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キーエンスに学ぶ! 高賃金化〜経営者と社員で「高収益」かつ「高給与」を実現する方法(全5記事)

高給与企業・キーエンス出身者が明かす、日本の給与が上がらない理由 多くの経営者が誤解している「人件費」のとらえ方

キーエンス出身で、経営戦略コンサルティングなどを行う田尻望氏の新刊『高賃金化 会社の収益を最大化し、社員の給与をどう上げるか?』。今回は本書の内容をもとに、「収益最大化」と「高賃金化」の両立実現への道を解き明かします。本記事では、給与が上がらない日本企業の構造の問題点を指摘します。

キーエンスに学ぶ、高収益と高給与の実現

井上和幸氏(以下、井上):みなさん、こんばんは。ようこそご参加くださいました。田尻さん、今日もよろしくお願いいたします。

田尻望氏(以下、田尻):よろしくお願いします。

井上:みなさんお楽しみにしてくださったのではないかと思いますが、今日は田尻さんをお迎えしてお届けいたします。『高賃金化』という、けっこうストレートな(笑)、新刊を出されました。

こちらの中身をご紹介いただきながら、経営者の方、幹部のみなさんはご興味があるところだと思うんですが、高収益と高給与をどう実現するかというテーマでお届けいたします。

本日もウェビナーですので、顔は映りませんが、ぜひチャットでご質問やご意見をどんどんお寄せいただければありがたいです。最後にQ&Aのコーナーがありますが、そこを待たずとも、お話の途中でどんどんご質問いただいてかまいません。ライブ感を持って、1時間半みなさんに楽しんでいただければと思います。

田尻さん、本当にベストセラー大連発でいらっしゃいますが。

田尻:恐縮です。ありがとうございます。

井上:田尻さんは「付加価値をどうやって出すのか」ということを一貫して教えてくださっています。これまでの本をお読みいただいて今回参加しくださった方もいらっしゃるかもしれませんね。

最近、キーエンスは本当に注目されていますが、キーエンスご出身で注目されているコンサルタントの方はだいたい営業系の方が多いんです。その中で田尻さんはエンジニアでいらっしゃって、事業企画に従事されていた方です。そういう観点からお話しくださるので、学ばせていただくことがすごく多く、僕も昨年来いろいろとご一緒させていただいてきました。

日本でもトップクラスの給与を誇るキーエンス

田尻:今日のテーマはずばり、どういうふうにしたら給与が上がるのか。経営者、幹部のみなさんからすると、「給与を上げてあげたい」と同時に、「とはいえ無い袖は振れない」というところがあるので、そこをどうやるのか。

キーエンスはあれだけの収益を出しながら、平均給与が日本一。非常にご興味を持っていらっしゃったり、不思議だなと思っている方は多いと思うので、今日はそのあたりをずばり教えていただこうと思っています。

田尻:よろしくお願いします。

井上:相手役は私、井上が務めさせていただきます。実は今日は、この『高賃金化』の本の章立てになぞらえて、まるごと1冊お話しいただいちゃおうという内容です。

みなさんもすでに読まれているかもしれませんが、具体的なお話もいっぱい出ていて、参考にしていただけますから、よろしかったらこのトークライブの後に復習も兼ねてお読みください。(講演の)流れとしてはこんなかたちでいきますが、みなさんのご質問によっては臨機応変に流れを変えていきます。

個人として、我々がどんなふうに高給与に向かって働くことができるのかという観点。それから会社として、組織として、人事として、社員のみなさんの給与をどういうふうに上げていくことができるのかという観点。個人視点と企業視点の両方で話をしていこうと思っていますので、楽しみにしていてください。

人件費はコストではなく投資

井上:ではさっそくですが、「なぜ日本企業の多くは給与が上がらないのか」。本にも書いてくださっていますが、もう言い飽きた感もあるし、直近では株価も上がっているし、賃金アップが多く話題に上がります。

明るい面もあるのかなとは思うんですが、平成からずっと、本質的にはなぜ日本企業の給与が上がらないのか。このあたりを頭出しとして、お話を開始できればと思うんですが、田尻さん、なぜですか?

田尻:ありがとうございます。かしこまりました。みなさま、田尻でございます。どうぞよろしくお願いします。本の一番最初にも書いたんですが、みなさん、これはどっちのほうがいい会社でしょうか? 売上は同じ100億円で、利益が5億円しかない会社と、利益が20億円ある会社。

どっちがいい会社ですかというと、もちろんこっち(利益20億円)って言うんですよね。「売上高が100億円だと、利益が20億円あるほうがいいじゃないですか」と言うんですが、私たちの給与は「原価・販管費に含まれる人件費」なんです。

どういうことかと言うと、「高収益=高給」「高収益化するためには人件費って下げたほうが合理的」と思ってる人はまだまだいらっしゃるんですが、いやいや。経営者の観念の中で、人件費を何と見ているのかはすごく重要なことなんです。みんな「付加価値額÷コスト」だと、とらえてませんか?

これは間違いで、私がいたキーエンスという会社だと、付加価値生産性は「付加価値額÷(労働者数×労働時間)」なんですよ。

なんですが、「コストを下げたら生産性が上がる」という言葉を言っている経営者。特に中小企業さんとか、大企業さまでも部長クラスの方だったら、下が「コスト」になってるんですよ。そうじゃなくて、本当は時間なんですよね。

私たちの給与の源泉は、本当は1時間あたりの付加価値生産性額をベースとして立てられるものにもかかわらず、人件費がコストとみなされているんですよ。人件費は投資であり、付加価値を生み出す大切な資源にもかかわらず、みんなコストとして見る。

だからどうするかというと、アルバイトさんを雇うとか、単価の安い方々を雇うとか、派遣にして変動費化する。もちろん経営としてはいいかもしれないんですが、賃金を高めたり付加価値生産性を高めることから真逆のことをみんながしてるんですよね。「みんな」と言いましたが、正確には経営者さまです。

これからの経営において「高賃金化」は重要なポイント

田尻:私は去年Forbesにも載せていただいたんですが、その中でお話ししていたことでもあります。まず第一は、経営者さんが従業員の方々、スタッフの方々の給料を上げる気があるのかどうか。これは従業員になられている方々からすると判断要件です。

「上げたい、上げたい」と言ってるけれども、実際には上げる気がないし、例えば社長さんが飲み歩いてますみたいな方の場合は、判断するべき時がいつか来るでしょう。

例えば旦那さまが働かれていて、ご自身の働き方的にそんなに稼がなくていい状態であれば、苦しいことをやらずに単位時間あたり普通に1,000円前後ぐらい、アルバイトと同じようなかたちで給与をもらうのも別にいいわけです。

ただ、自分の人生の目的から考えた時に、「給与を高めなきゃいけないのに、給与を上げる気がない会社にいるのはもしかしたら間違いかもしれないな」とは思うところです。

実際に私がこんなことをお話ししていると、「え、じゃあ辞めろってことですか?」という話になるんですが、あなたの人生にとってそれが最適なんだったら、辞めたらいいんじゃないですか、とも思っています。

でも、逆に言うと重要なことがあって。経営者として意思決定する時に、これからは人材戦略において「高賃金化」はものすごく重要なポイントであることが目に見えてわかっています。

だって、みなさまは「低賃金、低賃金」と言われすぎて、もうそろそろちゃんと高賃金を求めていますから。経営者として、今すぐじゃなくても「高賃金化をしていきます」と宣言することは重要な経営判断だし、人材戦略になってくるわけですよね。

それをおろそかにして人が辞めたとなったら「社会が悪い」と言いますが、違います。経営者が悪いんですっていう話ですから。

なぜ日本企業は他国に追い抜かれてしまったのか

井上:なぜ(日本企業の給与は上がらないのか)というところに立ち戻ると、今お話しくださったのは、ここから特に経営者が向かうべき大前提だと思います。

逆に言うと、平成の最初から令和の直近まで40年近くは、多くの経営および経営者の考え方は、「分母コストをとにかく下げなきゃ」ということに目を向けざるをえなかったところもあるのかもしれないんですかね。

田尻:おっしゃるとおりだと思います。ITやデジタルの発達が来る前は、それでうまくいく世界でもあった。

井上:そうですね。最終的に差別化がなくなって、どんどんコモディティ化していく。1つの産業やビジネスやプロダクトだけを見れば、そうなっていかざるをえないところがある。最初は日本が作っていたけど、アジアのほうで作られて安くなっていくことに対応せざるをえないというのは実際にあるし、これからもあると思うんですよね。

そこでコスト競争に入っていく時に、(田尻氏が)ご指摘いただいたようなかたちで考えると、コストとしての人件費を安くしていく。PLで言えば、原価および販管費の人件費比率はどの産業も非常に大きいから、そこを減らしていくことで利益を出そうという前提があった。

ただそうすると、結局はどんどん安い給料や賃金で働いていただく方向になっていっちゃう。こういうことが、今の日本でもきっとある。

アメリカを中心に日本と欧米との解離がこの数十年でどんどん開いたわけですが、いまやさらに気がついたらアジア諸国に負けていたり、負けてなくてもほぼ追いつかれてしまっていたりする。

横ばいだった日本と、名目の側面でのGDPを含めた給与や物価が上がっていった周りとで大きく差がついた。もともと高かったものが横ばいになっているうちに、他がどんどん上がってきて、追いついてきたり抜かれてしまった。このままの状態では、もう戦えなくなってきている。

日本に染み付いている“価格を上げてはならない”という風潮

井上:先ほど田尻さんがおっしゃったとおり、もう高賃金化は前提にしなきゃいけないところに来ていますよね。

田尻:おっしゃるとおりですね。私は価値主義の人間なので、そこから考えると……これは本に書いてない時事ネタやけど、最近記事で「地方で人不足だ」とあったんですよ。

めちゃくちゃ人不足で、警備員さんを雇うのがめちゃくちゃ高くなっちゃうと。建設会社からすると、「他府県だったら○○円でいけたのが、そこの地域だけ3倍出さなきゃ無理だ。大変だ、大変だ」って言ってるんですが、どこが大変なんですかって話です。

給与が3倍になったって、こんな喜ばしいことはないわけですよ。でも、普通の会社さんだったら「これじゃあ元請けさんかわいそうだから、自分たちの利益はなしでいいから」といって集めちゃうわけですよね。

井上:なるほど、そういうことですね。

田尻:「(人手が)集まらないので、もうちょっと高くしてください」って言えばいいだけなんですよ。ただ、低賃金はダメだと言っておきながら、高賃金化するための価格を引き上げようとしたら、今度はそれもダメって言うんですよ。

だから、言ってることとやってることがおかしいよねというのはあるんですが、じゃあどっちをとるかですよね。さっきの話だったら、需要が高まったので価値が高まっているんですよ。

「需要に対して供給が追いついてないから、残念ながら価格を高くさせてください」というのは普通のことなんですが、価格を上げることに関してのロジックがみんなないんです。価値が高まれば、価格を上げていいんですよ。

でも、どうやって価値が高まるのかがわかってない。地域性でも上がるし、需要と供給のバランスでも上がる。さっきの記事の中で言うと「あ、みんなはこう見るんだ」と思って、私自身もびっくりしたところではありました。

井上:そうですね。前提として「上げてはならぬ」という(風潮がある)。

田尻:そうそう(笑)。

井上:需要側も含めて、日本はそういうマインドセットが染みついてしまってるところもあるのかもしれないですね。

田尻:ただ、お客さまは市場側ですから、そこが求めているものが何かを知るのは大事なんです。

給与が上がりにくい、日本企業の構造の問題点

田尻:ちょっと難しい話でいくと、マルクス資本主義から始まった分業体制が、給与を上げにくい仕組みにもなっているなとは思います。

最終的な価格ってエンドユーザーさんが出してくれるじゃないですか。でも、大企業さんとしゃべっていると、企画の方がいて、開発の方がいて、事業責任者の方がいて、社内営業の方がいて、子会社があって、その先に代理店があってエンドユーザーがいる、みたいな。

お客さまの買う理由とか、何のためにお金を払うのかが、上層のほうや企画の方ですらわからない状態にある。これでは生産性を上げにくいですよね。

井上:そうですね。まさしく今の田尻さんの話と同じく、2つの構造があると思っていて。1つが、特に大手さんにはなると思うんですが、今おっしゃったことですね。いい意味でもあるんですが、ちゃんと役割が構造化されて、バリューチェーンが社内で組まれている。

そうすると、フロントで接していらっしゃる営業系の方々は感度があるんだけど、商品価格やサービス価格に反映していくところで、事業企画、経営、あるいは生産のところに行く時に、直接触れてなくて分業になっているから、両方への情報の行き来があると思うんです。

ただ、お客さまに価格を上げることを伝えるのはどうも憚られるということもあるのかもしれないし、逆にお客さまのニーズがちゃんと伝わっていかないところもあると思うんですよね。

もう1つ、価格が上がりにくい日本独特の構造は、いわゆるゼネコン型にも原因があると思ってるんですよ。もともとの構造としてムダが多くて、そもそも価格帯が高くなっちゃっている。

昭和の時代あたりからずっと続いている価格帯では、ちょっと時代に対応できてませんよねといった時に、時代の変化の中で下請けさんのほうが価格が上がってきたりしている。フロントを抑えているゼネコンのトップ型、いわゆる建設系の方もそうだと思うし、最近は減りましたがスクラッチで開発をやってたITや、流通さんなんかもそうだと思います。

本当は、上の元締めさんがお客さまに対して「世の中がこうだから」と、付加価値を提供してちゃんと価格を上げていけばいいと思うんだけど、それをやらないので。ステイの状態のまま原価が上がってくると、逆に下請けさんに圧力をかけるというか。その2つの構造が日本にはあるなとは思いますね。

田尻:そうですね。

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