2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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井上和幸氏(以下、井上):経営者JPの井上です。さっそくですが、本日は「営業トップは、こう戦え!」ということで、北澤孝太郎さんをお迎えして1時間半お届けしてまいります。北澤さん、今日はよろしくお願いいたします。
北澤孝太郎氏(以下、北澤):よろしくお願いします。
井上:あまり身内トークになってしまうのは良くないかもしれませんが、北澤さんは僕の尊敬するリクルートの大先輩でして、直接お話しするのは本当に久しぶりなので、今日はすごく楽しみにしていました。経営現場、営業現場、組織現場でみなさんが戦っていらっしゃる中で、このテーマにご興味いただいたと思いますので、ぜひいろいろとお持ち帰りいただければと思います。
ご存じの方もいらっしゃるかとは思うんですが、今回お招きした北澤孝太郎さんは、東京工業大学の大学院の特任教授を務めていらっしゃいます。営業カリキュラムでMBAというのは、日本で初めてなんですよね。
北澤:そうですね。10年になります。
井上:みなさんご存じのとおり、MBAカリキュラムはマーケティングやファイナンス、HRなどがありますけれども、実は一番大事なセールスがないというのは、アメリカとかでも昔から言われていた部分もありますよね。「なぜなんだ?」という話を、僕も他の方からも聞いたことがあります。
北澤さんがそういったカリキュラムを立ち上げられて、だいぶ長らく学生さんにも教えていらっしゃいますし、もともと企業の研修等もすごくやっていらっしゃるので、今日はそのへんのエピソードもいろいろ教えていただけると思います。
北澤さんはもともとリクルートで営業畑でご活躍されました。リクルートは1990年代に通信系の事業が一時期かなり大きくなりましたが、そちらの事業や人材系の事業、あとは教育機関を支援するような事業は今もありますが、そのあたりの基幹事業のセールスのマネジメントとしてかなりご活躍されました。
その後、日本テレコムさんに移られたりしながら、役員として営業本部長、事業本部長、セールス系・事業系のトップとしてご活躍された後に独立されて、教える側に回っていらっしゃいます。
井上:最前線をずっと長く見てこられている北澤さんだからこそ、気づいていらっしゃったり教えていただけることがあると思いますので、今日はできれば裏話もいただければと思います。相手役は私、井上が務めさせていただきます。
読んでいただいている方もいらっしゃるかもしれませんが、近著で『決定版 営業部長の戦い方』という本を出版されました。今日はこの中身になぞらえてお話をいただきます。せっかく出版記念も兼ねているので、堂々と宣伝させていただきます(笑)。
今日は(書籍に)書いてない話もいただけると思いますし、中身の話もいただきますが、復習編として、もし手に取っていない方は後で本も読んでいただければと思います。
ではさっそくですが、北澤さん。プログラムに入っていければと思うんですが、新刊の最初の章でも「なぜ今、営業部長なのか」というお話がありました。
ソフトブレーンさんが2023年に「各社が抱える『経営課題』」という調査を出されていたんですが、左側から多い順になっています。1位が「人材確保」、2位が「人材育成」、3位が「営業力の強化」です。
当たり前ではあると思うんですが、経営課題の中で、大きく言えば「人問題」が上位に来るわけです。「営業強化」というのも、各社非常に課題にされていると言えます。北澤さん、このへんをぱっと見た時に思うところはございますか?
北澤:これからは人口が少なくなるので、やはり人材育成や人材確保が必要なんだなと。特にコロナでベテランがけっこう退場されましたから、そういう面では人が重要かなというふうに思っておられる。あとは、生産性とかかなと思います。
井上:そうですね。コロナ前ぐらいから「DX」と言って、コロナ中も「DX、DX」と大合唱になった。もちろんシステム化、IT、AIは、これからすごく重要だとは思うんですが、やはり「人がいてこそ」というところが出ているという感じですかね。
北澤:そういう面では、すごく近視眼的な課題が多いなというか。相変わらずだなという感じがしますね。
井上:そういうところもあるかもしれないですね。
井上:もう1つ、営業課題について掘り下げたものが出ていたので、それを拾ってみました。
「営業課題は何ですか?」ということについては、「新規顧客開拓」が圧倒的に1番。あとは、「営業担当者のスキルアップ/育成」「営業戦略の構築」「営業担当者のモチベーション維持・向上」がかなり上のほうに来ているのは、僕はおもしろいなと思いました。
あとは「営業管理職のスキルアップ/育成」、そのあとは「既存顧客の深耕」。以下はけっこうブレイクダウンしたような項目が並んでいるのかなと思います。当然、新規企業開拓は絶対に大事なことなんですけれどもね。
北澤:これも本当に近視眼的な感じがしますね。
井上:(笑)。見えている課題の中で重要だと思っているものが挙がっている、という感じなんですよね。
北澤:逆に、これを推進していくと売れなくなるだろうなぁとも思いますね。
井上:なるほど、わかりました。大つかみになっているから、課題だといって挙がってきても「じゃあどうするの?」という話だと思います。体制の話だったり、営業マネジメントの方自身がどうあるべきか、営業メンバーの方がどういうふうに動いていただけるといいのかというのは今日の主眼でもあるので、北澤さんにいろいろおうかがいしていければと思います。
井上:頭出しの「なぜ今、営業部長なのか」なんですが、この本を書かれた理由にもなるんじゃないかと思います。北澤さんは、今はどんな問題意識をお持ちでいらっしゃいますか?
北澤:僕の営業の概念はセールスや営業部隊だけじゃなくて、ずっと言い続けているのは「ビジネスメイキング」です。「業を営む」ですからね。高度経済成長のなれの果てというかで、分業が合理的だろうと。要するに、経済が上がっていく時は分業が合理的ですので、「営業=セールス」というふうにみんなが思っちゃっているだけです。
井上:なるほど。
北澤:本当はそうじゃなくて。特にこれから右肩下がりになっていきますから、みんなが全員でビジネスメイキングをする時代だということが、一番重要な課題だと思うんです。その時に、やはり営業部長はビジネスの最前線に立ってほしい。
これはまた後ほど触れますが、営業課長は自分の組織というかプラトーン、小隊をピカピカに磨くのが仕事ですから、営業課長はがんばってやる。これは日本人が最も得意なところだと思うんですが、それをやっている上の上司の部長、大課長をやっている人がかなり多いと思っていて。
日本の企業を立て直すならば、営業部長の活躍なくしては、要するにここが変わってもらわない限りは日本の企業は成り立たないと思って書いたということです。
井上:ありがとうございます。僕も読ませていただいた時に感じたんですが、全体に通ずる話として、ある意味「定義をちゃんと上書きしななきゃダメだよね」という感じなんでしょうね。営業自体の定義もそうですし、営業部長、営業課長、営業体制についての定義も全部。
井上:北澤さんがおっしゃいましたが、高度経済成長みたいに、昭和からバブルの時はそれで良かったのかもしれないものが、それでは成り立たなくなった。(今までのやり方では成り立たない時代に)なって久しいのに変わらんな、みたいな感じですかね。
北澤:そうですね。簡単に言うと、高度経済成長期は標準化してみんなを同じように育てることが非常に重要になっていましたから。僕たちが社会人になった時代は、営業部長が後ろにいて、新入社員を行かせる。その新入社員を金太郎飴のように育てることが非常に重要だということだったと思います。
簡単に考えるとわかると思うんですが、こういうふうになったら一番実力のある人が営業に来てくれない。新入社員がもし来たら、買う側だったらどう思うか? ということだと思うんですよね。僕だったら「帰れ」と言いたくなる。
井上:(笑)。言いたくなりますか。
北澤:簡単に言うと、「舐めるな」ということでしょうかね。「お前のところはうちの会社に、こんな力のないやつを来させるのか」とすごく思うので、僕が担当者だったら絶対に買わないでしょうね。
井上:なるほど。
北澤:ですから逆を言うと、営業部長に来てくれと。「最も力があるんだったら、お神輿型の部長でないんだったら、あんたが営業に来るべきだろう」というふうに思うと思うんですよね。世の中が変わっているのに、まだ(営業部長が)後ろにいますか? という感じがします。
井上:なるほど。今日参加いただいているみなさまも、営業側にいらっしゃる方が多いとは思うんですが、同時に我々は受ける側の立場でもいるので。BtoBであれBtoCであれ、営業を受ける側で考えてみるとおっしゃるとおりですよね。
いわゆるコモディティ化したもので、自分でスペックを判断したり、「値段で買うよ」みたいなものは、たぶんそれでいいんでしょうけどね。付加価値型のものになってくると、まさしく北澤さんがおっしゃったようなことはもともとずっとあるんだけど、営業体制がそうなってないことが多いんじゃないか? ということですかね。
北澤:そうですね。
北澤:それと、日本人はヒエラルキーがないとガッツが出ないし、メンツが大事ですから、営業課長や営業部長をフラットにするってなかなか難しいと思うんですね。
そういう意味では役割分担が非常に重要なので、営業課長、プラトーンの小隊の長は、自分の組織をピカピカにする。それから、その上の方はその上前をはねるじゃないけど、大課長をやるんじゃなくて、イノベーションやビジネスの先頭に立つのが営業部長の仕事。
僕は10数年、ずっとそれを「外部統合」という言葉で表現してきていますが、それをやってほしい。『両利きの経営』というのがよく売れましたが、入山(章栄)先生がよくおっしゃっている「知の探索」ですかね。
それにプラスして、例えばM&Aや採用もそうかもしれないし、外部との技術提携もそうかもしれない。そういうのをすべて営業部長がやるべきだとずっと主張しているんですが、まさしくそういう時代が来たんじゃないかなと思いますね。
井上:そうですね。
井上:ちょっと前の話なんですが、開発を発注する側の立場になった時に、コンペを折々やらせていただいていたんですね。それなりのプロジェクトになると、大手SI系や大手IT系の企業さんだと大人数でいらっしゃるんですよね。
北澤さんがおっしゃるところの営業部長の方々は、「営業部長も来たよ」というプレゼンテーションになっているんですが、中身の話をする時は、だいたいみなさんひな壇みたいに並ぶんです。一番フロントにプロジェクトを実際に動かしているリーダーの方々がいて、この人たち2人ぐらいが話すわけです。
その後ろ側に担当部長さん、場合によっては事業部長さんとかがいて、前でしゃべっている2人の後ろに4人か5人いて、「がんばれ、がんばれ」と背中越しに祈っている。その手のオリエンやプレゼンをいただく時って、やはりそれがすごく多くて。
僕がリクルートという会社で育ったからかもしれないんですが、10数年前の段階でも、「そんな大人数で、見守り応援だけしているようなお偉いさんたちまで来てくれなくてもいいんだけどな」「逆にその人たちが来るコストがかかっちゃっているんじゃないの?」みたいに思うんですよね。
いろいろと話を振ってみても、結局話をするのは前の2人だけなので、そのお偉いさんはどうもよくわかってないみたいだし、「今日、なんで来たんですか?」って思っていたんです。日本はそういう構造がムダだなというのは、すごく思ってきているんですよ。
北澤:体質が変わってないですよね。
井上:昔よりは減ったようには見えますが、変わってないのもありますね。大手さんを見ると、これは広告代理店さんなんかもそうなんですよね。
北澤:それこそが高度経済成長モデルだと思っていて。たまたまリクルートやIBMなんかは、1人しか来ないことが多かったと思うんですよね。
井上:ねえ。
北澤:僕も営業は1人で行って、部長も1人で行っていたし。
井上:ある面の役割付けがちゃんとされているから、大手企業でいうところの課長や部長レベルの権限を任されているというか。逆に、人も足りないから任せていたところもあったとは思うんですが、それがフロントに出ている営業としてのやりがいだったりもしていて。
でも、受ける側も同じような構造だったりすると、北澤さんもその当時は「もっと上を連れてこい」とか言われたりすることもあったんじゃないですか?
北澤:営業マンの時はそうですが、部長になったらトップに自分1人で行くことが多かった。
井上:それは、北澤さんが部長として全権を持っていらっしゃいますから。
北澤:そういうことでしょうね。あと、自分が担当者の時は(商談相手が)2つぐらい上の役職の方、部長クラスですよね。その方に、自分が一番仕切っているということを見せるために相当な情報を準備していきました。
当時はまだ情報に価値がありましたから、他社がどういうことをしているのかは死ぬほど勉強して、「北澤くんに来てほしい」と言われるようにはしていましたけどね。
井上:もともとはそれが本質だけれども、繰り返しになりますが、単一的に伸びているような時代だったら役割分担していた。その当時は、それで良かった部分もあったのかもしれないんですが。
北澤:人と同じようにしていても伸びるということですね。これがそのまま癖付いて、「これがいいんだ」と思っている会社がもしあるとするならば、今は生産性を著しく落としている。逆に客からすると、「いいものを持ってきてくれない会社」というふうになっている可能性が高いということでしょうかね。
井上:わかりました。
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