2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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社会の大変動に対抗し、新時代の組織づくりと経営戦略の本質を掴むヒントをお届けすべく開催されたSmartHR Next 2023。本記事では、株式会社メルカリ執行役員CHROの木下達夫 氏、株式会社SmartHR 執行役員・VP of Human Resourceの薮田孝仁氏、高倉&Company合同会社共同代表/ロート製薬元取締役(CHRO)の髙倉千春氏が、グローバル化で重要になる社内コミュニケーションや報酬制度の仕組みについて解説します。
髙倉千春氏(以下、髙倉):もう1つメルカリさんの場合「内なるグローバル化」ということで、苦労されてグローバル採用をやってこられたじゃないですか。ちゃんとした評価制度の運用に結びつくまでに、日本人の「言わなくてもわかるでしょ」という……。
木下達夫氏(以下、木下):そうですね。暗黙の、みたいなね。
髙倉:「七面倒くさい、そこまで説明するのか」ということもあるじゃないですか。
木下:空気を読んで……みたいな(笑)。
髙倉:「いやいや、それは言ってもらわないと困ります」というね。ちょっとZ世代もだんだんそうなりがちなんですけど。そこらへんのコミュニケーションやグローバル採用の評価などをちょっとうかがいたいなと。
木下:そうですね。メルカリがコロナ前からけっこう取り組んでいたのが、ローコンテクスト(伝えるべきことをすべて明瞭に言語化すること)で。これにはちょうど多国籍の方々が入ってきた背景があったんです。
比較的ネットベンチャー出身に近い背景の人たちから、そうじゃない人たちも多く入ってくる中で、ハイコンテクスト(暗黙の了解が多く、行間を読むようなコミュニケーション方法)からローコンテクストにどんどんシフトしていこうと。ローコンテクストは非常にわかりやすい。あとすごくやってよかったのが、リモートワークにもローコンテクストがぴったり入っていたこと。
髙倉:(笑)。そうなんだ!
木下:はい。我々がこういう動きをし始めてから、たまたまリモートワークの状況になったので、ローコンテクスト化を進めたことでうまく後押しできたなと思いますね。
木下:あとわかりやすい例として報酬制度があります。我々はいろいろな国の方を採用している。ほかの国の方からすると、例えば今、円安もあってUSドルに換算すると、「あれ? なんか日本の給与は安くないですか?」と言われてしまうんですよね。
髙倉:それは、めっちゃ思いますよね。
木下:いやいや同じ土俵じゃないんですと。日本は日本の物価があって、日本には日本の人材市場があって、その中で我々は競争力のあるペイを支払う仕組みなんですと。
ちなみにほかのグローバルテック系の会社もまったく同じで、例えばGoogleでもUSから日本にトランスファーする時は、日本国内のマーケットに適した給与体系になります。基本的には我々も同じような仕組みをとっていると説明できるようにしました。
髙倉:なるほど。
木下:彼らからすると「日本円でいくら」というのが高いのか低いのかわからないんだけれども、「ベンチマークしている会社はこういう会社で、その中でこういうポジションで、我々は報酬を決めています」という話は納得していただけるので。
髙倉:なるほど。
木下:それで海外から安心してオファーを受けていただけるようになったんです。これは仕組みにすごく助けられたいい例かなと思います。
髙倉:「可視化」と書いてありますが、やはり基準やものさしをちゃんと見せないと納得しないんですよね(笑)。
木下:はい、そうですね。これがどういうロジックで回っているのかを説明できたほうが、どの国の人にとってもわかりやすいですね。
髙倉:本当にそう思います。
薮田孝仁氏(以下、薮田):どこかの国をベースにして決められたりしているんですか?
木下:それはないです。インドはインドのマーケットがありますし、それぞれの国のマーケットがあるので、そのマーケットのベンチマークデータに基づいて決めるという考え方をしています。
薮田:ああ、そうなんですね。なるほど。
髙倉:外資(系企業)にいた時には、確かに「各ローカルの市場価格で決めましょう」というのはありました。(当時)市場価格の80パーセンタイルという「うちは上から20パーセントをポリシーにします」と決めていたんだけど、それはあるんですか?
木下:それはあります。
髙倉:ああ、そうですよね。「何を持ってあなたの評価や報酬が決まるんですか」というのを明確にしないと、グローバル人材はついてこないですよね。
木下:そこは本当にわかりやすく説明できるようになって良かったなと思うんですね。この延長にあるのが男女の賃金格差です。
ちょうど人的資本開示の準備をする前、メルカリのD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)がグローバル水準でできているかをちゃんと見てみたいと思って。去年スイスのグローバルの監査機関(D&Iのオーキッド機関)に頼んで、メルカリの社内サーベイを取ってもらったんです。
そうしたら男性と女性の賃金に対して「女性のほうがちょっとネガティブに見ている声が一定数ありますよ」と指摘をされて。それを深掘りして分析してみたら、ちょっと残念なことに格差があったことがわかったんですね。
毎回半年ごとに属性の分析をやっていて「男女で昇給の差はない」「昇格率も変わらない」「もちろん外国籍、日本国籍で変わらない」としていたので、社内的にけっこうびっくりだったんですよ。何が違ったかというと入社時だったんです。入社時に同じ職種、同じ等級で、男性と女性で9パーセントぐらいのギャップがあった。(入社時には)前職の給与を参考にするじゃないですか。
髙倉:ベースにしますからね。
木下:参考にオファーをしていた結果、男性のほうは比較的高く入ってきて、女性のほうは比較的低く入ってきたのを受け継いでいたんですね。それを社内で調整しきれなかったなと。9パーセントが7パーセントになって若干調整されても調整しきれていなかった。今回ワンショットでアクションをとって、2.5パーセントにしたんですけれども。
髙倉:なるほどね。
木下:その時も、まず社内で「今回はたまたま男女で差があったから是正した」と説明しました。これまで特定の職種でもそういうことがあって。例えば市場でセキュリティのジョブの価値がものすごく上がることがあって、セキュリティのレンジを修正したことがあったんですね。
一時的にセキュリティの職種にいらっしゃる方に是正措置を取っていたので「別に今回が初めてじゃないです」と。
「我々はWebサービスの会社なので、市場に対してフェアな報酬を払うために是正のアクションは的確に取っていきます。今回はたまたま男女という差が出たので、是正のアクションを取りました」と説明をしてご納得をいただいています。
髙倉:なるほど、ありがとうございます。すごく具体的なお話でした。今のいろんな意味でこの「ローコンテスクトにしましょう」って、薮田さん、どうですかね。ハイとロー、どっちがいいのかはこれ逆転なんだけど(笑)。
日本ってやはり「言わなくても大丈夫」とか「一律管理」とか「同じような」っていう、かなり閉ざされた土俵の中でやってきたから。いい意味ではその中では生産性が高かった。
だけど「多様な人材がいるよね」「多様な職種がいるよね」「これから新しい価値を出しましょう」っていうお二人のような新しい会社だと、その土俵が同じわけにいかないし、ちゃんと説明しなきゃいけない。こういうちょっと面倒くさいことも人事がやらなきゃいけないと思うんですけど。薮田さん、今の木下さんの具体的なお話を聞いてて、どうですか?
薮田:そうですね。やはりローコンテクスト化していくことは大事だと思います。例えば「空気読め」だと、どういうふうに読んだらいいのかわかんなくなるので。
木下:(笑)。
薮田:ローコンテクスト、難しいな。よくあるのは、例えば5ヶ条とか10ヶ条とかガイドがザーッとありますと。うちの社員が言ってたんですけど「チェックボックス人間を作ってるみたいだ」と。
髙倉:ああ、チェックボックスね。
薮田:これを満たしているか満たしていないかで完璧に分かれるわけじゃない。そこの柔軟性も必要なので。
髙倉:そうですね。
薮田:あまりにもカチカチ過ぎても良くないし。やはりその軸を作るのは大事なんですけど、守りすぎるとやはりちょっと固い会社になってくるので。
髙倉:ちょっとそこをうかがいたいんですが、今日「人事評価制度の柔軟力」がテーマなんですよ。私、人事としてこれは難しいなと。枠組みは一応納得できるように作らなきゃいけないんだけど、運用のところでは柔軟性を持ってないと(いけない)。
木下:おっしゃる通り。
髙倉:これはまた厄介なもんで。薮田さん、どうですかね? 今まさにおっしゃった「柔軟性をもってもうちょっと緩くやっとかないとダメなんだ」っていうのは、具体的にどうしたらいいのか。
薮田:そうですね。柔軟性も大事ですし、その柔軟にやる人の考え方の軸もすごく大切だと思うので。SmartHRで言うと、マネジメント層がどういう判断で考えていくか、そこの軸をちょうど今考えているところなので。
例えば、制度側をハードとしたら、その使う側の人をソフトとすると、そっちのほうがより重要になってくるかなと思っています。
髙倉:そうですよね。ハードとソフトと両方考えないといけないっていうことですね。社員が急増してきている中で、やはりその運用の仕方も過去とまた違って、今その評価する人の力を高めなきゃという話もありましたけれども。「こういうことをこれからやっていこう」っていう将来に向けた課題もぜひ。
薮田:そうですね。先に行かれているメルカリさんがもう通ってきた道かもしれないんですけども。今後起こってきそうなところで言うと、弊社はリモートワーク化をかなり広げていて、オフライン・オンラインで評価、マネジメントの難しさは違うなと思うので、より難易度が高いなと思っております。
薮田:あとマネジメントに(関わる)人数が増えると、「どういう人を評価するか」って評価軸のバラつきが出てくると思います。それとメルカリさんと同様に、組織の事業フェーズごとに制度に求められることが変わってくると思っていて、ここはやはり注意して見ていかなくちゃいけないと思っています。
そこのハード・ソフトの話があったんですけど、今ここにあるべき像。これは一般論も含まれているんですけども。評価って先ほどの目標設定は大事だと思うんですけど、あるべき像で言うと、ちゃんと役職者が「目標設定」ができているかとか、評価される方が納得しているか。
それが日々の「1on1」とか「フィードバック」でフィードバックされているか。「中間評価」できちんと評価軸が合っているか。じゃあどういう課題が起きているかって言うと、目標設定の時点で曖昧とか。その目標設定が合っていないとか、あと間のフィードバックができていないとか。これは全部制度じゃなくて、やはり使う人の問題であることがとても多いんですよね。
なのでこういった評価をしていくマネジメント層の育成だったり、その人たちの考え方の軸を揃えていくことをこれからやっていくのが、わりと重要じゃないかなと考えています。
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