2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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髙倉千春氏(以下、髙倉):みなさん、続いては今日の2つ目のセッションですね。テーマは「グローバル&拡大に対応する人事評価制度の柔軟力」ということで、お話しさせていただきます。2人のゲストをお迎えしています。ゲストのお一人目は、おなじみの株式会社メルカリ執行役員CHRO木下達夫さんです。
木下達夫氏(以下、木下):よろしくお願いします。
髙倉:よろしくお願いいたします。そしてお二人目は、株式会社SmartHR執行役員、VP of Human Resourceの薮田孝仁さんです。よろしくお願いいたします。
薮田孝仁氏(以下、薮田):よろしくお願いします。
髙倉:私はお二人とは数年来ずっと仲良くさせていただいているので、今日はちょっと安心してお話をうかがえるなと思っております。
薮田:我々もそう思っています。
髙倉:本当ですか! わぁ、うれしい(笑)。今日のテーマは多くの方々が関心を持っている人事制度です。つまり評価、報酬だと思うんですよね。自分がやってきたことが何をもってどのくらい評価されて、それが報酬に反映されているのか。誰でも気になるところだと思うので、そこにフォーカスしてお話をうかがいたいと思います。
お二人の共通点は、メルカリさんもSmartHRさんもここ数年、急激に大きく拡大されてきたところですよね。それぞれ背景が違うのですが、それをベースにどういう人事制度を作ってこられたのか、まずそこから聞きたいと思います。メルカリの木下さんからお願いします。
木下:はい。わかりました。
髙倉:今までもいろいろとお話を聞いてきましたが、(木下さんはメルカリの)成長に伴い「さまざまなフェーズで人事制度を作らなきゃいけない」とゼロからお作りになったお一人です。人事変革と言うんですかね、何を考えてどういった人事制度を作ってこられたのか。まずそのストーリーをお願いします。
木下:背景で説明すると、(メルカリが)上場したのが5年前です。その時(社員は)1,000人くらいだったんですね。そこから今2,000人を超え、ほぼ倍くらいになっています。今日の「拡大」というテーマでは、この1,000人から2,000人になり、どんな大変さがあったかという話かなと。
もう1つ、もともとUSにはけっこう早くから進出していて。我々は「内なる国際化」と言っているんですが、6年くらい前から世界中のエンジニアを獲得することを始めました。当時100人くらいだったのが、今400人を超えるほどになりました。50ヶ国を超えるソフトウェアエンジニアが世界中から集まってきて、非常にインターナショナルな組織構成になっています。
まだ人数は60人くらいなんですが、去年インドの拠点も立ち上げました。USとインドと日本で、しかも日本はかなりインターナショナルでミックス(な構造)になっているので、今日はグローバルというテーマでも、お話できるところはたくさんあるかなと思います。
(メルカリは)ちょうど今年が10周年という節目の年。実はこの10周年を迎えて、グループミッションを刷新しました。「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」をグループミッションにしています。
もともとの「世界的なマーケットプレイスを作る」と言っていたものは、プロダクトミッションとしてそのまま残しています。さらに「自分たちがより循環型社会に貢献する」「テクノロジーを使って、人の可能性をいろいろエンパワーしていく」ことを明確にしました。
このミッションに伴い「可能性を解き放つ組織」ということを掲げています。メルカリで働いている人たちが可能性を解き放つことで、メルカリを使っているお客さまの可能性も解き放てるようになりたい。それを人事のミッションとしています。
木下:そのために一番大事にしている軸として3つのバリューがあります。「GoBold 大胆にやろう」「All for One すべては成功のために」「Be a Pro プロフェッショナルであれ」の3つです。基本的にこの10年間、この3つをずっと大事にしてきました。人事変革や制度変更はしても、3つの軸だけは1ミリもブレない。それくらいこの軸を大事にして発展させてきた。ここはけっこうこだわってきたところですね。
髙倉:なるほど。
木下:いろいろな人事制度を作っていく中でこだわっているのは「何のためにやっているのか」をちゃんと言語化していくこと。どうしても形骸化というか、制度を目的化してしまうことは、どんな組織でも起こりがちだと思うので、自分たちはそれに抗いたいと。
ミッションに近づくためには、さっきのバリューを体現することが一番大事。そのバリューを後押しするのが、人事の評価報酬制度であるべきだと考えています。
髙倉:なるほど。
木下:そのバリューをできるだけ高めるために、評価報酬で何をコアな考え方にすべきか。まずは「Go Bold 大胆に挑戦する」を後押しする制度になっているか。
そして2番目が「競争力のあるペイを払う」と書いてありますが、「Pay for Performance / Value,Pay competitively」です。(メルカリは)基本的には中途採用で(社員数が)1,000人から2,000人になってきたんですよ。
やはり市場に対してある程度競争力のある報酬を払わないと来ていただけないし、彼らは非常に市場価値が高い。我々がフェアな報酬が出せなかったら、ほかの会社さんに行ってしまう可能性がある中で、しっかりと市場価値に応じたペイを払いたい。
またメルカリに貢献していただいた成果や、先ほどのバリューを発揮してくれた方により手厚く報いることをかなり大事にしています。どんどん社員の属性が多様化してきている。前はツーカーでわかっていたところから、なかなか通じなくなってきた。そこで仕組み化をして、わかりやすくコミュニケーションができるようにしました。
髙倉:ありがとうございます。(今のお話の中には)将来の企業組織がどうなっていくかのヒントが、たくさん詰まっている気がするんですよね。今日聞いている中には日本の大手企業の方もいらっしゃると思うんですけど、私は着目する視点が3つあるなと思っています。
1つ目は「内なる国際化」。グローバル経営やグローバル戦略、グローバルビジネスと言っても、「あとは海外本社に任せますよ」というケースをかなり見てきました。でも木下さんのところは「内なる国際化」として、多国籍の人を中に抱えることで自分たちの競争力が出ると。
そのために「我々は何を求めているんだっけ」という言語化が大切だと思います。(メルカリでは)「Go Bold」「All for One」「Be a Pro」という3つの軸を明文化したことが、すごく大きいと思うんですよね。これが人事制度ともつながっている2つ目(に着目する点です)。
3つ目は市場価値。(メルカリでは)評価したら、それが市場とどう見合うのかを見てこられたと思うんです。聞いただけだと、将来に向けてすごくきれいに作られたように見えるんだけど。
木下:いえいえ。
髙倉:いろいろと飲み会でもうかがっておりますが(笑)、人事は枠組みを作っても、そのあとの運用がすごく大事なんですよね。
木下:おっしゃるとおりです。
髙倉:ちょっとご苦労話もうかがいたいと思います。運用を促すことで工夫や腐心されてきたことが多いと思いますが、どんなことがありましたか?
木下:そうですね。まずは考え方として「人事制度の仕組みは、Webサービスのようにどんどんアップデートしていこう」というのがあります。経営陣もそうだし、社員のみなさんにも「我々はネット系の企業だよね。ネットのサービスはどんどんアップデートされていくでしょ。同じように人事の仕組みも、どんどんアップデートしていくんだよ」と。ここをけっこう念押ししているので、それが大前提にあるんですね。
もともと上場前は、日本のネットベンチャーの一般的な仕組みだったんで、日本の人にはわかりやすかったんです。でも海外から来た人にはすごくわかりづらかったんですよ。
木下:実はメルカリのUSはシリコンバレー、パロアルトにオフィスがあって、カリフォルニアベースで事業をやっています。当然いろいろな人を獲得するために一定の仕組みを整える必要があって。基本的にUSでは、シリコンバレーのテック系の会社に準拠した仕組みを持っていたんですね。
髙倉:なるほど。
木下:USのCEOジョン(John Lagerling)は、もともとGoogle、Facebookで働いていたこともあってその仕組みに近いものを入れていた。実は私がやったことは「メルカリUSにできるだけ合わせましょう」ということ。つまり「日本でもグローバルテックカンパニーのスタンダードに近いことをしましょう」と。
グローバルテックカンパニーはインドにも拠点があり、同じような仕組みでやっていたので、インドの拠点を立ち上げる時にもまったく変更なしに運用できた。そこはけっこうこだわったところです。
USでも日本でもインドでも、さっきのバリューの軸をすごく大事にしています。グローバルスタンダード観点からどんどんアップデートしていくことも、こだわり続けているポイントです。我々はグローバルテックカンパニーとして、世界中のエンジニアをアトラクトして勝っていくんだと。
髙倉:国を越えて俯瞰した時、グローバルな考え方を各国に適用するのがいいんじゃないかと考えられたんですね。
木下:どの国の人が日本のメルカリの話を聞いても、「自分がこれまでいたグローバルテックカンパニーの経験とそんなに変わらないな」というわかりやすさを担保するのが大事かなと。
髙倉:よく抵抗勢力や「そんなことを言ってもね」という人が必ずいるものなんですけど、それはどうだったんですか?
木下:そうですね。我々の評価サイクルは半年おきなんですよ。
髙倉:へえ。半期に一度。
木下:はい。半年おきに運用での工夫点を出して、実際にやってみてどうだったか。これを社員にアンケートを取りながら経営陣と議論して振り返る。「じゃあ次の半年は、こういうファインチューニング(微調整)をしよう」と半年で修正サイクルを回していくんですね。
評価報酬制度の話で言うと、(メルカリでは)5年前に大きく制度変更をしたんですが。その前に(社員に)「メルカリの報酬制度は、どのくらいバリューやパフォーマンスを引き出しているか」と聞いたら、44パーセントの人からしかポジティブな回答がなかったんですよ。
髙倉:44パーセント。
木下:グローバルな日本国籍以外の方はもっと低い数字だったので。
髙倉:なるほど。納得しなかったんですね。
木下:前の制度はそこにチャレンジがあったんですよね。新しい制度になって44パーセントから55パーセントと、10パーセントくらいポンと上がったんですけど、55パーセントじゃまだまだじゃないですか。まだ浸透しきれていないから、本当に本質をつかんで運用していくためにはまだ工夫が必要だと。
今(スライドに)映しているのが、メルカリの人事評価制度です。我々は評価をする時に、「Value評価」と「成果の評価」の両方をつけるんですよ。短期的に成果がどれだけ出たか。これは環境要因が悪かったら出ない時もある。でもバリューは行動だから再現性が高い。
髙倉:WhatとHowというか。
木下:そうです。
髙倉:「どこまでやりましたか?」というのは正当に見るけど、バリューに基づいて何をやってそこまで達したのかというプロセスも見るんですね。
木下:おっしゃるとおりです。じゃあどんなことをするとバリュー評価が高くなるのか。これは目線が合ってこないと、なかなか運用が難しいんですよね。
髙倉:なるほど。
木下:そこで我々はバリュー評価の「グレード」ごとに、どんな行動を求めるかを言語化して、いろいろと目線合わせをしていきました。ここが運用しながら工夫していったところですね。あとはメリハリをつけることも評価上で大事にしています。5段階評価をつけているんですが、どうしても5段階評価って中心化傾向があるじゃないですか。
髙倉:そうですね。
木下:3が真ん中だと、多くの人が一番無難な3をつけちゃうという。
髙倉:よく見ました。
木下:そこに抗うことが大事で。最初はマネージャーの方も「え、そうは言っても低い評価をつけたら、デモチベーション(やる気が低下)するし」、逆に「高い評価をつけることじゃないんだよね」とどっちも渋るんですよ。
髙倉:わかります。
木下:そこを「いやいや」と背中を押して、「低い評価も今までの倍くらいつけてください」と。厳しいメッセージを出して、もしそれでその方が辞めてしまったらしょうがないと思いましょうと。ストレートに奮起を促すことで復活してくれる人もいるから、ちゃんと伝える。一方で「いい方がいたら渋らないで(いい評価をつけて)ください」と。
髙倉:(笑)。
木下:「よくやっている」とちゃんと伝えましょうと。いい評価も5はなかなかつけられないんですよ。
髙倉:なるほどね。
木下:あえて背中を押して「(5も)今までの倍ぐらいつけてください」とやっていますね。こんなファインチューニングを繰り返しながら、フィードバックサーベイを半年くらいやって、さっき44パーセントと言っていたのが今は68パーセントまで(になりました)。
髙倉:すごい! 納得してきたんですね。
木下:今は外国籍と日本国籍の方の差もほぼなくなって、ずいぶん改善してきたかなと思っています。
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