2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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ソニックガーデンの代表・倉貫義人氏と仲山考材の仲山進也氏が、毎月さまざまなゲストを迎えて「雑な相談」をするポッドキャスト『ザッソウラジオ』。今回は創業100年を迎える木村石鹸の社長・木村祥一郎氏がゲスト出演。給与額を社員自ら提案する「自己申告型給与制度」のメリットについて語られました。
■音声コンテンツはこちら
倉貫義人氏(以下、倉貫):倉貫です。
仲山進也氏(以下、仲山):仲山です。
倉貫:『ザッソウラジオ』は、倉貫と“がくちょ”こと仲山さんで、僕たちの知り合いをゲストにお呼びして、雑な相談のザッソウをしながらいろいろおしゃべりしていくポッドキャストです。11月のゲストは、大正13年創業、木村石鹸工業株式会社代表取締役社長の木村祥一郎さんです。(ゲスト)最終回となります。よろしくお願いします。
木村祥一郎氏(以下、木村):よろしくお願いします。
倉貫:前回は給与の決め方、評価の決め方をお話ししました。自己申告型給与制度について深堀りをして、大変盛り上がって楽しかった……。
仲山:うん、おもしろかった。
倉貫:木村石鹸さんはほぼはじめましてだったと思うんですけど。がくちょ的に、ここまでの話を聞いていてわかってきた感じっすか。
仲山:だいぶわかってきました。表現があれかもしれないですけど、まっとうになってるなという。
(一同笑)
事業家、起業家が「やりたいことはこれです」と言って、投資家が乗るか乗らないか。「こういうふうにしてくれれば乗れる」みたいなすり合わせが行われるって、めっちゃまっとうじゃないですか。
倉貫:まっとうですね。
仲山:はい。なので、変な組織の力学みたいなのが排除されてて、フラットな感じになってるなっていう。
倉貫:なるほど。そうですね。変な力学というか、よくわからない力学が発生しない仕組みになってますよね。ある意味マッチョではありますよね。本当にいい提案をしなきゃいけないとか、自分で給料を決めなきゃいけないとかって。だいぶマッチョな世界観ではあるけど、でも確かに本当にまっとうですね。
とはいえ新卒に「事業家たれ」って言っても「いや、去年まで学生でしたし」とか「新入社員の1回目の提案って何をやるんだ」みたいなことになりそうだなぁとか。そういうケースはどうやって育てるのかを、今回僕はちょっと聞きたいなと思ってるんですけど。新卒の方々は、どんな感じですか。
木村:一応、新卒というのは入ったばっかりでわかんない人も含めてですけど。新卒から5年目までと、年齢的には28歳……ちょっと忘れちゃいましたけど。それまでは、会社が決めた年齢とか5年目までの社歴ごとの給与レンジを一応決めてるんですね。なので、新卒で入ってすぐに自己申告する必要はないです。やってもいいんですけど、できないから。
倉貫:そうですね。
木村:基本この額でスタートしますと。1年目はこの額、2年目はこの額って一応決めてるんですけど。どっかのタイミングで卒業して、自分で考えて提案してくださいとしていて。新卒(採用)を始めて最初の新卒の子が入ったのが6年前で、その子がたぶん3年目の時に自己申告が始まりました。だから、その子は入社してから3年で自己申告をやったんですね。
なのでそれが慣例になっちゃって。新卒で入った子はだいたい3年目までにはルーキーっていう制度から卒業して、自分で提案する文化ができちゃってますけど。
倉貫:なるほど。でもすごく妥当な感覚がありますね。新卒の場合なので、たぶんマックスで5年目までということで、目安3年でやっていて。
最初の3年間のルーキー時代は、やることがやっぱり決まっているというか、お仕事としてこういうことがあって、それを果たすことで給料が適切に決まる。その後、技術とか仕事が身について、(給料が)適切に上がり、会社のこともわかってきた中で提案できるようになるよねっていうステージを作ってるんですかね。
木村:ただ、うちの場合は職種が明確ではないので。ジョブディスクリプションみたいな職務定義も当然ないですし。だから、入社した社員は、ざっくりと営業系なのか開発なのか製造なのか管理系なのかぐらいはわかりますけど、自分が何の仕事をやっていくかがよくわからない状態なんですね。
その中で、どういうものが自分にフィットするかはその社員もわからない。新卒社員もわからないし、実は受け入れる側もわからない。
倉貫:そうですよね。
木村:だから最初は、自分の好きなとこに行ってもいいし、とりあえず3ヶ月ごとにぐるぐる回っていく感じで、一応全部を経験して。本人の希望と受け入れた部門の話も加味して「こういう仕事が向いてるんじゃないか」っていうのを1回その人に提示する感じで最初はスタートする。
だからまあぶっちゃけ、最初の1年・2年・3年ぐらいは探り探り。3年目ぐらいになってくると、やっと自分の能力の発揮の仕方とか、「自分はここにうまくはまるとすごく価値が出るな」というのがわかってきて提案しやすくなるイメージ。
倉貫:3年目ぐらいになってようやく自分がどこで何の価値を発揮できるのかとか、それこそ強みとか得意なものがわかってくるんですね。逆に言うと、それがわかるようになることが育成なのかなという感じはしますけど。
木村:まだ新しいことをけっこうやっていて、もともとの木村石鹸にはなかったような仕事が生まれてくるので、ロールモデルみたいなのは当然ないし。
だから、自分で気づいて「こういう仕事が必要だ」とか「こういう役割をやらないと」って思って提案してくれるようになったらいいなと思って。それが教育というか、教育でもないような気もしますけど、自分でそれを見つけ出してほしいなと。
まあでも、たまに会社としては「こういう能力がある人が欲しいな」って時に募集をかけてる。そこで手を挙げた人には、新卒だろうがベテランだろうがなるべく可能な限りそれを1回やってもらうという制度も持っています。
倉貫:なるほどなるほど。前回の話からもそうですけど、いわゆる内発的動機づけで仕事を選び、仕事を考える。それが自律的になっていくところだとは思うんですけど。がくちょ的に、(著書の)『アオアシに学ぶ「考える葦」の育ち方 カオスな環境に強い「頭の良さ」とは』みたいなところで共通点はありますか。
仲山:加減乗除で考えると、最初に全部の仕事を体験をするって、まあ足し算。ちゃんと足し算がしやすい運用になっていると思ったのと。あとは、やっぱり自分で考えるのって全体がわかって……。
倉貫:全体像が把握できる規模感というか、今だとローテーションで回れるぐらいだからっていうところはあると思うんですけどね。まあでも、最初にやっぱり足し算しながら、自分の強みを見つけていくってことなんですよね。
3年ぐらいっていうのは、現実ベースでやってるところですね。先に、「もう3年だろう」とか「5年だろう」と決めてるわけじゃなくて、実際にやってみたら3年の人がいたから、3年でやるみたいな。
木村:なんかそうなっちゃうので。
倉貫:第1回から通じる木村さんの発想のベースと僕も近いところがあるんですけど。たぶん実際にうまくいったものをベースに仕組みを作っていく感じ。
頭で考えて作っていくよりは、「いや、そうは言っても今、こうだからなぁ。じゃあ、これをもうちょっと良くするにはこうしたらいいんじゃない?」みたいな感じで物事を考えてらっしゃるのかなと。通じるものはそこなのかなと思ったんですけど。
仲山:あと僕が聞いてて思ったのは、倉貫さんも木村さんも「これは嫌だな」っていうことに忠実な感じがしますね。だからたぶん納品のない受託開発とかにも興味があるわけだし。
木村:確かに。
倉貫:「評価やだなぁ」とかね。
仲山:そう。「評価やだなぁ」みたいな。
木村:いや、僕も査定がめっちゃ嫌だったんですよね。
倉貫:あぁ、僕も嫌だ。
木村:自分で全部給与を決めて出して、「文句があったら言ってきてね」って、本当に嫌で。それも言ったら査定じゃないですか。「文句言ってこないで……文句言ってこないで……」とずーっと思ってたんですけど。
今、この仕組みに変えてから、みんなの提案が集まる場って、本当に未来の話がめっちゃ多くて、実際すごくおもしろいんですよ。その場が前向きになって、「これが全部いけたら来年すげえな」っていう。
倉貫:そうやね。
木村:なので査定してる時とぜんぜん気分が違ってて。自分的にも楽でよかったですね。
倉貫:そこでは未来の話しかしてないですからね。
木村:そうなんですよ。
倉貫:当然提案としては「いいことをしよう」という話しか出てこないから。
木村:そう、そう。
倉貫:いいことをしようって話は、まあ楽しいですよね。
木村:そうなんですよね。過去の結果で、「あいつはこんな数字だったからどうだな」って決めてやるよりも、未来にかけて……。トータルすると、人件費の予算としてはけっこうやばいなみたいな時もあるんですけど。その人件費が決まったら「その人件費を賄う粗利を作らないと」っていう考え方。
仲山:まさに、まさに。
木村:粗利を作って、その粗利の中の何パーセントを人件費に回すかという、いわゆる労働分配率みたいな発想ではぜんぜんないので。
先に、提案を全部集めたらこんな額になるけど、この額を賄うにはやっぱりこれぐらいの売上とか粗利を取らないといけないから、みんながんばろうっていう。人件費の割合とかの決め方というか考え方は同じだけど、見てるベクトルがぜんぜん違うので。それは社員にとってもそっちのほうがいいだろうなと思っている。
倉貫:そうね。あとは、現時点の状態を肯定する能力が高いですよね。今「良いよね」って思ってないと、「未来をもっと良くしよう」ってならないというか。「あれも嫌だな、これもダメだな」って言ってる状態だと暗い話になっちゃうけど、今を肯定した上でそれをより良くする提案を考えていく場は(大事ですよね)。
変えられない過去の評価の話ばっかりしても(仕方ない)。これはもう、ただ楽しい飲み会もそういうやつじゃないですか。愚痴だけ言う会よりは、未来の話をする会のほうが絶対楽しいので。いや、みんなが楽しい状態ってすごいですね。
仲山:でも投資家だから「どうやったら元を取れるかな」っていうのを、みんなですり合わせながら進めていってるってことですもんね。
木村:この話をすると「でも、業績がいい時はいいけど、業績がすごく悪くなって、社員の給与をカットしないといけない時にカットできるんですか」って言われるんですけど。そもそもそこまでの状況って、どっちにしろシビアな状況なわけじゃないですか。
一応、全部数値類を開示してるのも当然ありますけど、社員とそうやって、お互い給与の納得感があるところで結び合って交渉してやってるので。会社の状況がめちゃくちゃ悪いっていうことに対してちゃんと伝えた時に、たぶん一方的に評価してるよりも、実際ぜんぜん理解してくれるんですよ。
仲山:みんな自分ごととして受け止められますもんね。
木村:そうなんですよ。実際うち、去年は業績がすごく悪かったんですね。悪いって言っても、めちゃくちゃ悪いわけじゃなくて、コロナの良かった時の反動で落ち込んでいたんですけど。その状況も開示してるので、社員はやっぱりそれも考慮してくるんですよね。
未来の提案なんだけど、自分たちの過去のパフォーマンスに問題があったことも想定して「今年はちょっと様子見で提案します」みたいな感じの提案が増えたりするので。ちゃんと会社側が情報も開示して正直にコミュニケーションをとっていたら社員も自分のわがままだけを通すみたいなことはないので。
むしろ普通の評価制度をやってるより困らないんじゃないかなと僕は思っていて、「あんまり心配しなくてもいいですよ」って言ってるんですけど。
倉貫:いやあ、すごいな。「評価が嫌だから」っていうところからスタートしてますけど、取り組むのに勇気はいりますよね(笑)。
木村:あー、でも実際あんまりリスクはないと僕は正直思っています。そもそもこの制度に変えた時って、やっぱり最初はあんまり理解されてなかったんで「好きな給料を書いてきたらいいだろう」みたいな感じで。「じゃあ月100万円ください」とかって提案してくる人も当然いたんですけど。でも提案内容の見積もりだから、好きな給与額を書くというものじゃないじゃないですか。
倉貫:そうだね。
木村:「いや、あなたこの内容を見積もって100万円だと本気で思ってるんですか」って。「本気で思ってるとしたら、それはいったん受け取るけど、たぶん他の会社を探したほうがいいよ」って、さっきの話じゃないですけど言えるじゃないですか。それを言ったら、社員も理解してそんな無茶な数字を書いてこないですよ。
倉貫:そうね。
木村:自分の仕事とか価値を見積もろうと思うとめっちゃ難しくて。そこをきちんと自分で考えて提案することのつらさとか大変さに突き当たるし。そんな適当なことは絶対にやってこない。
だから、普通の評価制度を導入して、めっちゃ客観的にいろんな指標で評価して点数をつけて「俺の点数は何でこんなんなんだろう」みたいな不安・不満がいっぱい溜まるよりも、ぜんぜんリスクがないんですよ。ただ、大きい会社になると……一人ひとり全部吟味するんでめっちゃ時間かかるんです。
倉貫:そうね。数が増えると大変になりそうですね。
木村:それはすごく時間がかかる。でも今は、それが本当に未来を考えることだし。僕らは戦略を掲げて人を集めてるわけじゃないから。逆に言うと人を中心に、その人がやろうとしてることから、未来を描いてるので。すごく自由な会社の経営の意思決定の場でもある。
倉貫:そうですね。
木村:時間かけるのは当たり前じゃないかと。
倉貫:むしろそれが経営の仕事だろってなりますからね。
木村:そうなんですよ。しばらくはこれでいこうと割り切ってはいますね。
仲山:うん、おもしろい。
倉貫:がくちょ、今日はもう「おもしろい」しか言ってない。
(一同笑)
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