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座学だけでは難しい・・・フィードバックの場が変わる ミドルマネジメントの変容|『まず、ちゃんと聴く。』出版記念セミナー03(全5記事)

フィードバックしたつもりが、ただのダメ出しになってしまう理由 相手の理解度に合わせてアドバイスを使い分けるコツ

売り手市場の採用環境、働き手の多様化が進む今、ミドルマネジメントの変容が組織成長の要となっています。本イベントでは、個々を尊重しながら適切な指導を行い、部下を育成していくための職場コミュニケーションについて語られました。本記事では、エール株式会社 代表の櫻井将氏が、職場のコミュニケーションの課題を解決するために、組織ができることについて解説しました。

前回の記事はこちら

ビジネスの現場で「フィードバック」と「聴く」を両立させるには

櫻井将氏(以下、櫻井):最後に組織としてできることをお伝えして、私のパートは終わろうかなと思います。組織として「フィードバック」と「聴く」ことに対してできることを2つ挙げました。1つは、先ほど言ったように前提が変わっているので、社内で起こるコミュニケーションのデザインを変えないといけないと思っています。

その1つが1on1だと思うんですけど、ただ上司に任せ過ぎるとちょっと負荷が高すぎるので、構造で解決したほうがいいと思っています。もう1個は「わかる」を「できる」に変えるための支援をしたほうがいいなと思っていまして。頭でわかっていても実際にはできないじゃないですか。

先ほどの例で言うと、肉じゃがのレシピをずっと読んでいたってできるわけじゃない。教習所でずっと座学で学んでいても、車の運転ができるようになるわけじゃないのと同じです。「わかる」ことと「できる」ことはコミュニケーションにおいても違うので、これをどうやって支援していくのがいいかをお伝えしようと思います。

この上司だけに任せ過ぎると負荷が高すぎるという話について、背景から説明すると、幸福度の研究をしている(ユージニア・)ゴーリンさんという方が、あらゆる幸福度の研究の中で「どういう振る舞いをすると、人の幸福度がどう上がるのか」を分類したんですよね。

これは高さや大きさや色に意味があるんですけど、この話に関係あるところだけ(説明)すると、濃い色のところは人のサポートが必要だと言われている関わり方です。

お店の店員の話は聴けても、家族の話を聴くのは難しい

櫻井:まとめたものがここにあるんですけど、「現実的な目標の行動設定」とか、「阻害要因を認知しましょう」とか、「強みを特定しましょう」「希望を可視化しましょう」「価値観を明確化しましょう」と。これは要は、今1on1で上司が部下に「こうしましょう」と言っていることだと思うんですよね。

他の人の助けがあると幸福度が上がるという話なので、こういうことができるようになっていくために、みなさんも傾聴研修やコーチング研修、1on1研修と受けられているんですけど。実はここに1個、大きな罠があると私は思っています。

これは私自身の話なんですけど、コーチングやカウンセリングをものすごく学んでいくと、学生時代の友だちと久しぶりに会った時とかに、話を聴くのがむちゃくちゃうまくなるんですよ。

前職の仲間とかが「ちょっと相談いいですか」と言って来た時に、話を聴くのがすごくできるようになります。あと例えば、町の定食屋のおばちゃんとかおじちゃんとかとの会話もすごくうまくなる印象があったんです。

でも、どれだけうまくなっても、部下や同僚の話を聴くのは難しいなとか、やっぱり母親の話は今でも聴けなくて、10分ぐらい聴いていると「また同じこと言っているな」「この話何度目だっけ」みたいになってきたりするわけですよ。

どれだけ聴く練習をしても、やはり親の話は聴けないわけです。でも、たぶん今日聴いてくださっているみなさんのお母さん、お父さん、息子さん、娘さんの話だったら僕は2時間でも3時間でも聴けるんですよ。ということは、これは能力の話じゃないじゃないですか。

僕の能力の高さの話じゃなくて、構造の話だと思っています。利害関係の強い身近な人の話とか、過去・背景を知っている人であるほど、聴きづらくなる構造があるのだと思っています。これは個人のスキルの課題ではなくて、構造的な課題なんだなと思っているんです。

部下に対して必要なコミュニケーションを、上司任せにしない

櫻井:私が「聴くのは簡単だ」と言っている学生時代の友人って、実は誰かの部下だし、前職の仲間って誰かの同僚だし、町で出会う人は誰かの家族なわけじゃないですか。上司と部下の関係で話を聴くのは難しいんだけど、やはり「伝える」ってやりやすいんですよね。

なんでかと言うと、仕事を見ているし、自分のほうが知識や経験が豊富だったりするし、会社の状況もわかっていたりするので、「聴く」は難しいんだけど伝えるのはやりやすい。

逆に言うと、社外の人材や前職の仲間と関わる時は、会社のことがわからないので、仕事のフィードバックはやはり難しいですよね。でも聴くのはめっちゃ簡単なんですよ。

上司だけに「やれ」と言って聴かせようとして、忙しい上司がより忙しくなって悩んでいくことが、いろんな会社の1on1の施策で起きているので。

部下に対して必要なコミュニケーションを上司任せにせず、デザインしませんかというのが私の提案です。社外の人とやったほうが良いコミュニケーションがあるように、上司は上司で社内のメンターとしてやったほうがいいコミュニケーションがある。

先ほどのPI(発生確率・影響度)マトリックスを今の話とセットでさせてもらうと、やはり右上の領域、タスクとか行動レベルの話は上司がやりやすいと思います。

社内で時間がない中では、逆側の人生やキャリアの価値観の話はしづらかったりしますし、「納期どおりに仕事していないのに、なに夢語っちゃってんの」みたいに、上司からするとイラッとするんですけど。コーチやカウンセラーみたいな社外の人だったり、ちょっと関係が遠い人であれば、「むしろ聴かせてください」となって、話をいくらでも引き出せるんですよ。

それで、ちょうど中間ぐらいに社内のメンターとか同僚がいるという、こんなふうに「必要なテーマを、必要なコミュニケーションの手段でちゃんとデザインしましょう」というのが1つです。

理解しただけでできると思いがちな、「聴く」というスキル

櫻井:2つ目は、「わかる」を「できる」にするための支援がちょっと足りていないなと思っています。先ほど言ったとおり、コミュニケーションって運転とかピアノに近いんですよね。

でも、「聴く」って日常でやっていることだからか、エクセルの関数とか道具のように、使い方を知ったらわかると思っちゃう傾向がある。

運転やピアノやプレゼンは、わかっただけではできないと理解しているはずです。良いプレゼンの勉強をしたところで、良いプレゼンができるって思っていないはずなんですけど、「聴く」とか「伝える」って、わかったらできるような気がしちゃうんですよ。

それはたぶん、ふだんやっているからなんだと思うんですけど、コミュニケーションは修練型のスキルなので、練習しないとこのスキルを上げていくのはやはり無理ですよね。

失敗を許容されている環境で練習することが、やはりなかなかできない。これがコミュニケーションスキルがアップデートしづらい理由だなと思って、組織としてそこを支援する必要があると思っています。

個人のコミュニケーションスキルを伸ばすために、組織ができること

櫻井:一般的なコミュニケーション研修ってやはりインプット型で、1日で終わっちゃうことが……。もちろんインタラクティブにアウトプットもする研修もありますけど、10分、20分練習するぐらいで終わっちゃうのが一般的な研修で、やはりスキルを習得するには一定期間必要です。

車の運転も、10時間の習得時間が必要な場合、1日で10時間練習するのと、1ヶ月に1回、1時間を10回やるのと、どっちがいいかと言うと、やはり一定期間かけて少しずつやっていったほうが、経験学習(経験を通じて学んだ内容を、次の経験に活かすプロセス)のサイクルが回りやすいんですよね。

集合型で「一般的にはこうだよ」と教えられても、「僕は背が高いし」とか「僕はけっこう体重が多いし」とか「僕は実は右手があんまり動かなくてね」とか。「僕の事情で言うとさ」という個別性を重視しないようなスキル習得の話をしたって、身についていかない。

個別であることをちゃんと扱っていかないといけないということと、やはりアウトプットすることですよね。

いくらずっと座学で、シミュレーターで練習していても、仮免で公道に出たり、教習所で練習したりして、うまくいった、うまくいかないということをしないと、スキルって習得できないので。

コミュニケーションにおいても、そういう環境を用意することはすごく大事だなと思っています。ちゃんと失敗していい環境とか、チャレンジしてアウトプットする環境とか、一定期間伴走できる環境があると、「伝える」ことも「聴く」こともできていくんじゃないかなと思っています。

この2つを、組織に対する日頃のコミュニケーションのヒントとしてお伝えしました。ちょっと延びてしまいましたが、私のパートは以上とさせていただきます。

過去の結果に対してだけではない、フィードバックのあり方

司会者:櫻井さん、ありがとうございます。ここからの後半の25分ほど、篠田さんと櫻井さんで、前半みなさんからコメントをいただいた内容も踏まえてお話を深めていきたいと思っております。篠田さん、よろしくお願いいたします。

篠田真貴子氏(以下、篠田):よろしくお願いいたします。私も櫻井さんの話を聴きながら、「前よりさらにわかりやすくなっているわ」と。みなさんのコメントでも、ご自身の試行錯誤に基づいたご質問をたくさんいただいているので、なるべくそこをカバーできるように進めたいと思います。テーマが4つか5つぐらいあって、ざっくりと1個につき5分ぐらいしか使えないので。

櫻井:わかりました。その想定でね。

篠田:でも、そこでまたカチカチし過ぎてもまた深まらないので、全部いけなかったらごめんなさい。まず、40分前ぐらいに「フィードバックってそもそも何だっけ」とか、効果的なフィードバックの話を櫻井さんがしてくれました。そこの理解を深めるためにちょっとおうかがいしたいんですけども。

櫻井さんが時間軸を入れたマトリックスを見せて説明してくれていた時に、「やっぱり結果よりも、これからの期待値についてフィードバックするイメージだなって感じました」というコメントがあったんですね。

これは組織心理学者のアダム・グラントが言っていた、フィードバックを求める側へのアドバイスなんですけど。「フィードバックをください」と言うと、過去のああだこうだを言われるから、けっこう使いにくいと。むしろ問いかけとしては「今後に向けてアドバイスをください」と言うといいですよ、というのを見たことがあるんです。

参加者からいただいたコメントの「結果よりも、これからの期待値なんですかね」ということと、今私が言ったアダム・グラント(の言葉)も、どっちも時間軸としては未来志向じゃないですか。これって櫻井さんはどう思いますか?

櫻井:世の中的に、フィードフォワード(先を見据えて「これからどうすべきか」を追求していく考え方)みたいな言われ方をしているものなんですかね。

篠田:そうなんですかね。フィードフォワードってたぶん日本でしか言わない気がする。

櫻井:そうなんだ。英語の表現としてはないんですね。

篠田:あんまり聞かないです。

相手の理解度によって、フィードバックの仕方を変えることの重要性

櫻井:先ほどのお話で言うと、やっぱり理想を伝えるほうは、わりとそういう(未来志向の)方向性に近いのかなと思っています。「こうなってほしいんだ」ということに対して意識を向けていくということで、これは2つ効果があると思っています。

1つは「ダメだ」とギャップを言われると、やはりモチベーションが落ちたりテンションが下がる。一方で「こうなってほしいんだ」ということに対してはわりとポジティブに受け止められる。あとは先ほど言った話と同じで、「こうなってほしいんだ」ということをイメージさせたほうが、そっちに近づくと思います。

僕はテニスをするんですけど、コーチもわりと、この1と2で分かれるんですよ。

篠田:コーチによって違うってことですか?

櫻井:そうなんです。そのコーチに対する自分の好き嫌いだと思うんですけど。失敗した時に「今うまくいかなかったね」と言って、球を何度も出してくれるコーチもいるんですけど、うまくいった時に「今の良かったっすね」って声掛けしてくれるコーチもいます。

これは受け手とコーチとの関係性とか、お互いのキャラクターによって、どっちが良いか悪いかは別だと思うんですけど。このへんを意識的に使い分けられるとすごくいいんだろうなと思います。

篠田:なるほどですね。自分がフィードバックをもらうことを想像した時に、「ダメじゃん」って言われたとして、本当はどうしたらいいかわかっている時は「ですね」と言えるんですけど。(解決策が)わからない時にダメ出しだけされても、「じゃあどうすりゃいいのよ」と、途方に暮れる心境になるなと、今の例を聴きながら思っていました。

「もっとサーブがうまくなって」って言われたらすごく困ると思うんですよ。「いや、うまくなりたいけど、どうしたらいいかわからないんだよ」みたいな(笑)。

櫻井:そうですよね。だから「もうちょっとだけ肘を高く上げてみるといいよ」とか具体的なアドバイスをされる場合と、「肘が下がりすぎているね」みたいに言われるのと、やっぱりニュアンスが違うなと思っています。最初の質問の答えになっているのかちょっと不安ですけど。

篠田:大丈夫です。その「未来の期待を伝える」というニュアンスももちろん入ってくるんだけど、それだけじゃない。まさに今見せてもらっているマトリックスの中で、相手の理解度によって使い分けられたらいいなと思いました。ありがとうございます

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