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社会から応援され、長く愛されるビジネスとは(全2記事)

一度割引クーポンを使って得したら、定価で買わなくなる顧客の心理 「損得勘定」を起点にしたビジネスがうまくいかないわけ 

『長く愛される事業をつくる 共感起業大全』の発売を記念して開催された本イベント。著者であり、ウェルビーイング起業家/アントレプレナーシップ研究家の中島幸志氏が登壇したトークイベントの様子をお届けします。30年で30社の起業や経営を経験し、500人以上の支援をしてきた連続起業家の中島氏が語る、誰もが実践できる「応援され続けるビジネスのはじめ方」とは。本記事では、起業家としての挫折の経験や、起業家支援を始めたきっかけを語りました。

事業を起こすことは、誰かから応援されること

中島幸志氏:「誰かを応援したい」という気持ちがありますが、事業をするということは誰かから応援される側の立場になるんですね。

この「応援される」ということによって、起業ができたり、事業を長く続けることができる。事業は「応援される」ということと非常に密接な関係にあるなと、実際にやってきてすごく感じました。

今日は、そんな私が書いた『長く愛される事業をつくる 共感起業大全』という本の中に込められたお話をしていきます。ここでは起業と書いていますが、実際の起業・創業だけではなく、企業内での事業を作ったり、あるいは事業承継など、いろいろなかたちで「事業を起こしていこう」という人たちを応援する本になれば、という思いで書いています。

人も事業も始まり方はとっても大切です。例えばみなさん、買い物をした時にクーポンで30パーセントオフになったとしたら、どうでしょうか。また次にクーポンが来るのを待ちませんか? やっぱり私たちは、比較や条件のような、いろいろなものを提示されると、次もその条件を待ってしまうわけですね。

ここではお得とか割引とか書いていますけれども。こういう手法が必要な時もありますが、これありきで物事を考えるとなかなか事業はうまくいかない。当然、人との関係も損得で勘定してしまうとなかなかうまくいきません。みなさんも何かしらそんな経験があるかもしれません。

その一方で、共感から始まるとどうでしょうか。世の中にはこの損得、つまり儲かるか・儲からないかという条件だけで始めるビジネスもあるかもしれません。その中で、共感はよく手段に使われます。共感マーケティングや共感ビジネスと、いろいろな言われ方をします。

そのすべてがいいか・悪いかは僕にはわかりませんけれども、やっぱり心が少し作為的に使われることには、僕はちょっと違和感を感じます。でも、この共感から起業した人たちはどうでしょう。私は応援したくなりますね。いろいろな想いを実現したい人たちが、その方法を探していく。私がこれまで得た経験から、こんなふうに順番を間違えないように起業していくことはとっても大切じゃないかなと思います。

世の中には信用と信頼という言葉があります。信用は契約や条件。どちらかと言うとスライドの上側(損得)になるかもしれません。一方で信頼とは感情のつながりや、あるいは家族のような関係性になっていくのではないかなと。そのぐらい、この2つの関係は違うものかなと思います。

ビジネスをする上で重要な「価値観の共有」

この本では共感と呼んでいますけれども、共感とは何でしょうか。いろいろな言葉の定義はありますけれども、ビジネスにおいては、私は「価値観の共有から生まれる感情」と定義しています。

SNSで「いいね!」が押されたり、あるいは「これおいしいね」「このキャラクター好きだな」とか、いろんな感情があります。ビジネスでは、この価値観の共有から生まれるところが、僕はポイントではないかなと思っています。

この価値観というのはとても難しい言葉です。価値観の違いとか、いろんなふうに使われます。この価値観を、1つわかりやすく表現するものとして、この「真善美」という言葉があるかなと。この本ではわかりやすく解説をしています。

(真は)本質的なことですね。当たり前のことが当たり前に提供されること。そして、善。(人が)困っていることに対して「なんとかしたい」と思うこと。そして(美)。おいしいとかきれいといった意味で「美しい」と感じること。こういった「大切にしたい想い」そのものが価値観だと捉えていくのがわかりやすいかなと思います。

この個人的な価値観と社会が持っている価値観。多くの価値観があり、守られない価値観もあります。そういった中で、我々はどうやってチャンネルを合わせて価値観を共有していくのか。こういったところが、ビジネスをしていくのにすごく大切な価値観の共有、そして共感になっていきます。

起業のきっかけになった、音楽業界の厳しい現状

自己紹介を少しさせていただきます。私は名古屋の生まれで、小さい頃から音楽をやっていました。真ん中で歌っているのは僕なんですけれども、3歳からピアノを始めて、ブラバン、ロックバンドをやりました。

それから音大を受けますけど、滑ります。そして、スピーカーとかの音響の専門学校に行きます。18歳で上京して、音楽で飯を食いたいと思って、音楽の世界に飛び込みました。しかし、音楽の世界の現実は非常に厳しくて。売れる音楽が作れないとCDを出してくれない。今だと音楽配信とかがありますが、(当時は)発表ができない状況だったんですね。

CMの15秒とかドラマの30秒とか、一部だけが耳障りが良くてカラオケで歌いやすい曲だけが売れていく。僕は音楽を目指していた人間として、そんな状況にすごく絶望を感じたんですね。ミュージシャンが非常に苦しんでいる状況をなんとか変えたいと思いながら、時が過ぎていきます。

ある時、シンセサイザーの開発に携わります。「中島くん、おもしろいものを見せてあげるからちょっとおいでよ」と言って見せられたのが、ニューヨークのジャズクラブで演奏されていた音楽でした。ダウンロードに2時間ぐらいかかったのですが、再生できたのはたった30秒のニューヨークのジャズクラブの演奏でした。

でも僕はそれを見た瞬間に、「世界が変わる」と思ったんですね。僕が見たのはいわゆるブラウザ。インターネットが始まった瞬間だったんです。

回線速度や圧縮技術、いろいろなものが変わっていき、アーティストが発表した瞬間に世界中の人が聞けるようになる。これは音楽の世界が変わるんじゃないかと思いました。そんなことから世界中の技術を探して、発表して、本を出して。そうやっているうちにいろいろな仕事が来るようになりました。

絶望から立ち上がれた「1人の100歩より100人の1歩」という言葉

そして会社を作り、ベンチャーとして投資を受けて。そして日本で初めての音楽配信を実現させることができたのが2000年頃になります。今ではiPhoneとかに音楽がどんどん入ってきますけど、あれを日本で最初にやることができました。しかし、ITバブルに飲み込まれてしまって。アメリカのベンチャーに買収されて、アメリカを往復することになります。

『ディスカバリーチャンネル』という世界のいろいろな現状を放送する番組があるんですけれども。そんな時に、世界の悲惨な状況の映像を見て、「自分の目で確かめなきゃ納得がいかない」と思い、地球一周の旅に出ました。

そこで目の当たりにしたのは、近代化された都市とその横にあるスラム街。道を1本挟んだだけで、どうしてこんなに別の世界があるんだろうと。僕は「もうビジネスの世界なんて嫌だ」と思って地球一周に出たんですけれども。

僕らが見ていない世界、その経済の向こう側にこんな世界があるんだったら、やっぱりビジネスで世の中を変えていかなければならないと。「ビジネスから逃げていちゃだめだ」と思い、帰国します。ビジネスから社会を変えていく。そして、社会の活動をビジネスで持続可能にしていく。この2本を両側からやってみようと考えて始めます。

ビジネス側ではいろいろなことをしてきました。音楽以外にも書籍の配信や、あるいはさまざまな人材育成とか。その一方で、社会の活動を持続するという意味で、NPOを立ち上げることもしました。このNPO法人コモンビートを立ち上げて、2023年で20周年になりますけれども。約7,000人が参加して24万人が見に来るような活動を継続することもできました。

僕自身は、いろんな事業をたくさんたくさん立ち上げれば、世の中は変わるんではないかなと思ってがんばったんですけれども、ぜんぜん追いつかない。僕が100歩進んでも世の中が変わらない。そんな絶望を感じた時に「1人の100歩より100人の1歩」という言葉を見つけて「そうか」と思いました。

僕が100歩進んでもだめなんだったら、100人の起業家を支援すればいいんだと思い、起業家の支援をし始めました。ジュエリー、森林、フェアトレード。いろんな事業を支援してきた中で、多くの人にやり方とか、あるいはビジネスと社会性の両立にチャレンジしてきた僕の経験をシェアしたいと思って生まれたのが、この本です。

「起業家の想い」だけでは、ビジネスが自己満足で終わってしまう

今日はこの本のエッセンスをわかりやすくお話をします。あとは、みなさんのほうからいろいろと聞きたいこととか「ここどうなってるの」というような話をディスカッションさせていただければなと思います。

これまでのビジネスは、どちらかと言うと「I」と「You」という2つの登場人物しかいなかったのではないかなと思います。それをIとYouをまとめてWeに変えていく。こんなビジネスができれば、もっともっと私たちの世界は1つになれるのではないかなと感じています。それを僕は共感という言葉で表していきたいと思って「共感起業」というタイトルにしました。

企業では実際によく使われる、WillとCanとNeed。みなさん聞いたことがあると思いますけれども、想いがあって、それを実現させるためにCan。あなたができることをして、マーケットのニーズに応えると。

一見良さそうです。僕も起業家支援とかいろんなものをやってきた中で、ずっと使っていましたが、ものすごく違和感があったんですね。しかし何に違和感を持っているのかわからなかったんです。

この起業家の想いと、顧客とマーケット、あなたができること。どうしても起業家支援をしていると、自分がやれることをやってもビジネスにならないことが多い。起業家の想いだけを叶えようと思っても、やっぱり自己満足で終わってしまうことがあります。

そして顧客満足度だけを見てビジネスをしても、それ以外の人は困っている。内側から出るIとYouだけではだめなんだということに気づいたんですね。

共感起業とは、自分の想いと外からの期待を両立させること

つまり、起業家の想いというのは、社会の想いと一体化しないといけない。自分の内発的な動機と、外からの外発的な期待。いろいろな自分の想いと社会の想いを一体化させていく。そこにWillがすごく大切な役割を担うんではないかと(考えました)。

そしてもう1つ、Needですね。これも今までは顧客を見る、顧客を満足させる。でも、それによって顧客が満足する範囲の外側がゴミで汚れたり、社会にしわ寄せが起きていたりしてたわけですね。だったら顧客だけを見ていてはだめなんです。つまり社会からの要望にも答えなきゃいけない。私たちの見ている視点を変えなきゃいけなかったわけです。

そしてCan。あなたができること。私たちはもちろん、やれることをやっていこうとします。でも、それはやっぱり他の人でもできることが多いんですね。

ただ、自分の得意なものが自分ではなかなか見つからないように、人から求められていることや、自分では「大したことない」と思っていることが人から感謝されたり。やっぱりそういうかたちで自分が求められることもあると思うんです。

得意というのは、自分があまり労力をかけなくても、期待以上に感謝されること。すごく努力して感謝されるのは当たり前なんですよね。でも、自分があまり意識しなくてもできちゃうようなことに、みなさんは期待しているわけです。

期待に応えられるものを見つけていこうと。それが社会に応えることなのではないかなと思います。この内側から思うWill・Can・Needと、外側から求められていることの両立をしていくことが、共感起業ではないかなと定義しています。

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