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佐久間宣行の誰もが自分らしく働けるチームマネジメント(全4記事)

自分の「もう伸びない能力」を見極めることの大切さ 佐久間宣行氏が語る、チームで成果をあげるためのマイルール

社会の大変動に対抗し、新時代の組織づくりと経営戦略の本質を掴むヒントをお届けすべく開催されたSmartHR Next 2023。本記事では、テレビプロデューサーの佐久間宣行氏、株式会社SmartHRタレントマネジメント事業事業責任者の重松裕三氏、フリーアナウンサー(元テレビ朝日アナウンサー)大熊英司氏、ロート製薬元取締役(CHRO)/高倉&Company合同会社共同代表の高倉千春氏が登壇。佐久間氏がやっているチームメンバーの編成のポイントについて語りました。

テレビプロデューサーの佐久間宣行氏が登壇

大熊英司氏(以下、大熊):それではゲストをご紹介しましょう。テレビプロデューサーの佐久間宣行さんです。よろしくお願いします。

佐久間宣行氏(以下、佐久間):よろしくお願いします。

大熊:そしてもう1人は、SmartHRタレントマネジメント事業事業責任者の重松裕三さんです。

重松裕三氏(以下、重松):よろしくお願いします。

大熊:このセッションでは、数多くの番組をヒットさせてきたテレビプロデューサーの立場から、チームマネジメントの極意を語っていただこうということで……。

佐久間:極意! まあ、できるかぎりで話したいと思います。お願いします!

大熊:そもそも佐久間さんが番組を作る場合、どのようにチームを作っていくのかっていうところからお話をうかがいたいんですが。

佐久間:番組を作る場合は、まずは僕がコアのコンセプトを決めてることがあるので。僕がそのコンセプトを実現する上で、まず大事なのは、コアメンバーはビジョンを共有できる人。

かつ、テレビ番組の場合って、特番とレギュラーで違うんですけど。レギュラーでずっと続いていくものに関しては、価値観の多様性を作った上で、そこに僕にない要素をどう足してくれるメンバーがいるか。

それぞれのスタッフに関しては、正直テレビ番組の場合は6班あればなんとか回るんで、6人の信用できるディレクターさえいれば、後のチームはその人たちのやりやすいように任せるみたいなかたちです。

でも、まず番組のビジョンを共有できるメンバーをどれだけ集めるかっていうところですね。

「勝負に出るコンテンツ」を作る時に考えていること

大熊:テレビのことをよくご存じない方に、そのコアメンバーにはどういう人がいるのかを教えてもらっていいですか。

佐久間:テレビ番組の場合は、コアにいるのはプロデューサーと構成作家。それと演出家になるんですけど。

だいたい構成作家で言うと、2〜3人のチーフクラスの人と、演出家で言うと、2〜3人のチーフ演出家って言われる人たち。それとプロデューサーを入れて、だいたい6〜7人がコアメンバーとなりますね。

それがコンセプトだったりを作っていくかたちで、そこからそれぞれのオンエアに落とし込んでいく。こういうチームでテレビ番組は作るんですけど。

Netflixで『トークサバイバー!〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜』を作った時は、あれはとにかく少人数でした。ほぼシリーズ構成まで全部決めてから、大人数のスタッフに渡していった感じですね。あとは僕がけっこう勝負に出るコンテンツを作る時は、本当に少ない人数で「ここまで作ったらブレないよな」ってところまで決めてから、大人数のスタッフに渡していく感じです。

大熊:それはテレビ東京にいる最初の頃からそうなんですか。なんかテレビ局だともう少し違うかたちでチームを作ったりする場合があるじゃないですか。でも、佐久間さんはそういうかたちがいいなぁって思って作っていると。

佐久間:あ、そうですね。僕は、ゴールデン帯でマーケティングをしながら作っていく番組をそんなに数多くやってたわけではなくて。もともと「いかにテレビ局にあんまりない価値を作っていくか」っていう感じのディレクターだったんですよ。

ゴールデンの番組もやりましたし、いくつかうまくいったものも、うまくいかなかったものもあるけど、30代ぐらいからテレビ東京のミッションとしては、放送外収入を作ったり、『ピラメキーノ』って夕方の子ども番組を作ったり。これまでにないものを作る時は、大人数で話してると濁っていくという。

重松:確かに。

佐久間:なので、コンセプトを決めて、それの検証までは少人数のスタッフでやって、価値観を固めてからスタッフをどんどん入れていくことが多かったですね。

番組のカラーに合わせて、メンバーを適材適所で配置する

大熊:じゃあ、その共有できるというか、コアなメンバーは、もうある程度頼りになる人が何人か周りにいらっしゃるってことですか?

佐久間:そうですね。僕が独立してから、比較的テレビ東京にいる時と同じぐらいのクオリティで物を作れてるのは、テレビ東京にいる時代からフリーの外部のスタッフで信用できる人をけっこう獲得できていたので。そのままのチームで移動できたのが、やっぱり大きいかなと思いますね。

大熊:「佐久間さんが声をかけるんだったら一緒にやりましょう」って集まってくれるという結果。

佐久間:はい。長く働いてきた中での、特に構成作家の中では、作り物がある場合はこの人。関西の芸人さんと仕事する時はこの人。人間の内面的なトークとか、例えばざっくり言うと星野源さんとかオードリーとかとちょっとコアなトークをする時はこの人みたいな感じで、中心になる人は決めています。

大熊:ジャンルというか、その番組の性質によって合うだろうっていう人を連れてくる感じですか。

佐久間:はい。それがまあ今んとこうまくいってるって感じですね。

大熊:いや重松さん、一般企業の場合は今の話を聞くとどうですか。なかなか難しいんじゃないかなっていう部分もあると思うんですけど。

重松:なんかマクロな観点とミクロな観点があるかなと思っていて。たぶん今、佐久間さんの話だと、マクロな観点で言うと「会社が誰を採用するのか」みたいな話に近いのかなと思っていて。

今足りないスキルがなんなのかとか、逆に今いる社員のスキルは何なのかを把握して、それを適材適所に配置していくみたいな話なのかなと思います。

佐久間:だからNetflixの『トークサバイバー!』の場合は、熟練の作家陣とディレクター陣に加えて若いチームも加えて作ったんですけど。『あちこちオードリー』みたいなトークで人間味が出てくるものに関しては、少し大人の、俯瞰で見てくれる作家も入ってもらってます。

逆に僕は今YouTube(『佐久間宣行のNOBROCK TV』)もやってるんですけどYouTubeに関しては、そこのストッパーがない20代の作家と30代前半の作家と僕で作ってる感じで。

大熊:それぞれに合うようにどうチームを作っていくのかっていう、そのチームを作るのがまず最初の仕事みたいな感じなんですかね。

自分の中の「もう伸びない能力」を見極める

佐久間:そうですね。チーム作りをするためには、まず自分がどれだけできて、できないのか、自分の足りないところと、「これはもう伸びない」という能力を認めないとだめだなと思っていて。

やっぱり30代の前半ぐらいまでは、僕もなんでも自分で決めたがっていたので。同じチームの人たちは、言い方は悪いですけど、どっちかと言うと少し言うことを聞いてくれる人たちとばっかり仕事してた時期が(あります)。バラエティを自分1人で立ち上げて、いくつかうまくいってという時期(にはそれ)が多くて。

その頃にやっぱり気づいたのは、そうすると自分も伸びない上に、自分の芸風が固定化されてきて、作るものが同じになってくる。自分のできないことを認めて、自分にない要素で足してくれる、もしくは僕をアセスメント(分析)してくれるようなスタッフを入れることの重要性に気づいたのが30代前半から中頃までの間ですね。

大熊:いや、でもなかなか気づかない方もいるような気がして。今までの私の経験でも、自分だけで考えてうまくいかせたいっていう方も多いと思うんですけど、そう気づけたのは何かあるんですか。

佐久間:まずまったく自分の中で伸びない能力として、30代の前半に気づいたのは、番組のビジュアルに関する能力。要は、これがかっこいいとか、このビジュアルがすてきってところまでは判断できるけど、自分が作り始めると「俺、どれも同じテロップ入れてるなぁ」とか。

(一同笑)

大熊:見た目が同じだよっていう(笑)。

佐久間:見た目がどんどん同じになっていくのに気づいて。例えばシリアスな番組とバラエティ番組でついつい好みのもので選んでいくと、パッケージが同じになっていくと気づいて。

自分の得意なお笑いのジャンルは自分で作るけど、それ以外はパッケージは全部お任せしてみようと思って、そこからデザイナーさんをどんどん試していった中で、もっとデザインに詳しいディレクターに入ってもらうとか。

だから今は、ゴールデン番組のビジュアルは得意なディレクターがいるんで、僕は作ってないです。そうじゃない番組の、深夜帯の番組とかは僕の色でもいいんですけど。

佐久間氏の手法と人事施策の共通点

大熊:なるほどねぇ。髙倉さん、今のお話を聞いてどうですか。

髙倉千春氏(以下、髙倉):さっきもちょっとブレイクの時間にお話ししたんですけど、私はかなり早い段階で佐久間さんの本を読ませていただいて。

佐久間:ありがとうございます。

髙倉:これは人事の本だと思ったんですよ。それは4つぐらい要素があって。1個はやっぱり自分のコンセプト・ビジョンを持つという話。佐久間さんって自分1人の成果を出すってことじゃなくて、やりたいことをやるんだみたいなのがゴールのような気がしたんですよ。

そのために自分は何者でどこまでできるのかって客観視していらして。やりたいことはこうだとすると、やれない自分のプラスになる補佐役というか、補う人は誰なのかとか。今おっしゃっている、異なる人もちゃんと入れるというのはやっぱりすごくオープンで。今多様性を尊重する経営とか言ってますけど、それにかなり類似してるんですよ。

佐久間:なるほど。

髙倉:もう1つは、私は外資が長かったんですけど、外資のリーディングカンパニーって何をやってるかと言うと、人材マッピングと言って、外のタレントでどんな人がいるのかをずっと人事は見てるんですよ。日本企業は生え抜きだからなかなかそれをやらないんだけど。だから佐久間さんの本を読んだ時、それを思い出しちゃって。

だから、この番組の得意そうな人はどこにいるんだって常に見てらっしゃるじゃないですか。やりたいことがあったら、そこに誰を寄せていくかと。これは将来の人事施策なんですよ。

佐久間:へぇ~。

髙倉:だから私は本読んだ時、もう佐久間さんは人事の人かと……(笑)。

(一同笑)

チームで「仮説」を共有しておくメリット

大熊:やっぱりかなりアンテナを張ってらっしゃるんですか。

佐久間:そうですね。だから僕はスタッフとかいろんなものを見るんで。出演者もスタッフも、その度にメモっておきながら、その人の仕事が2つ以上おもしろいなと思ったらお声をかけてみるとか。何個か自分の中のルールは決めています。

さっきビジョンの共有って言ったんですけど、ビジョンの共有をもっと細かく正確な言葉で言うと「仮説の共有」に近くて。

僕は番組をやってる時に、常に仮説を言っていくんですよ。例えば「ゴールデン帯って今こういう視聴者の気持ちでいるから、この戦略を試してみるけど」と言う。「その戦略はこういう仮説の下にやるから、うまくいったらこういうことだし、うまくいかなかった場合は逆にここにいこう」ということをどの会議でも言うんですね。

だからどの会議でも、どういう番組を作りたいかは最初に立てるんですけど、番組がうまくいくためには今の番組の置かれてる状況と出演者のマインド。あと視聴者のマインドがこういう状態なんじゃないかっていう仮説をどんどん投げかけていって、それを共有してもらう。

多少現場でトラブルが起きたり、現場で変わるじゃないですか。でも、それがわかってるスタッフだと「佐久間が検証したいのはこの仮説だな」ってわかってもらってるだけで、大枠はブレずにやってくれる。

例えばこの企画が当たった、当たらないっていう時に、「当たりませんでした」じゃなくて、「この仮説はこっちでした」となってくる現場をできるだけ作りたい。

大熊:だから失敗した原因というか、仮説がちょっと違ったんだと。また違う仮説でいこうっていうことができるんですね。

佐久間:そういう柔軟性があるプロジェクトチームをできるだけ抱えたくて。それをある程度抱えられるようになったので。

僕は今いろんなところで週に3本レギュラー番組があって、YouTubeを週に2本出してて、ラジオも出ていて、かつNetflixとか作ってる。「どうやってできるんですか」って言われてるんですけど、たぶんそういうチームがいて、他の作り手より僕の工数がけっこう少なくて済む状態になってるから。だから、クオリティをそこまで落とさず、今プロジェクトを抱えられてるんだと思うんですね。

髙倉:すごいですよね。

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