですよね」と言うと、1ミリくらい動くんですよね。

小田:メタ認知をしてもらうってことですよね。

守屋:それで解決はしなくて、1ミリくらい動くだけなんですが、そういうことを諦めないのが大事じゃないかと思っています。世の中には、「もう大企業はだめだからスタートアップでいいんじゃないか」という人もいるので、それはそれでいいんじゃないかと思うんですけど。僕はJAXAやJRで働かせてもらっていて、やっぱりすげえなって思っている。なので、がんばりたいなと思っています。

新規事業の最初の2年、3年は“土を耕す”時期

小田:なるほど。質問を拾っていきたいなと思います。「原体験や衝動があっても、大企業の中だとどうしてもできない、この会社ではそれをいいと言わない雰囲気がある」「個人の仕事を、ちゃんとチームの財産として活かしていける組織を作りたい」と。

よく「熱量がない」「思いがない」という話になりますが、決してそんなことはないじゃないですか。企業の中にはそういう思いのある人が絶対にいる。まずそれをちゃんと発露していけるような環境を作るには、何が大切になるか。このあたりはいかがですか。

守屋:まずはデフォルトで60ヶ月くらいの勝負だと思っておく。短気を起こしちゃうと無理だと思います。

小田:それを言える人が、そもそも社内にいるのかってところですよね。守屋さんとか、外部の人がそういうふうに介入をしていく。

守屋:そのほうが安全だと思うんですよ。だってその人が上に向かって楯突いて、飛ばされたらもう終わっちゃうじゃないですか。組織なので、現実問題そういうのがぜんぜんあると思います。

だからそういうのも含めて、60ヶ月くらいの戦いだよなぁって。最初の2年、3年は空気を変えるしかない、土を耕すしかないよなぁと。「じゃあ守屋のやり方でワン・ツー・スリーで当ててみるか」「うわ、3人とも死んじゃった。じゃあ4人目だ、5人目だ」とか、根気よくやる。

やさぐれた心でやっていると相手も受け入れてくれないと思うので、我が社を諦めないってまず思わないと(いけません)。

小田:確かに。そういう諦めない気持ちを持った人たちも、別のところで似たようにがんばっている人たちと出会えると、ちょっと元気が出るじゃないですか。そういう機会を作っていくのも大事なんですよね。

孤軍奮闘は絶対にやめたほうがいい

守屋:孤軍奮闘は絶対にやめたほうがいいと思います。同じ日本語をしゃべっている仲間なので、頼ったらいいじゃないですか。それこそ宇井さんのマネジメントのスタイルかもしれないけど、全部を自分でやる必要なんかない。

我が国の大企業が全部固くて、新規事業が死滅しているなんてことは、ぜんぜんない。どっかで毎年必ず成功している新規事業が出ているので、その人に味方になってもらえばいいじゃないですか。

小田:確かに。そこでちゃんと「助けてください」って言えるかですよね。それが言いにくい環境が少しあるような気がします。

守屋:だから、こういう場で発信とかをしていけばいいんじゃないですかね。

小田:まさに、横石崇さんと(『アイデアが実り続ける「場」のデザイン 新規事業が生まれる組織をつくる6つのアプローチ』の)8章の対談をした時に、実は小学生のほうが「助けて」と言えるようになっていると。なんでかって言うと、「マイクラ」(Minecraft)を一緒にやっているから。

「マイクラ」で小学生同士が協力しあって、「ちょっと助けてくれない?」と気軽に言えるようになっている。でもいざ社会に出ると、まったく言えない現実があるみたいな。だから、そこを変えなきゃいけないんじゃないかって話をまさにしています。

リスキリングとか言いますけど、普通に「助けて」と言えるか言えないかはすごく大事なのかなって思いますね。

守屋:そうですね。

評価して終わりになっているケースがすごく多い

小田:『アイデアが実り続ける「場」のデザイン』に注文をつけるとするならばって話も、ぜひいただければと思います。

守屋:「土を耕す」と言っているじゃないですか。耕した後、種を植えて芽を出させて、でっかくしようぜと。土を耕すことが目的ではなくて、その後の続きがあるってことだと思うので、そこを一緒にやれたらいいなって思いますよね。例えば大企業でも、オープンイノベーションをやって、表彰して終わるとかってあるじゃないですか。

小田:ありますね。

守屋:だったらやらなきゃよかったんじゃないのって思っています。それこそ設計者を呼んで「こんな家を建てたい」と言って、家を建てる金がないみたいな。大企業ってそれに近いことを平気でやっていると思いますよ。

アサインする人もなければ充てる予算もないんだけども、社内で(新規事業を)募集しているって、けっこうありがちじゃないですか。何のためにそういうことをやるかといえば、やっぱり生むためにやるわけだと思うので。

だから土を作ったら芽を出せるように、俺たちがじゃんじゃん水を撒くから、思い切ってやってくれと。何か生めるところを一緒にやれるといいなって感じですかね。

小田:やっぱり続けていくことを前提としている。実って、それがまた土にかえって、次の栄養になっていく、ある種の循環じゃないですか。それを前提として持たないままに新規事業施策をやって、評価して終わりになっているケースがすごく多い。一方で、化学肥料をぶち込んで、なんとかして形にさせようみたいなことになったら、それはそれで続かない土地になっちゃうわけですよね。

守屋:そうですよね。そういうふうに評価・処遇ができていますからね。だって、例えば僕が営業の責任者になったら、まず会社から求められるのは、今期の業績や対前年比ですよね。でも普通に考えたら、新規事業なんて10年1単位くらいでやったほうがいいと思います。

例えば僕はラクスルって会社の創業時のメンバーだったと言いましたけど、上場するまで8年半かかっていますからね。「ラクスルはそこそこスピードあったよね」と言われていても、その年月かかっているわけです。

そういうことからすると、やっぱり単年度で業績を追わさせられると、それは化学肥料でもドーピングでもしますよね。

小田:そういう状況にいるから、人はそうしてしまう。やっぱりそこから変えていかないといけないのは本当にそうですよね。

出島を作ってリスクを切り離す

守屋:それを全部まるごとっていうのがさすがに厳しいんだとしたら、出島を作ろうって話だと思う。2つ法人を作る時点でいろいろと重複するから、出島は最適解だと思っていないんですが、国(大企業)を全部変えるって、さすがに苦しいと思うんですよ。

小田:確かに。

守屋:なかなかできないと思うので、だったら出島を作るのでもいいんじゃないかなと。そういうのでもいいから、とにかく1歩踏み出して違うことをやってもらえると、大企業はそこそこ新規事業を生めると思っています。

小田:それこそ(この会場の)SHIBUYA QWSはある種の出島的なところはあるんですけど、ここが本当にいいなと思うのは、出島で出てきた人同士がつながって、わいわいしている。「やっぱりなんとかしたいよね」って試行錯誤している景色があるのが、すごく大事だと思っています。

守屋:あとはうまくいった人に、着実に成功させないとですよね。スタートアップの起業家って目立つじゃないですか。自分からどんどん出ていくけど、大企業って「出るな」という話もあったり、広報チェックが入るじゃないですか。広報って下手をすると、広報監視委員会だったりするじゃないですか。

小田:そもそもあれだけ「がんばれ」と言っているわりに、大企業の場合、(新規事業の)創業者利益がまったくないわけじゃないですか。

守屋:人事は、「なんであいつにだけ」という社内世論に屈するわけですよ。僕が人事の責任者だったら、「一国二制度」って、やっぱりけっこうきついなって思います。人事の気持ちは、僕はわからないでもないんですよね。

広報もそうで、下手なことをやって事実と誤認されたら本体としては痛いから、どうしても(厳しく)チェックするほうに回る。広報の気持ちもわかるので全否定はしないんです。自分が彼ら・彼女らの立場だったら、確かにそうかもしれないって思うところはある。だからやっぱり出島的なものでリスクを切り離しておくのは、1個の方法だと思う。

「やったもの負け」にならない環境を作るには

守屋:かつ、切り離した中でちゃんとスター選手を出すのが大事だと思うんですよ。例えばスタートアップというマーケットで、立候補する人たちが延々と出るのは、IPOをしたりM&Aとかで財を成すスタープレイヤーが毎年出ているからだと思うんですよ。でも大企業だと「やれ」とは言うんだけども、誰もどうにもできないまま時間が過ぎるから、どんどん枯れていくと思うんです。

だから、やらせたからにはみんなで一緒になって、そいつをヒーロー・ヒロインに仕立て上げるっていうと言い過ぎかもしれないですけど、それくらいの勢いで成功者を出さないと、どんどん枯れていくと思いますよ。

小田:それこそ、憧れって別にお金を持っているとかの話だけじゃない。憧れる人をちゃんと育てていって、みんながそこに憧れてって環境をどうやって作っていくか。

守屋:でもそれがなかなかできていなくて、「お前失敗しただろ」と言ってばってんをつけられるとなると、「やったもの負けじゃん」って話になるじゃないですか。勝っても人事異動させられちゃうとか。

大企業の中で「スター選手」を排出していく

守屋:でもスタートアップは自分で株を持ってドーンとやってるとなると、やっぱり(大企業の新規事業担当者は)「本当にこの道は正しいのか?」となると思うんですよね。そこはやっぱり大企業の中で考えなきゃいけないと思っている。

僕がよく言っているのは、スタートアップがハイリスク・ハイリターンだとしたら、大企業の本業がローリスク・ローリターン。

やっぱり我が社なりのミドルリスク・ミドルリターンを設定して、そこでスター選手が出始めてくると、チャレンジしたい人が生まれると思います。方々に「こうやってやりません?」とけっこう言っているんですけど。

小田:大企業の中で憧れる人材をたくさん排出していくのは、一番シンプルでわかりやすいかもしれないですね。

守屋:そろそろ出そうだなって思っていますけどね。今いろんな会社がやり始めていて、カーブアウトとかが出始めている。株式を持っている人たちもいるので、やがてその人たちが上場し始めたら、一発で2桁億円のキャッシュインとかって、普通にあると思う。

そうすると、大企業の信用を使いながら給料は保証されていて、自分の貯金をはたいてやるってのもなくなる。これはけっこういい設計ができて、我が国らしいんじゃないのかって、僕は勝手に思っています。

小田:確かに。あっという間にお時間が来てしまいましたが、あらためて今後守屋さんとこういう話を深めていきたいなと思っております。ありがとうございました。

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