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営業1万人に聞いた「若手をブレイクスルーさせる育て方」〜「修羅場で人は育つ」に潜む誤解をファクトで解き明かす〜(全4記事)

3タイプ別・若手営業を伸ばす育成のポイント ベストセラー『無敗営業』著者が語る、上司に求められる支援のあり方

営業力を上げるノウハウを詰め込んだ『無敗営業』などの著者であるTORiX代表取締役の高橋浩一氏が、「若手をブレイクスルーさせる育て方」というテーマで講演を行いました。本記事では、メンバーのタイプ別に成長を促す働きかけのポイントを解説します。

前回の記事はこちら

部下に対する難易度調整の重要性

高橋浩一氏:藤井聡太さんが、自分の上達について語っている興味深い文章があります。「強い相手と対戦してばかりで、勝てる可能性が低いと、一生懸命考えることがどうしても難しくなってくるかと思います」「強くなるために一番理想的なのは、自分より少し強い相手、『がんばれば勝てるかもしれない』相手と戦うことでしょうか」と言っているわけですね。

どうでしょうか。これ、まさしくさっきの「成功確率50パーセントのチャレンジ」と重なるところがあると思いませんか? ということで、難易度の調整がいかに重要かということを実感いただけてきたんじゃないかなと思います。

先ほどの例なんですが、「アポイントが取れない」というメンバーに対して、ある程度のサポートをしていきながら、ちょうどいいところまで導いてあげる。難易度として成功確率50パーセントのゾーンでがんばってもらう。そのためには、ところどころ詰まっているところがあれば、ちゃんと介入して支えてあげましょう。

「どういうふうに介入すればいいのか?」ということについて、ちょっと整理をしてみました。介入の基本的な考え方ということです。まず、メンバーがどの位置にいると認識しているのかを押さえることが大事ですね。今どの位置にいるのか、現在地の確認です。そして、そこに対して直接的なアドバイスをするというよりも、まずはヒントから入りませんか。

魚が釣れない人に対して、よく「魚を直接的にあげるのか、魚の釣り方を教えるのか」という話がありますが、これはイメージのレベル感で言うと、魚がいそうな場所をそれとなく教えてあげるみたいな感じでしょうか。ヒントを与えるということです。

ヒントでうまくいく感じであれば、いったん任せてみる。成功確率50パーセントぐらいであれば、とりあえずやってもらう。ただ、難しそうだとなれば、直接的な指示や支援する度合いを上げていくということです。

任せるところ・教えるところを見極める

そして成果の確認をしたら、どのくらいのサポートが適切なのかということについて、あとから振り返りをしていきましょう。これをOJTの現場でやっていくということです。この「現在地の確認+示唆」というところがけっこう難しいんですね。いきなり教えてあげたくなったりもするじゃないですか。ですので、まずは「示唆」レベルからいきましょう。

魚釣りの例を出しましたが、どこでどう釣るかは任せて、釣れるポイントを教えて、上手な釣り方を教えて、セッティングまでやってあげて、代わりに釣る。右まで行ったら至れり尽くせりですよね。

営業に置き換えたらこんな感じです。まず、「どこでどう釣るか任せる」というのは、どんなお客さまにどうアプローチするかすら任せること。「釣れるポイントを教える」は、お客さまの魅力度とか、アプローチすべきお客さまは教えるけどやり方は任せること。

「上手な釣り方を教える」は、具体的なアプローチ方法を教えるけど同行はしない。「セッティングまでやってあげる」は、同行してお膳立てはするけれども、重要なポイントは任せる。「代わりに釣る」は、同行して代わりに提案してクロージングする。代わりにやってしまうぞ、ということですね。要するに、自分がやったほうが早いというのが右側の世界観です。

これを案件単位で関わり方を変えたらどうでしょうか。すべての商談が同じ難易度とは限りませんので、商談単位で関わり方を変えてあげましょう。

メンバーが成長するための「経験学習サイクル」とは

「『難易度を調整する育成』とはどんなものなのか?」ということについて、お話をしてきました。「成功する見込みが50パーセントのチャレンジ」に難易度レベルを設定する。そして、メンバーにとって難しすぎる場合は、介入して支援をするということです。

科学的な成長のセオリーや、「きっかけ」「行動」「報酬」の話、「停滞」の乗り越え方について話をしましたが、その中で「難易度の調整」が非常に鍵を握るという話をしました。

最後に「経験学習サイクル」を回すという話をしていきたいと思います。マネージャーが支援をしても飲み込みが良くないメンバーって、やはり現実にいるわけですよね。教えてもなかなかうまくできない人はいたりします。

じゃあ、これをどういうふうに支援するかということなんですが、逆に「自律的にうまくいっている人ってどうなっているのか?」ということから考えてみましょう。

デービッド・コルブという人が「経験学習サイクル」というコンセプトを提唱しています。まず、人が成長する時には具体的な経験があり、それに対する振り返りをし、そしてキーワード化し、それをまた試してみる。これが繰り返される時に成長がされているということです。

少し具体的な例を挙げてみたいと思います。経験学習サイクルが回っている例と回っていない例です。例えば「商談でいつもと少し違うお客さまの反応があった」という経験があったとします。

経験の後は振り返りですよね。「あれ? いつもの商談に比べて、お客さまが課題を率直に話してくれたな。こんなふうに率直に話していただけることって、いつもはなかなかないんだけど、何が良かったんだろうか?」と振り返ります。

そして、キーワード化です。「そういえばさっきの商談って、自分から自己開示をしたのが良かったのかもしれないな。じゃあ、次の冒頭の5分間でもう少し自己開示をしてみたら、良いことが起こるかもしれないな」ということです。

これの真逆の例は「忙しくて考える時間がない。さあ次だ」とか。あるいはキーワード化を考えることなく、自分の頭の中にある既存のフレームで考えて終わりになってしまう。そして、「とにかくがんばるだけだ」とか。試す意図や狙いがないわけですね。

タイプ別・サポートの仕方

どうやったら経験学習サイクルがうまく回るのかということなんですが、一言で言うと「具体」と「抽象」の往復が鍵になります。

抽象的なキーワードというのは、例えば「こうすればうまくいく」という成功法則みたいなものですね。「お客さまを理解すればうまくいく」とか「事前準備をちゃんとやればうまくいく」みたいなものです。

具体的な事実というのは、行動と結果です。「受注したり失注したり」ということなんですが、成功の鍵をちゃんとうまく実践できれば受注ができて、成功の鍵を実践できなかったら失注してしまった。これだったら明確ですよね。

どういうふうにするとこれがうまく確立されていくのか? ということなんですが、とにかくたくさんやってみることによって経験が広がったり、試行回数が増えますよね。そして、これを振り返りとキーワード化で検証していく。振り返りとキーワード化は、この縦のつながりについて考えを深めるということです。

メンバーのタイプをいくつか具体的に想定してみたいと思います。みなさんの会社の中にも、「まずやってみます」という、とにかく行動派の方っていると思うんですね。考えるよりも行動する。この方は経験と試行の数が多いわけですが、これはご自分の強みですよね。とにかくやってみることが強みであると。

そういう人って、やはり振り返りとキーワード化が抜けがちになります。振り返りやキーワード化することをマネージャーが支援しましょうというのが、このタイプについてのポイントです。

あるいは勉強好きな方っていますよね。ノウハウを学ぶことにとても意欲的で、世の中の成功法則を書籍なりSNSなりで情報収集する。ただ、そういう人は実行がおそろかになりがちなので、実行をマネージャーが支援することが必要です。

そして、なんでもかんでも成功の鍵を片っ端から漁っていると、こういうことが起こります。「もっと良いヒントはないか?」と、探してばっかりでぜんぜん行動しない。これだと良くないですよね。ということで、取捨選択をマネージャーが支援してあげましょう。

気づきを促す働きかけのポイント4選

3番目は、センスが鋭いアナロジーで学ぶタイプです。例えば、転職してきてわりとうまくパフォーマンスを発揮できるタイプの方っていらっしゃったりしますね。別の業務における経験学習を現在の業務に応用することができるタイプなんですが、こういう人はそんなに支援しなくてもけっこう成長して伸びるわけなんです。

ただ、「センスが鋭いけど、まだうちの会社では経験が足りないよ」という場合は、「現在の業務に合わせてアレンジ」のチューニングのところで、ちゃんとマネージャーが入ってあげて支援する。

私も具体的にやるんですが、「前職でどんなふうに仕事をしている時はうまくいったんですか?」ということを聞いてあげて、「じゃあ、うちの会社でもこうしてみたらどうですか?」と示唆したりするわけですね。

このような上司からの働きかけについても、最後にまとめていきたいと思います。気づきを促す働きかけのポイント。まず1つは、経験を定義する。どんな経験をしたかということをご本人が言語化できない場合があります。

ですから、例えば「今日の商談さ、いつもに比べて、こっちが話す時間よりもお客さまの話している時間が長かったね」というふうに、どんな商談だったかを言葉で言い表してあげる。

それで、「実際に今日の商談をやってみてどうだった?」と振り返りを促す。そして、相手の言った言葉に対してキーワード化を助ける。「それって要するにこういうことね」とか「言葉にすると、こういうことね」と言うわけです。

そして、「じゃあ、別のお客さまの商談でも、これを試してみようか」というふうに後押しをしてあげるということですね。これが、経験学習サイクルを効果的に回していくためのマネージャーの支援になります。

ビジネスパーソンの人生の多くを占める「停滞」への対策

今日の3番目のポイントは、「経験学習サイクルを回しやすい育成とは何か?」ということなんですが、「経験→振り返り→キーワード化→試行」の循環を押さえましょう。そして、マネージャーが「気づき」を促すように働きかけていきましょう。

今日のポイントを振り返ってみたいと思います。今日お伝えしたいことは、成長には「理由」があるということですね。偶発的な成長ではなく、再現性のある成長。上司がただ思いついたことでアドバイスしていれば伸びるというわけではありません。

そこには3つのポイントが必要です。まず、科学的な成長のセオリーについては、基本はビジネスパーソンの人生って「停滞」がほとんどなんです。ですから、停滞への対策が必要になります。

学習段階の途中で停滞したまま止まってしまうと、やはりどこかで心が折れてしまうこともありますので、行動を促進するために、「きっかけ」「行動」「報酬」がきれいにつながるようにしましょう。

「お客さまからのフィードバック」が最もインパクトがあるということですから、どうやってお客さまからのフィードバックを得られる環境を作ってあげるか。これが、上司としての腕の見せどころになります。

2番目の話は「難易度の調整」でした。「成功する確率が50パーセントかな?」と思えるぐらいのレベル感のチャレンジが一番適切であるということです。そして、メンバーにとって難しすぎる場合は介入して支援をしましょう。

3番目は「経験学習サイクル」についてお話をしてまいりました。「経験→振り返り→キーワード化→試行」の順番を押さえましょう。そして、マネージャーが「気づき」を促すように働きかけましょう。

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