2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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中塚敏明氏(以下、中塚):それでは、まずはSKILLの土台となるWILL面に焦点を当てて、具体的なポイントについて見ていきたいと思います。WILLを確実にするための具体的なポイントについてお話をしたいと思います。
WILLを育むには、自社の存在意義、キャリアの方向性、そして制度の理解と、大きく3つの要素の理解と浸透が不可欠です。その中でまず1つ目が自社の存在意義です。これは、会社のミッション・ビジョン・バリューを主に指します。全社員がWILLを高めるために最初に理解すべきは「MVV」じゃないかなと思います。
特に新人教育、オンボーディングの段階でこれらを明確に伝え、社員に浸透させることで、彼らは会社の大きな流れや方向性を理解し、自分の役割や貢献の意義を早期に把握することができます。では、もしこの方向性が不明確な場合、どのような影響があるでしょうか。ぜひ想像してみていただきたいと思います。
社員が会社の方針やビジョンを理解せず、ただ働くだけの状況です。ここで、レデリック・ハーツバーグの「二要因理論」をご紹介したいと思います。この理論によりますと、会社の方針の不明確さは、最も大きな不満の要因とされております。
私の実体験でも、もう1社経営するIT企業の離職率が40パーセントを越えた際にエンゲージメント調査を行ったところ、多くの意見が「方針の不明確さ」に集まりました。この事実からも、方向性をしっかり明確にする必要性があることがわかります。
全社員に対して、会社のミッション・ビジョン・バリューを明確に伝えて理解させることは、従業員エンゲージメントを高め、組織のコミットメントを強化する重要なステップです。この方法については、時間の関係で割愛しますが、ぜひ明確にして浸透させていただきたいと思います。
中塚:続いて、WILLを高めるための2つ目のポイントはキャリアパスの提示です。社員は自らの未来や成長のイメージを持ちにくいもので、未知の環境と多くの新しい情報に圧倒され、どのように進んでいけば良いかを見失いがちです。ここで、キャリアパスの具体例の提示が重要な役割を果たします。
会社が将来の職種と職位イメージを共有すること、さらに先輩や上司からのキャリアパスの例を提示することで、社員は自らのキャリアの方向性を具体的にイメージする手助けを受けることができます。これにより、自分の将来に対する不安が軽減され、目標や方向性、そのためのモチベーションを早期に築くことができます。
特に、昇進やキャリアアップの条件を明確にすることが重要です。例えば、主任、係長、課長に昇進するための具体的な条件や、スキルセットを透明化して共有することで、社員も「自分は将来このようなステップを踏んで、ここまで成長できるんだ」ということを実感することができます。
さらにこれが1つの目標になりまして、「ここを目指してがんばろう」と本人のモチベーションも引き上げることができます。この透明性が成長の道筋を明確にして、組織への貢献を促します。
WILLを高める最後の3つ目のポイントに移ります。それは、人事評価制度の整備。特に報酬アップの道筋についてです。
社員は、自分の努力がどのように評価され、それがどのように報酬に結びつくかに非常に興味を持っています。この報酬や評価の仕組みを明確に伝えることで、社員は自分の貢献と報酬の関係性を理解し、安心して業務に専念することができます。
(人事評価制度の)透明性は、社員の安心感と企業への信頼を築く重要な基盤となります。本日はお時間の関係で割愛しますが、この点も非常に重要なポイントです。
中塚:3つのポイントをご紹介したんですが、ここで注意していただきたいのは、経営者さまと従業員さまでは重視する順番が異なることがよくあります。経営者さまは1(会社の方向性)から順に重視することが多いんですけれども、従業員は3(人事評価制度の整備)から重視するというのが本音なところです。
この違いを理解して、1から3、3から1へとスムーズに理解・移行できるように設計する一貫性が重要になってきます。一貫性を持った設計のポイントについては、最後にご紹介する私の書籍にも詳細を記していますので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。
以上、能力開発の土台となるWILLのポイントをご紹介しました。本人の目標やモチベーションが高まっても、技能や能力が不足していると業務遂行が滞り、悩み、途中で「これは無理だ」と感じてしまうことがあります。
WILLを高めて、さらに課題や不安で急降下してしまうことがないようにしっかりとケアする必要があるんですが、この点を技能面でサポートするためのスキルを高めるポイントを次に見ていきたいと思います。
中塚:SKILL面を育むためにキーとなる3つのポイントは、「スキルマップ」によるスキルの可視化、「アナライズ」によるスキルギャップの分析。そして「フィードバック」によるギャップの伝達と修正です。
このプロセスの第一歩は、明確な技能と知識のリストアップで、それについてスキルマップの作成とその可視化が重要になります。スキルマップを通じて、社員は自分が持つスキルと、これから磨くべきスキルを明確に把握することができます。
そしてスキルマップの中には、テクニカルスキルだけではなく、ノンテクニカルスキルも組み込むことが大切になります。ここで参考になるのが、ロバート・カッツが提唱した有名なスキルセットです。
テクニカルスキルは業務の専門性や技能的な部分を保管しますが、ノンテクニカルスキルはコミュニケーションやチームワーク、問題解決能力、業務を円滑に進めるより高い成果を得るため基盤となるスキルになります。
「T型人材」という人材論のモデルも、この2つのスキルセットを指しているんですが、特にノンテクニカルスキルの習得は、社員の成長の土台としても非常に重要なものです。このスキルマップ作成の段階で、社員は自分がどのレベルにあり、どのスキルを明確にするかを理解することが重要になります。
ただ、これらのスキルを具体的にどのように選定をしていくか、私自身も多くの取り組みや試行錯誤を重ねてきたんですが、完璧な方法や最適解を見つけるのは容易ではありませんでした。この点は重要なポイントになりますので、より詳しくご紹介をしたいと思います。
中塚:最適解を模索する中で、ある時、経済産業省が提唱する「社会人基礎力」というフレームワークに出会いました。これは「基礎学力や専門知識を活用する力」と定義されておりまして、コンピューターにおけるOSのような存在として考えています。
OSがスムーズに機能することで、各種のアプリケーション、すなわち専門スキルが本来の力を発揮するという考え方です。また「社会人基礎力」は、各業界で必要とされる横断的なスキルとして位置づけられ、どの業界にも“持ち運び可能”なポータブルスキルとして再評価をされております。
そして、このOSの下の「キャリア意識、マインド」は、先ほどのWILLと言い換えることができるかなと思います。このことからも、WILLを育み、その上にスキル、まずはビジネスパーソンのOSにあたる「社会人基礎力」を乗せることが、社員の成長のための基盤として非常に適切であると感じています。
この「社会人基礎力」は、3つの主要な能力を具体化する12のスキル要素から構成されております。具体的には、自ら進んで業務に取り組む「前に踏み出す力」、問題解決や課題に対して深く考える「考え抜く力」、そして他者と協力をしてチーム全体で成果を上げるための「チームで働く力」の3つの能力で構成されています。
社員教育の早期の段階で、これらのスキルを強化することは、業務において高い成果を出すだけではなく、チームで成果を上げる基本や、困難な状況に柔軟に対応できるレジリエンス力を身につけることができ、持続的な成長の基盤となります。
中塚:「社会人基礎力」の重要性を理解するために、その不足からもたらす具体的な影響も少しご紹介をしたいと思います。
「社会人基礎力」が低いと、メンバーが成長しないことはもちろん、マネージャーの部下育成のコストも大きくなってしまい、会社全体として生産性が下がってしまいます。このように、組織全体にその影響が波及してしまうわけです。
ここで、よく顧客からも指摘やクレームがあって、私が経験するIT企業であった社員の行動特性をご紹介しながら、「社会人基礎力」と各スキルとの関係性を見ていきたいと思います。
まずは(スライド)左上の図です。よく指摘されることなんですが、指示されてからしか行動を起こさない、1人よがりでなんとかしようとして、最終的には納期まで目的を達成できないという状況です。これは「社会人基礎力」で言えば、主体性、働きかけ力、実行力が不足していて、前に踏み出す力が身についてない状況と言えます。
次に「考え抜く力」が不足している場合です。問題の真の原因を見極められず、効率の悪い方向で時間を浪費し、そして新しい価値を生み出すことができないという状況です。これらの行動が、実際のOJTや業務の中で散見される場合は「社会人基礎力」がまだ身についてないことを示しているかもしれません。
このようなビフォーの状況からアフターの状態へと改善するカギは「社会人基礎力」の習得にあります。この力を身につけることで、業務の質や成果が大きく向上し、自身のキャリアも飛躍的に成長を遂げることができます。
中塚:このように「社会人基礎力」やその他のノンテクニカルスキルは、社員の成長の土台となります。こういったことを考慮した上で、どのようなスキルを習得してもらうかの指針となる、スキルマップの設計が極めて重要になります。
そのスキルマップの一例をご紹介したいと思います。先ほどご紹介したノンテクニカルスキル、ソフトスキルとなる「社会人基礎力」をフレームワークとして活用し、専門スキルや特殊スキル、管理職はマネジメントスキルなどで構成して作ることができます。
このようなスキルマップを通じて、各スキルの具体的、かつ網羅的に明示をしていきます。そしてそのスキルが持つ意義や価値を伝えることで、社員は何を学ぶべきか明確に認識をして、それに向かって成長意欲を持って取り組むことができます。
また、WILLのセクションで触れた、MVVや人事評価制度を自社理解として用意して、そしてキャリア設計もスキルマップに組み込むことで、これらの要素を日常業務の中で意識づける工夫を施すことができます。そして技術力については、業種ごとに詳細をピックアップして因数分解をしていきます。
ちょっと時間の関係でご紹介できないんですが、この際に参考になるのがこちらのサイトです。専門のスキルのスキルマップを詳細に作成するのに、ぜひご参考にしていただきたいと思います。
中塚:ここまで、スキルを高めるためのスキルの可視化、スキルマップの作成方法について詳しくご紹介しました。しかし、知識や技能の提示だけでは十分ではありません。それをどのように実践的・段階的に習得して、日常業務に取り入れるかがカギになります。
そのための重要なステップとして、成長の過程を明確に作ることがあげられます。具体的には、先ほどのスキルマップから「目指すべきスキル」と「習得期間」を明確に設定して、現在の自分のスキル、レベル間にあるギャップを明確にすることです。
「キャリアマップ」と言っているんですが、これを明確にすることで、どのスキルをいつまでに学び、改善していくかが一目瞭然となります。
さらに各スキルの要素を、業務で活用できるタスク・アクションリストまでに落とし込み、かつそれができている・できていないかの判定基準まで用意をして、各スキルの出来高を判定するようにします。
そして集計結果をレーダーチャートで出力し、かつキャリアステップに必要なスキルや期待値とのギャップを認識できるようにして、社員の成長、改善意欲、自己啓発の動機づけとします。これが、継続的な成長への意欲を刺激していきます。
中塚:このようなスキルのギャップを認識し、期待値までスキルアップしていくことが重要なんですが、これだけでも十分ではありません。
社員が実際の業務の中で直面する課題や疑問に対して、タイムリーなフィードバックやサポートが必要になります。特に若手社員は、多くの新しい状況に圧倒されていることが多いです。この時期に定期的なフィードバックを提供することで、彼らの不安を取り除き、正しい方向に進むための手助けをすることができます。
また、誤解や間違った認識を早期に修正することで、のちの業務の効率化やミスの防止にもつながります。これによりまして、社員は安心感を持ちながら自らの成長を実感し、業務に取り組むことができます。
以上、能力開発におけるスキル向上のポイントをご紹介しました。いくら環境を用意しても、本人の動機やモチベーション、会社への貢献意欲がなければ、最低限のパフォーマンスに留まる可能性があります。そのため能力開発においては、WILLとSKILLの両方のバランスが重要になってきます。
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