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青木耕平さんとザッソウ第2回|たとえるなら、苔の食べ方を探求する人(全2記事)

組織がフェアでクリーンになるほど、社員が幸せになれるとは限らない 良かれと思って組織を整えていく経営者のジレンマ

ソニックガーデンの代表・倉貫義人氏と仲山考材の仲山進也氏が、毎月さまざまなゲストを迎えて「雑な相談」をするポッドキャスト『ザッソウラジオ』。今回は株式会社クラシコムの代表取締役・青木耕平氏がゲスト出演。クラシコムの「逃げる経営」スタイルについてお話しします。(第1回はこちら

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居心地が良くなればなるほど、些細なノイズが気になる

仲山進也氏(以下、仲山):でも、居心地の良い環境をずっとキープしていると、だんだん刺激とかネガティブなものに弱くなっていきますよね。

青木:だからすごく弱くなっていると思う。最近読んだ、『格差という虚構』という本があるんですよ。これは370ページぐらいあるのかな。僕は途中で挫折しているから、全部は読んでいないんだけど。

仲山:(笑)。

青木:すごくおもしろかったのは、「平等に近づけば近づくほど、人は格差を意識する」って言っているんですよ。

倉貫:ああ、なるほど。

青木:要するに、「差が小さくなればなるほど、その差が人を苦しめる。苦しみの絶対量が増える」ということを、いろんな社会的な観点とか脳神経学的な観点から説明している本なんです。それに当てはめると、やはり居心地が良くなればなるほど、些細なノイズによる不快感が増しちゃう問題があるんだよね。

倉貫:静かな場所にいて感性が高まり過ぎているから、ちょっとでも音がすると「うるさい」となっちゃうのか。

青木:そうそう。だから、「これは組織づくりにもすごく言えることだなぁ」と思いました。

倉貫:おもしろいですね。

青木:経営者やチームマネジメントをする人って、良かれと思って「できるだけフェアに、クリーンに、居心地良くしよう」みたいなことを突き詰めていくんだけど。それで必ずしも人が幸せになるかって言うと、そうでもないんじゃないかと。でも、そうしない選択肢もなくて、「ムズい問題だなぁ」って思ってます。

倉貫:それは確かにそうだな。本当に無菌室にいたら、ちょっとしたことで病気になるみたいなのにも近い。筋トレして体脂肪率を下げすぎたら、風邪を引きやすくなるとか。(組織づくりを)きれいにしすぎると、ちょっとでも何かあると気になっちゃうのはありますよね。

仲山:確かに。青木さんの組織づくりは整えていく感じですものね。

青木:俺は片付けフリークだからね。

倉貫:整理整頓をめっちゃするから。

青木:そうそう。事業の組織もオペレーションも、ちゃんとしたいんだと思うんですよね。だけど、「それはそれであれ(デメリットもある)なんだな」と、これを読みながら思いました。

倉貫:(笑)。

「指示されたことを指示どおりやると、だいたいうまくいかない」

青木:でも、仲山さんはチームをいっぱい見るじゃないですか。そういう観点はどう思います? 僕も本を読んで「そっかー」「自分も心当たりあるな」ぐらいの理解なんだけど。

仲山:居心地って主観的で人によるから、「組織のかたちがどうだから、居心地が良い」とかは、たぶんないじゃないですか。

青木:なるほど。

仲山:さっきの話を聞きながら思っていたんですけど、変な話なんですが、僕は指示されたことを指示どおりやると、だいたいうまくいかないんですよ。

倉貫:(笑)。

青木:(笑)。

仲山:「あそこにあれが入っているから出して、これをやっといて」とか言われて行ったら、そもそもないとか。

青木:ははは(笑)。

倉貫:(笑)。

仲山:言われたとおりやっているのにそうならなくて、怒られることがものすごく多い。説明書のとおりにやったら絶対うまくいかないみたいな。

青木:(笑)。

仲山:自分で全体像がわからないような、要は自分で考えることができない仕事を指示された時に、そのとおりやってもだいたいうまくいかない。

青木:なるほど。

仲山:会社がでかくなってくると、全体像がよくわからない仕事を指示されることが多い。「なんかうまくいかないな」と思って、自分なりに考えてやってみたら、「余計なことをするな」って怒られるみたいな。

青木:(笑)。

仲山:いずれにしても怒られるという。なので、大きい組織になってくると、居心地が悪くなってくるんですよね。

青木:巨大組織に属しているじゃないですか(笑)。

倉貫:(笑)。

仲山:大きい組織が合わないなと思って、ちっちゃい20人しかいない会社に入ったんですけど、僕に無断でいつの間にか大きくなってしまった(笑)。

青木:(笑)。

倉貫:(笑)。確かに。

大きい組織の外側にポジショニングする仲山進也氏

青木:今、楽天は何人ぐらいいますか? 

仲山:(グループ全体で)2万人ぐらいいるらしいです(2022年当時)。

青木:うーわー! 20人から1,000倍? すごいな。

倉貫:その中でずっと端っこにいたものね。

仲山:だから大きくなってからは、真ん中にいると居心地が良くないので、外側にポジショニングをするようにしました。「外側にいてもオッケー」と言ってもらえれば、居心地はいいです。

青木:(笑)。指示されなきゃいいんだ。

仲山:はい。大きい中の一部分だけ指示されるのがすごく嫌。全部うまくいかないんだもん(笑)。

青木:(笑)。説明書読むのとか、苦手?

仲山:苦手ですけど、ちゃんと読んでやることもできるんです。でもそのとおりにならないんです。だいたい、「すみません、このとおりにならないんですけど」と言ったら、「そんなわけない」って言われて、でも「ほら」って言って見せたら、「あれ? ほんとだ。こんなことあるんだ」とか、よく言われるんですよね(笑)。

青木:(笑)。

倉貫:(笑)。

仲山:「こんなの初めてなんだけど」って言われるのがすごく(多い)。

倉貫:それはそれで生きにくい人生ですね(笑)。

青木:(笑)。

仲山:なので、居心地(の良さ)を追求した結果、こんな感じになったという。

人生はどうせ苦なんだから、少しでも居心地の良い場所を探す

青木:お釈迦さまが言った「一切皆苦」、「すべてのものは苦しみである」という言葉があります。仏陀ぐらいいろいろ試し切った人が「一切皆苦」って言っているんだから、「苦はしょうがない。デフォルトやな」と。もう上手い・下手の問題じゃなくて。

だって、仏陀は居心地(の良さ)を追求したはずじゃん。その上で「一切皆苦」っていうのは、絶望でもあるけど希望でもあるなと。「苦」は、端的に言えば思いどおりにならないということなので、「結局、お釈迦さまでも一緒だったんだな」って思いますよね。

仲山:「生老病死」と言いますけど、生まれた時点で「苦」ですものね。生きているだけで老いていくし。

青木:そうそう。(明石家)さんまさんが、「生きているだけで丸儲け」と言ったと聞いたことがありますけど、お釈迦さまは「一切皆苦」だとおっしゃっていると。

仲山:考えようによっては、「まあ、生きているだけで丸儲けとも思えるか」と。

青木:そうそう、「人生はどうせ苦なんだから」みたいなね。「おじいちゃんになるまでに、ちょっとでも居心地の良いところににじり寄りたいな」と。それがたぶん僕の欲ですね。

仲山:居心地欲。

倉貫:でもそれを考えたことってあんまりなかったな。

青木:へえ。

倉貫:言われてみて、確かに居心地の良さを求めていたんだって。「居心地」っていうキーワードは、今までそんなに出てこなかった気がする。

青木:いやー、男性の社会って、居心地の話題とかあんまり出ないよね。今の若い世代はわからないけど、少なくとも前後10歳ぐらいは「居心地悪いよな」とかって、あんまり言わないよね(笑)。

倉貫:(笑)。

仲山:そうですね。それこそ仕事を戦いに捉える感じですからね。戦いに居心地も何もないよね。

青木:だから友人の起業家としゃべっていたら、「青木さんって、ほぼ女子っすね」って言われたので。

仲山:(笑)。

クラシコムの「逃げる経営」

倉貫:(笑)。さっきの「戦に行かない」とかもそうだけど、会社経営に関しても、奪いにいく感じの経営はしないですものね。

青木:ああ、うちは逃げる経営だね。

倉貫:自分たちの場所は守ろうとするけど、攻め込まないというか。

青木:そうね。自分たちの場所も守ってないところがあるからね。

倉貫:(笑)。

青木:「来たら逃げよう」みたいな。だからいつでも逃げられるように、家とか家財に全部車輪が付いている。「攻めてきたぞー!」となったら、まだ誰もいないところにすぐ移動できる訓練だけは、めちゃくちゃしている(笑)。

仲山:(笑)。

倉貫:(笑)。確かに。言われてみたら、うちはその感じの経営をしているところもあるかな。

青木:確かにね。

倉貫:コツコツと積んでいっているというか。

青木:あんまり肥沃な土地に陣地を築かないようにしている感じがありますよね。いろんな人が取りにきちゃうから、特殊なやつだけが生き残れるツンドラ地方みたいな(笑)。

倉貫:誰も来ないんだけど、そこでは自分たちが快適に生きれる工夫をめっちゃする。

青木:そうそう。ツンドラ地方で苔を食べてなんとかしている、ちっちゃい動物みたいな(笑)。

倉貫:(笑)。でも苔の料理はめちゃくちゃうまく作る。

興味を持たれることはあっても、真似する人は少ない

青木:ただ、肥沃な土地にいる人が、「あの苔食いたいなぁ」とはあんまり思わないっていうね。

倉貫:ぜんぜん憧れられない感じではある。

青木:それはありますよね。「よく苔、食えるよね」とはよく言われるんだけど、「その苔、もらえますか?」と言われることって、あんまりない。

倉貫:(笑)。

仲山:隣に来て苔を食い出す人もいないですよね。

青木:あんまりいないんだよね。

倉貫:「やればいいじゃん」ってこっちは思っているけど(笑)。

青木:ただ「苔を食って生きている」ことについて、いろんな人にめっちゃ興味とか好奇心は持たれる。

倉貫:いやぁ、そうね。「それで生きているんだ」みたいな。

青木:そうそう(笑)。

倉貫:(笑)。「栄養あるんすか?」みたいな感じですかね。

青木:そう、「苔って食べれるんすか? おいしいんすか?」みたいな。「苔を食べ尽くしちゃうことってないんですか?」とか。

倉貫:(笑)。

仲山:あと、苔を料理しているところを見ても、「え? どういうことをやっているのかよくわからないんですけど」って言われますよね。「どうやって料理しているか、見ていてもわからないですね」と。

青木:そうそう(笑)。こっちからしたら、「ただ煮て焼いてるだけなんだけどな」みたいな。本当にそんな感じだよね。

倉貫:これは例え話の例え話をしているから、何の話をしているかわからない(笑)。

仲山:第2回は苔の話(笑)。

青木:苔を食べる嗜好があるおじさんたちの話に途中から(なっていった)。

倉貫:(笑)。「うちの会社は苔を食べているね」って話に。

青木:あらぬ誤解が。大丈夫です。実生活ではちゃんとおいしいご飯を食べています。

倉貫:そうね。僕らは例え話が好きで、つい何でも例えちゃうから(笑)。

居心地良さから苔の話まで

青木:そうだね。知らない人が聞いているっていう意識を持たないとね。

倉貫:いえいえ、これは本当に、知らない人はぽかんと聴くラジオなので。

青木:(笑)。

仲山:(笑)。

倉貫:めちゃくちゃコンテキストが深い(文脈がある)ので、いっぱいいろんなメディアとかを見てから聴いてもらえると。

仲山:そうですね。クラシコムがどういう経営をしているのかとか、知識があるのとないのではぜんぜん話が変わってくるので。

青木:そうだね。「あれ? 『北欧、暮らしの道具店』っていい感じなのに、苔食ってるの?」とならないように。

倉貫:(笑)。

仲山:(笑)。

倉貫:例えですから。大丈夫、大丈夫(笑)。

仲山:この前記事になっていた人事の話も、だいぶおもしろいですよね。

倉貫:社内で評価じゃなく調整をしているみたいなやつですね。

青木:ありがとうございます。

仲山:それこそ軍隊的な評価制度とは対極な感じのあり方、やり方というか。

青木:そうですね。待遇とか評価の制度って難しいというか。宿命的に難しい部分を抱えているのを、「なんとかならないかな」って試行錯誤している過程が今って感じなんですよね。

仲山:「なんとか居心地良いように」と。

青木:「いいようにならんもんかな?」と。まだまだなってないですけどね。ただ、試行錯誤をしているんですけど。これは時間的にこの話をがっつりしていいものなのか。

倉貫:その話はじゃあ、ぜひ第3回にしたいですね。

青木:3回目でようやく、視聴者の方に聴いていただくに値する可能性のある話が。

倉貫:(笑)。次回にぜひ話したいんですけど、僕はあの記事を読んで、たぶんマネージャーの人にとっての居心地(の良さ)も追求したんだろうなと。

青木:そうですね。

仲山:評価者側の(居心地の良さ)ってことですね。

倉貫:ということで、第2回は、居心地の良い話からの苔の話をしてきました。引き続き第3回をお聴きください。それではいったん終わります。

青木:ありがとうございました。

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