2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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小田裕和氏(以下、小田):それではセッション2つ目ということで、守屋実さんとお届けしていきたいと思います。
守屋さんとは、1年半くらい前(今日の会場の)QWSで佐渡島(庸平)さんとイベントをご一緒させていただきました。去年(2023年)秋頃にはオンラインで書籍の対談をさせていただきまして、今回が3回目ということになります。守屋さん、自己紹介をあらためてお願いしてもよろしいでしょうか。
守屋実氏(以下、守屋):わかりました。守屋と申しまして、新規事業家と名乗っています。「1個の物事を極めるのに1万時間くらいやると、だいたいどうにかなるよね」と世間一般で言われていると思うんですけれども。僕が初めて起業に参画したのは19歳の時で、今55(歳)なので、36年くらい何かやっています。
そうすると、たぶん1万時間じゃなくて1万日くらい、きっとそこそこはやっている口なんじゃないかと思います。
ただ、みなさんに正しく伝えたいんですけど、「新規事業家が再現性をもってやれば、毎回上手に事業を成功させられるのか」というと(そうではない)。基本的に僕は、どうやったら事業がうまくいくのかわからなくて。やってやってやりまくった時に、何度かラッキーなことが起きた。そのチャンスを逃さず、どうにかつかんだ時は成功するというだけなんです。
ただ、失敗はけっこう経験しているので、「よくわからないけど、この先詰まる気がする」とか「そもそも最初から間違っている気がする」とかは、なんとなくわかるんです。そういうのを新規事業家だと思ってくださいね。「こいつは成功させられるんだ」と思うと、ちょっと違うかなと思います。
その30年ちょっとの新規事業人生を算数にすると、「55=17+23+15」。これは55歳という年齢を3つの数字に割っていて、「17」が企業内起業(の数)、「23」が独立起業(の数)で、「15」が週末起業(の数)です。
守屋:僕は社会人になって最初にミスミって会社に就職したんですけど、ミスミで10年。その後、ミスミの創業の田口弘さんと会社を作って10年。合計20年間で17回新規事業の辞令だけが下り続けたサラリーマンなんですよ。これ、けっこうすごいと思っています。田口さんが僕に17回、諦めもせずにずっと(辞令を)出し続けた。
「23」は独立起業(の数)です。それだけ田口さんの下でやったんですけど、ある日、田口さんから「あんたは独立しなさい」と言われました。「いや、僕は田口さんと添い遂げるつもりなんですけど」と言ったら「独立したほうがいいよ」と言われたので独立せざるを得なくて。
最初に立ち上げた会社がラクスルとケアプロって会社でした。一応、僕は社長じゃなくて、ラクスルは松本恭攝さん、ケアプロは川添高志さんって創業社長がいて。どちらも創業直後くらいに交ぜてもらって、副社長をやっていました。
毎日午前中にケアプロに出社して、午後はラクスルに行って、夜なべでリクルートや博報堂でバイトしていました。
小田:バイトしていたんですか。
守屋:ラクスルって資本金200万円で立ち上げたんですよね。だからデフォルトで給料がないじゃないですか。というか、自分たちで入れた金が戻ってくるだけだから、意味ないじゃないですか。
ケアプロはソーシャルベンチャーだったので、そもそも儲かるとか売り上げが上がるってあんまり考えていなかった。僕たちは法改正がしたくて立ち上げたので、基本的に食いぶちがなくってかみさんに怒られるので、生活費を入れるために夜なべして働いていました。
そんな独立起業の数が「23」です。「17」と「23」を足して55歳になったらよかったんですけど、そうならなかったので、週末起業を入れました。
守屋:宇井さんとちょっと被るところが1個あるんですけど、ここ(スライド)に「病院」と書いてあります。2021年に、東京の板橋区に「おうちにかえろう。病院」という、ベッドが120床ある看取り専門の病院を建てました。あとは小学校をフィリピンに寄付して建てたんですけど、東京の表参道でバーをやったら、むちゃくちゃ繁盛したのでその金で作りました。
小田:そこでバーもやってるわけですね。
守屋:そうです。店長からも金を取るシステムにして、店長を23人作ったんですよ。
小田:なるほど。自分でやるんじゃなくて、いろんな人が活躍できる場を作ったという。
守屋:そうです。表参道の駅から歩いて徒歩3分のところで、坪単価70万円くらいかけたかっこいいバーなんで、そこの店長って名刺があったらよくないですか。
小田:確かに。そこで何かやりたくなっちゃいますね。去年(2023年)に対談された時は「54」だったのがちゃんと(更新されている)。人生のある種の目標というか、前提になっている感じなんですね。
守屋:そうですね。2社で20年、田口さんの下に仕えていたんですけど、その時に卒業制作で田口さんにこれを出したんですよ。
「田口さんの下で、2社・20年の間に僕はこういうことをしました」とまとめたのが、これのバージョン1ですね。そこから毎月必ず1回は更新するようにしています。だから、今日は2024年7月1日版を見ていただいています。
小田:先ほど「新規事業は必ず生み出せる」と仰っていました。ある種、「間違い」に対してどれだけ解像度を高めていけるのか。さっきの「失敗からいかに学ぶのか」という話もまさにそうだと思います。そういったところをベースに置いて、『新規事業を必ず生み出す経営』という本を出版されました。
「こんな(金額の)本を出版できるんだ」ってみんなびっくりしていました(笑)。出版業界のビジネスモデルも問い直している感じがします。
小田:そんな守屋さんに聞いていきたい問いを、6つ考えてきております。
1つ目は、先ほど紹介させていただきました「負のスパイラル」が、守屋さんから見てどう見えるのかというところ。
2つ目は、事業を評価する上で(何を大切にするかという)、評価者側の視点。評価していくことを、守屋さんはどういう視点で見られているのか。
3つ目は、ある種の学習、学び、あるいは問いもSHIBUYA QWSは大切にしていますけど、実りが続いていく企業ってどういう問いや学びを積み重ねているか。「新規事業施策って組織学習の観点はあるんだっけ」と本(『アイデアが実り続ける「場」のデザイン 新規事業が生まれる組織をつくる6つのアプローチ』)でも少し書かせていただいていますが、こういったところをどう捉えられているのか。
4つ目が、日本企業の土壌にはどんなポテンシャルが潜んでいるのか。MIMIGURIはよく「ポテンシャルフェチ」という言葉を使うんですけれども、ポテンシャルをいろいろ探っていくと何が見えてくるのか。
大企業の土壌悪化を食い止めるために、いろんなチームに向き合ってきたと思うんですけど、あらためてどんな覚悟が求められるのか。守屋さんからぜひコメントをいただきたいです。
最後、同じように(『アイデアが実り続ける「場」のデザイン』に)あえて注文をつけるとするならばと、この6つをご用意させていただきました。守屋さんから、まず話したいところはありますか。
守屋:誰かを指しましょうか。
小田:聞きたいところがある人はいます?
(参加者挙手)
小田:事業を評価する上で守屋さんは何を大切にするか、ですね。ここは、大企業の中で新規事業を起こしていく時に、経営を多角化していく知の探索の活動を、どうやって評価していくのか。
さっきの宇井さんの話も踏まえつつ、「なかなか単年(度)で見きれないよね」とか。実は今日、午前中に「やっぱりP/Lで見ているとまずいんじゃないか」「B/S的な観点で事業を作っていくことも必要になっていくんじゃないか」という話も考えていたんですね。
守屋:そうなんですね。なるほど。
小田:守屋さんの中で、新規事業の評価はどうしていくのが大切だとお考えですか。
守屋:まずそれに答える前に、手を挙げてくれた方、ありがとうございます。僕は、こういう場で、ああやって先陣を切る人が一番偉いと思っています。
評価なんですけども、理屈っぽく考えると、いくらでも考えられるじゃないですか。僕は基本的には頭が悪いんで、やたらたくさん覚えるのは無理なんですよ。なので新規事業を見る時には、勝ち筋前と勝ち筋後の2つしか見ていません。
勝ち筋前っていうのは、そもそもその事業がどうやって勝つのかが決まっていないので、どれくらいの勝ちぶりになるのかも決まっていない。もうとにかく試して試して試しまくるのが一番大事。「トップラインやボトムラインはなんでもいいから、とにかく試してくれよ」ということです。
勝ち筋ができた後は、「型が決まったんだから試している場合じゃねえだろう」「一致団結して一気にいってくれよ」と思っているんですよね。これが「必ず左から右に順番に流れます」という話ではなくて、行ったけど間違っていたからもう一回戻るとかを「ピボット」と言いますが。そういうのも含めて、勝ち筋前なのか勝ち筋後なのかが、僕の中では一番大事な指標です。
小田:例えば大企業の場合だと、最初に勝ち筋前のところが問題になるケースがすごく多いと思うんです。この時は、結局何を見ているのか。それこそ、「どれだけ試したの?」という行動を見ている感じなんですか。
守屋:これは大企業だと難しいと思うんですよね。基本的には単年度会計だから「今期中になんとかせよ」という指示じゃないですか。
小田:そうなんですよね。そこがけっこう問題ですよね(笑)。
守屋:なんだったら四半期開示じゃないですか。基本的には、例えば4月〜翌3月で動いているとして、4月に「第1四半期でがんばれ」って言われるんだけども、異動できる人とできない人がいるから人事がもたつく。
結局ゴールデンウィーク後くらいにチームが組成されるんだけど、「ごめんなさい、副属があります」という人がいたりするじゃないですか。第2四半期くらいになると、けっこうフル回転するんだけれども。下期に入るくらいになると「通期の予算がやべえぞ」となって、経営企画と財務が話し合って、新規事業に対してきゅっと蛇口を止めることがある。「いや、これいつやるの?」と。
こういうことからすると、試して試して試しまくれって話がそもそも通じなかったりすると思うんですよね。だから、むちゃくちゃ環境が悪いと思います。
小田:守屋さんはそういう状況に対して、いろんな企業さんに切り込んでいかれていると思うんですけど、最初はどうするんですか? 僕らもけっこう困っていて、そもそも異動が云々みたいな話って、支援しようと思っても介入できないし。
ある種のカレンダーデザイン的な話もそうです。それこそ予算の話も、当然経営から入っていければコンサルティング的に「もっとこうしたほうがいいですよ」とか言えるけれど、必ずしもそういうケースばかりではない時に、守屋さんはどういうふうにしていますか。
守屋:役員との食事会を設定してもらって、直接言います。
小田:直接(笑)。
守屋:だって無理だと思うんですよ。だから、それは必ず言いますよね。ただ現実問題、100パーセントこっちの都合だけではいかない。だって会社の名前を使って、給料をもらいながらやっているのに、こっちの都合だけ言ったって、それはそれで無理じゃないですか。
もし自分が事業をやる側だったら文句を言いたいんだけれども。事業をやらせる本体の側だった時には、当然株主に対しての四半期開示の圧力に対して必死になっているわけだから。それは簡単じゃないですよねって話はあります。
ただ、そういうのも含めた上で、やっぱりちゃんと言っておかないとだめなので。社内の人が言うと、上下関係でえらい目に遭うと思うんですけど、僕みたいな外野の人間が言うぶんにはいいじゃないですか。だから、もうけっこうストレートに言うようにしています。
特に僕はJRでそこそこやれているので、「元国鉄がやれているのに、純民間のおたくがなんでできないんだ」ってけっこう言う。あとJAXAでもけっこうやれているので、「特別法人でやれて、純民間のおたくがなんでやれないんだ」と言いまくる。
小田:なるほど(笑)。
守屋:「なんか失礼なやつだな」と思って首を切られちゃう時もあると思うんですけど、そしたら「守屋2みたいな人を雇えばいいんじゃないですか」って言っています。
小田:守屋さんの強さは、まずそこにありますよね。
守屋:でも誰かが言わないと。屍が一定程度溜まっていったら、屍には屍の意味があると僕は思っています。屍が山積みになった時に、ちょっと空気が変わることがあるかもしれないと。変わらなきゃそれでしょうがないんですけど、変わるかもしれないじゃないですか。そしたらそこの可能性に賭けてもいいと思うんですよね。
なんでそこの可能性に賭けていいと思っているかっていうと、例えばJRでは、5年間で総勢10人で1,077の案件を見て、108個の実証実験をして、51個の事業を生んでいるんですよ。数字が多すぎてわからないと思うのでもう一回言うと、5年で10人で51個生んでるんです。僕、やっぱり大企業ってむちゃくちゃすごいと思っています。
小田:いざやるとなった時のパワーがとんでもないですよね。
守屋:そうそう。僕はいくつかのスタートアップをやっていますけど、やっぱりスタートアップでいうとそんなに生めないわけですよ。やっぱり我が国の大企業では1,400万人くらい働いているので、うち0.1パーセントの140万人くらいがそんなことをやれた日には、我が国の経済は復興すると思っている。
それくらい大企業には可能性があると思っているので、「大企業は諦めない」というスタンスをとっているんです。ただ、先方は先方で単年度会計で勝負してくるから、僕は一応60ヶ月くらいで戦いを挑むようにしているんですよ。
小田:なるほど。
守屋:こっちも結果を焦ると、途中で喧嘩になっちゃうんですよね。だから最初から「この人はなかなか手強い」「向こうには向こうの都合もある」と。それはそれで真実だから、こっちもちゃんと相対して「60ヶ月くらいで臨むのがお互いにとって良い縁なのである」と臨むようにしていますね。
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