2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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社会の大変動に対抗し、新時代の組織づくりと経営戦略の本質を掴むヒントをお届けすべく開催されたSmartHR Next 2023。本記事では、株式会社小西美術工藝社 代表取締役社長/元ゴールドマン・サックス証券金融調査室長のデービッド・アトキンソン氏、株式会社SmartHR取締役COOの倉橋隆文氏、株式会社We Are The People 代表取締役の安田雅彦氏が、給与交渉におけるアメリカと日本の労働者の違いについて解説します。
安田雅彦氏(以下、安田):確かにそれは現実問題としてあると思います。さて、「じゃあ具体的にどうやって上げていきましょう?」と言った時に、アトキンソンさん、いかがですか。
デービッド・アトキンソン氏(以下、アトキンソン):そうですね。今の話の中で、これは単純な話なんですけど、日本で一番多くの子どもが生まれた年は、だいたい270万人ぐらいでした。2022年は80万人ぐらい。
大企業から中小企業、零細企業までありますけども、今の労働人口を配分することによってできている。ただ、ここから40パーセントはいなくなります。そうすると、普通に考えた場合に、賃金の低いところからいなくなるはずなんですよね。
安田:まさに。
アトキンソン:そうなると、要するに比例配分でいなくなることはないと思います。大企業4割カット、中堅4割カット、零細4割カットじゃなくて、だいたい大企業から配分していく。
中小企業からすると6割ぐらいの人がいなくなる。そう考えると、「仕事にやりがいがある」もしくは「賃金をそれなりにもらって、キャリアアップをすることができる」というインセンティブがなければ、(その会社に)いたいと思えないんです。
もう1つの問題は、このスライドにあるように、やはり今までの日本人の労働者は、あまりにも受け身なんですよね。賃金が上がるというのは天から降ってくるみたいな感じで、要するに(会社が)上げてくれるものだと。
安田:長くやっていれば、勝手に上がっていくものだと。実際そういうメカニズムだった時もあるんですよね。
アトキンソン:ありますよね。ただ、これから高齢者の数が横ばいで、年金と医療費が増える一方で、働く人はどんどん減る。そう考えると、賃金が上がっていかなければ、税率がどんどん上がっていって、労働者はますます貧困してしまう。この問題から逃げる方法はあります。それは海外に行っちゃうとか。
安田:海外に行っちゃう。そもそも日本で働かないと。
アトキンソン:そうそう。人口が減っているのに、海外で働く、移住する日本人ってけっこう多いんですよね。これは異常なんですよ。先進国で外国に行ってしまって、(労働力人口が)純減するってあり得ないんです。先進国の中で日本だけなんです。
安田:日本は純減している。それは初めて聞きました。
アトキンソン:日本人の女性と学歴が上のほうの人たちが海外に逃げちゃって、その代わりに途上国からわりと賃金の安い人を入れているんですよね。これは普通の先進国ではあり得ない。何十ヶ国を見ていても、そういう状態にある国はどこにもない。つまり(貧困に陥らないための方法で)1つ目は、海外に逃げる。2つ目は、やはり給料を交渉すると。
安田:これはありますよね。
アトキンソン:だから、「文句を言えばいいじゃないの」と自分はいつも思います。うちの会社って新橋に近いんですけど、あのへんで歩いていると、社長の悪口と、給料がああでもない、こうでもないと言っているのをよく聞きます。翌日たぶん会社に行って、なんの一言も言わずに、新橋だけで文句を言っている。これでは、良くなるはずもないです。
言葉は悪いですけど経営者はばかじゃない。慈善事業じゃないし。賃上げを要求しない人にお金をあげることは、短期的に見ると社長の利益が減るということなので、それをやる人はいません。やはりうるさくならないとどうにもならないです。
安田:(日本人の労働者は)ほとんど交渉はしないですね。
アトキンソン:しないですね。ただ、海外だと一般常識なので、だいたい6割、7割の人が交渉するわけなんですけど。私がゴールドマン・サックスにいた時は、人事部がないわけだから、自分の上司と1年に1回交渉するということがあるんですけど、やはり昇給の前にだいたい探ってくるんですよね。
倉橋隆文氏(以下、倉橋):(笑)。
安田:ああ、わかります。
アトキンソン:スライドの3番目にありますように、なんで上司が探ってくるのかというと、転職してほしくない人に探りを入れてくるんです。
安田:そうですよね。リテンション(人材の確保)ですよね。
アトキンソン:これがすごいんですよ。「それは学歴の高い人だけじゃないの?」と日本国内でよく言われますが、そんなことは決してありません。アメリカはデータがいっぱいあるので見てみると、実際には2022年の1年間で1,680万人が解雇されています。ただ、自ら転職する人は5,048万人。
倉橋:すごい。
アトキンソン:3人に1人です。その3人に1人が転職する理由が、全部調査されていまして、第1の理由は「賃金が上がらないから」。第2の理由もそれとつながっていますけど、「自分が目指している出世ができない」。
言うまでもないんですけど、部長が1人いたとすれば、何人か候補がいますよね。そこである人が勝ったとした時に、自分は部長になりたかったんだけども、席が取られちゃったから、じゃあ部長になれる会社に転職すると。こういう場合もありますね。
5,048万人というのは、日本であればだいたい7人中5人ぐらいが転職しているということです。会社としては32.7パーセントですから、3年間でほとんど全員がどこかに行っちゃっていると。
安田:変わるということですね。
アトキンソン:これも1つのポイントなんですけど、やはりそこで交流することによって、他の会社で今まで蓄積してきたいろんな知恵とかが入ってくるじゃないですか。
安田:ありますね。
アトキンソン:(人が)出たり入ったりしますし、「こういうふうにすればいいんじゃないの?」という新しい提案が出てくるわけだから、活性化されますよね。
安田:確かに僕も転職を4回しているんですけど、変革が起きる時って、どこかから来た人が「まだこんなことをやっているんですか?」と言って変わったりすることがありますものね。あとはやはり起業。
アトキンソン:「起業する」ですよね。要するに、社長が気に入らないんだったら、自分で社長になればいいわけだから、それも1つですよね。日本ではいつも言われているように、やはり起業する人たちがあまりにも少なすぎる。特に日本では若い人が起業することが多いんですけども、海外はだいたい40代、50代が一番多いんです。
安田:そうなんですね。
アトキンソン:それが一番多いです。あるいはドイツのある第一人者の大学の先生がいらっしゃるんですけども、その人の分析でいくと、やはりアメリカ、イギリスとかEU全体で、一番起業する人が多い年齢層は40代半ばぐらいですね。
安田:なるほど。それは意外ですね。
アトキンソン:それはたぶん日本ではIT関係で(起業する人が)非常に多いから、若い人が多いということになると思います。40代、50代の人たちが、ITの起業ができないことはないんでしょうけども。
倉橋:40代だと、ドキッとしますね。
アトキンソン:ちょっと不利な立場だと思いますね。
安田:それはそうなりますよね。
アトキンソン:ただ、海外だと起業する人がものすごく多くて、大半の人はやはり40代、50代。
安田:なるほど。倉橋さんはいかがですか? お給料の上げ方の話が出てきましたが。
倉橋:そうですね。ちょっと起業の話を踏まえた上で、給料の話に触れようと思うんですが。私もスタートアップで経営者をやっているのでいろんなデータを見るんですけど、アメリカかどこかのスタートアップで起業した人の成功率ですね。人数ではなく成功率で見ても、やはり30代後半から40代の人が一番起業して成功しやすいらしいんですね。
それはやはりビジネスの知見があり、ネットワークもあるからこそ起業して成り立つ。逆に20代だとビッグサクセスストーリーというか、Facebook、今で言うMetaとかは象徴的なんですけど。成功率で言うとやはりそんなに高くないという話を聞いたことがあるので、意外と④(の「起業する」)という選択肢もあるのかなと思いつつ。とは言ってもなかなか日本人としては難しいというのもわかるので。
安田:そうですよね。
倉橋:なので、②(給料交渉する)か③(転職する)が、主力になるのかなと思っております。今回の視聴者の中には、私と同じ立場で経営者のみなさんもいらっしゃると思います。
経営者の立場に立つと、給与交渉をされるとつらいなというところはあるので、1個だけディフェンスだけさせていただきます。私は一時的にアメリカで働いていたこともあるんですけど、例えば日本とアメリカを比べても、解雇のしやすさってやはりぜんぜん違います。
安田:そうですね。
倉橋:アメリカだと、「給与を上げてくれ」「わかった。上げるけど、その代わりいいパフォーマンスを出さなかったら」……。
安田:コミットしろと。
倉橋:はい、「下げる、ないしは解雇するから」と言えたんですよね。やはり権利と責任を合わせ技で出しやすかったというのがあるんですけど。日本はそれができないので、なかなか経営者としても応じづらいのかなというところは思っております。(アトキンソンさんが)首を傾げていらっしゃいますけど、ちょっとディフェンスさせていただきました。
安田:(笑)。
アトキンソン:ちょっと違うな。
倉橋:とはいえ、じゃあ続いて従業員の立場で見ていった時に、ぜひ、②だけやる、③だけやるんじゃなくて、②と③の合わせ技をやっていただくのが一番いいかなと思っております。「給与を上げてください。でなきゃ転職しますよ」という、ある意味脅しをかけるという。
やはり何か悪い結末がないと、「給与を上げてくれ」と言われても、「いや、上げないよ」と言われちゃうだけなので、交渉の力を持つのは大事かなというのがポジティブな面と。
逆にちょっと残酷な面で言うと、もし従業員の方で給与交渉をしている方が、「正直、これ以上給与を上げるぐらいだったらいなくなってもいい」と思われているんだったら、「じゃあ転職していいよ」と言われると思います。
安田:そうですね。
倉橋:なので、ある意味自分の実力、人的資本としての自分の価値を正当に測るためにも、いきなりやるとけんかになるので、②と③をちょっと探りつつやっていかれるのが、一番従業員の方にとってはいいのかなと思います。
安田:あとこの話をすると、例えば今期やったことについて、「いや、Aだ」「いや、Bだ」という交渉かと思っている人がいると思うんですけど。そうじゃなくて、「来年これとこれをやります。俺はここにコミットするから、このサラリーにしてくれ」と。たぶん、こっちだったら今でもできると思うんですよね。
倉橋:そうですね。
安田:だからそこで、やはりきちんとコミットをして、達成できなければ、そのお給料が払われないというか、ボーナスが出ないという話になると思うので。
アトキンソン:これには重要なポイントがあるんですけどね。長年アメリカの会社で働いてきた経験なんですけども、やはり言ってもらわないとわからないんですよ。当時の自分の上司に対して「そもそも、なんでこの給料になってるのか」って聞かないと、言ってくれないんですよ。
安田:そうですね。
アトキンソン:そうすると「いや、この給料なんだけども」と、「なぜその給料になってるのか」を(上司が)説明してくれる。ためになりますよ。
もう1つあるのは「本当は自分はこのぐらい給料が欲しいんだ」と言う。そこまでの欲があることが上司に伝わってないと、この人に何をやらせればいいのかを勝手に上司が決めるだけ(になってしまいます)。
自分がその前の会社にいた時は「とりあえず部長になりたい」と言ったら、「部長になりたいと初めて聞きました。あなたにそういう欲があると思わなかった」と。
「ただ、部長になるために、これとこれとこれをやってもらわないと。今のままではなれませんよ」って言われました。そうすると「じゃあやりますよ」と言って、やればやるほど給料が上がっていきます。欲を見せると、(それに必要な道筋を)示してくれるんですよ。
安田:日本の管理職は、(部下との)コミュニケーションで「もうわかんないから人事に聞いてくれ」みたいな話になってるのが現実だと思うんで。もうちょっと「なぜこの給料なのか」といういわゆる説明責任があるといいんだろうなと。
倉橋:ただ1点だけ、日本だと文化的に直接言える人って少ないのかなと思います。逆に経営者のみなさんも、ハイパフォーマーが給与に満足してるのか、給与以外にも成長実感があるのかを、あんまり把握できてないと思うんですよね。
安田:まあ、そうですね。
倉橋:(経営者の方で)答えられる方って少ないと思うので。もちろん直接聞ける関係を築けるのが一番いいんですけど、聞けなかったとしてもせめてキャリアアンケートを採るとか、満足度サーベイをとるとか。
安田:それは絶対必要ですよね。
倉橋:絶対やっといて損はないですし、すぐできるので。それだけは少なくとも早めにやったほうがいいかなと思ってます。
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