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キーエンスに学ぶ! 高賃金化〜経営者と社員で「高収益」かつ「高給与」を実現する方法(全5記事)

キーエンスに学ぶ、「収益vs給与」という考え方の問題点 高賃金化できない会社に足りないのは、人手ではなく能力と仕組み

キーエンス出身で、経営戦略コンサルティングなどを行う田尻望氏の新刊『高賃金化 会社の収益を最大化し、社員の給与をどう上げるか?』。今回は本書の内容をもとに、「収益最大化」と「高賃金化」の両立実現への道を解き明かします。本記事では、高賃金化を目指すためのポイントについて、個人と企業の両方の視点から解説します。

前回の記事はこちら

日本の労働者はエンゲージメントが低い

田尻望氏(以下、田尻):高給与を目指す働き方の話とはぜんぜん変わるんですが、最近メディアか何かで「日本は働く人のエンゲージメントが低い」と見たんです。

井上和幸氏(以下、井上):ずっと言われていますよね。ギャラップの調査ではやりがいを持っている人が5~6パーセントしかいないと。

田尻:そうそう、おっしゃるとおりです。メキシコなんかは50パーセントぐらいと高いので、日本はこれではダメだということですよ。これは本質的ではない。働くエンゲージメント、やりがいが高まるとはどういうことかと言うと、「人の役に立っている」ってことなんですよ。

役に立っているから、働いていて「僕の仕事は意味がある、やりがいがある」となるんですが、役に立つためには「人が困っている」という大前提が必要なんです。日本人って困ってますか? 困ってないですよね。

明日仕事もあれば、衣食住が揃っていて、食に関しても別にまずいもんなんかぜんぜんない。もしも仕事がなくなっても失業保険があって、まったく働けなくなっても生活保護がある。本質的な意味では、まったく困ってないんですよ。

そういう状態の中で役に立たなきゃいけないということは、実はめちゃくちゃ能力を高めないとできないから、日々の役割で言うと難しくなってくる。

日本には“がんばっても手応えを得にくい人”が多い理由

田尻:何が原因なのかというと、過去の先人の方々がすばらしい文化にしてくれたからです。非常に価値レベルの高い文化を作ってくださったからこそ乗り越えるのが大変で、ある一定以上は能力を高めないと役に立てないから、やりがいが出にくい。でも逆に言うと、日々がめちゃくちゃ安定して平和な国になってるということなんですよ。

言ったら悪いんですが、メキシコなんかでちょっとおいしいハンバーガーを作ったら「めちゃくちゃおいしいね。お前、すごいじゃないか」と言われるわけですよ。

井上:確かに。ギャップが生まれやすいということですよね。

田尻:そうです。

井上:逆に、その部分では日本はレベルが高いので、がんばってもなかなか手応えを得にくい。満たされない人がいっぱいいるんだったら、ちょっといいことを提供できればすごく喜んでもらえたりする。そうすると、「やったー」みたいな感じになる。

井上:なるほど、おもしろいなぁ。あのデータをそういう観点では見てはいなかったです。僕も感覚としてはわりと同じで、別にあのまま(調査結果)を信じる必要があるとは思ってないんですが、日本人の応答態度みたいなのがあると思っていて。あんまりこの話をすると余談になっちゃうので、ちょっとだけでやめます。

田尻:はい。

井上:日本人がエンゲージメントについて答えようとする時に、斜に構えるところにあるというか。特にギャロップはわりと客観的に聞かれるものだから、「どうですか?」って聞かれると、「いや、うちの会社はだめだよ」みたいな感じで答える人が多いのも事実だとは思うんですね。

実際に調べたこともありますが、日本人の気質として変わってほしいところもあって。(エンゲージメントが)高いところは、斜に構えている自分に対して「嫌だ」みたいな感じがあるんですよね。「自分はハッピーだ。いい状態で働けてる」と思ってアウトプットすることが、その人のメンタリティとしていい状態という国民性があるんですよね。

日本でそういう前提をしてると、どっちかというと「えぇ~?」みたいに、かっこつけちゃったり。全部じゃないんですが、そういう見方もされるメンタリティは(エンゲージメントが)低く出てる理由に混ざっているところはあるとは思うんです。

でもさっき田尻さんがおっしゃったように、全体的に日本は満足度が高いので、がんばっても手応えが得にくいというのは、なるほどなと思いました。

自分の付加価値を高め、高給与を目指すには?

井上:話を戻します。今日の話の中での「個人として高給与を目指すには?」について。給料は自動的に払われるわけですが、働いてる身としてはいいとは思うんです。ただ構造としては、お金をもらっているから働いてるんじゃなくて、働いて成果が出てるから、それに対して給与が出ている。そこの捉え方は、出発点として本当に大事だと思います。

田尻:そうですね。さっき飲食店の話をしたんですが、飲食店で普通の配膳をやってるだけでは難しい中で、「海外へ行って寿司職員になると高給与になる」と言ったんですが、これは「1」が大きくなっているんですね。

(付加価値を高めるための)1つが、井上さんに価値提供する1回あたりの総額が多くなる状態。もう1つが、その対象者を一気に多くするパターンです。私はコンサルタントですが、例えば1店舗に対してのコンサルティングをするとしたら、たぶん月5万円でも店舗は「苦しい」って言うと思うんですよ。

でも、100店舗を持ってるフランチャイザーの方のコンサルティングをした場合、1店舗あたり2万円もらうだけで月200万円になるわけですよね。

そこに対して共通に付加価値が高まるような内容になると、お客さまもWinだし、私もWinになれる。なので、お客さまに価値を与えることができた1回あたりの総額を高めることと、その範囲を広げること。

ちょうどキーエンス本社にいた時に、自分自身の仕事を時短するExcelマクロを作ったら、上司から「何をやってるんですか?」と聞かれて。「これをやると時間が短くなるんです」と言ったら、「それは役立ち度が低いですね」と。

「それで削減できるのはは田尻さんの時間だけでしょ。営業担当の時間を1年あたり2時間、5時間とか削減できるものがあったとしたら、営業担当が100人いたとしたら500時間削減になるでしょ」と。こんなに優しくは教えられてはいないんですが。

井上:(笑)。

田尻:でも、そういうことなんですよ。

若手や中堅は得にくい、仕事のやりがいや「手触り感」

田尻:自分がやったことがたくさんの方々の価値になったら高給与になる。なので、自分の仕事やこれから就く仕事の影響範囲がどれだけでかいのかというのは、1つの指針になってくるんじゃないかなと思います。

井上:そうですよね。それは、本質的に考えて取り組む価値があることだと思います。

自分、もちろん自分の生産性を上げるとか、自分を仕組み化すること自体はすごくいいことだと思うんですが、ご自身1人だけの価値が上がっていると言えばそうなんです。

それが同僚、チーム、会社全体に影響を及ぼすだけで、数倍から場合によっては数十倍、数百倍になる。そういう価値が生まれたところに、本質的に言えばバリューが返ってくる。結果として、それがお給料で返ってくる。

会社がある程度以上の整合性を持って、還元してくれるようなルールがあるかどうかはこの次の話で出てくるんじゃないかと思うんですが、そこは大事だと思います。

田尻:おっしゃるとおりです。

井上:すごく卑近な話ですが、僕は結果的に比較的ベンチャーに身を置いて、当社もベンチャーです。やはり、大手のほうが波及効果という意味では非常に大きいわけです。

一個人の感覚からすると、若手や中堅の頃には「手触り感」みたいなものや、自分が出してるバリューが本当の意味でどこまで影響を及ぼせているのかが、ちょっとわからないなぁと思っていた部分もあって。そこがちゃんと見えて、自分に返ってくるような立ち位置で働きたいなということは、この領域に入ってくる時にすごく思っていたんですよね。

仕事を仕組み化すると、人の何倍も業務をこなせる

井上:ぜんぜんおすすめする話ではないんですが、「3人分か4人分働きます。だから3~4人分くれとは言わないので、2人分ぐらいお給料をちょうだい」みたいな話を、実はリクルート時代にもしたことがあって。

兼務をしていたこともあったんですが、マネジャーの時にインターネット系の部署ともとの部署の2つを兼務していたんです。「これ、2人分やれってことですよね?」という話から、その話をし始めたのが発端でした。

自分の中にも、なんとなくそういう感覚があって。単に過重労働をすることはぜんぜん自分自身にもおすすめはしてないんですが、自分が1つの役割だけの価値なのか、2つの役割の価値なのか、もっと多くを出せているのかを、自分がちゃんと役割づけられたり。

お金だけじゃないんですが、お金の面も含めて(報酬が)返ってくるのかみたいなことは、そういう構造を考えるような場にいたからというのもあるんですが、個人としてもわりと意識してきているんですよね。

田尻:ちなみに僕は、たぶん人の何十倍働いています。「何十倍って、そんな嘘を言っちゃいけないよ」と思われるかもなんですが、僕は自分の時間の中で仕組み化した仕事がいっぱいあります。もともとが「仕事①」の状態だったとしても、どんどん仕組み化していったら、1の時間で10できるみたいな。

井上:すごい。

田尻:最後はそれを他の人に任せる、もしくはBPOする。ただ、多くの会社さんはアウトソースするにしても仕組み化をしてないので、アウトソースしても価値があんまりない状態になったりするんです。人の何倍も仕事をすることは、仕組み化をすればできる。

昨今だったら、そこまで仕組み化ができていれば、その仕事の7割方は生成型AIでできちゃうわけですね。

仕事を仕組み化する人・しない人で差が開く

田尻:1人で人の何十倍も働くことができる人は、エネルギーがうずまいてるので交渉力も強いんですよ。時間数の話ではなく効率や高い価値でいうと、人の3倍、4倍、10倍にもなれる。

井上:それがないとできないですよね。

井上:僕はそんなに全部は仕組み化できていないと思いますが、当然、単に単位時間を増やしているわけでなくて。そんなん1時間で尽きるわけだし、絶対に無理だしね。

田尻:無理です。死んじゃいます。

井上:田尻さんがおっしゃったように、全部が仕組み化できるものじゃなくて、コアな付加価値が必ずあると思うんです。仕事の幅や量を増やせる方は、それにつながるセットアップを仕組み化して、それを使いながら動いていることが結果として稼働の差を生んでるんでしょうね。

田尻:日々、そこの工夫がある人とない人では、事務員さんでもやっぱり差が出ていて。工夫してくれる人は、1回目にやってもらう時は30分かかったりするんですが、2回目からは「1分で終わりました」みたいな。

そうなったら「じゃあ、次も次も」「君、優秀だね。ちょっと君のやってるものをマニュアル化して外注してよ」となったら、これがいわゆるオペレーションエクセレンスになっていきます。これは個人の努力でもできることなので、そこを考えることが重要ですよね。

井上:それがポイントですね。まだ今の話に肉付けもあるとは思うんですが、自分の給与がどうやって決まるのかというと、やっぱり自分が出したアウトプットによって決まります。仕組み化も含めて最大化していけると、個人としては当然お給料は増えますから、これをがんばりましょうという感じですね。

田尻:そうです。おっしゃるとおりです。

高賃金化は「収益vs給与」という次元では解決しない

井上:次は会社側から見ての話です。会社で言うと、一般的な考え方では「給与を増やすとすれば利益を削らなきゃいけない」という話になるケースが多いとは思うんですが、そうではないという話をしてくださいました。このへんをぜひ解説ください。

田尻:かしこまりました。さっき、「高収益イコール高給与と思ってませんか?」と言ってたんですが、高収益化するためには人件費を下げたほうが合理的です。つまり「収益vs給与」という次元では解決しない。

じゃあどうしなきゃいけないのかというと、価値を大きくしていかなきゃいけないということがポイントです。どうすれば収益と給与を同時に上げることができるのかというと、「1人1時間あたりの付加価値生産性を高めましょう」が答えです。「1人あたり」にすると残業を認めて肯定することになっちゃうので、「1人1時間あたり」にしています。

例えば、年商8兆円、営業利益4,000億円、従業員数20万人。悪い企業じゃないですね。いい会社っぽく見えるんですが、1人平均200万円の給与を上げると利益が0になります。

でも、売上高9,225億円、営業利益5,000億円、従業員数1万人になると、1人あたり5,000万円の給与を上げて初めて利益が0になる。こんな感じの会社が、いわゆるキーエンスみたいな会社になってくるわけです。

井上:後者がキーエンスなんですよね。

田尻:ほぼ実態に近いですね。去年の売上もこんな感じですし。

井上:すげぇ。

田尻:給与の源泉がわかってない組織って、「人が足りないので追加してください」と言うんですよ。3人で利益2,000万円の利益が、人を追加して4人で2,200万円。「わーい、ちょっと増えた」って思うかもしれないですが、いやいや。もし年収500万円を払っていたとすると、利益は激烈に減ってます。

配分するとしても、1人あたりの配分なんかできるわけないじゃないですか。

これからは会社として、「人が足りないんじゃなくて、能力、仕組みが足りないんだ」というふうに認識していかなきゃいけないんです。

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