2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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——ここ数年、「管理職の罰ゲーム化」といった話がよく聞かれるようになっていると思います。部下のマネジメントや後任者の育成、トラブル対応に加え、リスキリングやハラスメント対策など、管理職の業務負担が増大している現状が問題視されています。池田さんはこうした現状についてはどのような課題があるとお思いでしょうか。
池田めぐみ氏(以下、池田):私自身も本当にそのとおりだなと思っています。研究やデータでも、今の管理職はプレイングもしなきゃいけなくてストレスフルで大変だとわかっています。私の同世代の人たちも管理職になってきてるんですが、彼、彼女らがとても疲弊しているんですよね。
部下を初めて持つことになり、一応研修はある。けれど、どうやって回していくのだとか大事なところはあんまりわからない。あるいは、自分にも上司がいる中で、板挟みにあってすごく大変そうで。プレイングマネージャーとして自分の仕事もある中で、部下のケアもしなきゃいけない。「休日も仕事になっちゃって、やってらんない」みたいな子はけっこう多いです。
——データや周りの方を見ても、プレイングマネージャーの負担がかなり大きい実感があるということですね。今回、こうした管理職の方々が罰ゲーム化から抜け出すためのヒントが、池田さまの新刊『チームレジリエンス 困難と不確実性に強いチームのつくり方』にあるのではないかなと考えました。
まずは、この『チームレジリエンス 困難と不確実性に強いチームのつくり方』の書名にもある、「チームレジリエンス」とは何かをお話しいただけますでしょうか。
池田:まず、チームはいろんな困難に遭遇するものだと思います。取引先が無茶な要求をしてくるとか、新人が育ってなくてサポートが大変だとか。あるいはそもそも業績不振な部署にいて、自分1人じゃどうにもできないような状況を回復させなきゃいけないなど。自分がプレイングしながら、こういったことも解決しなきゃいけないので、マネジャーは大変な状況だと思います。
ではチームレジリエンスとは何かというと、チームが困難から回復したり、困難が起きる前よりもいい状況に持っていったりするために必要なチームの能力、あるいは「チームがどうやって困難を乗り越えるか」のプロセスです。
チームレジリエンスには、3つのステップがあります。1つ目は、困難な状況が起きた時に「何が問題なのか」を整理した上で、状況を解決していく。2つ目は、困難を振り返り、困難から学ぶ。
3つ目は、次に同じ困難に陥らないように、困難に備えて被害を最小化する。この被害の最小化や困難から学ぶところで、よく起こりがちな問題の芽を事前に摘んでおくのですが、管理職の罰ゲーム化を解消するうえで、これらのステップが大事になるのではないかと考えています。
困難が起きると、どうしてもやらなきゃいけないことが増えると思うんですけど、ルールや担当を変えたりして未然に防げると、(管理職の)負荷を減らせるんじゃないかと。
——困難なことが起きた時の対処に加えて、防止についても考えておくことが重要なんですね。とはいえ、日常業務に追われて、「事前の策まで考えられない」という人も多いのではないかと思います。この場合はどのようにしたらよいでしょうか。
池田:その場合は、2つできることがあると思っています。1つは、マネージャーの仕事を15パーセント減らすことです。これは1日1時間ぐらいでいいと思うんです。やっぱり困難が起きると、ふだんの業務に加えて、問題解決のために動かなきゃいけなくなって、さらに大変です。なので、まずは(問題を未然に防ぐための)時間を確保することが大切かなと思います。
どうやって時間を作るのかというと、マネージャーの人って、自分が出なくてもいい会議に出たりすることが多いのではないかと思います。発言していない会議は、思い切って参加しない。「今の状況を改善していくところに時間を使わなきゃいけないから、出ません」ってしっかり伝えるとか。
あるいはタスクの中から、部下に渡しても問題ないものを渡す。「自分のほうがうまくやれるけど、部下だってできる仕事」を、自分がなんとなく握ってしまっていたり、部下に任せるのが不安でやってしまうことがあると思うんです。
プレイングマネージャーのみなさんはすごく忙しいと思うので、「この状況を良くしていくために、時間を捻出しよう」としっかり考えて、部下に仕事をパスする。そしてまずタスクを15パーセント減らして、そのぶんの時間を確保することが大事だと思います。
池田:あるいは「事業を作っていく人」と「育成する人」を分けて、「事業リーダー」と「組織リーダー」の2人体制にしてもいいんじゃないのかなって思います。
やっぱり、1人で全部回すのって無理ゲーだと思うんですよね。だからこそ、リーダーが2人いるチームが、最近少しずつ増えてきています。1人は事業を回したりプロジェクトを推進していき、もう1人は育成を中心でやっていくという会社もあります。
私が今所属してるMIMIGURIという会社も、リーダーは2人体制で回しています。会社の制度に関わっている人に向けて言うならば、「1人に任せない」というのも手だと思っています。事業をするパートと育成するパートに分かれてやっていくことで、問題解決(の手段)を考える余裕が生まれるんじゃないのかなと思います。
——リーダーを2人体制にするのはとても新しいご提案だなと思います。マネージャー自身が工夫して時間を作るのも大事だとは思うんですけど、「そうは言っても手が回らないよ」という時にとても効果的ですよね。
池田:この記事の読者の方は「自分は経営者じゃないから、そういう制度を作るのは無理だよ」と思われるかもしれません。会社の制度的に2人体制が難しい時の方法は、「インフォーマルリーダー」(正式に任命されているわけではないが、チームや周りの人を引っ張っていく人)を入れることです。
信頼のおける部下に、「できるだけ組織作りの部分を回してほしい」「自分が苦手な部分を補ってほしい」とお願いする。うまく2人で力を合わせて回せている会社さんでは、けっこうチームの業績がいいという話もあります。
一番いいのは制度が変わることだと思うんですが、それが急には無理な場合も、自分の仕事を減らす工夫をする。得意なことを活かして仕事を回してくれる人に任せるのも、大事なのかなと思います。
——なるほど。インフォーマルリーダーを決める時は、自分と同じぐらいいろいろな仕事ができる方を選ぶ感じですか? それとも特定の仕事が得意な人に渡していくイメージでしょうか?
池田:チームのスタイルによって変えていいと思います。若い人と中堅の人と自分みたいなチームであれば、その中堅の人に育成パートや、メンター的な役割を頼んだり。育成がうまい人の力を借りて一緒にやっていくのもいいと思います。
あるいは、シェアードリーダーシップ(部署やチームでリーダーの役割が共有され、全員がリーダーシップを発揮している状態)じゃないですけど、「みんなでもっとチームを良くしていこう」と(それぞれに分担)してもいいかもしれないですし。
——部下に仕事を任せるとなると、逆に仕事の説明やフォローをする手間がかかると思う方もいるかもしれないですが、長い目で見れば思い切って任せることで、結果的にマネージャーの負担が軽くなっていくということですね。
こうしたレジリエンスなチームを作るには、リーダーだけでなく、メンバー一人ひとりがチームのことを考え、主体的に動くことが重要なのかなと思います。一方で、チームの課題解決を自分ごととして考えられず、マネージャー任せの方のマインドを変えるには、どうしたらよいのでしょうか。
池田:個人の自主性がどこから生まれるのかという話でもあるので、これはけっこう難しいところですよね。ただ、うまくやっている企業さんの話を聞いていると、「自主的であることはすばらしいことだ」という文化を作っている印象があります。
例えば若手社員に対して、「あなたたちはまだこの会社に染まっていないがゆえに、新しい目線から今の組織の悪いところや、変えていけるところに気づける」と。「あなたたちはすばらしいから、どんどん自分で考えて変えていってほしい」みたいなメッセージを出している企業さんもあります。
そういった企業では、「自分から自発的に何かやってみよう」とか「ここを変えてみませんか?」といった提案が、すごくしやすくなると言われています。
逆に、もともとすごく自主的な人が、上司から反発勢力だと思われて攻撃されて、闇落ちしていくみたいな話とか。フォロワーシップの研究でも、もともと主体的な人が否定されたり会社に抑圧されて、そういった動きができなくなってしまったという結果があります。
「社員の自主性が低くて困っている」という会社やマネージャーは、本当に自主性を育むような制度が整っているのか、社員の自主性を潰していないのかを、一度考えてみても良いかもしれません。
——経営層としては、自主性のある人を評価するような風土作りが重要ということですね。
池田:そうですね。マネージャーに向けて言えば、今の話をチームに置き換えることもできると思うんですよ。
「このチームでは、今の事業を良くするために、(誰もが)気づいたことを言うことを推奨します」とすれば、自主的に意見が言いやすい雰囲気を作れると思います。そういった組織自体の風土を作ることも大事ですし、マネージャー自身が自主性を評価したり、抑圧しないことが大事かなと思います。
——ありがとうございます。メンバーに適切に仕事を任せていくことや、一人ひとりの自主性を育むことで、管理職の負担を軽減するヒントについて教えていただきました。
——最近では、こうしたプロジェクト進行や育成の部分だけでなく、メンバーの感情をケアする「感情労働」がマネージャーの負担として大きいとよく耳にします。これについてはどのように思われますか?
池田:マネージャーが部下をケアしようとして、自分のストレスが溜まるのは、本当にヘルシーじゃないなと思っています。そうならない文化作りを日頃からしておくことや、ストレスのケアの方法を(チームで)シェアしておくことが大事なのかなと思っています。
書籍にも載せた図ですが、ストレスを発散する方法って、けっこういろいろあります。ここでは「感情で話を聞いてもらうのがいいよ」とか、そもそもの問題状況を解決するとか。あるいは運動する、ご飯を食べる、楽しいことを考えるとか、いろいろ挙げてるんですけど。個々によってどれが好きとか、どれで解消できるかは、けっこう違うと思うんです。
それを「個々でストレスケアしてね」というのではなくて、「ストレスが溜まってきたら、みんなでこういうことをやろうね」と、日頃から伝えておく。かつ、(メンバーの)ストレスケアはマネージャーがやるものと考えられている方も多いと思うんですが、別にマネージャーじゃなくてもできると思うんですよね。
みんなが相手を気遣ってケアしあうのは、誰もができることだと思います。具体的には、お互いに配慮するとか気遣うとかもありますが、ただ関心を持ってあげるだけでもいいんです。「自分を見てくれていない」「辛い思いをしてるのをわかってくれない」と感じることがなくなれば、働きやすくなると思うので。
ふだんからお互いに関心を持って、具合が悪い時とかに「ちょっと今具合が悪いです」と伝えたり。例えばミーティングの最初に「今日の気分」を天気で表したりすると、けっこうライトに共有できるし、そんなに時間もかかりません。
「ちょっとしんどいので、この件は対応するのが少し遅れるかもしれません」とか、自分の状態をシェアしておくことで、他の人が手助けしたり、お互いにケアできる文化が作られていく。
そうすると、リーダーだけが「メンバーのケアをしなきゃいけなくて大変」ということにならず、サステナブルにやっていけるんじゃないかなと思います。
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