2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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エンゲージメントを高める組織づくりをテーマとした株式会社リンクアンドモチベーションの主催イベントに、日本KFCホールディングス在籍時にスーパーバイザーとしてチームの生産性の4倍向上と新入社員の離職率0パーセントを実現した『ケンタッキー流部下の動かし方』の著者・森泰造氏が登壇。くすぶっていた部下に前を向かせ、成長に導いた戦略を語りました。
森泰造氏(以下、森):ご存知のとおり、ケンタッキーフライドチキンは工場から仕入れた生の鶏肉をお店の中でさばき、圧力釜で揚げて、1時間弱の工程を経てフライドチキンにし、それをファーストフードというカテゴリーの中で販売する形態を取っています。
店舗は今たぶん1,100店舗以上あると思うんですが、1店舗あたりの従業員は30人から多いところは200人ぐらいいます。
そのうちの9割以上がアルバイトさんです。アルバイトさんは、15歳の高校1年生から上は70歳を超えるシニアの方まで。あとは外国人もいらっしゃいますし、障害を持たれた方も働いていらっしゃいます。
店長の力量は、多様性を持つ人たち一人ひとりに、いかにプロのパフォーマンスを発揮し続けさせられるかで試されます。いつ行っても均一のサービス、顧客体験ができる状態にするには、やはりトレーニングが必要です。
私がスーパーバイザーとして赴任した時、部下にK店長という人がいました。スーパーバイザーとは10店舗から15店舗ぐらいを統括するマネージャーのことです。
K店長は当時50代でかなりぶっきらぼうな感じの方でした。(当時の)私はK店長よりも10歳年下で40代半ばでした。私はこのK店長の上司になったわけです。
K店長のお店は地方のショッピングセンターにある、比較的コントロールしやすいお店でした。
ショッピングセンターもケンタッキー自体も、売上はずっと前年と横ばいでした。従業員は25人ぐらいいましたが、なかなか定着せず、1年で全員が入れ替わるようなお店でした。
固定客が多かったものの、頼んだものがちゃんと入ってなかったり、アルバイトさんがきちんとお客さまの要望に応えられなかったり、説明ができなかったりでお小言をいただくことも多いお店でした。
K店長本人は上司の前では「そんなことはないですよ」と言っておりましたが、あきらかにモチベーションが低下していました。私が引き継いだ時、前任のスーパーバイザーの人事評価はずっと最低ランクをつけられているほどでした。
森:そんな店舗に私は上司として赴任したわけですね、もちろんK店長だけではなく、ほかにも部下として15人の店長がいました。スーパーバイザーの役割は、この15人の店長たちの能力をいかに引き出してブランド価値を高めていくかにありました。
このK店長と仕事をし始めて1ヶ月ぐらいで、K店長に変化がありました。笑顔が増えて会話も多くなり、何よりも行動力が上がったんですね。K店長の変化に応じるように、お店は3ヶ月目から売上が10ポイント上がったんです。
飲食をやられている方はイメージしやすいと思いますが、売上が前の年よりも10ポイント上がるのは相当な伸びなんです。実は、この10ポイントアップは1年以上も続いたんですよ。1年以上ずっと110パーセントの状態になりました。
なかなか定着しなかった従業員も辞めなくなりました。さらに従業員やアルバイトさんの笑顔が増えて、私がいた時だけでも「社員になりたい」というアルバイトさんが2人いらっしゃいました。その2人は実際にケンタッキーの入社試験を受けて、おそらく今、店長をやられていると思います。
苦情やクレームが多かったお店だったのにそれもなくなり、賞賛の言葉を多くいただけるようになりました。「いつもおいしいチキンをありがとうね」「この店は安心して買えるね」といった言葉をいただけるようになったんです。さらにK店長本人も秘めたる思いを言葉や行動にするようになったんですよ。
年間を通して売上の伸長率で日本一になりました。あと今もやっているかどうか確認はしていませんが、当時ケンタッキーでは月に2回お客さまのふりをして覆面調査をし、お店の点数をつける仕組みがありました。その顧客評価でも日本一になりました。
1年でK店長は日本一の店長という称号を手に入れたんですね。
森:では私はいったい何をやったのか。よくありがちなのが、できない店長に対してとにかくできることを探してどんどんやらせるやり方。または強権発動で「もういいからやれ」とやらせるスーパーバイザーも実はいらっしゃったりします。
でも私は「このK店長が輝かないと、このお店自体が輝かないな」とわかっておりましたので、まずはK店長と信頼関係を作りました。K店長の本音を理解して、それに共感するようにしたんです。
ただ、K店長は会社に背を向けているような店長さんだったので、なかなか本音は出してくれないんですね。こういうタイプの店長さんの本音を引き出すには、秘訣があります。くすぶっている状態は生まれてからずっと続いてきたわけではなく、ある一時期の出来事でしかない。
K店長自身もモチベーション高く仕事ができていた時期があるんですね。だからそういった時の話を聞いていきました。例えば「Kさんが入社した時は、どんな思いを持っていましたか」と。
K店長が入社された頃はバブル絶頂期で、大学生が会社をいろいろと選べたんですね。「いろいろな会社の中で、どうして外食産業、どうしてケンタッキーだったんですか」「店長に昇格した時はどんな野望を持っていましたか」とか。
あとベテランでいろいろなお店を経験されていますので、「これまで経験された中で最もKさんが調子が良かったお店はどこですか。その時の話をちょっと教えてください」など。
そんな感じで、Kさんの状態が良かった時の話を聞き出すと、だんだんその時のことを思い出しながら話をしてくれるようになります。するとその時の感情も蘇ってくるんです。会社に背を向けている状態から会社と向き合ってがんばっていた状態に戻るわけです。
そして「本当はKさんは何を大事にしたいの」という質問を投げかけると、本音が出てきます。そこでわかった本音は、フライドチキンやケンタッキーというブランドに対してのこだわりを非常に強く持っていたこと。
それから、人が辞めていても、本人は「家族や従業員を心から大切にしたい」という優しい心を持っていたんですね。一方で会社に対しての諦め感を持っていた。こういったことがわかってきました。
森:そこで、私が立てた戦略は「Kさんの本音を理解して、価値を感じるビジョンを創り、共有しよう。それを常に確認しよう」ということ。もう1つは「Kさんが動きやすい環境を整えましょう」ということですね。この戦略を立ててKさんと向き合ったわけです。K店長の行動目的はビジョンに沿った行動目的になります。これを理解をするように心がけます。
巡回の度に、K店長を観察し質問をし、ビジョンに照らし合わせてフィードバック、賞賛を繰り返したわけです。当然、月に会う回数は限られています。
今はわからないですが、当時は月に4回ぐらい巡回に行きました。4回ぐらいの接触機会がありますけど、Kさんがお休みの日もありますから、だいたい会えるのは月2回ぐらいなんですね。
1回に1時間ぐらい。月に2時間ぐらいの会話をしたわけです。もちろんK店長がいない時には、アルバイトさんを通じてKさんが目指しているビジョンの確認をしました。
そうした行動を積み重ねた結果Kさんの行動は大きく変わり、日本一という称号を手に入れたわけなんです。
このプロセスで、Kさんが得られたものをあらためて考えてみます。Kさんは失いかけていた自信を取り戻しました。人は自信を取り戻すと勇気が出ます。勇気が出ると行動量が増えていくんですね。
行動量が増えると、決断する機会や物事に集中する機会がどんどん増えます。要は、決断力と集中力がついてきたわけですね。そのプロセスを通して、成果を出すノウハウや新しい視点を手に入れることができました。
そして人との出会いや絆を大切できるようになったおかげで、人を育てる能力もついていきました。
こうしたKさん自身の人間的な成長が、K店長の得られたものです。
日本一になった評価や栄誉は、後で取ってつけたようなものでした。そこはゴールではなく、ただの通過点だったからです。もちろん喜びましたが、お互いに「まだまだこれからだよね」と話して、次のプロセスに臨んだ次第です。
心理学者のダニエル・ゴールマンさんは、こう言ってます。「優れたリーダーは人の心を動かす。優れたリーダーは、人の情熱に火をつけ、最高の力を引き出す」と。優れたリーダーシップは、感情に働きかけます。感情に働きかけることによって、人は大きなパフォーマンスを発揮できるようになるということです。
まとめますと、(スライドの)K店長と下の小さい丸はアルバイトさんだと思ってください。
K店長とアルバイトさんにはくすぶっていた状況があった。そこに私が赴任をして、K店長と信頼関係を作り、K店長の本音を引き出した。
そして、「チキンと人を大切にするK店長にしかできないオンリーワンのお店を作りましょう」とビジョンにしたんです。私は「下から応援しますよ」という立ち位置で関わっていきました。
実際にこのビジョンを実現させるための戦略は「一貫してビジョンを追い続ける」こと。ビジョンや目標に常に照らし合わせてK店長と会話をしました。
そしてK店長の主体性を引き出すために「それはビジョンにどうつながっているの?」「K店長の大切にしたいものとどう関わっているの?」と今の状態を自覚させる対話を行いました。コーチングのフレームワークを使って、主体性を引き出したわけです。
もう1つ、K店長が行動しやすい状態を作るために、賞賛とフィードバックを行いました。K店長がいない時には、アルバイトさんを通して賞賛とフィードバックを繰り返しました。
そのおかげでK店長とアルバイトさんの行動量が増えていったんですね。人は行動量が増えると、意欲・モチベーションも上がります。よくモチベーションが上がらないと行動ができないという人がいますが、それは嘘です。行動するからモチベーションが上がるんですね。
行動するとモチベーションが上がります。モチベーションが上がり、戦略的なフォローアップがあると一人ひとりが成長を感じながら前に進んでいけるんです。日本一という称号は、ビジョンを目指す途中の指標としてあったんですね。
エンゲージメントの高い組織を作るのは、実はそんなに難しくない。リーダーが意義のある目的と明確な価値観を持ち、未来のイメージが鮮明になる魅力的なビジョンを描き、それを発信さえすれば、メンバーはそこに共感をしてくれます。作るだけでは共感はしないですよ。でも作ってちゃんと発信さえすれば、共感してもらえます。
この共感の矢印さえできれば、それぞれの立場で「自分は何ができるだろう」という役割を考え出すんですね。ここの矢印が作れると未来を共有していることになりますから、メンバー同士の信頼関係が生まれるわけです。そうするとお互いに意見を言い合ったり、支援し合ったり、フィードバックし合ったりできる。
この矢印を太くしていくのが、コーチングの力です。魅力的な未来が描ける。コーチングの力を使って、矢印を太くしていくことができれば、誰でもどこでもいつでもオンリーワンのエンゲージメントが高く強い組織が作れることになります。
森:信頼関係は共有するもので作られるというお話を最初にしました。共有するのは、魅力的な未来です。会社から下りてきた目標やビジョンであっても、それを自分ごとに置き換えて、自分の大切なものを大切にできる未来にするんです。
そうしたビジョンを作ることで、メンバーは「そこへ向かっていきたいな」と意欲を持って成長することができます。それを支えるのが戦略です。行き先を共有する、一貫して意識し続けさせる。そして対話をする、コーチングをして主体性を引き出す。さらに行動を支援するような工夫をこらすことです。
これをやればリーダーはどんどん育っていきます。私はこのやり方で他の店長とも信頼関係を作り、ビジョンを共有して前に進むことをやっていきました。スーパーバイザーの時にこれをやったおかげで、私も店長もすごく仕事がしやすい職場環境ができ、アルバイトさんも辞めないエリアを作ることができました。
ただ、この成功を阻害する要因はリーダー個人の中にあったりします。
頭の中では今のような理屈がわかっていても「できないよな」「どうせやってくれないんだろうな」と途中で無理だと諦めたり。「部下や上司に気を遣っているうちに疲れてしまいそう」「格好悪くは見られたくない」「やれると思っているのに時間がない」とか、いろいろな理由を作ってやらないリーダーの方々はけっこうな数いらっしゃるんですね。
この要因は個人の中にあります。原因は、リーダーが自分自身を信頼できていないからです。これも信頼関係なんです。会社から言われたことを言われたとおりにやるのが仕事だと思っていると、自分を信頼することがおざなりになります。
自分が本当に大事にしたいことと会社が大切にしたいことを合致させて、自分のやることに確信を持って取り組む。これができるから、先ほどのエンゲージメントを高める組織作りもできるんです。
森:この自己を信頼できない状態を改善するトレーニングプログラムとして、GHCDみらい創世塾があります。心をロジカルに扱えるようになって、仕事が楽になるんですよね。全部で6ヶ月間8回の講座ですが、講座を通して新しい思考習慣を身につけていただけます。
目の前のことを見る前に、まずは自分と向き合うこと。先に未来を設定して、そこから「今の現実をどうしよう」とする未来志向。この思考習慣を新たに身につけていただきます。それとコーチング、対話の習慣づけを身につけていただけるトレーニングプログラムです。
このGHCDみらい創世塾を受けられると、成人発達理論における発達段階をぐっと上げることができるんですね。簡単に言うと人間の器が大きくなります。人間の器が大きくなるので、事象を俯瞰して見ることができるようにもなりますし、リーダーシップもどんどん発揮できるようになってくる。
実際に受講された方はほぼ100パーセント、大きなブレイクスルーを手に入れられております。
例えばIT関係の営業部長の方は、チームの目標を達成できず、「自分はいったい何に強いんだろう。どういうリーダーなんだろう」と自分を見失った状態で塾に来られました。6ヶ月後には自分の強みが見つかり、チームの目標を達成できるようになってどんどん実績を上げられ、今は新しい部署に昇格をされて活躍を続けられています。
このGHCDみらい創世塾は6ヶ月間の講座で年に2回だけやっています。14期生が11月にスタートします。「人間力+成果を実現するリーダーの育成」のご相談がありましたら、ぜひ日本GHCDコーチング協会、もしくはみらい創生舎のホームページからお問い合わせいただければなと思います。
ちょっと時間をオーバーしましたが、山中さんにバトンタッチしたいと思います。
山中麻衣氏(以下、山中):ありがとうございます。せっかくなので私からも質問をさせてください。
自己を信頼できないリーダーに対して、未来を見据えたビジョンを共有できるリーダーに変わってほしいというお話をいただきました。ただ、この変革は非常に難しいのではないかと感じています。ケンタッキーの店長さんに限らず、目指す姿に対してギャップが大きい場合、最初の一歩を踏み出すためのきっかけやポイントは何でしょうか。
森:きっかけは、ずっと申し上げている信頼です。信じてもらうことですよね。信じてもらうには共有できるものを探す。難しいことのように見えるかもしれませんが、実はそんなに難しいことではないんですね。
山中:ありがとうございます。そう言っていただけると本当に心強いですね。多くのリーダーが「難しいな」と感じたり、私自身も「難しいんじゃないか」と考えることがありますが、森さんが「難しくない」とおっしゃってくださるだけで、かなり勇気づけられます。
コーチングを含め、こういった寄り添ってくれるパートナーがいることは、とても重要なんだなと感じました。本当にありがとうございました。
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